発達障害の原因と発症メカニズム——脳神経科学からみた予防、治療・療育の可能性』(河出書房新社,2014)
著者:黒田洋一郎,木村-黒田純子

第10章 治療・療育の可能性と早期発見
——子どもの脳の著しい可塑性

314〜315ページ

【第10章(8)】
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※この本には発達障害の発症のメカニズムと予防方法が書かれています。実践的な治療法を知りたい方は『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243-246(2023/10/11のブログに掲載)療育の方法を知りたい方は人間脳の根っこを育てる(栗本啓司)、もっと笑顔が見たいから』(岩永竜一郎)も併せてお読みください。
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  3. 治療・療育のやり方の開発

 現在ある、まとまった形としての療育法は、一九八二年、佐々木正美(川崎医療福祉大学)らが先駆的に米国からTEACCHを日本に導入し、その後もさまざまなものが提唱され試行錯誤の連続で改良されてきた(佐々木正美『自閉症のためのTEACCHハンドブック』参照)。すでに数多くの書籍が出版されており情報量は多い。
 治療・療育法の開発、ことに新しい成功例の蓄積には、特別支援施設の職員の方々など、関係者の努力が期待される。

  (1) 治療療育の必要性
「発達障害は障害ではない、個性が強いだけだ」という意見は、この本のヒト脳の構造と機能の神経科学的な見方からすれば一理ある。自閉症スペクトラム障害(ASD)の “症状” の広がりは、診断閾値下のASD(ASDとは診断されないがASDの症状の一部を有意にもっている子、さらには微妙な個性としてもっている普通の定型発達した子まで、脳の機能レベルではまさに連続的につながっているからだ。
 しかし、この事実は、診断、早期発見、さらには「ばらばらな行動スタイル、さまざまな異なった能力を持つ子どもたち全体をどのように教育するか」といった本質的問題の困難さをしめすものではあるが、「障害でないのだから何もせず、治療・療育は必要ない」ということには絶対にならない
 現在の日本の社会環境が発達障害の子どもたちが成長するのに良い状態とはとても言えないが、すぐには変えられないであろう。親や子どもが実際の生活でのトラブルや困難を訴え、臨床医に来る現実を見ると、治療とまでいわなくても、よりうまく日常の生活、ことに友達や学校での社会性のある生活が送れるように療育で手助けした方が良いに決まっている。
 杉山登志郎が述べているように、結局トラウマ(精神的外傷)のフラッシュバック(再燃)などなどの二次障害、三次障害の問題が生じやすくなり、なによりも本人が一番困る(杉山登志郎『発達障害のいま』参照)。子どもだけでなく、親への指導も重要になってきた。