反抗期 | Q05 quest

反抗期

「ママを悲しませたくはないんだよ。」

という前置きを途中で何度もはさみながら、

私は彼女にメールを打った。

電話で直接話す勇気はなかった。



母親が再婚して、2年くらい経つ。

いつの間にか再婚することが決まっていたので、

それがいつだったか、正確には覚えていない。



ママが誰を選ぼうと文句を言うつもりはなかったよ。

だけど、私自身が家族として付き合えるかは別の問題なの。



と、携帯の画面で文字にしていくうちに、涙が出たけれど、

もう、あふれ出した私の灰色でどろどろの気持ちを、

抑えることは出来なかった。




それじゃなくても、合わないのに。




初めて会ったときから、嫌な予感はしてた。

私は姉のように、違和感を押し殺して笑顔をつくる事はしなかったし、

どういう人かも興味がなかった。

「母親の次の旦那」という男が、どんな人間でも、別に良かったから。

母親には母親なりの観点があって、

彼女にとってのそれを「間違う」ことはないだろうという、

奇妙な信頼もあった。

そして彼女は、それに見合うだけの選択をしたらしいこともわかる。

母との男の趣味の相違は、生涯の謎となるだろうけれど。

あの二人は仲が良い。

幸せそうでなによりだ、と。

傍観者としては、心からそう思う。



だから、あの人とも。

母親を幸せにしてくれてありがとう、と。

そうやって思うことで、やり過ごそうとした。

笑顔をつくる努力も、言葉を交わす努力も。

距離をはかりながら。

不自然に、ならないように。

空気を止めないように。

幸せを、壊さないように。



激情、と呼んでいいほどの、嫌悪感。

押し殺しすぎて、夜は泣けた。

いつまで、こんなことが続くのだろうと。

それは吐き気にも似た感情で。




あなたは、わたしの父親じゃ、ない。

私の部屋に入ってこないで。

偉そうにお説教しないで。

父親ぶったメール送らないで。






反抗期の中学生みたいに。

親の離婚も、再婚も、いまどき珍しくもない。

籍の異動なんてどうだっていい。

もともと、甲斐性のない父親をみかねて、

私は昔、母に離婚をすすめていた。




なのに。

恨みそうになる。




::




友達の、結婚式はとてもキレイで、感動的だった。

私は、自分の結婚式を想像する。


どんな式場にしよう。

どんなドレスを着よう。

誰を呼ぼうかな。




バージンロードを歩くところで、

私の妄想は頓挫する。




誰と、歩くの?

あのひと?それとも、

母親とあのひとの前に、お父さんを呼ぶの?




一生懸命考えてみるけれど、

いつもそこで、完全に頓挫する。






::





お母さんは、きっと泣いてる。

万年反抗期みたいな私を嘆いている。


ごめんね、とは思うけれど。

限界だった。

私はもう、あのひとの前で笑えないもの。




ごめんねママ。