反抗期
「ママを悲しませたくはないんだよ。」
という前置きを途中で何度もはさみながら、
私は彼女にメールを打った。
電話で直接話す勇気はなかった。
母親が再婚して、2年くらい経つ。
いつの間にか再婚することが決まっていたので、
それがいつだったか、正確には覚えていない。
ママが誰を選ぼうと文句を言うつもりはなかったよ。
だけど、私自身が家族として付き合えるかは別の問題なの。
と、携帯の画面で文字にしていくうちに、涙が出たけれど、
もう、あふれ出した私の灰色でどろどろの気持ちを、
抑えることは出来なかった。
それじゃなくても、合わないのに。
初めて会ったときから、嫌な予感はしてた。
私は姉のように、違和感を押し殺して笑顔をつくる事はしなかったし、
どういう人かも興味がなかった。
「母親の次の旦那」という男が、どんな人間でも、別に良かったから。
母親には母親なりの観点があって、
彼女にとってのそれを「間違う」ことはないだろうという、
奇妙な信頼もあった。
そして彼女は、それに見合うだけの選択をしたらしいこともわかる。
母との男の趣味の相違は、生涯の謎となるだろうけれど。
あの二人は仲が良い。
幸せそうでなによりだ、と。
傍観者としては、心からそう思う。
だから、あの人とも。
母親を幸せにしてくれてありがとう、と。
そうやって思うことで、やり過ごそうとした。
笑顔をつくる努力も、言葉を交わす努力も。
距離をはかりながら。
不自然に、ならないように。
空気を止めないように。
幸せを、壊さないように。
激情、と呼んでいいほどの、嫌悪感。
押し殺しすぎて、夜は泣けた。
いつまで、こんなことが続くのだろうと。
それは吐き気にも似た感情で。
あなたは、わたしの父親じゃ、ない。
私の部屋に入ってこないで。
偉そうにお説教しないで。
父親ぶったメール送らないで。
反抗期の中学生みたいに。
親の離婚も、再婚も、いまどき珍しくもない。
籍の異動なんてどうだっていい。
もともと、甲斐性のない父親をみかねて、
私は昔、母に離婚をすすめていた。
なのに。
恨みそうになる。
::
友達の、結婚式はとてもキレイで、感動的だった。
私は、自分の結婚式を想像する。
どんな式場にしよう。
どんなドレスを着よう。
誰を呼ぼうかな。
バージンロードを歩くところで、
私の妄想は頓挫する。
誰と、歩くの?
あのひと?それとも、
母親とあのひとの前に、お父さんを呼ぶの?
一生懸命考えてみるけれど、
いつもそこで、完全に頓挫する。
::
お母さんは、きっと泣いてる。
万年反抗期みたいな私を嘆いている。
ごめんね、とは思うけれど。
限界だった。
私はもう、あのひとの前で笑えないもの。
ごめんねママ。
AM7:00
「好きなだけくっついていい男の人が居るっていうのはいいもんだね。」
と言って、わたしなりの力ずくで恋人を抱きしめた。
朝の7時。
毎朝5時半になる私の携帯のアラームは、休日も容赦がない。
ものすごくうるさくて、その時は忌々しいのだけど、
起きてしまうと、休日の朝は素晴らしい。
「好きなだけキスしてもいい人が居るっていうのもいいね。」
と、私はまだ寝惚けている恋人に好きなだけキスをした。
もうすぐ一緒に暮らせる。
嬉しい。
手ばなしで嬉しい。
自転車に乗って、ごはん食べに行こう。
23歳。
そういえばこの間、23歳になった。
くがつむいか。
私は相変わらずその数字を思いうかべて、
「大人だなー。」とわかるようなわからないような感想を持った。
きっと22歳の誕生日もそう思ったと思う。
この先もきっとそう思う。
いつの日か、「おばさんだなー。」とかも、思うんだろう。
ひどく子供じみた、心もとない気持ちで。
昔からの夢がふたつある。
女優。
っていうのと、
作家。
って、いうの。
どうしてだかわからないけれど、
「私には女優の才能がある。」と昔から思えてならない。
馬鹿みたいだけど本当の話で、
だけど演技なんてしたことがないから、
この奇妙な思い込みが真実かどうかはわからない。
「女優になりたい」ではなくて、
「女優の才能がある」という思い込み。
今も、かなり本気でそう思っている。
ただそれだけなのだけど。
夢といえば夢?
…ちがうかしら。
もうひとつ、作家。
こっちも昔から。きっと小学校2年生くらいから。
これに関しては自信があるわけではなくて、ただただ切望している。
文章を書いて生活できたら幸せだなと。
それで誰かに感動を与えられたらめちゃくちゃ幸せだなと。
最近、23歳になりました。しつこいようですが。
それで、人生の目標をさだめました。
これってつまり「夢」?
だけど「当面の夢」。
当面の、とか言うあたりが、大人だなー、と、思う。23歳の私。
本をね、出す。
どんな形でもいいから。
きちんとした本。
なにをもって「きちんとした」というのか、
自分でもまだわかっていないのだけど。
を、出版すること。
これが、当面の夢。
::
決めてしまったら、気持ちが良かった。
私の人生の向かう先。
秋分
ホームの向こう側には、沢山の電機メーカーの名前が光っている。
見慣れてしまった駅前のモニュメントと、
見知らぬ人生を歩んでいる沢山の知らない人たち。
「大名古屋ビルヂング」という青い文字。
(ビルディング、ではなくビルヂング、と書かれたことにはじめはすごく違和感があった。)
もう、何度私はここに立ったのだろう。
21:00ちょうど発の新幹線を待ちながら私は思った。
いつものように、ipod miniで音楽を聴きながら(今日はwyolica)、
背筋が自然に伸びていることを意識してみる。
今度ここに立つのはきっと、この街を出るときだ。
さかのぼって、日記を書こうとも考えたけれど、面倒くさくてやめた。
仕事を辞める、と決めてから、2ヶ月が経とうとしている。
あの時私は、暗くて汚い渦巻きの中心に居た。
何故ってそれはその渦を作ったのは私自身だったからなのだけど。
波がおさまるのを、ぐるぐるまわりながら待つような2ヶ月間だった。
今は、とても静かだ。
目の前に広がる水面は果てしなくて、
今度はそれに、少し恐怖をおぼえる。
結局、いつだって私は怯えている。
最近、生きることが少しむつかしい。
::
引越しの用意をしなければ。
と、思いつつ、引越し予定日を一週間先にむかえている。何もしないまま。
半年間の一人暮らしで、そうそう荷物なんて増えていないと高を括っていたけれど、
いざ日数をかぞえるとぞっとする。引越しの用意をしなければ。
いらないものが沢山ある。
二つの生活がひとつになる時、
二つあったものがひとつしかいらなくなるのだと、
そんな当たり前のことをしみじみと感じる。
洗濯機。
冷蔵庫。
電子レンジ。
食器とか調理器具とか。
昔の恋人にもらったプレステ2とか。
つぎの家には不似合いな家具も。
私の人生から、不要になったものたち。
かつてそれらは、私にとってとても重要で、
愛すべきものだったのかもしれないのに。
いらないものが沢山。
捨ててしまおう。
ごっそりと。
いらないものが意味を持って、
目の前をふさいでしまう前に。
