ACTUS | Q05 quest

ACTUS

休日出勤のはずの彼が、昼に突然帰ってきた。


その時私は、クリーニング屋さんがシャツを届けに来たので、

下のエントランスを解錠したところだった。

だから、突然部屋の鍵がガシャ、と音を立てた時は、ひどく驚いた。

クリーニング屋が鍵を持っているはずはない、よね?と自分に問うたほどに。


ドアが開くと、そこには玄関で待ち構えた私に驚く恋人と、

その後ろに、所在無さげなクリーニングのお兄さんが居た。



私がクリーニングされたシャツを引き取って部屋に戻ると、

彼はスーツのまま、メジャーを持ってソファの長さを測っていた。

「ぴったりだなー…。」と、やけに感慨深げで、嬉しそうで。興奮気味。

それにしても、脚長いなこの人。と、

脚を大きく広げてメジャーを使う男を見て、そんなことを思いながら、

「どうしたの?」と、彼の期待に副うように質問してみた。


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要は、ずっと欲しかったACTUSのローテーブルが、

セールで安くなっていて、とても嬉しくて、

大きさが部屋に合うかを測りに来たらしく。

そうしたら、テーブルとソファの横の長さがぴったりで、

私のかわいい恋人は、そのテーブルに運命を感じてしまったようで。


「今日一緒に買いに行こう。」と、彼は本当にはしゃいでいて、

生理でテンションが上がらない私も、引きずられて少し楽しくなった。


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彼がアポイントをすませて帰ってくると、

もうお店が閉まるぎりぎりの時間で、二人とも大急ぎで着替えて出かけた。


ACTUSに着くと、ちょうど「CLOSE」のボードを入り口に出すところだったけれど、

昼に彼を担当してくれたお姉さんが、快く迎えてくれた。

恋人とお姉さんは、まっすぐにお目当てのテーブルのところまで私を案内してくれた。


それは長方形の、私の膝よりも少し低いくらいのテーブルで、

彼の部屋のホームシアターセットのスピーカーの色とよく似ていた。

赤みがかった、濃い茶色。素敵だと思ったので、「いいじゃん。」と素直に言うと、

「じゃあ、これ買います。」と、ほとんど間をおかずに彼が言った。

いつから私が決裁権者になったんだと苦笑しながら、

それでもやっぱり、一緒に生活をしている感覚がくすぐったくて、嬉しかった。


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お会計を待ちながら、「あとはブラインドだな。」と話した。

彼の部屋は窓が規格外に大きくて、それは喜ぶべきことなのだけれど。

今は、前の部屋のカーテンが、半分だけ寸足らずにかかっている変な状態で。

本当は、壁面シェルフとかテーブルとかよりも、優先順位が高いはずなのだけれど。

「もうブラインドじゃなくてもいいかー。」と彼が言うので、私も考えてみた。

確かに、規格外のブラインドをオーダーすると、やたら値がはる上に、流用できないし。

「結婚して違う家に住んだら…」と、私が思うままを口にすると、

「使えんよなぁ。やっぱりカーテンでいいな。」と、彼が続けた。


本当はこの時、私はすごく嬉しかった。

2年以内には結婚する、という認識を共有出来て、

それを当たり前のこととして話していて。

幸福さに、密かに、少しどきどきした。



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帰り際、ACTUSのお姉さんがこっそり教えてくれた。

「実は私も内緒で社内恋愛してるんです。気持ちすごくわかります。」と。

お姉さんのはにかんだような笑顔はとてもキレイで、嬉しくなった。



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お気に入りのテーブルを買って、

プライベートな話まで聞いてもらって、

おまけに共感してくれて。

お店を出るときにはとてもいい気分で、

ACTUSのサービスレベルってすごく高いな、なんて。

最終的な感想が、いまいち可愛くない私。




ともかく、今日は素敵な休日だった。