秋分 | Q05 quest

秋分

ホームの向こう側には、沢山の電機メーカーの名前が光っている。

見慣れてしまった駅前のモニュメントと、

見知らぬ人生を歩んでいる沢山の知らない人たち。

「大名古屋ビルヂング」という青い文字。

(ビルディング、ではなくビルヂング、と書かれたことにはじめはすごく違和感があった。)

もう、何度私はここに立ったのだろう。

21:00ちょうど発の新幹線を待ちながら私は思った。

いつものように、ipod miniで音楽を聴きながら(今日はwyolica)、

背筋が自然に伸びていることを意識してみる。

今度ここに立つのはきっと、この街を出るときだ。



さかのぼって、日記を書こうとも考えたけれど、面倒くさくてやめた。



仕事を辞める、と決めてから、2ヶ月が経とうとしている。

あの時私は、暗くて汚い渦巻きの中心に居た。

何故ってそれはその渦を作ったのは私自身だったからなのだけど。

波がおさまるのを、ぐるぐるまわりながら待つような2ヶ月間だった。




今は、とても静かだ。


目の前に広がる水面は果てしなくて、

今度はそれに、少し恐怖をおぼえる。


結局、いつだって私は怯えている。

最近、生きることが少しむつかしい。





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引越しの用意をしなければ。

と、思いつつ、引越し予定日を一週間先にむかえている。何もしないまま。

半年間の一人暮らしで、そうそう荷物なんて増えていないと高を括っていたけれど、

いざ日数をかぞえるとぞっとする。引越しの用意をしなければ。



いらないものが沢山ある。

二つの生活がひとつになる時、

二つあったものがひとつしかいらなくなるのだと、

そんな当たり前のことをしみじみと感じる。

洗濯機。

冷蔵庫。

電子レンジ。

食器とか調理器具とか。

昔の恋人にもらったプレステ2とか。

つぎの家には不似合いな家具も。




私の人生から、不要になったものたち。

かつてそれらは、私にとってとても重要で、

愛すべきものだったのかもしれないのに。



いらないものが沢山。



捨ててしまおう。

ごっそりと。



いらないものが意味を持って、

目の前をふさいでしまう前に。