ハチ公
昨日持ち帰ったパソコンが入った紙袋は異様に重くて。
それから、どこにいるのだかわからないけれど、
気が遠くなるほど沢山の、蝉の声。
憂鬱で仕方がない、と言った私に、
「頑張る気持ちに変えるんだよ。」と、彼は言う。
はい、と。返事をした。
おそろしく素直に。
ほとんど奇跡みたいに。
私は、ぐるりと前を向いた。
カラダ
急患扱いの私を診てくれたお医者さんは、恋人と同じ名前だった。
若くて、眉毛が濃くて真ん中がつながりそうだった。
静かに話す人で、ゆっくりと、いろんなことを訊かれた。
どんな仕事してるの?
いつから痛いの?
どんな時?
仕事はたいへん?
お休みはとれてるの?
便秘は?
生理ちゃんと来てる?
私は、ひとつひとつ、丁寧にこたえた。
ストレスは?
と、訊かれたときだけ、困った。
「ストレス」という言葉がひどく嫌いで。
使うことを躊躇ってしまう。
口にすると、逃げてるような、甘えてるような、罪悪感。
ストレス・・・。
と、口ごもった私に、お医者さんは
「仕事は余裕ある?」と、訊きなおしてくれた。
全然、ないです。と、私は悲しくなりながら答えた。
コトバから逃げても、意味がないのに。
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高校の頃から、一種の発作みたいに繰り返す、嘔吐と頭痛。
社会人になって、3回目。
そのたびに休むわけにはいかないから、観念して、病院に行った。
血の検査。
尿の検査。
MRIの検査。
なんでもいいから、治して欲しい。
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夜更かしとか、
インスタントヌードルとか、
エアコンが好きとか、
不規則な食生活とか。
変えないと、治らないかな。
やっぱり。
もう、いやなんだけど。
一人で便座に突っ伏すのも、
こぼれ落ちる涙も、鼻水も。
変えれば、治るのかな。
ほんとに。
キラキラ
キラキラ ひかる
線の細い 背中に
キラキラ ひかる
たくさんの ちいさな雫
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わたしは
左手の重みが
戻るのを
感じながら
眺める
どうか、
この幸せを、
見失いませんように。
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この人に 出逢えて 良かった!
めがね。
メガネ。
社会人デビューする時にかけようと思っていたのに。
タイミングを逃してしまった。
視力1.5って、もう話してしまったし。
でもこれ欲しいの。
大阪の、下町にある素敵なメガネ屋さんで見つけた。
↓ここの。
http://www.powerspex.com/eye'dc.htm
色もたくさんある。
紫がかわいかったな。
だてメガネは、恥ずかしい。
かける時は、嘘をつこう。
「最近目が悪くなって。」って、言おう。
ごめんなさい。
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欲しいな、めがね。
ACTUS
休日出勤のはずの彼が、昼に突然帰ってきた。
その時私は、クリーニング屋さんがシャツを届けに来たので、
下のエントランスを解錠したところだった。
だから、突然部屋の鍵がガシャ、と音を立てた時は、ひどく驚いた。
クリーニング屋が鍵を持っているはずはない、よね?と自分に問うたほどに。
ドアが開くと、そこには玄関で待ち構えた私に驚く恋人と、
その後ろに、所在無さげなクリーニングのお兄さんが居た。
私がクリーニングされたシャツを引き取って部屋に戻ると、
彼はスーツのまま、メジャーを持ってソファの長さを測っていた。
「ぴったりだなー…。」と、やけに感慨深げで、嬉しそうで。興奮気味。
それにしても、脚長いなこの人。と、
脚を大きく広げてメジャーを使う男を見て、そんなことを思いながら、
「どうしたの?」と、彼の期待に副うように質問してみた。
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要は、ずっと欲しかったACTUSのローテーブルが、
セールで安くなっていて、とても嬉しくて、
大きさが部屋に合うかを測りに来たらしく。
そうしたら、テーブルとソファの横の長さがぴったりで、
私のかわいい恋人は、そのテーブルに運命を感じてしまったようで。
「今日一緒に買いに行こう。」と、彼は本当にはしゃいでいて、
生理でテンションが上がらない私も、引きずられて少し楽しくなった。
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彼がアポイントをすませて帰ってくると、
もうお店が閉まるぎりぎりの時間で、二人とも大急ぎで着替えて出かけた。
ACTUSに着くと、ちょうど「CLOSE」のボードを入り口に出すところだったけれど、
昼に彼を担当してくれたお姉さんが、快く迎えてくれた。
恋人とお姉さんは、まっすぐにお目当てのテーブルのところまで私を案内してくれた。
それは長方形の、私の膝よりも少し低いくらいのテーブルで、
彼の部屋のホームシアターセットのスピーカーの色とよく似ていた。
赤みがかった、濃い茶色。素敵だと思ったので、「いいじゃん。」と素直に言うと、
「じゃあ、これ買います。」と、ほとんど間をおかずに彼が言った。
いつから私が決裁権者になったんだと苦笑しながら、
それでもやっぱり、一緒に生活をしている感覚がくすぐったくて、嬉しかった。
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お会計を待ちながら、「あとはブラインドだな。」と話した。
彼の部屋は窓が規格外に大きくて、それは喜ぶべきことなのだけれど。
今は、前の部屋のカーテンが、半分だけ寸足らずにかかっている変な状態で。
本当は、壁面シェルフとかテーブルとかよりも、優先順位が高いはずなのだけれど。
「もうブラインドじゃなくてもいいかー。」と彼が言うので、私も考えてみた。
確かに、規格外のブラインドをオーダーすると、やたら値がはる上に、流用できないし。
「結婚して違う家に住んだら…」と、私が思うままを口にすると、
「使えんよなぁ。やっぱりカーテンでいいな。」と、彼が続けた。
本当はこの時、私はすごく嬉しかった。
2年以内には結婚する、という認識を共有出来て、
それを当たり前のこととして話していて。
幸福さに、密かに、少しどきどきした。
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帰り際、ACTUSのお姉さんがこっそり教えてくれた。
「実は私も内緒で社内恋愛してるんです。気持ちすごくわかります。」と。
お姉さんのはにかんだような笑顔はとてもキレイで、嬉しくなった。
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お気に入りのテーブルを買って、
プライベートな話まで聞いてもらって、
おまけに共感してくれて。
お店を出るときにはとてもいい気分で、
ACTUSのサービスレベルってすごく高いな、なんて。
最終的な感想が、いまいち可愛くない私。
ともかく、今日は素敵な休日だった。
