夏の日
自分よりも、不幸な人間に、人は優しい。
私は弱者を演じる事を覚え、
そこに甘んじる事の容易さも知ってしまった。
私は弱者になってしまったの?
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思い出すのは、寮からコートまでの道。
古びた建物を出て、校門を抜けて、歩道橋を駆け上がる。
田んぼの間につづくアスファルトと、チームメイトの足音。
私を追いかける、仲間の足音。
私は一番前を走らないといけなかった。
それは自分に下した使命で、ぎりぎりの自分を支えるプライドだった。
雨が降っても喜ばなかった。体育館に響く壁打ちの音が好きだった。
頂点に立ったものの、責任。
誰よりもひたむきであれと、あの人に教わった。
強いものは、それゆえ必死なのだと。
そうじゃなくては嘘だと。
私は弱者になってしまったの?
人の背中を見つめながら、追い越すのが怖くて。
歩調をそろえる。
歩調をそろえたつもりが、
いつのまにか背中を見失いかけて、
それでも脚が動かなくなる。
私は弱者になってしまったの?
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「気づいたときがスタートだ。」と、あの人は言っていた。
人の心を見透かす、温かい目で。
大丈夫。あの頃だって。
目の前の道の先が見えずに、毎日ひとりで泣いていた。
今、誇れる自分は、あの時間を乗り越えたからあるのだと。
知っているはず。大丈夫。
頑張れ私。