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真夜中の弥次さん喜多さん

角川エンタテインメント
真夜中の弥次さん喜多さん DTS スタンダード・エディション

なんていうか。

めくるめくクドカンWORLDっていうか。

作り手は最高に楽しかっただろうなっていうか。




・・・夜中に見たら、ちょっと疲れてしまった。

私のしっぽ。

「どうして私のことが好きなの?」と、訊く。

答えてくれることもあるし、

笑って聞き流されることもある。



「tokyo tower」を観て、

とても恋愛的な気分になったので、

私はまた、訊いてみた。




「…なつくところ。」




少し、驚いて、聞き返した。

「なつく?」


彼は、半分笑いながら、

「なんか、なついてるじゃん。」と言うので、

私が言葉を続けた。

「…"俺"に?」

「…そう。俺に。」




どうしてだか、私は、

飛び上がりたいほど嬉しい気持ちになった。

「犬みたい?」と訊いた私に、

「いや、人だけど…。」などと生真面目に答えるので、

私は、同じベッドで寝ているこの恋人が、

愛しくて仕方がない。




「自分で、犬みたいって思うことあるよ。」と言うと、

彼は笑っていた。






::






幸福なことに、怯えそうになった。

満たされた感情に、私は慣れていない。




「幸せになる、覚悟はある。」と、

何だったかのCMの台詞を、

口に出して言ったみた。





「なにそれ。」

「…CMのまね。」






::






私に尻尾があったら、ちぎれてしまうかもしれない。

この人となら、どこまででも行ける。

tokyo tower

バップ
東京タワー プレミアム・エディション

江国の世界を映画化することは不可能だと、

あまり期待しないで観た。



意外に良かった。

小説とは少しテイストが違った分、

映画として、素敵なお話に思えた。




見終わった後、ひどく甘い気分になった。

笑って。

ソファのわきに置いてある鏡に、

ちょうど横にいる恋人の顔が映っていた。

しばらく眺めていると、彼と鏡越しに目が合ったので、

「鏡越しに私の目を見ないほうがいいわ。」と、神妙な顔で言ってみた。

「なんで?」と、彼が素直に訊き返してくれたので、

わたしは顔がにやけるのを抑えながら、

「恋に落ちるわよ。」

と、言った。



私が何を狙うでもなく、

リアクションに困る冗談を言うと、

彼は容赦なく、聞こえないふりをする。

私は、彼の顔を覗き込んで、

ちゃんと聞こえていることを確認すると、

それだけで満足して、笑っている。



部屋の中で私が踊っていても、

最近は何も言わなくなった。

まだ付き合いだして間もない、彼が名古屋にいた頃。

彼の部屋で、つい私が、

手で大きく弧を描きながら、

大きなステップを踏んで踊ってしまった時、

彼は少し驚いて、それから嬉しそうに笑っていたのに。




::




大切な休日だというのに、

アポイントが1件入っていた彼が帰ってきた。

スーツを脱いでクローゼットにかけ、

シャツを脱いで、脱いだシャツを洗濯機に入れて、

着替えを取りにクローゼットに戻る。



この間じゅう、私は、

彼がいない間にあった出来事を、

つらつらと喋りながら、ついて回った。

1LDKの狭い部屋の中を。

足元に纏わりつく犬みたいに。



「何でついて来るんだ。」と、彼は笑った。









笑った。

笑った。

恋人が笑った。







::






こういうのがいい。

ふとしたことで、たくさん笑いたい。

一緒にいるときに、どれだけたくさん笑えるかは、

一緒に生きていく中で、二番目に大切だと思う。

これは、今日、テレビを観ながら思ったことだけれど。






いつまででも、この人を笑顔にできる女になろう。

と、自分に誓ってみた。

みかづきと、ヒロコさん達の逆襲。

ヒロコさん達が来た。

ヒロコさん達、というのはヒロコさんと、ヒロコさんの旦那さま。

二人とも私のもと先輩。会社の。



誰も知らないけれど、

彼女たちの婚姻届の立会い人の欄は、

私と私の恋人が書いた。

だからきっと、もし私たちが婚姻届を書くときには、

ヒロコさん達に立ち会ってもらうのだと思う。

私たちの恋の経緯を、ゼロから全部知っている彼女たちは、

本当に、「立会い人」に相応しすぎる程に相応しい。




::




私の恋人はよく、ヒロコさんに「お面」を買ってあげたらしい。

私が彼らに出会うずっと前の話で、

私の恋人は、二度、ヒロコさんに「お面」をあげた。

確か、何処かの旅のおみやげという話だった。

もらっても困る、へんなお面。



私と彼が付き合い始めてからも、

ヒロコさんは事あるごとに彼に、
「お面はいりませんから。」と言っていた。

彼が調子に乗って、嬉しそうに、

「…フリでしょ?それ。」なんて返そうものなら、

「本当にいりません!迷惑ですから!」と、

それはそれは怖い顔で拒否の意を示していた。

二度にわたる「お面」のおみやげに、
相当なトラウマがあるみたいで。

そういう時のヒロコさんは、本当に怖い顔をする。




::




今日、ヒロコさん達は京都に遊びに行っていて、

帰りに大阪に寄ってくれた。

「おみやげ買ってきたよ。きゅうちゃん漬物好き?」

とヒロコさんに訊かれて、

日々のご飯のおかずに困っている私は喜んだ。

「大好きです。ありがとうございます。」

「それから、インテリア雑貨もあるよ。」

と、ヒロコさんは続けた。

「いつものお礼に」と。

私は、「お面はもういりませんから!」と、

眉間にしわを寄せて怒っているヒロコさんの顔を思い出した。





「ジャパニーズモダンな感じだから、是非お部屋に飾って。」

と、ヒロコさんは上機嫌で言った。

ヒロコさんの旦那さまも、同調する。

「大きさとか、ちょっと迷ったんだけどね。」

私も彼も、期待と不安が入り混じった気持ちで、

「早く見たい。」と二人を急かした。





二人が嬉しそうに取り出したものは、

丸い細長い形をして、包み紙に覆われていた。

「じゃあきゅうちゃんが開けて。」と手渡され、

私はドキドキしながら包み紙を開けた。




カレンダーだった。

包み紙ごと受け取った時から、そんな気がしたので、

特に驚かなかったのだけど。

丸まったカレンダーを開いて、

若干、ひるんだ。










「皇室御一家」と、品の良い明朝体で書いてあった。

それから、錚々たる顔ぶれの皇室御一家の集合写真。





「素敵でしょ。絶対に飾ってね。」

と言ったヒロコさんは、

もう笑いが抑えられないと言うような、

楽しそうな顔だった。

私も恋人も、予想を超えるインパクトに、

ただただ笑うしかなかった。





ふた月ごとに、皇族の方々の綺麗な写真が並ぶカレンダー。

「日付のところ、書き込めるやつか迷ったんだけどね。」

と、旦那さまは得意げに語る。

「使いやすいかと思って、高いほうにしたんだよ。」

それから、続けてこう言った。

「これからシリーズ展開していきますから。」





::





時間も遅いから泊まっていけばと打診をしたけれど、

ヒロコさんたちは明日も仕事があるらしく、

12時をまわろうかと言う頃に、大阪を出た。

ちゃっかり、部屋の壁にカレンダーを設置して。







外には、もう限界かと思うほど細い、三日月が出ていた。

ヒロコさん達が、無事に名古屋に着きますように。






皇族の皆様の気品溢れる笑顔が、

こころなしか部屋の雰囲気になじんできた気がする。