オーディオドラマ制作サークルpurplesounds@hotmail.co.jp過去作品は右側の「テーマ」から「作品」をクリックで表示されます。
以下の情報は2023年9月時点の実例です。譲渡方法は変遷しますのでAvidのWebサイトで最新の方法を確認するようにしてください。実例中で行ったのはPro Tools Ultimate Perpetual Licenseの譲渡です。Perpetual Studio Licenseの譲渡も同様に行えるはずですが、金額やリンク先などが一部異なります。サブスクリプションライセンスの譲渡は行えません。ライセンス譲渡はAvidアカウント内の製品登録情報の書き換えで行われますので、譲渡する側とされる側は2人ともAvidにアカウントの登録がある前提です。■大雑把な流れ1.譲渡する側とされる側双方で必要な情報を用意2.iLokから譲渡する製品をdeactivateしてiLokアカウント内(クラウド)に戻す3.AvidのWebサイトからライセンスの再登録申請の書類(PDF)をダウンロードして必要事項を記入4.Avid shopサイトでASC(Avid Support Code)を購入(事実上の譲渡手数料)5.ASCの番号を使ってAVIDのカスタマーサービスに再登録申請のケースを開く6.申請内容に不備がなければAvid側作業で申請から5営業日程度で譲渡完了■譲渡に必要な情報【譲渡する側(前所有者)が準備】・製品が登録してあるiLok ID・Avidアカウントに登録しているメールアドレス・Avidアカウントに登録している氏名と住所・電話番号(※必須ではない)・印鑑・譲渡する製品のSYSTEM IDSYSTEM IDはAvidアカウントの自分の製品リスト("View My Products")から見るか、iLokマネージャーに自分のアカウントでログインしていれば確認できます。【譲渡される側(新所有者)が準備】・Avidアカウントに登録しているiLok ID・Avidアカウントに登録しているメールアドレス・Avidアカウントに登録している氏名と住所・電話番号(※必須ではない)・印鑑・費用11,550円と支払い手段(クレジットカード、paypal、Google Payのいずれか)・AvidのWebサイトへアクセスするためのパソコンとWebブラウザ※スマートフォンでのアクセスは推奨しません。・ドキュメントスキャナー(コンビニ複合機でもOK)・ASC番号(後で説明します)■どちらがAvidに手数料を支払って申請をするか中古売買やオークション等で店舗を介さず見知らぬ人同士で直接ライセンスを譲渡する場合、どうしても氏名やメールアドレス等の個人情報を共有することになります。基本としては譲渡する側(前所有者)が手数料を払って手続きをするよりも、譲渡される側(新所有者)が主体的に手続きをすることをお勧めします。何故なら、譲渡する側が手続きをする方法ですと譲渡される側のiLok IDやAvidアカウントの登録情報を知ってしまうので、一旦ライセンスを移行し代金が支払われた後で再びライセンス移行を申請して取り返す事が可能であるからです。実際に売買を行って作業を始める前に、当事者間で作業手順や支払いのタイミングを話し合ってトラブルを避けるようにします。なお、手続き途中に書類を郵送する場合は、譲渡される側の住所氏名を譲渡する側へ伝える必要があります。■譲渡する側の作業元の持ち主は、iLokマネージャーを使ってライセンスをiLokからdeactivateしてiLokアカウント内に戻します(対象製品を右クリックしてdeactivateを選択実行する)。以下のライセンス再登録に関するページを開き、下の方にあるリンク先から「Avid オーディオ製品 再登録申込用紙」のPDFをダウンロードします。Avid Pro Tools オーディオ製品の再登録方法は?https://avid.secure.force.com/pkb/articles/ja/faq/en363631「Avid オーディオ製品 再登録申込用紙」(直リンク利用は非推奨)https://resources.avid.com/SupportFiles/PT/Avid_Audio_TOO_form_202307_JP.pdfPDFの3ページ目が提出する申込用紙ですので上半分に必要な情報を記載し、印刷・捺印します。記入内容に間違いが無いか確認できたら、譲渡先に郵送します(届いた届かなかったトラブルを避けるために受け取り確認ができる簡易書留やレターパックを利用すると安心です)。■譲渡される側の作業「Avid オーディオ製品 再登録申込用紙」のPDFの1~2ページが手続き方法の説明書になっていますので、あらかじめダウンロードして熟読しておきます。この用紙で手続きができるのは、・Avidハードウェア製品(本記事では対象外)・ProTools HD/UltimateではないVersion9以降のProTools Studio、プラグインとその他のオーディオ関連ソフトウェア・ProTools HD/Ultimateソフトウェアの3つです。ProTools HD8以前ですとライセンスがiLokアカウント内にある場合はASCを用いずに他人のiLokとの間でライセンストランスファー(有償)が可能で本記事の対象外とします。Ultimateの手続き方法は2ページ目に記載があります。譲渡元から書類が手元に届いたら内容を確認し、必要な前所有者の情報が全て記入されているかどうかを確認します。確認できたら記入の練習用にコピーを取っておくと良いでしょう(最終的にはPDFかPNG等の画像データとしてAvidへ提出することになるので、捺印したあとすぐスキャンして以後の作業は画像ファイルに記入していく手もあります)。AvidのWebサイトへ行き、自分のアカウントでログイン。「Avid オーディオ製品 再登録申込用紙」のPDF記載のURLからAvidショップサイトヘ行き、ASC(Avid Support Code)を購入します。ASCとはAvidに有償サポートを依頼するための権利で一般的な技術サポート等にも用いられるものです。本来はライセンス譲渡専用の手続きや手数料ではありません。※ASCの説明 https://www.avid.com/ja/learn-and-support/single-incident-support購入するASCは譲渡対象製品により異なりますので、PDFを確認し、間違って別製品用のASCを購入しないように注意します。以下に記載のURLと価格は2023年9月現在のものです。Pro Tools Ultimate用のASC(\10,500+税)http://shop.avid.com/ccrz__ProductDetails?sku=AR-AV-ASCPTH-00ProTools Studio用のASCはこちら(\4,400+税)http://shop.avid.com/ccrz__ProductDetails?sku=AR-AV-ASCPTL-00支払い方法はクレジットカード、Paypal、GooglePayのいずれかに限られます。Avidショップサイトは重くて反応が悪く途中で反応が無くなったりします。根気がいります。無事ASCが購入できたらAvidから電子メールが届きますが、そこに再登録申込用紙へ記入が必要なASC番号は書かれていません(SKUとOrder No.のみ)。【ASC番号の確認方法】Avidアカウントへログインし、"View My Products"(私の製品を見る)の中にASCがあるかどうかを確認します。無い場合は「まだダウンロードしていない製品」をクリックするとあります。アクティベートボタンを押すと自動でダウンロードコードが入りますので「製品の登録」をクリックします。"View My Products"に戻ると下記のようにASCが表示されているので、開くと9桁のサポートコードが見えます。これを再登録申込用紙に記入します。以上で必要な情報が揃いましたので、間違えないように再登録申込用紙に記入して完成させ、アップロードできるようにPDFやPNGのような画像データにします。会社や自宅にドキュメントスキャナーが無い場合はコンビニの複合機でスキャンしてUSBメモリー等で持ち帰ります。PDF記載のURLから"Using Your ASC"(ASCを使用する)画面へ行き、有効なASC番号を入力しSubmit(提出)します。http://avid.force.com/ASC/ASCWebToCaseHomePageJAサポートケースの入力フォームが開きます。前述のようにこのフォームはライセンス譲渡専用ではなく問い合わせ汎用です。プルダウンメニューで順次DAWから"ProTools Ultimate Software"を選び、必須項目をすべて記入します。国と言語にJapan/Japaneseが選択できるので、私の場合は名前や内容を日本語で書きましたが、その後の返信は外国人の担当者名ですべて英語で来ました。一応Avid側が対応してくれて日本語でやれましたが、本来は英語利用が前提のようです(と言っても書類自体が日本語なのだけれど)。添付ファイルの追加をクリックして画像データ化した再登録申込用紙をアップロードします。私は最初スマホ(Android)のChromeでやっていましたが、PDFをアップロードできませんでした。最初からパソコンのブラウザを使ったほうが良いと思います。次へをクリックして登録内容を確認するとケース(事案)として登録され、ケース番号が発行されます(ライセンス譲渡専用のサービスではないので問い合わせの1つとして扱われます)。ケースとして登録したという英文のメールが届き、このメール中のURLや、単一サポート案件のページにケース番号を入力することで「ケース詳細」が表示できるようになります。ケース登録の確認から1~2時間後に、Avidカスタマーサポートの担当者から「内容を確認したのでライセンス移行作業を進める、5日以内に連絡する」という受理確認の文面の英文メールが来ました。申請したのは水曜日の昼頃で、週末は営業日に含まないと思っていたので火曜日か水曜日あたりに連絡が来るのかなと思っていたら、日曜日に日付が変わった頃の午前1時くらいに「作業を完了した、ケースはこちらで閉じた」という英文メールが来ました。早速Avidアカウントの製品リストを見ると譲渡されたSYSTEM IDのライセンスが増えており、製品のダウンロードリンクもあります。自分のiLokアカウントにも表示されているのでアクティベートもできました。ライセンス売買であれば、この確認ができた段階で譲渡成立です。■ProTools永続版のライセンス譲渡のゆくえ2022年春以降AvidはProToolsの永続版の販売を停止しましたのでProToolsを新規で買う人の選択肢はサブスクリプション版購入以外になく、どうしても永続版を手に入れようと思えば本記事のように永続版ライセンスを持っている人から譲渡してもらう他に手段がありませんでした。しかし本記事執筆当日の2023年9月22日にAvidから永続版ライセンスの再販開始案内が出ました。よって今後、本記事に沿ってライセンス譲渡を行う需要は減るものと思います。例外は古いProToolsでしか動かない古いハードウェア(HD core/accelカード等)を使いたい場合に、その頃のバージョンから継続して維持されていたライセンスを含めて譲ってもらう場合や、DTMを辞める方から市価より安く譲ってもらえる場合と思います。本記事は2023年9月時点の内容ですので、実際に譲渡を行う際にはAvid公式Webサイトで必ず最新情報をご確認下さい。(がんくま)
