他人のフリ見て我がフリ笑え。
「良かったら、コンビニまで傘入りますか?」
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夜になって降り出した雨。
天気予報を見て、「今日は傘を持っていかなきゃね。」と、
朝言っていたのに、私は傘を忘れた。
会社に置いてあった、誰のものだかわからない、
白くて透明なビニール傘を借りて、帰ってきた。
電車を降りて、出口の階段を上りきると、
おじさんが一人、雨宿りをしていた。
おじさん、というには若いかもしれない。
スーツを着て、大きなバッグを持っていた。
「あ、コンビニ行くんですか?」と訊かれ、
そんな予定はまったく無かったけれど、
「はい。」と答えた。にこやかに。
自分を演出するのは、嫌いじゃない。
歩いて30秒ほどのコンビニまで、
少し小さめのビニール傘に、その人と二人で入った。
「いつから降ってるんですか?この雨。」
「さぁ、私も会社に傘があったから助かったんです。」
「週末もずっと雨なんですかね?」
「いや、明日はくもりで、日曜日は晴れるって、テレビが言ってましたよ。」
テレビが言ってましたよ。
と、わざと言った。
理由は特にないけど。
男の人は、かりかりと話す人だった。
それから、早足だったので、傘を持ちながら少し困った。
余裕のない男の人というのは見苦しい。
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コンビニでわざわざ何かを買うのも馬鹿らしい。
だから私は律儀にも、雑誌コーナーをまわって、
「雑誌を買いに来たけれど、お目当ての雑誌がありませんでした。」
というふうに振舞って、コンビニを出た。
入り口で、「すみませんでした。」「いえ。」と言って別れたあの男の人は、
きっと私のことなど、見てもいなかったけれど。
時々、自分でも呆れるほど律儀で、小心者な私。
ipodの再生ボタンを押して、また一人で歩き出す。
あの人、今日の雨だけではなくて、
世の中に不満がいっぱい溜まっている感じだった。
可哀そうな人、と私は勝手に同情して、
それから、自分の幸せを思った。
かわいそうに。
恋人が家で待っている、という事実だけで、
私はこんなにも満たされているというのに。