『NUTRIENT POWER―HEAL YOUR BIOCHEMISTRY AND HEAL YOUR BRAIN』(Skyhorse Publishing, 2014)

著者:William J. Walsh

chapter7 autism(自閉症)

114〜115ページ

※日本語訳は引用者が行いました
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この本は自閉スペクトラム症とADHDの原因最新の治療方法について書かれています。予防方法についてはこれまでに掲載した『発達障害の原因と発症メカニズム』(黒田洋一郎)の第8章と第9章(2020/12/29〜2021/1/15に掲載)を、具体的な治療治療については『発達障害を克服するデトックス栄養療法』(大森隆史)、心身養生のコツ』(神田橋條治)p.243〜246 (2023/10/11に掲載) をお読みください。
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すべてをひとつに:自閉症におけるエピジェネティクスモデル

 自閉症についての多くの謎は解けた。この障害の発症メカニズムは徐々に明らかになりつつある。私が思うに、自閉症は遺伝子プログラミング(エピジェネティクス)の障害であることを認識することが(自閉症理解の)第一歩である。

 自閉症のエピジェネティクスとは何か?
*異常な(低)メチル化:これはエピジェネティク(遺伝子発現)の障害の最も決定的な要因となる。
*重度の酸化過剰:誤った遺伝子マークを作り出す条件となる。
*有毒金属とその他の環境障害への脆弱性。
*比較的落ち着いた時期の直後に起こる突然の発症。
*自閉症を発症した後の症状の継続
*自閉症における遺伝学の古典的な法則からの逸脱:強い遺伝的要因をともなう。

 低メチル化酸化過剰エピジェネティクスの組み合わせは、自閉症における魔の三角地帯である。私は、これら3要因が不幸にも合わさることが、大多数の自閉症の原因であると考えている。

 要するに、自閉症は遺伝子プログラミングの障害であり、低メチル化の人が、圧倒的な酸化ストレスを引き起こす環境による傷害を経験することで発症する

 歴史を振り返ると、科学の発展が加速されたのは、まだ十分に理解されていない現象の起こるしくみを説明しようとする理論が提出されることによる。この精神を受け継ぎ、ここに私は「自閉症のウォルシュ・モデル」を提案する。このモデルは、(自閉症)研究の発展と大勢の献身的な人々の努力に基づくものである。


​1. 自閉症の発症のしやすさは子宮内で(胎児期)の低メチル化に由来し、これ(低メチル化)がいくつかの遺伝子を過剰に発現させ、酸化ストレスに対する防御の弱さと、環境による傷害に対する脆弱さをもたらす。

2. 受精から3歳までに
環境による傷害が閾値に達すると、酸化ストレスが酸化防御を圧倒する転換点となる。これで DNA とヒストンの修飾が変更され逸脱し、自閉症と診断される症候群を発生させる。逸脱した修飾が将来の細胞分裂においても維持され、症状は消え去ることなく、障害は生涯を通して残る。

3. 
子宮内、あるいは出生後に起こる環境による傷害のタイミングと深刻さの程度に応じて自閉症の程度や症状が変わる。

4.
(DNAとヒストンの)修飾の変更は異常な脳の発達、重度の脳の炎症、酸化ストレス、重要な生化学物質のアンバランスを引き起こす。

5. 
多くの遺伝子は(DNAとヒストンの修飾の変更の)悪影響を受け、免疫力の低下、食物過敏性、発作傾向、毒素への感受性の上昇、行動制御の弱さなど、無数の身体的な問題を引き起こす。



※引用者注——エピジェネティックスとはDNA塩基配列の変化を伴わないで、環境の影響などで遺伝子の働き(遺伝子発現)の調節が変わり、細胞分化や機能の異常(ガンなどの病気や発達障害)をおこす現象。(『発達障害の原因と発症メカニズム』(黒田洋一郎)p.10)

※引用者注——ここで言われている内容をわかりやすく言い換えると


​①酸化ストレスと環境による傷害に弱い(具体的には食品に含まれる神経毒性物質〈農薬や、水銀や鉛などの重金属やPCBなど〉の影響を受けやすい体質の人がおり、

その体質の人が、受精から3歳くらいまでの間に酸化ストレスと環境による傷害(食品に含まれる神経毒性物質〈農薬や、水銀や鉛などの重金属やPCBなど〉を一定量以上摂取することにより、特定の遺伝子の発現(ON・OFF)が異常になり、自閉症が発症する

③この遺伝子の発現のしかたは細胞が分裂しても引き継がれていくために、生涯変わらない。このため、症状は一生続く(完全には治らない)


ということです。


これにより、全身の細胞の中でも特に、対人関係やコミュニケーションに関わる脳部位や、感覚の受容に関わる脳部位の発達が遅れます。それにより、自閉症に特有の症状が現れるのです。





※神経毒性物質の影響を受けやすい体質かどうかは普通わからないので、
予防のために出来る対策は

特に妊娠中や幼児期は
できるだけ無農薬で栽培したものを食べ、
水銀や鉛など、毒性のある重金属が多く含まれている大型の魚(マグロやタイやブリなど)は食べない

ということになります。