オーディオドラマ 「タイトル:新作はまだか」Release:2023.04.30 M3-2023春(予定) (第2展示場2F ク-04b) ステレオ イベント価格500円2019年のMUR-014「ラストパート」から4年ぶりのサークルの新作になります![ジャケット][試聴ファイル]トラック1(mp3)[あらすじ]世間の批評などで自信を失くし、まったく本が書けなくなってしまった小説家、緒方文彦。普段は姪っ子のしょうこに半ば養われつつ毎日を過ごしていた。ある日訪れた本屋で自分の作品のファンだという川上瀬奈と出会い自分の内情を打ち明けると、彼女の父が経営している喫茶店で勧められるまま新作の執筆作業を始める。マスターやそこに集うお客など、店で起こる出来事に触れながら徐々に意欲を取り戻し新作を書き上げていく文彦。ただ、瀬奈の様子が以前と違うようで・・・ちょっと立ち止まった大人に送るヒューマンストーリー。[キャスト]緒方文彦:小西駿貴川上瀬名:辻本早耶香瀬名の父:塚多知樹緒方しょうこ:葉理喫茶店の店員:杉宮加奈本屋の店長:くろ。喫茶店の客:がんくま、杉宮加奈、くろ。辻本早耶香スタッフ脚本:くろ。録音、編集:がんくま音楽:ジルジャケットデザイン:渡辺浩彰(VODALES)(くろ。)
■事の顛末(作業だけ知りたい方は飛ばしてOK)先日、100均のイヤホンを改造して秋月電子のECMカプセルを内蔵した簡易ダミーヘッドマイク(リアルヘッドマイク?)を使い、入浴時の音のバイノーラル録音を試みました。以前製作したファンタム電源をプラグインパワーに変換し、マイク入力をバランス出力するアダプターをタッパウェアに入れて防水したものを利用しました。記事内容とズレますが、この録音はなかなか良かったです。水対策としてカプセル表面もスポンジで覆いましたが、これが逆に音をすっきりさせ、耳元に近い水の音や身体や髪を洗う時の手先の移動感がリアルに収録できました。イヤホンケーブルがシールド線ではないので電磁波の影響がノイズになりやすいのが難点でしたが、高価な本格的ダミーヘッドマイクを水濡れで壊すわけにはいかないので。で、録音に使っていたMARANTZ PMD561のヘッドホン出力を聴きながら成功を確信していたのですが・・・。30分以上長回しで録った挙句に最後の瞬間に焦ってレコーダーを落下させてしまい、電源が瞬断しました。拾い上げた時点で再起動がかかっていたので即座にファイルリストを確認しましたところ、ひとつ前の録音までしか残っていません。貸し切り風呂のその日最後の枠を使っていたので、失意の中そのまま撤収して引き揚げるしかありませんでした。■録音したのに残っていないWAVファイル録音を開始後に停止ボタンを押さなかった音のファイルは本当に残っていないのか?落下瞬断後のPMD561が再起動し、最新ファイルが残っていない事が確認された時点で、それ以上の録音をして新しいファイルでカードが上書きされることが無いようにSDカードは抜いていました。帰宅後これをWindowsパソコンで見てみましたが、やはり長回しした録音ファイルは存在しませんでした。ICレコーダーの仕組み上、録音が回っている間は本体のメモリーにデータが記録され、録音終了時にWAVやMP3のファイルに書き出される仕組みだと思われますので通常はこの時点で諦めです。しかしダメ元でUndeleteをかけてみたところ、RecorderRec.TMPという削除ファイルがあることが判明しました(フォーマットはFAT32)。このSDカードは当日録音の前に完全フォーマットをしていたので現地での録音以外のファイルはヒットしないはず。録音中の一時ファイルであった可能性が高いです。電源瞬断時に録音は回っていたので、再起動時に残っていた(ファイル末尾が閉じていない)一時ファイルが自動的に削除された可能性があります。そこで、まずこのRecorderRec.TMPを復活させました。元のSDカード上に復活させると元のカードの内容を壊してしまうので、別のドライブにリカバリします。ファイルの容量は長回ししていた時間に見合うサイズ(604MB)です。■バイナリエディタとSoXでWAVファイルを復元する試しにこの復活したファイルの拡張子を.WAVや.AIFFに書き換えてみましたが、残念ながら再生できませんでした。そこでバイナリエディタで中を見てみました。先頭にはヘッダ情報らしきものが見えます。8000h以降は何かのデータで普通に考えればここから先はPCMのRAWデータではないかと思われます。ヘッダ部分は録音ボリューム設定などのPMD561固有の録音一時情報が含まれているようです。そこで、このヘッダ部分(0000hから7FFFh)をカットして残りのデータ部分を別ファイル(input.raw)に保存しました。SoXのWin32版バイナリをダウンロードしてきました。https://sox.sourceforge.net/sox.htmlこれを展開した作業用フォルダに書き出した別ファイルをコピーします。録音時に指定していたフォーマットは48kHz/24bit/Stereoと記憶しておりましたので、soxにコマンドラインでフォーマットを指定し、RAWからWAVへ変換します。C:\temp>sox -t raw -e signed-integer -b 24 -r 48000 -c 2 input.raw -t wav output.wav【引数】-t 音声フォーマット-e エンコード形式-b ビット数-r サンプリング周波数(データレート)-c チャンネル数soxにより引数で指定したヘッダファイルが付与されてWAVファイルとして書き出されました。再生してみたところ、失われていた録音データが復活しました。100%完全では無かったかもしれませんが95%程度は復旧できたと思います。録音末尾はノイズでしたのでDAW上でカットしました。復元したファイルのヘッダ部分。WAVフォーマットでは0x64617461("data")の後に波形のサイズ、それに続いてPCMデータという構造です。こちらはPMD561で録音に成功している別のWAVファイルのヘッダ部分。PMD561に限らずICレコーダーの内蔵バッファメモリは短時間のキャッシュ用なのでSDカード上に断続的にRAW PCM DATAを書いている可能性があり、同じ手法でセーブできなかった録音ファイルが復活できるかもしれません。その際は、復活が必要なファイルを追加録音やファイル操作により上書き破壊したりしないように即座にSDカードを抜く、録音した時のフォーマット(サンプリング周波数、ビット数、チャンネル数)を覚えておく、リカバリファイルを同じSDカード上に作らない、MP3のような圧縮音声フォーマットは避けてWAVで録る、といった点に注意しなければいけません。本記事を参考にした作業は自己責任でお願いします。(がんくま)
■Windows11(64bit)でLUB-SC2+SDT-9000を使う方法はないのか?結論から書くと条件付きで使えました。条件とは「等速再生ができないのでWaveDATによる音楽再生には向かないが、内容のキャプチャはできる」という点です。等速再生ができないボトルネックがLUB-SC2側にあるのか、使用したPCのスペックを上げれば解決する問題なのか現時点では不明です。【使用機材】・ノートパソコン HP ProBook450G3 Windows11Pro 64bit(21H2 build 22000.918)・SCSIインターフェース Logitec LUB-SC2 USB-SCSI変換ケーブル・SCSIテープドライブ SONY SDT-9000Adaptec AHA-2940シリーズ(AIC-78xx)やSYMBIOS LOGICの53C875等を使ったSCSIインターフェースカードには探せば64bit版ドライバが存在するので、情報を集めてインストールすれば64bit版Windows10/11でそのまま動作するようです。等速以上でDDSDATを使いたい場合はそれらを使うと良いでしょう。ただし古い規格であるPCI-BUSが付いたマザーボードが必要です。PCI-BUSが無い現在の一般的なデスクトップ機やノートパソコンでも使えるUSB-SCSI変換ケーブルでは唯一RATOCの製品(U2SCX)が64bit版Windowsでそのまま使えますが極めて高価です。LUB-SC2の場合64bit版のデバイスドライバが無いのが最大の問題で、これは解決できませんでした。SCSI ID=0で使う「USBディスクモード」であればWindowsの標準ドライバでUSB大容量記録装置として認識するのでMO/HDDは使えますが、テープドライブを使うための「SCSIエミュレーションモード」用のドライバが無いのでSDT-9000は動きません。前回の記事で書いたVista用のドライバを解凍してDPinst.exeを実行しても「64bit版のインストーラーが必要です」と表示が出て先に進めません(互換性のトラブルシューティングで過去のOSを設定しても同じ)。よってそのままWindows11で使うことは残念ながら不可能です。■仮想32bit環境の構築次善の策として、Windows11上に仮想PC環境を作って32bit版のWindowsを動かすという方法があります。現時点でWindows11に対応する比較的メジャーな仮想PC環境は下記の3つです。