夏の日 | Q05 quest

夏の日




自分よりも、不幸な人間に、人は優しい。

私は弱者を演じる事を覚え、

そこに甘んじる事の容易さも知ってしまった。


私は弱者になってしまったの?



::



思い出すのは、寮からコートまでの道。

古びた建物を出て、校門を抜けて、歩道橋を駆け上がる。

田んぼの間につづくアスファルトと、チームメイトの足音。

私を追いかける、仲間の足音。


私は一番前を走らないといけなかった。

それは自分に下した使命で、ぎりぎりの自分を支えるプライドだった。

雨が降っても喜ばなかった。体育館に響く壁打ちの音が好きだった。



頂点に立ったものの、責任。

誰よりもひたむきであれと、あの人に教わった。

強いものは、それゆえ必死なのだと。

そうじゃなくては嘘だと。





私は弱者になってしまったの?

人の背中を見つめながら、追い越すのが怖くて。

歩調をそろえる。

歩調をそろえたつもりが、

いつのまにか背中を見失いかけて、

それでも脚が動かなくなる。


私は弱者になってしまったの?




::




「気づいたときがスタートだ。」と、あの人は言っていた。

人の心を見透かす、温かい目で。



大丈夫。あの頃だって。



目の前の道の先が見えずに、毎日ひとりで泣いていた。

今、誇れる自分は、あの時間を乗り越えたからあるのだと。



知っているはず。大丈夫。





頑張れ私。