笑って。 | Q05 quest

笑って。

ソファのわきに置いてある鏡に、

ちょうど横にいる恋人の顔が映っていた。

しばらく眺めていると、彼と鏡越しに目が合ったので、

「鏡越しに私の目を見ないほうがいいわ。」と、神妙な顔で言ってみた。

「なんで?」と、彼が素直に訊き返してくれたので、

わたしは顔がにやけるのを抑えながら、

「恋に落ちるわよ。」

と、言った。



私が何を狙うでもなく、

リアクションに困る冗談を言うと、

彼は容赦なく、聞こえないふりをする。

私は、彼の顔を覗き込んで、

ちゃんと聞こえていることを確認すると、

それだけで満足して、笑っている。



部屋の中で私が踊っていても、

最近は何も言わなくなった。

まだ付き合いだして間もない、彼が名古屋にいた頃。

彼の部屋で、つい私が、

手で大きく弧を描きながら、

大きなステップを踏んで踊ってしまった時、

彼は少し驚いて、それから嬉しそうに笑っていたのに。




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大切な休日だというのに、

アポイントが1件入っていた彼が帰ってきた。

スーツを脱いでクローゼットにかけ、

シャツを脱いで、脱いだシャツを洗濯機に入れて、

着替えを取りにクローゼットに戻る。



この間じゅう、私は、

彼がいない間にあった出来事を、

つらつらと喋りながら、ついて回った。

1LDKの狭い部屋の中を。

足元に纏わりつく犬みたいに。



「何でついて来るんだ。」と、彼は笑った。









笑った。

笑った。

恋人が笑った。







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こういうのがいい。

ふとしたことで、たくさん笑いたい。

一緒にいるときに、どれだけたくさん笑えるかは、

一緒に生きていく中で、二番目に大切だと思う。

これは、今日、テレビを観ながら思ったことだけれど。






いつまででも、この人を笑顔にできる女になろう。

と、自分に誓ってみた。