いずれも試してみました。1.Windows HYPER-V2.Oracle VM VirtualBox3.VMwareWindows HYPER-VはWindowsの標準機能で実行速度も速く利用の敷居が低いものの、ホストPCのUSBポートに接続した機器をゲストOSから直通で使う「USBパススルー」の機能が無く今回の用途では使えませんでした。VirtualBoxとVMwareは個人の非商用利用であれば無償で使える仮想環境で、どちらもUSBパススルーの機能があります。VirtualBoxではSDT9000DATToolやWaveDATを動作させるまではできましたが、高確率でLUB-SC2がSCSIのタイムアウトエラーでハングアップしてしまい、対策を試みたものの解決できませんでした(後述)。そんなわけで以下はVMwareで使う説明になります。仮想環境では実機よりも実行速度が遅くなり、メモリやディスク容量などのリソースも余分に要りますのでホストPCにはそこそこハイスペックな製品が必要です。今回使用したHP ProBook450G3はCorei7-6500U(2.5GHz)、RAM16GB、SSD512GBx2、USB3.0x4portという構成です。【大雑把な手順】1.Windows10(32bit)のインストール用イメージ(ISO)を作る2.VMware Workstation Playerをダウンロードしてインストールする3.共有フォルダを作る4.LUB-SC2のVista用ドライバをインストールする5.正常に動作させるための各種設定を行う6.動作検証■Windows10のISOパッケージを作る【参考記事】Windows 10 の ISO ファイルを作成する必要なのは32bit版のWindowsです。Windows7か8の32bit版でも良いと思いますがXPや2000のようにもっと古いOSだとファイルシステムの互換性や新しめのデバイス認識で問題が出ると思います。USB3.0のドライバが標準実装されたのがWindows8以降です。令和4年時点だとWindows10は現行のOSですが、10年経つとだいぶ古くなっているはずで、ましてやそれ以前のOSは・・・という気がします。ISOファイルが出来たら自分でわかるフォルダに保存しておきます。■VMware Workstation Playerをダウンロードしてインストールする【参考記事】VMwareにWindows10をインストールするVMwareのダウンロード先からWindows用のVMware Workstation Playerのインストーラーをダウンロードしてきます。個人の非商用利用であればVMware社への登録は不要でダウンロードできます。今回利用させていただいたのはVMware(R) Workstation 16 Player(16.2.4 build-20089737)です。インストーラーディスクイメージファイルに前項で保存しておいたWindows10のISOファイルを指定します。インストールにあたってのポイントは以下の通りです。・インストール中はネットワークを切っておくほうが良いネットにつないだままだとWindows10のインストーラーがアップデートを読みに行きかなり余計に時間がかかります。また、ローカルドメインが作れずメールアドレスが必要になります。ここで作る仮想環境はDAT専用で他の作業はしないと割り切って下さい。LANやWi-Fi接続を切らずとも、仮想マシン設定でネットワークアダプタの「接続済み」のチェックを外しておけば良いです。・仮想ディスクはシステムが入っているC:ドライブとは別のSSD/HDDに作成したほうが良い高速化のためです。遅いDATを使うのに高速化は不要と思われるかもしれませんが、DDSDATを安定動作させるために高速化が必要です。容量はDATをキャプチャして1~2本毎にホストPC側へデータを移動させる使い方なら最小設定容量の60GBで足ります。別ドライブに作成しないと使えないという事はありませんでホストOSと同じドライブに作っても普通に動きますが、仮想ディスクを置くドライブに空き容量の余裕が無いとゲストOSがクラッシュしますので容量が圧迫されないように注意します。・メモリは8GB以上、CPUコア数も増やすミニマムな環境で良いと考えず、高速で動かせるようにする必要があります。メモリは8192MB以上を指定します。VMwareやVirtualBoxではインストール時のコア数でゲストOSが構成されるのでシングルコアにしてインストールすると後から増やす必要が出た時の手動作業が大変煩雑です。プロセッサコア数は最大の4コアにして必要で無ければ後から減らす方向で。・USBはホストPCのポートに合わせて最大速度でUSBの互換性はUSB3ポートがある新しいPCであればUSB3.1を選びます。LUB-SC2+SDT-9000はUSBの速度が遅いと不安定になる傾向があり、USB2.0しか搭載していないPCやXP等の古いOSを使いたい場合を除き、LUB-SC2の対応速度に合わせてUSB2.0や1.1を選ぶ必要はありません。なお、VMwareとWindowsのインストール中はLUB-SC2を抜いておきます。・サウンドカードは後から設定できるサウンドカードは高速化のチェックに有用です(音切れを無くす方向へ設定を詰める)が、後から設定ができるのでインストール中は「接続済み」のチェックを外しておけます。初回起動時に起動音の再生で割り込み処理が多発して重くなるのを防げます。インストール後の話ですが、WaveDATの場合は音の再生にDirectSoundやASIOが指定できるので、USBパススルーでPCM2704などの枯れたDAをつないで鳴らしたほうがVMwareのエミュレーションでオンボードのサウンド機能を鳴らすより軽かったです。・不要なポートは追加しないシリアルポートやパラレルポート、汎用SCSIポートは不要なので追加しません。・Windows10の不要な機能はできるだけ切るインストール中に出てくる使用状況の送信などの6項目も不要なので全部オフにします。【参考記事】VMware Playerはこのホスト上でネストされた仮想化をサポートしていません【VMware】仮想マシンの動作を軽くする方法■共有フォルダを作る【参考記事】VMware ToolsをインストールするVMware Playerの共有フォルダの設定方法 | 仮想マシンソフトインストールができたら、ゲストOS側のCD/DVDにVMware ToolsのISOを読み込んでインストールします。続いてホストOS側とファイルのやり取りをするための共有フォルダを作ります。クイックアクセスに登録するかデスクトップにショートカットを作成しておくと良いでしょう。■LUB-SC2のVista用ドライバをインストールする前回の記事を参考に、ゲストOS上にLUBSC2_WVD100.EXEを展開してインストールします。Windows10のインストール時にネットワークを切り忘れた場合はアップデートでセキュリティレベル(DEP)が上がって展開ができません。その場合は管理者実行したコマンドプロンプトからLUBSC2_WVD100.EXEを実行するなどして下さい。DPInst.exe自体も署名がないので2回警告が出ますが無視してドライバ2つ(LUBSC22K.SYSとLUBSC2X2.SYS)をインストールします。一度ゲストOSを再起動してからSCSI ID=1〜6に設定したSDT-9000とLUB-SC2をUSBポートに挿すと画面上に検出したUSBデバイスをホストPCとゲストPC(仮想マシン)のどちらに認識させるかのメニューが出ますので、ゲストPCのOSを選択するとLUB-SC2とテープドライブがデバイスマネージャーに認識されるはずです。【参考記事】VMware Workstation Pro16仮想マシンでUSBデバイスをパススルーする方法■正常に動作させるための各種設定を行うさて、この状態でSDT-9000はLUB-SC2のSCSIエミュレーションモードで接続されているはずなのでSony Tape ToolやWaveDATのSPTIモードで操作できるはずです。しかし重いので動作を軽くする高速化と、LUB-SC2ドライバのハングアップを防ぐための電源の設定、SCSI要求ブロック(SRB)のタイムアウト値の設定を行います。ゲストPCの動作速度を上げる・ゲストPCのWindows右クリック→システム→システムの詳細設定→詳細設定→パフォーマンス→視覚効果「パフォーマンスを優先する」にチェック→詳細設定→仮想メモリ「ページングファイル無し」にする仮想環境の中で仮想メモリを使うのは速度的に無駄、ということで(仮想マシンのメモリ量設定を増やすほうが良い)。以下は更にパソコンに詳しい人向けの処置ですが良く見かける設定です。"C:\Users\(ユーザー名)\Documents\Virtual Machines\(仮想マシン名)\(仮想マシン名).vmx"をテキストエディタで開き、末尾に下記のメモリ設定を書き加えてディスクI/Oのアクセスを軽減する設定にします。MemTrimRate = "0"mainMem.useNamedFile = "FALSE"sched.mem.pshare.enable = "FALSE"prefvmx.useRecommendedLockedMemSize = "TRUE"MemAllowAutoScaleDown = "FALSE"ただし、ホストPCの実メモリが少ない場合は逆効果になる可能性があるそうです。【参考記事】Windows11を見据えたVMware Workstation 16 Playerの設定メモDAT専用環境であればネットワークや印刷関連など不要なサービスが多数ありますのでネット上の記事を参考に「コンピューターの管理→サービスとアプリケーション→サービス」から不要なサービスを止めておくとさらに動作が軽くなります。【参考記事】【2021年最新】Windows10 不要サービス停止で高速化・軽量化!電源の設定DATキャプチャ中は丸2時間以上PC操作をしなくなるのでスリープ等で電源が落ちてしまうのを防ぐ設定です。ホストOS・ゲストOSの両方に設定します。・Windows右クリック→電源オプション→スリープ次の時間が経過後、PCをスリープ状態にする(電源に接続時)を「なし」にする。