Q05 quest -3ページ目

他人のフリ見て我がフリ笑え。




「良かったら、コンビニまで傘入りますか?」




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夜になって降り出した雨。

天気予報を見て、「今日は傘を持っていかなきゃね。」と、

朝言っていたのに、私は傘を忘れた。

会社に置いてあった、誰のものだかわからない、

白くて透明なビニール傘を借りて、帰ってきた。



電車を降りて、出口の階段を上りきると、

おじさんが一人、雨宿りをしていた。

おじさん、というには若いかもしれない。

スーツを着て、大きなバッグを持っていた。



「あ、コンビニ行くんですか?」と訊かれ、

そんな予定はまったく無かったけれど、

「はい。」と答えた。にこやかに。

自分を演出するのは、嫌いじゃない。



歩いて30秒ほどのコンビニまで、

少し小さめのビニール傘に、その人と二人で入った。



「いつから降ってるんですか?この雨。」

「さぁ、私も会社に傘があったから助かったんです。」

「週末もずっと雨なんですかね?」

「いや、明日はくもりで、日曜日は晴れるって、テレビが言ってましたよ。」


テレビが言ってましたよ。

と、わざと言った。

理由は特にないけど。

男の人は、かりかりと話す人だった。

それから、早足だったので、傘を持ちながら少し困った。

余裕のない男の人というのは見苦しい。





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コンビニでわざわざ何かを買うのも馬鹿らしい。

だから私は律儀にも、雑誌コーナーをまわって、

「雑誌を買いに来たけれど、お目当ての雑誌がありませんでした。」

というふうに振舞って、コンビニを出た。


入り口で、「すみませんでした。」「いえ。」と言って別れたあの男の人は、

きっと私のことなど、見てもいなかったけれど。

時々、自分でも呆れるほど律儀で、小心者な私。





ipodの再生ボタンを押して、また一人で歩き出す。





あの人、今日の雨だけではなくて、

世の中に不満がいっぱい溜まっている感じだった。

可哀そうな人、と私は勝手に同情して、

それから、自分の幸せを思った。






かわいそうに。

恋人が家で待っている、という事実だけで、

私はこんなにも満たされているというのに。


雲のかたち。

最近、生理のせいか体調が悪かったけれど、

今朝は何だかすっきりしていた。




少しだけ早く家を出て、

いつもよりもゆっくりと歩いた。

信号待ちの時、

ふと、空の青さが目に入ったので、見上げてみた。



ひどく青い空に、もやもやとした、白い雲。

ゆっくりとかたちを変えていく空を眺めていたら、

いつの間にか信号が青に変わって、人が動き出していた。




ipodで聴いていたバラードを、

Pizzicato fiveに変えた。

パーフェクト・ワールド。

「パーフェクトな一日が今日もはじまる」と、

野宮真貴ちゃんが唄ってる。




今日、目覚ましテレビの占いで、

おとめ座は最下位だったけれど。

頑張ろうっと。

人生に、殊更なことを望まなくなった。



勝ち負けを求めることは悲しくなるし、

世界を広げようと思えば苦しくなる。



本当は、ただ諦めただけなのかもしれないけれど。




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仕事は楽しい。

今は難しいことは出来ないし、求められることも多くない。

毎日、少しずつ、色々覚えていくのは、気持ちが良い。




早めに帰るようにしている。

本当はもっと、

頑張らないといけない立場かもしれない。




恋人との時間。

それもある。

それもあるけど。





まだ怖い。





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きちんと食事をして。

きちんと睡眠をとって。

運動不足なら歩いて帰る。

牛乳を飲む。

時々肉も食べる。






ぽんこつな自分を労わること。

優しくしないと私が壊れる。





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どっちが前だかわからなくなる。

上手に息が出来なくなる。

馬鹿げて大袈裟なサイレンの音。

圧し掛かる自己嫌悪。

ひとりで見上げた病院の天井。






朝が、怖かった。

凶暴で見えない鈍器を、

頭の中で飼ってるみたいだった。



もう、あんな風にはなりたくない。

絶対に。

絶対に。







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恋人と、健やかに、笑っていたい。

それだけでいい。




いつかの私は、

自分で持て余すほどの上昇志向だった。

崇高な向上心があった。

競争心も。自己顕示欲も。

集中力と、忍耐力も。

それから、情熱も。





もしかしたら、

ラケットと一緒に、

すっぽりとテニスコートに置いてきてしまったのかもしれないし、

あるいは、

上を見ることを忘れた日々に、

少しずつ少しずつ、溶けていってしまったのかもしれない。

そんなことではなく、

ただ単純に、

カラダが疲れてしまったのかもしれない。





気力なのか、体力なのか。

その両方か。

成長なのか、衰退なのか、

ただ逃げているだけなのか。

わからない。


わからないけれど、

私は変わってしまった。

大きな波がうねっていたはずの水面が、

しんと静まり返るみたいに。

心が平穏を望んでいる。







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今の私を支えているのは、「幸せ」だという事実だけ。



それだけだけど、

でもそれが全てなのではないかと、思う。

ぽんこつで、小さな私が感じられるもの。

それだけあればいい。







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まず、健やかであること。

健全な精神が宿ることの出来る、

健全なカラダを守ること。

朝、好きな人に「おはよう」って笑えること。

2年前の日記ととりとめもない本日の思考。

 あのね、「好きだよ」って言われて、「私も」って言えないことが、

 罪悪だと、私は思ってないの。
 それを覚悟できずに、軽率に見返りを求めて言葉を吐くほうが、

 よっぽどの罪だ。
 3秒間の沈黙に、あなたの目の奥に恐怖を見つけるたびに、
 私がどれほど傷ついているか、あなたにはわからないよ。

 それでも自分の方がつらいと言うのなら、
 そばになんて居てくれなくてよいと、私は言ったはずだもの。


                               

                             2003.11.30.








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久しぶりに、大学のサーバーにアクセスしたら、日記が出てきた。

「ennuiennui!」の頃の、ブログに変える前の、

こつこつと、HTMLで書いた日記。

懐かしくて、夢中で読んだ。



2年前の私。





わかっていながら、深く人を傷つけた。

「白でも、黒でも、灰色でも。一緒に居られればいいじゃない。」と、

答えを出すことから逃げて、でも独りでは居たくなかった。






そう言えばこの間、リョージが言っていた。

「香代の文章が、大人になった感じがする。」




そうだね。

あの頃のような、アンバランスさは、もう無い。

変わったと、それでなくても思ってはいたけれど。

比べてみると、2年前の私の幼さは、滑稽ですらある。



私は、少し大きくなったのかもしれない。






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歳を、重ねよう。

微笑みを湛えながら。



いつか来る、「老い」も「死」も。

受け止められるほどの、大きさが欲しいもの。

大きな人間に、なりたいもの。






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最近、思うこと。

私が欲しいもの。



「趣のある、音と匂いと色。」

そういう生活を、積みかさねたい。


音と、匂いと、色。

これは「記憶」と同じことで。

「記憶」というのは、

つまりは「人生」なのだと、私は思う。



趣のある、音と匂いと色。

そういう人生を、歩みたい。

au あたしも欲しいヒロミ!

au



「おそろいで買おう。」って、言ってみよう…。