Q05 quest -15ページ目

ぐるぐるまわる

社内の噂を確信に変えたのは、私だった。



私の退社希望の話は、予想外のスピードで展開した。

ありきたりな、ほんとうの退社希望の理由よりも、

センセーショナルな社内恋愛の話のほうが先行した。




こわい。


こわい。


みんなこわい。





だって聞いて、

運命だったの。

どうしようもなかったの。







そんなこと、誰に言えばいい。

理解を、求めるほうが馬鹿げてる。








こわい。こわい。







嫌い。

くだらない噂話も。

それにのって楽しげに踊る人達も。

それでもやっぱり怯えてる自分も。






みんな弱い。弱い。

みんなの人生がぐるぐるまわってる。

うらがえして、屑を落とす。

涙が、やっぱり止まらない。

病院のベッドよりは、いくらか寝心地の良い自分のベッド。



「もう、辞めたい。」



彼に言った時、私はいろんなことを放棄していた。

愛されるように努力すること。

自分を好きでいようとすること。

前を向いて進むこと。



できる努力を放棄して、

逃げることを選んだ。

これは敗北だ、と思った。



それから怖れた。

彼の言葉を。



「辞めても、いいんじゃない。」と、

彼は受話器越しに、少し笑っていた。




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彼は静かに、言葉を選びながら、話した。



「強いとか、弱いとかじゃないんだよ。」




::




天を、仰ぐみたいに。

出逢いに、感謝した。




それは、

私への信頼と、理解。

それから、奇跡みたいな、愛情。






::











「ふたりでひとつの人生だから。」







塞ぎきった瞼の裏のうす闇の中で聞いた言葉を、

私は、生涯忘れないと思う。











SIREN

「ちゃんと呼吸を調整して。」

と、誰だかわからないおじさんの声がした。

サイレンの音と、それから、赤い色。


痛みに近い痺れで、手を動かすことさえ出来なかった。

とんかちで、叩かれてるみたいに頭が痛んだ。



体とは裏腹に心の中はしんと静まりかえっていて、

初めて乗る救急車に感心したりした。



カカンキショウコウグン。

と、救急隊員のおじさんが病院の人(たぶん)に言っていた。


過換気症候群。


て、あたし、過去吸になったんだ。

最悪。

最悪。



過呼吸って、心の弱い人がなる、あれでしょ。

あたし最悪。恰好悪い。





急患用のベッドは、硬くてせまくて、余計悲しくなった。

ばかみたい。

どうして。

どうしてこんなふうになるんだろう。

どうしてもっと強くなれないんだろう。




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夜、泣きすぎて腫れきった瞼が重い。

誰か、来るのかな。

会社で、なんて言われてるかな。

それにしても頭が痛い。




恋人には、知られたくなかった。

私は、どこまでも脆く弱くなっていくもの。



あなたが恋をした私は、

こんな風じゃなかったかもしれない。

それでも私は私で。

やっぱり強くはなれなくて。

とてもずるくて、醜い。





ごめんね。

ごめんね。

頑張れなかったよ、私。


夏の日




自分よりも、不幸な人間に、人は優しい。

私は弱者を演じる事を覚え、

そこに甘んじる事の容易さも知ってしまった。


私は弱者になってしまったの?



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思い出すのは、寮からコートまでの道。

古びた建物を出て、校門を抜けて、歩道橋を駆け上がる。

田んぼの間につづくアスファルトと、チームメイトの足音。

私を追いかける、仲間の足音。


私は一番前を走らないといけなかった。

それは自分に下した使命で、ぎりぎりの自分を支えるプライドだった。

雨が降っても喜ばなかった。体育館に響く壁打ちの音が好きだった。



頂点に立ったものの、責任。

誰よりもひたむきであれと、あの人に教わった。

強いものは、それゆえ必死なのだと。

そうじゃなくては嘘だと。





私は弱者になってしまったの?

人の背中を見つめながら、追い越すのが怖くて。

歩調をそろえる。

歩調をそろえたつもりが、

いつのまにか背中を見失いかけて、

それでも脚が動かなくなる。


私は弱者になってしまったの?




::




「気づいたときがスタートだ。」と、あの人は言っていた。

人の心を見透かす、温かい目で。



大丈夫。あの頃だって。



目の前の道の先が見えずに、毎日ひとりで泣いていた。

今、誇れる自分は、あの時間を乗り越えたからあるのだと。



知っているはず。大丈夫。





頑張れ私。





BROTHER

私はとても人見知りで、

思っていることをきちんと他人に伝えない。


伝えられない、というよりは、伝えない。


それは、

侮蔑かもしれないし、

畏怖かもしれないけれど、

ともかく、

自分を見せても良いと思う人は多くはない。




彼はその中の大切な一人だったのに。

少し似ていて、少し違っていて、

ななめうえ、くらいの人。



気づいたら他に、話を出来る人がいない。

そんな自分を思って、涙が出てしまいました。

不安で仕方がない。




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仕方のないことは世の中に沢山ある、

と、この前ヒロコさんも言っていたけれど。


こればかりは、わがままも言えないもの。

ともかく、気持ちを伝えよう。


ごめんなさいよりも、ありがとうを沢山。