→電源の追加設定→追加プランの表示で高パフォーマンスを選択→プラン設定の変更を開き、コンピューターをスリープ状態にする「適応しない」→詳細な電源設定の変更を開き、次の時間が経過後ハードディスクの電源を切る「なし」次の時間が経過後スリープする「なし」USB設定→USBセレクティブサスペンドの設定「無効」以上の設定ができたら「変更を保存」します。LUB-SC2のハングアップ防止設定・Windows管理ツールからレジストリエディターを開きます。左側の階層メニューから以下のリンクを開きます。コンピューター\HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Services\diskIoTimeoutValue 初期値の60(10進数)から180(10進数)ヘ変更TimeOutValue 初期値の65(10進数)から180(10進数)ヘ変更設定値は60~190の範囲で単位は秒数です。デフォルトの60/65のままだとイベントビュアーのWindowsシステムログに「デバイス \Device\Scsi\LUBSC2X21 のドライバーは、操作がなかったためのポートのタイムアウトを検出しました。関連付けられたバスはすべて、条件を解除するためにリセットされました。」というエラーを残しSCSIバスがリセットされてLUB-SC2がハングアップします。ハングアップ時は回転ヘッドが停止するのでデッキ内のテープが擦られ続けることはありませんが、仮想環境を再起動してLUB-SC2を挿しなおすまでSCSI操作が一切通らなくなります(SDT-9000を利用中のアプリの終了もできなくなります)。IoTimeoutValueはインターフェースのタイムアウト値で、ストレージ装置のタイムアウト値であるTimeOutValueの設定値に優先する、という説明を見かけました。私の環境でいろいろと試した限りでは、どちらか片方の設定値だけでも85以上になっていればハングアップ現象は出ないようでしたが、この値はホストPCの性能によりけりの可能性があります。(訂正)どちらか片方だけの設定でも良さそうですが値は150〜180位あったほうが良いようです。ホストPCの性能やSCSIターミネーターの相性も関係する可能性が高いです。ゲストOSにLUB-SC2+SDT-9000しかつながない場合は最大値の190にしていても特に実害は無いと思います。ちなみにVirtualBox(VirtualBox-6.1.36-152435-Win)+Extention Packではこの値を変更してもなんら変化が見られずLUBSC2X2のハングアップが起こり続けました。それ以外には特に不具合が無かったのですがVirtualBoxでの運用を諦めたのはこの一点によるものです。VMware Workstation Playerでは変更後明らかにハングアップしなくなり設定が有効であることが確認できました。デバイスマネージャー上の各デバイスの認識IDは・Logitec LUB-SC2 USB-SCSI Adapter デバイス NINJAUSB\VID_0789&PID_002B\6&1b28487a&0&00・Logitec LUB-SC2 デバイス USB\VID_0789&PID_002B\5&12c8f4c0&0&2・SONY SDT-9000 SCSI Sequential Device デバイス SCSI\Sequential&Ven_SONY&Prod_SDT-9000&Rev_12.2\7&28bab05b&0&000400となっていましたので、PIDからレジストリ内を検索すると他にもいくつか設定項目を発見できます。LUBSC2x2(タイムアウト値を設定する箇所なし)コンピューター\HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Enum\NINJAUSB\VID_0789&PID_002B\7&20cde9cf&0&00LUBSC22K(タイムアウト値を設定する箇所なし)コンピューター\HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Enum\USB\VID_0789&PID_002B\6&30c5d09c&0&6SDT-9000コンピューター\HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Enum\SCSI\Sequential&Ven_SONY&Prod_SDT-9000&Rev_12.2\7&28bab05b&0&000400\Device Parametersこの中にある、SrbTimeoutDelta 初期値:300(10進数)はSRB値なので関係すると思い増やしてみました。しかしこの値が秒数だとするとデフォルトでIoTimeoutValue/TimeOutValueの最大値を上回っているので意味が無く、ここは初期値のままで良さそうです。変更後レジストリエディタを終了したら念の為ゲストOSを再起動してLUB-SC2を挿し直します。■動作検証検証にはSDT-9000DATToolとWaveDATを使用し、60分、90分、120分のDATを30本ほどキャプチャしてファイル化しました。取り込み速度はABS Time読みの実測でDUMPDATが1分を1分5~6秒、WaveDATの音声同時再生無しで1分を1分23~24秒でDUMPDATのほうが高速です。VirtualBoxで試した時はDUMPDATが1分を1分7~8秒とVMwareよりごく僅かに低速でしたが、これは設定で高速化をした場合の結果で、USBポート設定を2.0にしていたりと設定で高速化を試みない初期インストール状態だと1分を3分30秒かけて読んでいましたので、やはり仮想環境の高速化は大変重要です。よりハイスペックで高速なホストPCを使うともしかすると等速再生が可能なのかもしれません。個人的に過去DAT資産のキャプチャ・WAVファイル化が目的でリアルタイムで音を再生する必要が無いのでこれで実用ですが、音楽鑑賞用や録音用に等速再生が必要な場合、LUB-SC2を仮想環境で動かす方法は向いていません。WaveDATで音声を再生すると、等速以下なので音が繰り返しになってブチブチとノイズが乗ります。テープの冒頭部分にあまりにも読み取りエラーが多いと、DUMPDATでは最後まで取り込みはするものの有効なデータが残らない場合がありました。WaveDATではマニュアル記載の設定にしたがいエラーを無視する設定が有用ですが、読み取り精度が悪いテープを音声再生すると再生が止まったりゲストOSが不安定化してリセットがかかったりする場合がありました。この場合LUBSC2X2のバスリセットエラーは出ませんが、dwm.exeがUnkown Hard Errorを出し、画面が何度か明滅してConnected Devices Platformユーザーサービスが予期せぬ原因により終了しました、というエラーが記録されています。等速再生ができない状態で読み取り精度が悪いと再生負担が大きいようです。ヘッド清掃で改善する場合もありますが、中に何が入っているかをちょっとだけ確認する場合を除き音声同時再生無しでファイル化という使い方にとどめておいたほうが良いです。【参考記事】[VMWare] SCSIディスクのタイムアウトの件Hitachi Dynamic Link Manager Software ユーザーズガイド(HP-UX用)4.1.6 I/Oタイムアウト値についてデータの破損とディスク エラーのトラブルシューティング のガイダンスSCSI ミニポート ドライバーのレジストリ エントリWindows用iSCSIサービスを最適化する方法Windows における USB- よくあるご質問(Usbstor/USAStor/USB123の違い)WindowsでディスクのI/O優先度を設定する方法VistaのタクススケジューラーとLow Priority I/Oインターネット上で参考にさせていただいた情報源の皆様に感謝いたします。LUB-SC2と同様に32bit版のドライバしかない他のUSB-SCSI変換ケーブルでも、VMwareを使って同様にWindows11で動作させられる可能性があります。Microtech製の変換ケーブルにはかつて64bit版ドライバが存在したという情報がネット上にありますが、現在ダウンロード可能なものはどれもアヤシイです。今どき需要が無いのはわかりますが本当は64bit版ドライバが欲しいところ。(がんくま)【関連記事】令和4年のDDSDAT(1)Windows10(32bit)+LUB-SC2+SDT-9000
黄泉路のメディアDAT(Digital Audio Tape)。後継機であるSDAT(*1)が作られる気配もなく2022年現在、昭和~平成初期に作られたDATデッキを修理して使うのでなければDDSテープドライブ(SONY SDT-9000)を使ってパソコンで再生・録音する位しか利用手段がありません。この分野の神ソフトであり、かつ日本語による詳細な情報源でもあったefu氏作のWaveDATが昨年5月頃に公開停止となり、動作させるための情報も先細りです。本記事では現時点から未来へ向けてDDSDATを使う方法を模索しました。とはいえ何か目新しいものが出てきたわけでもなく、5~6年たてばこの記事も陳腐化していると思います。■SDT-9000を使うための最強環境SDT-9000もWaveDATも、最も使われていたのは2000年代初頭です。使用手順は現在も変わっていません。よって、当時まだ入手可能であった以下のようなハードウェア、ソフトウェアの組み合わせが最強であることも変わっていません。・BIOSで起動し、PCI-BUSを装備したデスクトップパソコン・PCI-BUSで使えるSCSIインターフェース(Adaptec AHA-2940など)・WindowsXP 32bit・DOS版ASPIマネージャ・Win版ASPIマネージャ私も含め、多くの方々はこちらのサイトの記事を参考に使用環境を構築されたことでしょう。パソコンをDAT化しようhttp://recording.s53.xrea.com/sdt.htm今でも上記の環境が用意できる方は、今回書く方法よりも安定して使えますのでそちらを使いましょう。しかし2000年代初頭から既に20年近くが経過し「PCIバス」も「BIOS起動」も「32bitOS」も過去のものになってしまいました。