■ポットの交換
リキャップと合わせ、かねてから懸案だった他の2つの不具合の解消を試みました。

・1号機、2号機ともにインプットアッテネーターのガリがあり、特に2号機はかなり酷い。
・2号機のAttackツマミのGR ON/OFFスイッチの接触が稀に誤動作をおこし、ONなのにOFFになっていたり、OFFなのにONになっていたりする。

この2つはどちらもボリューム(海外ではPotと呼称される)部品に起因する不具合なので、ポット交換を行います。


■部品の取り寄せ
MC76とそのクローン元となったUREI1176 Rev.Dでは、入力レベル調整に600ΩT型バランスアッテネーターを使用しています。


MC76にもともと付いていたものはオリジナル1176 Rev.D/Eと同じAB製のものです。



これをリプレースする部品は前にも紹介したStudio Electronics社で売っていますが、けっこう高価な上に、修理当時、同社のサイトはネット証明書が切れていて、スキミングの警告が出て参照不能になっていました(2018年12月現在は復旧しています)。

New 600 ohm T-Bridge Input Pot for UA UREI 1176LN. U2
http://www.studioelectronics.biz/sunshop/index.php?l=product_detail&p=1151

1176のポットのクリーニングについてネットをググってみると、
http://repforums.prosoundweb.com/index.php?topic=32162.0
↑こちらのスレッドで
>I believe that Hairball Audio sells a 3-deck version of this pot. I have no direct experience but I'd guess that it works well.
と、当のStudio Electronics社のDaveが発言しており、実際にHairball Audioではこの部品を売っています。

BI 600Ω T-Pad Attenuator
http://www.hairballaudio.com/catalog/parts-store/attenuators/bi-600-t-pad-attenuator

T-Pad Attenuator PCB
http://www.hairballaudio.com/catalog/parts-store/pcbs/t-pad-attenuator-pcb

これは特殊な3連ボリュームを利用して600ΩT型アッテネーターと同じ機能を実現したもので、Hairball Audio以外では下記のサイトでも同様のボリューム(基板も)を扱っていて写真もあります。

ClassicAPI T-Pad 600ohm Attenuator
http://wiki.diyrecordingequipment.com/projects/classicapi-t-pad-600ohm-attenuator/

Bourns 600 ohm T-Pad Attenuator
http://capi-gear.com/catalog/product_info.php?products_id=254

上記の青いポットは日本でも知名度があるBourns社のもので、Hairball Audioのページに"BI"とある灰色のものはBI Tech(TT electronics)製の
P260型コンダクティブプラスチックポテンショメータです。

Hairball Audioのページには「BI Tech.のポットが今まで試した中で最も信頼性が高くてローノイズだった」と書かれています。

[BUILD] Hairball Audio - Elements
https://groupdiy.com/index.php?topic=56780.0

なお、同じ使い方ができる3連ポットはBI TechやBournsの他にもあるみたい。

Mallory T-Pad Attenuator
http://www.surplussales.com/Equipment/AudioAttenuator.html
これは軸を切らないとだめでしょうね。

その他の参考ページ
1176 t-attenuator pot ??
https://groupdiy.com/index.php?topic=3497.0
http://www.gyraf.dk/schematics/bridge-attenuator.gif

Re: [BUILD] 1176LN Rev D DIY
https://groupdiy.com/index.php?topic=20058.4060

Bourns T-pad as output attenuator (Hairball, ClassicAPI, etc)
https://groupdiy.com/index.php?topic=51120.0

FS: DBX 202XT, PP 2520, Bourns T-Pad
https://groupdiy.com/index.php?topic=63370.0

Studio Electronicsで扱っている古いタイプのT型アッテネーターは1個$85ですが、Hairball Audioのものは$29.15と安価です。しかもコンダクティブプラスチックなので長寿命です。専用基板とON/OFFスイッチ付きのAttack Potも2台分合わせて発注することにしました。2台分の部品6つでも$71.3にしかならない。

【2018.06.05】
Hairball Audioへ部品を発注

Products
------------------------------------------------------
2 x BI 600Ω T-Pad Attenuator (1/4" Shaft) () = $62.30
Add Attenuator PCB Add PCB
2 x FET Compressor Attack Control (pot-attack) = $9.00
------------------------------------------------------
Sub-Total: $71.30
United States Postal Service* Estimate for major markets. Actual number of days may vary based on origin, and customs delays. 0 lbs, 6.4 oz (Priority Mail InternationalR): $49.50
Total: $120.80

・Shipping Label Created, USPS Awaiting Item June 06, 2018, 02:20 PM, SEATTLE, WA 98126
・USPS in possession of item June 06, 2018, 05:18 PM, SEATTLE, WA 98126
・Arrived at USPS Regional Facility June 06, 2018, 09:45 PM, SEATTLE WA DISTRIBUTION CENTER ANNEX
・Departed USPS Regional Facility June 06, 2018, 09:58 PM, SEATTLE WA DISTRIBUTION CENTER ANNEX
・In Transit to Next Facility June 07, 2018, 12:00 AM
・In Transit to Next Facility June 08, 2018, 12:00 AM
・Arrived at USPS Regional Facility June 09, 2018, 09:23 AM, SAN FRANCISCO CA INTERNATIONAL DISTRIBUTION CENTER
・Departed USPS Regional Facility June 10, 2018, 04:58 AM, SAN FRANCISCO CA INTERNATIONAL DISTRIBUTION CENTER
・Arrived at Regional Facility June 10, 2018, 07:14 PM, SAN FRANCISCO CA INTERNATIONAL DISTRIBUTION CENTER
・Processed Through Regional Facility June 10, 2018, 07:15 PM, SAN FRANCISCO CA INTERNATIONAL DISTRIBUTION CENTER
・Arrived June 11, 2018, 05:54 AM, SAN FRANCISCO, UNITED STATES
・Departed June 11, 2018, 12:20 PM, SAN FRANCISCO, UNITED STATES
・Departed June 12, 2018, 04:37 PM, TOKYO, JAPAN
・Processed Through Facility June 12, 2018, 10:43 PM, JAPAN
・Held in Customs June 13, 2018, 09:00 AM, KAWASAKI PORT, JAPAN
・Processed through Facility June 13, 2018, 09:21 AM, KAWASAKI PORT, JAPAN
・Arrival at Post Office June 13, 2018, 07:32 PM, JAPAN
・Out for Delivery June 14, 2018, 10:32 AM, JAPAN
・Delivered June 14, 2018, 11:36 AM, JAPAN




