みかづきと、ヒロコさん達の逆襲。
ヒロコさん達が来た。
ヒロコさん達、というのはヒロコさんと、ヒロコさんの旦那さま。
二人とも私のもと先輩。会社の。
誰も知らないけれど、
彼女たちの婚姻届の立会い人の欄は、
私と私の恋人が書いた。
だからきっと、もし私たちが婚姻届を書くときには、
ヒロコさん達に立ち会ってもらうのだと思う。
私たちの恋の経緯を、ゼロから全部知っている彼女たちは、
本当に、「立会い人」に相応しすぎる程に相応しい。
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私の恋人はよく、ヒロコさんに「お面」を買ってあげたらしい。
私が彼らに出会うずっと前の話で、
私の恋人は、二度、ヒロコさんに「お面」をあげた。
確か、何処かの旅のおみやげという話だった。
もらっても困る、へんなお面。
私と彼が付き合い始めてからも、
ヒロコさんは事あるごとに彼に、
「お面はいりませんから。」と言っていた。
彼が調子に乗って、嬉しそうに、
「…フリでしょ?それ。」なんて返そうものなら、
「本当にいりません!迷惑ですから!」と、
それはそれは怖い顔で拒否の意を示していた。
二度にわたる「お面」のおみやげに、
相当なトラウマがあるみたいで。
そういう時のヒロコさんは、本当に怖い顔をする。
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今日、ヒロコさん達は京都に遊びに行っていて、
帰りに大阪に寄ってくれた。
「おみやげ買ってきたよ。きゅうちゃん漬物好き?」
とヒロコさんに訊かれて、
日々のご飯のおかずに困っている私は喜んだ。
「大好きです。ありがとうございます。」
「それから、インテリア雑貨もあるよ。」
と、ヒロコさんは続けた。
「いつものお礼に」と。
私は、「お面はもういりませんから!」と、
眉間にしわを寄せて怒っているヒロコさんの顔を思い出した。
「ジャパニーズモダンな感じだから、是非お部屋に飾って。」
と、ヒロコさんは上機嫌で言った。
ヒロコさんの旦那さまも、同調する。
「大きさとか、ちょっと迷ったんだけどね。」
私も彼も、期待と不安が入り混じった気持ちで、
「早く見たい。」と二人を急かした。
二人が嬉しそうに取り出したものは、
丸い細長い形をして、包み紙に覆われていた。
「じゃあきゅうちゃんが開けて。」と手渡され、
私はドキドキしながら包み紙を開けた。
カレンダーだった。
包み紙ごと受け取った時から、そんな気がしたので、
特に驚かなかったのだけど。
丸まったカレンダーを開いて、
若干、ひるんだ。
「皇室御一家」と、品の良い明朝体で書いてあった。
それから、錚々たる顔ぶれの皇室御一家の集合写真。
「素敵でしょ。絶対に飾ってね。」
と言ったヒロコさんは、
もう笑いが抑えられないと言うような、
楽しそうな顔だった。
私も恋人も、予想を超えるインパクトに、
ただただ笑うしかなかった。
ふた月ごとに、皇族の方々の綺麗な写真が並ぶカレンダー。
「日付のところ、書き込めるやつか迷ったんだけどね。」
と、旦那さまは得意げに語る。
「使いやすいかと思って、高いほうにしたんだよ。」
それから、続けてこう言った。
「これからシリーズ展開していきますから。」
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時間も遅いから泊まっていけばと打診をしたけれど、
ヒロコさんたちは明日も仕事があるらしく、
12時をまわろうかと言う頃に、大阪を出た。
ちゃっかり、部屋の壁にカレンダーを設置して。
外には、もう限界かと思うほど細い、三日月が出ていた。
ヒロコさん達が、無事に名古屋に着きますように。
皇族の皆様の気品溢れる笑顔が、
こころなしか部屋の雰囲気になじんできた気がする。