今後、これらのハードウェアと使い方情報の入手がさらに難しくなるのは確実です。本記事はLogitecのLUB-SC2というUSB-SCSI変換ケーブルの利用を軸に展開しますが、DDSDATを今後も末永く使い続けようとお考えであるなら、まだ中古市場で見かけるうちにこの製品を入手しておいたほうが良いのではないかと思います。本記事を書くにあたり使用した環境は次の通りです。・ノートパソコン HP ProBook450G3 Core i7-6500U/Windows11Pro 64bit(後編で登場)・ノートパソコン TOSHIBA DynabookSS RX2 Core2Duo-SU9300/Windows10 32bit・SCSIインターフェース Logitec LUB-SC2 USB-SCSI変換ケーブルなお、私は過去に録音したDAT資産を後世に残すためにキャプチャしたいだけで、DATに新しく録音しようとかDATからDATヘダビングしようとかいう需要がまったくありません。本記事はすべて再生のみのチェックで録音に関しての実用性は未知数です。■USB-SCSI変換ケーブルでSDT-9000は使えるか?使えます。昔からの記事ではデスクトップ機のPCI-BUSに挿すSCSI I/F(Adaptec推奨)が必要とされていますが、これはSDT-9000のファームウェアをデータ用からオーディオ用に書き換える際にWindowsよりも古いDOS環境が必要なためで(後述)、ファームウェアを既に書き換えてあるSDT-9000を持っている場合はUSB-SCSI変換ケーブルでも使えます。ただし初期のUSBはPCIバスよりも転送速度が遅いため倍速運用が難しい場合が多いそうです。この手の変換ケーブルはRATOCの製品(U2SCX)が唯一64bitOS対応を謳っていましたが生産完了でプレミア価格となっており極めて高価(5万円以上)です。以前から私が使っているLogitech LUB-SC2はドライバのサポートがWindows Vistaで止まっているので世の中的にはあまり価値が無く、中古品を安価に手に入れることができます(と思っていましたが、ヤフオクの落札価格相場を見に行ったらこれも値段が上がり始めていますね。以前は4〜5千円で買えたのですが)。これを使ってWindows10/11でWaveDATが動くのか、を調べます。LUB-SC(無印)とLUB-SC2の違いは転送速度で、SCがUSB1.1、SC2がUSB2.0(理論上は480Mbpsまでですが勿論そんなに出ません)です。これから入手する方にはLUB-SC2をお薦めします。■LUB-SC2の2つの動作モードまず成功の確率が高いWindows10(32bit)で試しました。SDT-9000のジャンパピンを下記のように設定しました。ID=0TERM POWER ONTERMINATOR ON(外付けのSCSIターミネーターを使う場合はOFF)私のSDT-9000(ファームウェア書き換え済)は昔のSCSI外付けCD-ROM(Logitec SCD440)のケースに入れてあります(*2)。このようにして使うメリットはデスクトップPC本体への内蔵と比べてヘッド掃除のようなメンテナンスが容易な事です。外付けのターミネーターを別件で使っているのでSDT-9000内蔵のターミネーターを生かしました。50pinSCSI端子にLUB-SC2をつないで電源を入れ、TOSHIBA Dynabook SS RX2のUSB2.0端子につないで起動するとデバイスマネージャーでは「USB大容量記憶装置」としてWindowsの標準ドライバで認識されました(同じ装置が複数ありますが、デバイスのイベントタブの日時で今つないだものかどうかが識別できます)。SCSI機器がMOやHDDであればこのままでも利用できるそうです(*3)。SDT-9000も認識されて、デバイスマネージャーに「SONY SDT-9000 USB Device」の表示が出ます、が、適合するドライバーが無いので「!」マークが付いています。この状態でWaveDATを起動してみましたが、SPTIモードでもASPIモードでも「テープドライブが見当たりません」と表示が出てアクセス不可です。LogitecのサイトにはLUB-SC2のドライバがまだ公開されています。https://www.logitec.co.jp/down/soft/if/lubsc2.htmlLUBSC2_WVD100.EXE(Windows Vista用)LUBSC2_WD130.EXE(Windows95/98/2000/XP用)これらを実行すると指定した解凍先にファイルが生成されます。それぞれのVERSION.TXTによれば、【LUBSC2_WVD100】TITLE: LUB-SC2 Windows VistaドライバPRODUCT: LST-D048-2VERSION: Ver 1.00DATE: 2007-2-20【LUBSC2_WD130】TITLE: LUB-SC2 ドライバPRODUCT: LST-D048VERSION: Ver 1.30OS: Windows XP, Me, 98, 2000DATE: 2006-04-20となっており、今回はVista用のドライバー(LUBSC2_WVD100)を使います。Vista用ドライバーもインストール情報ファイルを見た限りではWindows98/2000/XPへも対応しているようですが、ということは64bitには対応していないということです。添付のHTMLによるとLUB-SC2にはUSBディスクモードとSCSIエミュレーションモードの2つの動作モードがあります。USBディスクモードとは先ほど試したSCSI ID=0に設定して「USB大容量記憶装置」として認識させる方法です。Windowsの標準ドライバで認識させるので64bitのWindows10/11でもそのまま使えるという利点があります。LUB-SC2がWindows 64bitで使えるかをネットで検索して調べると、これを根拠に使えると書いてあるサイトが多く、それはそれで間違ってはいないのですが、SDT-9000のようなテープドライブやスキャナを使う場合は以下の手順によりSCSIエミュレーションモードで使わねばなりません。LUB-SC2とSDT-9000を取り外し、SCSI-IDのディップスイッチを変更します。ID=1~6のいずれか(ID=0は不可)TERM POWER ONTERMINATOR ON(外付けのSCSIターミネータを使う場合はOFF)次に、LUBSC2_WVD100.EXEを展開して出てくるDPinst.exeを管理者実行します。DPinst.exeには署名が無いので赤字で2回警告が出ますが、構わずインストールします。LUBSC22K.SYSとLUBSC2X2.SYSの2つのドライバーのインストール完了が出ればOKです(ここで64bit用のインストーラーが必要ですと表示された場合は64bitOSなのでこの先に進めません)。念のため再起動します。SDT-9000をつないだLUB-SC2をUSBポートに挿すと、デバイスマネージャーに2つの項目が増えます。ユニバーサルシリアルバスコントローラーの中にある"Logitech LUB-SC2"と記憶域コントローラーの中の"Logitec LUB-SC2 USB-SCSI Adapter"です。この2つが表示されている時はLUB-SC2がSCSIエミュレーションモードで動いています。加えてテープドライブの項目の中に"SONY SDT-9000 SCSI Sequential Device"が見えていれば、SPTIモードのWaveDATでSDT-9000を認識し普通に操作できるはずです。取り外す際は、「ハードウェアの安全な取り外し~」から"SONY SDT-9000 SCSI Sequential Device"か"Logitec LUB-SC2 USB-SCSI Adapter"を右クリックで取り外してUSBポートから抜きます。■SDT-9000のファームウェア書き換えにDOSは本当に必要か?本来データバックアップ用のテープストリーマであるSDT-9000を音の再生・録音用途に使うためにはファームウェアをオーディオ用のもの(SGI audio firmware 12.2)に書き換える必要があります。古い記事ではこの作業にFWASPIというDOSのコマンドラインアプリを使うため、フロッピーディスクかUSBメモリーでDOSの起動環境を作ってDOS用のSCSIカードのドライバやASPIマネージャを組み込む手法が紹介されていました。しかしこの手法はWindows以降のPCしか触った経験が無い方には難易度が高く、またLUB-SC2にはそもそもDOS用のドライバーが無いので使えません。加えて、最新のWindowsPCではDOS時代の16bitアプリが使えなくなっていたり、UEFIによるセキュアブートがデフォルトになっていたりしていてレガシーBIOSブートへの切り替えにリスクがある場合があります。Sony Tape Tool(STT)はソニー製のテープドライブを管理するためのWindowsアプリです。LUB-SC2をSCSIエミュレーションモードで使っていれば、このソフトからSDT-9000のファームウェアを書き換えたりデバイスの状況(現在のファームウェアバージョンや累積使用時間など)を確認したりできます。当方が動作を確認したSTTのバージョンはv1.039です。FWASPIと違いわかりやすいGUIで、DOSで起動環境を作る必要もなくASPIマネージャーのインストールも不要です。書き換え操作はSTTを起動し、ファームウェアのアップグレードのファイル選択からオーディオ用のファームウェアファイルを指定して開始を押すだけです(開始ボタンの横にある"ファームウエアテー"で見切れているボタンはテープメディアから更新するためのボタンで使用しません)。LUB-SC2とSTTがあれば、ファームウェアの書き換えにPCIバスで動作するSCSIインターフェースやDOSの知識は不要です。■WaveDATの代替ソフトはあるのか?WaveDATはパソコンをテープデッキのように使える素晴らしいシェアウェアでしたが、残念ながら現在は公開中止となっています。公開中止時点での最新バージョンはv1.23でした。公開中止になった理由は不明ですが、およそ一般のパソコンユーザーには縁のない特殊なドライブを、とうの昔に製造販売が終了した古いハードやソフトで動かす話ですからefu氏のサポート対応も簡単なことではなかったと思います。