Hairball Audioのリアクションは早く、日本からも安心して発注できますね。ここは1176のキットや部品を扱っているので一度利用してみたいと思っていたのです。


■インプットアッテネーターの交換
配線方法 FET/RACK (Older Version) Step 4 - Wiring Your Compressor
http://www.hairballaudio.com/blog/resources/build-guides/wiring-your-compressor-

まず元ついているAB製のポットを取り外します。ツマミを外すには5/64インチの六角が必要です。AB製のポットの止めナットはパネルにかなり強めに締め付けられていました。回転防止の爪とか無いので少しでも緩むと回ってしまうためでしょう。



外したポットから配線を外します。クリーニングして再利用の可能性もあるので、配線具合を写真で記録しました。Studio Electronicsで売っている新品ポットは写真で見る限りカーボン抵抗が付いていますが、MC76に付いていたのは金属皮膜抵抗です。



交換するポットに、一緒に購入した配線用の基板をハンダ付けします。無くても空中配線できますが、あったほうが配線が楽です。


ポットを差し替えて配線します。シールドの網線はその辺で結んではんだ付けしておけば良いのですが、元のAB製ポットに付いていた回転防止兼ラグ板を再利用しました。


元と同じように取り付けます。交換前よりだいぶコンパクトです。


1176はアバウトな機械なので、ボリュームの可動範囲とパネル面の目盛りの範囲が元々一致しません。この場合、コンプなので反時計まわりに回し切りの無限大∞側ではなく、時計まわりに回し切りの0dB側で合わせなければなりません。


BI Techの3連ポットは交換前のポットよりも回転角度が狭く、0dB側で合わせると∞まで回りません。しかも48から先は回っても音が出ず、目盛りだと48あたりでガサッと音が消える。まあそんなとこ使わないですけど。


また、ガリのようなノイズが全くないわけではなく、48~36の間にポット起因のノイズが出ました。といっても今までの「もしPAで使ったらスピーカー飛ぶぞ・・・」というバカでかいガリノイズに比べれば微小で、良く使う10時~14時部分には問題ありません(なお、このノイズが出たのは1号機施工の部品だけで2号機ではノイズ無しでした)。交換前のポットと比べるとゲイン差もあります。単純に同じ信号源に対して0VUを合わせると新旧で目盛りの位置がこれだけ違います。



回したフィーリングもだいぶ違っていて、AB製は指先に抵抗感があって回すのに力が要りましたがBIのポットは大変軽くて滑らかです。ちょっと軽すぎてうっかり回しそう。交換作業後にメーター表示のキャリブレーションを行います。

交換前後で音が変わるかどうかですが、変わります。印象で言えばBI Techのポットは明るく軽い音で、AB製の古いポットは重い音でした。今までの慣れもあるので「音の出方が平板になっちゃったかな?」と最初は思ったのですが、良く聴くと交換後のほうがずっと音が澄んでいて綺麗です。圧縮のかかった音源でヴォーカルバックのタンバリンやシンバルの余韻などを聴くとはっきりと違いがわかります。今まではノイズのようにも聴こえていたものが音楽的に意図された音であったことがわかるというか。これはリキャップでは得られなかった変化です。何度も聴いているうちに取り外したAB製をクリーニングして再利用するのは考えなくていいや、と思えるようになりました。

しかし、オリジナルの1176の歴史自体、初期に使っていた600ΩT型アッテネーターを、Rev.G以降はオペアンプの差動入力にしてアンバランスの普通のVRを使うようになったわけで、それより後に作られたMC76がわざわざこのT型ボリュームにこだわっているからには、それなりの良さ(ある意味、部品としての高品質とは違う音の荒れや変化が良さになっていたのかも?)が当時あったんじゃないかとも思います。ビンテージ機器には「個性」があるので、必ずしも新しい部品に交換したほうが気に入った音になるとは限りません。今回のポット交換やリキャップで「ビンテージ機器らしさ」は逆にスポイルされているのかもしれません。

つづく
(がんくま)

Purple Audio MC76のメンテナンス(1)
Purple Audio MC76のメンテナンス(2)
Purple Audio MC76のメンテナンス(3)
Purple Audio MC76のメンテナンス(4)
Purple Audio MC76のメンテナンス(5)

Purple Audio MC76 の再修理(1)
Purple Audio MC76 の再修理(2)
Purple Audio MC76 の再修理(3)
Purple Audio MC76 の再修理(4)
Purple Audio MC76 の再修理(6)
Purple Audio MC76 の再修理(7)