みかづきと、ヒロコさん達の逆襲。 | Q05 quest

みかづきと、ヒロコさん達の逆襲。

ヒロコさん達が来た。

ヒロコさん達、というのはヒロコさんと、ヒロコさんの旦那さま。

二人とも私のもと先輩。会社の。



誰も知らないけれど、

彼女たちの婚姻届の立会い人の欄は、

私と私の恋人が書いた。

だからきっと、もし私たちが婚姻届を書くときには、

ヒロコさん達に立ち会ってもらうのだと思う。

私たちの恋の経緯を、ゼロから全部知っている彼女たちは、

本当に、「立会い人」に相応しすぎる程に相応しい。




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私の恋人はよく、ヒロコさんに「お面」を買ってあげたらしい。

私が彼らに出会うずっと前の話で、

私の恋人は、二度、ヒロコさんに「お面」をあげた。

確か、何処かの旅のおみやげという話だった。

もらっても困る、へんなお面。



私と彼が付き合い始めてからも、

ヒロコさんは事あるごとに彼に、
「お面はいりませんから。」と言っていた。

彼が調子に乗って、嬉しそうに、

「…フリでしょ?それ。」なんて返そうものなら、

「本当にいりません!迷惑ですから!」と、

それはそれは怖い顔で拒否の意を示していた。

二度にわたる「お面」のおみやげに、
相当なトラウマがあるみたいで。

そういう時のヒロコさんは、本当に怖い顔をする。




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今日、ヒロコさん達は京都に遊びに行っていて、

帰りに大阪に寄ってくれた。

「おみやげ買ってきたよ。きゅうちゃん漬物好き?」

とヒロコさんに訊かれて、

日々のご飯のおかずに困っている私は喜んだ。

「大好きです。ありがとうございます。」

「それから、インテリア雑貨もあるよ。」

と、ヒロコさんは続けた。

「いつものお礼に」と。

私は、「お面はもういりませんから!」と、

眉間にしわを寄せて怒っているヒロコさんの顔を思い出した。





「ジャパニーズモダンな感じだから、是非お部屋に飾って。」

と、ヒロコさんは上機嫌で言った。

ヒロコさんの旦那さまも、同調する。

「大きさとか、ちょっと迷ったんだけどね。」

私も彼も、期待と不安が入り混じった気持ちで、

「早く見たい。」と二人を急かした。





二人が嬉しそうに取り出したものは、

丸い細長い形をして、包み紙に覆われていた。

「じゃあきゅうちゃんが開けて。」と手渡され、

私はドキドキしながら包み紙を開けた。




カレンダーだった。

包み紙ごと受け取った時から、そんな気がしたので、

特に驚かなかったのだけど。

丸まったカレンダーを開いて、

若干、ひるんだ。










「皇室御一家」と、品の良い明朝体で書いてあった。

それから、錚々たる顔ぶれの皇室御一家の集合写真。





「素敵でしょ。絶対に飾ってね。」

と言ったヒロコさんは、

もう笑いが抑えられないと言うような、

楽しそうな顔だった。

私も恋人も、予想を超えるインパクトに、

ただただ笑うしかなかった。





ふた月ごとに、皇族の方々の綺麗な写真が並ぶカレンダー。

「日付のところ、書き込めるやつか迷ったんだけどね。」

と、旦那さまは得意げに語る。

「使いやすいかと思って、高いほうにしたんだよ。」

それから、続けてこう言った。

「これからシリーズ展開していきますから。」





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時間も遅いから泊まっていけばと打診をしたけれど、

ヒロコさんたちは明日も仕事があるらしく、

12時をまわろうかと言う頃に、大阪を出た。

ちゃっかり、部屋の壁にカレンダーを設置して。







外には、もう限界かと思うほど細い、三日月が出ていた。

ヒロコさん達が、無事に名古屋に着きますように。






皇族の皆様の気品溢れる笑顔が、

こころなしか部屋の雰囲気になじんできた気がする。