私自身もかなり以前にDM対応をしていただいた事がありました。長年にわたる開発と提供に感謝しかありません。しかしWaveDATが無くても、SDT-9000を使ってDATの音源を取り込むだけなら昔から他にもいくつかソフトがありました。コマンドラインアプリながら日本語で使えるのが下記のサイトで公開されているyokase氏のSDT-9000DATToolです。SONY SDT-9000でオーディオDATテープを読むhttp://www.din.or.jp/~yokase/SDT-9000/・SONY SDT-9000のオーディオ対応ファーム1.22専用。・Windows 2000以降用。(ASPIは不要のはず)・44.1kHzと48kHz(未テスト)に対応。・2パスでWAVファイルに変換。(すみません、手抜きしてます。)・簡易START ID位置補正 + 末尾のゼロ音量のフレームのカット・約2倍速での読み込み使ってみましたが、Windows10(32bit)+LUB-SC2+SDT-9000(FW v12.2)でちゃんと動作しました。再生音を聞きながら、というわけにはいきませんが、私のように録音用途が無く、DATの過去資産をまるっとパソコンに吸い出してデータ化したい人にはこちらのほうが向いているとも思えます。欠点としては、データがあろうがなかろうがテープの最初から最後まで取り込みますので時間がかかります。ABS Timeが無い部分も取り込めますが、タイムカウンター(ATIME)が回りません。このためリールが回っているのが外から見えないDDSDATでは動いているのかハングアップしているのかがわからない場合があります。SDT-9000の3つあるLEDのうち一番左がチカチカ点滅していて、Windowsのリソースメーターを見て「ディスク」の欄にDUMPDAT.IMGへのデータ書き込みがあれば生きています。最後にテープが巻き戻され正常終了するとDUMPDAT.IMGというファイルが出来ていますのでIMG2WAV.EXEで切り分けます。テープの初めの所でエラーが多いと取り込みに失敗する場合が時々あり、しかし失敗している事がわかるのは全部回ってからです。速度は遅いもののエラーを無視する設定にしたWaveDATのほうが若干耐性が高いです。この他に海外製のソフトでdat2wavもあります。作った会社は無くなっていますが残存WebサイトやGitHubからまだダウンロードできます。ただし動作にはASPIマネージャーが必要なようです。AdaptecのWindows用ASPIマネージャ(ASPI32.sys/WNASPI32.DLL)をインストールすれば動作するのではないかと思います。(*1)新世紀エヴァンゲリオンの中で主人公のシンジ君が使っているポータブル音楽プレーヤー(*2)SCSIの50ピンフラットケーブルの入手が難しくなっていますが、ケーブルを自作するための材料であるフラットケーブルや50ピンのコネクタは本記事執筆時点で千石電商等でまだ販売されています。(*3)機器によっては接続機器の電源を入れる順番で認識されたりされなかったりするらしい。最初からMO/HDDの電源を入れてつないでからパソコンを起動するか、パソコンを起動してからMO/HDDの電源を入れるか。■SDT-9000からテープがイジェクトされない場合取り込み作業中にテープがイジェクト不能になりました。ボタンを押してもSTTからイジェクトのコマンドを送っても駄目です。上蓋を外してみると回転ヘッドにテープがかかっていないので巻き込む心配は無いようですが取り出せないと困ります。このような時はドライブを取り外して裏返すとフロントローディング用のモーターを直接回すネジがありますのでプラスドライバー(非磁性が望ましい)でUNLOADの矢印の方向へ根気良く回すと少しづつ出てきます。調べてみたところ、カセット内でテープが切れてしまっていました。こうなるとカセットを投入してもリールに全部巻き取られてしまいイジェクト不能になってしまいます。(がんくま)【関連記事】令和4年のDDSDAT(2)Windows11(64bit)+LUB-SC2+SDT-9000
前回の同一機種の修理から6年経過し、別の個体を入手しましたので再び修理しました。結果として症状も修理内容もまったく前回と同一です。具体的な修理内容については下記の前回記事を参照してください。関連記事Symetrix Lucid 88192 のノイズ修理修理前は入力に何も繋がなくてもAnalogINの全chにノイズが乗っていてメーターで視認できます。前回修理したものよりノイズの状況が悪いです。Routing設定でAnalogIN→AnalogOUTにすると入力の音をスルーアウトできますのでモニターしてみるとザーッと大きなノイズが出ています。チャンネルによってレベルや音色が違います(ザーッに少しチリチリゴロゴロが混じっていたり)。最もレベルが大きいAnalogIN6chだと内蔵メーターで-20dB近くまで振れています。しかしA/Dに使わずD/DやD/Aだけで使うなら特に問題なく使えます。分解してA/D基板からのフラットケーブルを抜くとノイズが消えます。この無信号状態でメーターの表示は-91.3dBでした。交換には在庫の関係でニチコンのファインゴールド47uF/25Vと、PM10uF/50Vを使いました。前回の修理では東進工業(TK)の通常型コンデンサを使っていて、その修理品は現在も問題なく使えています。ファインゴールドは個人的には中低音が増して少し丸い音になる印象があります。電源平滑用途ではありますが、本機を録音で使うとやや硬めの音なので悪くはならんだろ、と採用。電解コンデンサ交換前後の各チャンネルのCS5381のVA(アナログ回路用電源)の波形をオシロで測定しました。交換前はどのチャンネルでも鋸歯状のリップルノイズが見られます。CS5381 1/2ch VA 作業前CS5381 3/4ch VA 作業前CS5381 5/6ch VA 作業前CS5381 7/8ch VA 作業前交換後の波形です。ごくわずかに波打っているように見えますが、測定器自体のノイズです。CS5381 1/2ch VA 作業後他のチャンネルも同様にリップルノイズが消えています。聴感上も全チャンネルから滝のような轟音ノイズが消え、マイクプリで増幅して聴いてみても綺麗なホワイトノイズです。本体のメーターで全チャンネル-90.3dB表示です。CS5381のVD(デジタル回路用電源)とVL(ロジック回路用電源)の波形です。こちらは無対策でも特に問題ありません。CS5381 5/6ch VDCS5381 5/6ch VLAES/EBUのインプットに付いているCS8416のVD/VL波形。こちらも問題ありません。CS8416 3/4ch VDCS8416 3/4ch VL念のためメイン基板上にあるD/AのAK4396VFのAVDD(アナログ回路用電源)の波形も測定しましたがこちらもリップルノイズは無く問題ありませんでした。ということで、2台の修理を通じて個人的にはパーツ自体の傾向劣化ではなく設計時のマージン不足じゃないか説に傾きつつあります。上記の3つのICと電子ボリュームとして使われているPGA2311のデータシートを読むと、他のICが20~60mA程度の消費電流で済んでいるのに対してCS5381は307~445mA(5V~3.3V)と飛びぬけて大きいです。レギュレータICも発熱すると思いますが、CS5381の左上のレギュレーターICから遠い電解コンデンサも劣化しているので、レギュレータICの発熱だけではない気がしていて、過剰負荷に対する耐圧不足か、CS5381自体の発熱の影響なのかもしれません。今回の部品交換で6.3V品が25Vに、35V品が50Vにそれぞれ耐圧アップしているので数年で壊れることは無いと思います。本機にはTOSLINK I/OがありますがSPDIF入力には対応しておらず、S/MUXで96kHzまで使えるADATopticalのみの対応なので業務用途以外ではあまり使い道が無いと見えオークションでは不人気です(AES/EBUで出力するチャンデバとかサラウンドアンプがあれば家庭用に使う人がいるかも?)。AD/DAチップ的にも1~2世代前になってしまいました。自分で修理できる人が買う分はアリかなと思いますが、安いからと言っても半田付けできない人が手を出すものではないでしょう。設定で出力を+4dBから民生機用の-10dBに落とせますが、説明書にアンバラ出力する時はコールドをアースに落とすな(=そのように配線されている簡易変換ケーブルを使うな)って書いてあるのも最近では珍しい(もちろんこれは正しい注意書きです)。デジタル入力系は放送使用の際の事故防止のためかデフォルト設定でサンプルレートコンバーター(SRC)がONになってしまう仕様なので、お使いの方はご注意を。本記事を参考にした修理は自己責任でお願いします。(がんくま)
ペンシル型SDCマイクいじりの4本目です。このジャンルSHOEPS,DPA,NEUMANN等の高級機を除けばAKG C451,SHURE SM81,RODE NT5あたりが定番でしょうか。どのマイクメーカーも製品を出していて商品層が多彩な分野です。個人持ち機材ではM-AUDIOのPULSER-IIを便利に使ってきましたが選択肢が増えました。■TOA K4 Condenser MicrophoneTOAのKシリーズマイクはK1~K4/KYまで5機種があり、K4/KYが最終型です。同社のマイクは店舗や公共施設などの設備用、学校の授業や会社のセミナーでのスピーチ用に販売されている印象があり、私はスタジオ録音や放送局の制作現場でこのマイクが使われているのを見たことがありません。しかし実物や説明書を見るとこのシリーズは楽器や声の高音質録音を狙ったスタジオ用の汎用マイクとして作られています。販売時期は1990年代前後ではないかと思われますがはっきりしません(説明書がすべて東亜特殊電機名義になっているのでK4の発売は社名がTOAに変わる1989年より前と思われます)。メーカーWebサイトに資料が残っています。K1 取扱説明書・製品仕様書K2 取扱説明書・製品仕様書K3 取扱説明書・製品仕様書K4 取扱説明書・製品仕様書読んでみるとK1/K2/K3は乾電池とファンタム給電共用で4μmの金蒸着ダイアフラム、K4は2μmの金蒸着ダイアフラムになりファンタム給電専用で出力レベルが強化されています。K1〜K3までは説明書にバックエレクトレットコンデンサー型と記載されていますがK4/KYはコンデンサー型としか記載されていません。面白いのはフィルター特性に対する考え方で、K1はPrimo/SONY/AIWAのマイクに見られるものと同じでVOCAL(HPF)/MUSICの切換スイッチが本体に付いていますが、K2とK3ではこれがそれぞれ単機種になっていてK2がボーカル用、K3が楽器用です。K4はこれをカプセル交換で行い、楽器用(KMM)カプセルが標準添付、男性ボーカル用(KMV)と女性ボーカル用(KFV)のカプセルが別売り購入となっています。KMV/KFV 取扱説明書・製品仕様書KYはK4の変型版で回路は共通ですがグリップ部分に回路を移し本体部分を小さくしたもので実質的にはK4と同じです。カプセル部分の形状も異なるのでKMM/KMV/KFVにあたるものはYMM/YMV/YFVになるようです。KY 取扱説明書・製品仕様書YMV/YFV 取扱説明書・製品仕様書入手した個体には標準装備のKMMカプセルが付いていました。オプションだったKMV/KFVカプセルって世の中にどれだけ現存しているのだろうか?海外サイトでダースベーダーのマスクと表現されていた専用風防。個性的な外観に反して性能は良く、音色を損なわずにスッキリした音になります。しかし経年でプラスチックにヒビ。風防の内側にはスポンジが入っており、あと数年で自然崩壊しそうです。Φ21mmのペンシル型マイク用の汎用スポンジ風防が付けられるので、そのほうが見た目は普通になるけれど。乾電池式のECMマイクと比べると出力レベルが10~15dBほど大きく現代主流のマイクと同等に使えます。が、1本だけ出力レベルが低いです。カプセル側には異常が無いとわかりましたので本体側を分解しました。ボディは金属製で胴内の基板が絶縁のため熱収縮チューブでシュリンクされています。今回の一連のレトロなコンデンサーマイク記事の中では部品点数が多く複雑な回路です。海外記事でこのマイクがprimoのOEMではないかと書いている方がいましたが、本体基板の造りを見る限り、そうは見えないです。基板裏に10pFのセラコンがありますが、別の個体には無かったので発振対策かもしれない。スイッチの取付ネジ穴の片方はネジではなくLEDになっていてトークONの時に赤く光ります。ファンタムが通電していても出力がONになっていなければ点灯しません。このLEDの根本がスイッチ操作の振動でハンダ不良になり点灯しなかった個体がありました。正常動作する個体はファンタム通電後15〜20秒くらいするとふわっとゲインアップしますが、出力レベルが低い不調な個体は最初から小さく音が聞こえているもののゲインアップせず、そのまま15分ほど放置しているとレベルが回復しています。そこでまずは電源の安定化用と思われる100uF/10Vの電解コンデンサー(ELNAセラファイン)を交換してみましたが改善せず。 電源電圧を追うために回路図を書いてみると、ファンタム電源の安定化に2SK30Aと2SC1775E、BIAS制御用に2SC1775E、カプセル受けと音声増幅に2SK170/2SC2602/2SA1114という構成で、今となっては希少なトランジスタが使われています。2SK170の入力(Gate)側は基板を通らず足を後ろ側に折り曲げて直配線。最初電源回路を疑いましたが、結局原因は2SC2602/2SA1114周辺のハンダ不良でした。この手の接眼ルーペで見てやっともしかしてここかな?という位で回路図から場所を追い込んでいかないとわからず時間がかかりました。出音は当初コンプ感(波形の上下端が潰れる感じ)があってナチュラルではなく低音寄りの鈍くて厚い印象でしたが、これは古くなったセラファインの寝起きが悪いせいらしく、しばらく通電したまま放置していると多少まともな音になります。修理のためニチコンKTに交換したものはファンタム電源通電直後のゲインアップの立ち上がりが速く出音自体もナチュラルで、スモールダイアフラムのマイクの用途を考えるとKTに交換したほうが良さそうです。修理後、可聴帯域外にあるノイズ(17Hz位)の原因検証のために元のセラファインに戻しましたが、サイズ的に入るならエージング後に高域のヌケが良くなるSILMIC2にしても面白そうです(と思ったのですがSILMIC2の16V100uF品だと大き過ぎのようです)。このマイク、前述の説明書を除けば国内にも海外にもほとんど情報がありません。また、現在のTOAにはこのジャンルの後継機種が無いようです。Kシリーズのマイクは日本より海外のほうが中古品が出るようで、海外サイトではSHUREのSM81と比較されていました。メーカー資料によるとSM81のほうが周波数特性がフラットでK4は高域にピークがあります。TOAは日本の老舗音響メーカーですが海外でのブランドイメージはおそらく後発で、マイクはあまり信用が無かったと思います。もしかすると海外への切込みを狙った製品だったのかな?などと想像が広がります。(がんくま)関連記事ジャンク品のコンデンサーマイクをいじる(1)ジャンク品のコンデンサーマイクをいじる(2)ジャンク品のコンデンサーマイクをいじる(3)
引き続き生録ブーム時代に起源を持つ古いECMマイクをいじります。私は生録ブーム時代には録音にさほど興味が無くこれらのマイクを知らないんですよね。製品を通じて当時の様子を想像すると共に、マイクの情報を何らか残そうという魂胆で書いています。しかしその時代を知らぬ故に間違ったことを書いているかもしれません。ご指摘や思い出がある方は是非コメントをお寄せください。■Primo EMU4535IIEMU4740、EMU4545に続き3つ目のプリモのマイクを入手しました。EMU4535も生録ブーム時代のマイクです。しかしこの機種はEMU4535IIIという直系の後継機種が2022年現在も販売中です。同社の現行商品はEMU4740α>EMU4520>EMU4535IIIの順に値段が高く、2022年現在のEMU4535IIIの価格は25,800円ですが、初代販売当時は定価12,000円だったようで、民生機として録音が趣味の普通の人でも買える価格設定だったかと思います。似たような位置づけのSONY ECM-270/280ほどではないがオークションでも時々見かけます。私が入手したのは2代目のEMU4535IIで、専用箱に入ったステレオペアセット。マイクホルダーとステレオハンガー、説明書が欠品していました。余談ながらプリモのステレオハンガー(AP-246)は現行商品なので以前から使っておりまして、折畳み式で持ち運び便利なのは良いのですが、マイク側もスタンド側もネジがJIS仕様なので、変換ネジを持っていないとAKG/SHUREネジが主流の現在のマイクホルダーやスタンドに合いません。欠品していた4535の純正ホルダーはJISネジなんでしょうかね?トモカにAKG/JIS両用のSHURE変換ネジ(写真左下)があるのでマイクホルダー側についてはこれを2個持っておくと便利です。このマイクは現代の一般的なマイクと同様に本体のXLRコネクタからバランス出力できますが(ファンタム電源は使えないので乾電池が必要)、これを2極TSフォンプラグで出力する純正マイクケーブルが付属していました。乾電池ホルダーのリング状のゴム(茶色と黒の2本分合計4個)も残っています。これまで入手したプリモのマイクの中ではもっとも状態が良く、マイク内部も付属ケーブルのコネクタも金属部分に光沢が残っており酸化が進んでいません。実際、どこか壊れているということはなく完璧に動作します。おそらく今まで聴いた中では最も販売当時に近い音だと思われます。乾電池動作なのでECM-270同様に出力は低いものの、ECM-270より低音まで拾っており色付けの少ない感じのクリアな音です。S/N比的にはECM-270とほぼ同じか、こちらのほうがホワイトノイズが少ないと思うのですが、低音の暗騒音を拾うので無音時の波形が太くなります。高級感は感じられませんが独特な印象を受けます。難点として電磁誘導ノイズに弱いです。本体やマイクケーブルをパソコン等の電気機器やそのケーブルに近付けた時にハムノイズが乗りやすい。ここは4535IIIになったら改善しているのだろうか?同社のEMU4740だと同じケーブル、同じ環境でもハムが乗りません。出音も4740を聴いてから4535IIを聴くと少しボケている感じというか緩い音に聞こえます。両者だけで比べると4740のほうがエッジがあって明瞭度が高い音です。この辺は値段相応ですね。Primo EMU4740PrimoのスーパーカーディオイドカプセルEM70がEMU4535にも付くそうなので前々回のEMU4545から外して付けてみました。指向性はガンマイクになりますが、元々付いているカーディオイドカプセルと比較すると出力が更に10dB以上落ちて音質が悪化します。どうもカプセル側の経年劣化のような気がします。逆に4535IIのカーディオイドカプセルを4545に付けて聞いてみると出力レベルは変わらず、輪郭が微妙にぼやけました。分解して中身を見てみました。胴の材質は真鍮製でアルミパイプだったEMU4545と比べて剛性感・高級感があります。基板は4545(4516)とほとんど同じに見え、VOICE/MUSICの切り替えがあるのも同じです。コネクタへの配線も赤白黒の3線あるのでバランス出力になっています。出力インピーダンスは600Ωのみになっています。こうして複数のプリモのマイクを使ってみると、やはりEMU4740の狙いはMKH-416のような屋外音ロケ用の専門的なガンマイクでは無いのだろうな、と思えます。指向性の鋭さでは4740よりもEM70のほうがずっと鋭いのですが、音は良くないので、EMU4740はガンマイクというより単一指向性のペンシル型マイクだと考えて使うほうがしっくりきます。1970~1980年代と異なり現在は国内外のマイクメーカー各社のペンシル型SDCマイク(おおむね中国製造)が安くなって古くからあるこのマイクは埋没気味です。海外メーカーのマイクの音を聞き慣れてこのマイクの音を聴くと独特な感じがしますが(でもICレコーダーの内蔵マイクはこんな感じの音が多いと思う)、本来の国産マイクの音はこっち系統だったのかなとも思います。2本ペアなのでステレオのルームトーンなど録るのに使ってみたいです。つづく(がんくま)関連記事ジャンク品のコンデンサーマイクをいじる(1)ジャンク品のコンデンサーマイクをいじる(2)primo EMU-4740 の修理
前回に引き続き、スモールダイアフラムのエレクトレットコンデンサーマイクをいじります。■SONY ECM-270/270F世界で初めてエレクトレットコンデンサーマイクを実用化したSONY、同社の一般収音用ECMマイクは有名なECM-23Fシリーズが筆頭で、ECM-270はその廉価版にあたる民生機のひとつだそうです。前回のPrimo EMU4545と同じく1970~1980年代初頭のいわゆる「生録ブーム」の頃に販売されていたらしい。そういえば最近流行のASMRもマイクを通して録音した音を聞き、その良さを再発見するという点では生録ブームの再来と言えるかもしれません。生録ブームとASMRブームの間にはパソコンの進化によるDTM技術の向上があったものの、マイクを使って録音された音楽以外の音を楽しむなんて行為はごく一部の専門家を除いてこの40年間、一般の人には無縁だった気がしています。このマイク、私は当初興味が無かったのですがハードオフに元箱付きで綺麗な中古品があり1,000円だったので買ってきました。開けてみると電池が入ったままになっており端子が腐食していました。しかし、錆を落とすとまだ使えました。マイクの電池はちゃんと抜こう(自戒)。生録ブーム当時の録音機はアナログの磁気テープを使っていて、民生機はカセットテープ、デッキの録音端子はアンバランス入力でした。ECM-270/270Fの本体側の出力コネクタは3ピンの特殊仕様(説明書にはソニー独自規格と表記がある)で、そこからΦ6.3mmのTSフォンプラグ(2極)ヘ変換する専用ケーブルが付属。つまりお客が購入した時点ではアンバランス出力です。しかし説明書には先端のTSフォンプラグを3極のXLRキャノン等(説明に110号プラグが書かれているあたりに時代を感じます)に取り換えることで「プロフェッショナル製品と同じ平衡接続でも出力できる」と書かれています。2極プラグのまま使う気は最初から無かったので、まず変換ケーブルの先のコネクタを交換します。フォンプラグ側は黒線が網線側(アース側)に落ちていました。出力にトランスが入っているはずなのでプラグから線を分離して説明書の通り赤をホット、黒をコールド、網線をアース(シールド)としてXLR-3-12Cコネクタにはんだ付けします。コネクタを交換してもファンタム電源では動かず必ず乾電池が必要です。マイク本体側の3pinコネクタは酸化して黒ずんでいたので磨きました。期待せずに音を聴いたのですが、これが予想を裏切って意外と良かったです。乾電池式でマイク内部に増幅回路が無いのでゲインが低いものの、先日修理したECM-MS957を含め、過去に自分が使ってきたSONYのECMマイクの音を「硬くて抑揚が薄い地味な」印象で決め打ちしていた身からすると、派手ではないにせよ「ふくよかで柔らかい感じがしてなんだこれ悪くないじゃん」とだいぶ見直すことに。周波数特性だけ見るとあまり良くないかもしれないが、そもそもフラットな特性のマイクはあまり面白くない音に感じることが多いものです。勢いでもう1本箱付きの中古品を購入し、同じように専用ケーブルを加工してバランス出力化しました。ケーブルの材質や加工は1本目と同じで、こちらのほうが劣化具合が少なく新しい印象。音を聴いてみたところ、2本目も悪くないのですが微妙に音が違います。箱の印刷の色が青と白で違うので何が違うんだろうと思ってよく見たら白いほう(最初に買ったほう)がECM-270Fで、青いほう(後から買ったほう)がECM-270でした。どちらもナチュラルに高域が落ちた柔らかめの音でたいした差は無いものの、ECM-270Fの音のほうがわずかにシャッキリしていて好みです。いかんせん現在主流のファンタム電源マイクに比べると出力電圧的に不利なので、ローノイズなマイクプリでないとホワイトノイズが気になるかもしれません。単3乾電池の代わりにCR2電池を直列で2つ使って電圧を上げると多少改善できるかも。音色的に金物や楽器の収録よりも声や環境音を録るほうが良さそうと思いました。アコギにも意外と良いかもしれない。270と270Fは何が違うのか、説明書の定格だけ比較すると、周波数特性:40Hz~16,000Hz出力インピーダンス:600Ω(推奨負荷インピーダンス3kΩ以上)最大入力音圧レベル:126dB SPL(0dB=2x10-4乗μbar)信号対雑音比:46dB以上(1,000Hz 1μbar)自己雑音(等価入力音圧換算):26dB SPL以下(0dB=2x10-4乗μbar)ダイナミックレンジ:98dB以上開回路出力レベル:-70.0dB(0dB=1V/1μbar 1,000Hz)ここまでは変わらず、実効出力レベル:-55.8dBm(0dBm=1mW/10μbar 1,000Hz) ←ECM-270実効出力レベル:-53.8dBm(0dBm=1mW/10μbar 1,000Hz) ←ECM-270Fとわずかにアップしています。外形サイズと消費電力は同じですが重さは270が125g、270Fが130g(いずれも電池込み)となっています。下の写真の左側が270で右側が270Fです。スペック的には現在主流のファンタム電源を使うSDCマイクと比べると等価雑音レベルも高く、10〜20dBほど出力が低く、+4dBuのラインレベルまで上げようとするとその分ノイズも目立つのですが、民生用カセットデッキのマイク入力端子に接続して使う場合はそこまで上げる必要も無かったはずで、これで良かったのかなという気がしました。つづく(がんくま)関連記事SONY ECM-MS957 ステレオマイクの修理ジャンク品のコンデンサーマイクをいじる(1)
変なマイクを収集するのが趣味です。変なマイクといっても漠然としていますけれど、何でも良いわけではありません。安物のカラオケ用マイクなどは対象外です。だいぶ長いこと音響業界に生息していますから、定番と言われるマイク、例えばノイマンU87ai、ゼンハイザーMKH-416P48、シュアーSM58/57、AKG 414EB/451EB等々は仕事先にあって使ったことがあり、なぜその機種が定番なのかはおおむね理解しています。音質の良さや出音の説得力もさることながら、失敗できない録音をしなければならないエンジニアにとっては信頼性と汎用性(適応できる録音範囲の広さ)が重要な要素で、定番品はそれらを兼ね備えています。では、定番ではないマイクは本当に使い物にならないのか?多くの製品でそんなことはありません。あまりに定番がもてはやされるせいで、定番以外のマイクを見たことも使ったこともないエンジニアもいます。仕事先ではなかなか見ないマイクの音を聞いてみたい。私が欲しい「変なマイク」は、定番品の影に隠れた同等品や、音響メーカーとしてそれなりに実力がある会社が作ったこだわりの製品っぽいもの、日本では人気が無いが海外ではそこそこ人気があるやつ等で、屋外同録やスタジオ内でのセリフ、効果音、楽器の録音に使えるマイクになります。実際、変なマイクと言ってしまうのは作った人々に対してかなり失礼な言動ですが、ここでは愛着を込めてそう呼びます。非定番品は定番品に比べると意外と安価で入手できるのも楽しい。と、これだけ序文で変なマイク趣味を持ち上げておきながら、この後に続くのは現代としては実用性の薄いジャンクなマイクばっかり。仕事ではやはり定番品を使ってしまうな〜(ぉぃ)■Primo EMU4545+EM701970年代の生録ブームの頃のマイクのようです。以前修理したEMU4740よりグレードが落ちるマイクらしく民生機かSONY ECM-MS957と同じくプロシューマー機にあたるものと思われます。Primoのペンシル型マイクに共通した構造で電池を入れる部分を境に2分割になっていてカプセル部と本体(出力部)が分離できます。ネットで検索してみるとEMU4545自体は普通のカーディオイドのECMマイクで、よくあるハンドマイク状の製品写真が出てきましたが、私が入手したものは音響管搭載でスーパーカーディオイド仕様としたEM70という別売りのカプセルを装着したものでした。ガンマイクは仕事の道具で多数所持しており今更これを買ったところで使い道は確実に無いものの、EMU4740が指向性が甘くていまいちガンマイクっぽくないマイクだったので、これはどうなんだろう?という純粋な興味から購入(お値段は1,600円也)。まさにジャンク。EMU4740は肉厚な金属製筐体でガンマイクとしては使いにくい重さでしたが、EMU4545+EM70は薄いアルミパイプで出来ていて軽量です。中にガムテープでぐるぐる巻きになった電池が入っていました。ガムテープも電池も新しく最近まで使った形跡があります。テープが巻かれているのはパイプ内径より電池が細くて中でカタカタと動いてしまうの防止のようです(本来はゴム製の電池アダプターがあったはず)。この分割部分は電池のプラス側電極を除いてリード線等による配線が無く、胴のパイプそのものがマイナス側の配線を担っています。EMU4740はカプセル側が電池のマイナス側電極でしたので逆です。本体から直接引き出されていたケーブルは関西通信電線のMVVSでした。MVVSはバランス出力用のカッド撚り4芯ケーブルですが、先端がカナレの2極ミニプラグになっていてアンバラ出力です。どちらも1970年代のものには見えないので、前の持ち主により改造されているようです。電池を入れてレコーダーにつないでみると、たまに音が出ますが接触不良が酷くて安定しません。本体側を開けてみました。可読性が悪いのでケーブルを取り外して過剰な半田やヤニを取り除き、清掃します。ランドが剥げている所があります。本体側の部品点数は少なく、EMU4740ではトランスがシールドされた筒の中に入っていましたがこちらは剥き出し。基板にはEMU4516の表示があります。PrimoのEM50(カプセル)のPDF資料にEMU4520の回路図があって、回路としてはほぼこれと同じです。電池から右側の部分になります。(引用元)http://www.pstone.co.jp/ecm-specs.htmlVOICE/MUSICの切り替え(VOICEの時にHPFを通る)が追加されている所と、電源の電池の電圧が違います。基板にはトランスの出力側にH/Lの記載がありますが、マイク本体に10K/600Ωという刻印があるのでH=10kΩ、L=600Ωのことだと思われます。過去にこのマイクを48Vファンタム電源対応に改造した方がいらっしゃって記事中に回路図を残して下さっていました(ありがたい!)。(引用元)音楽備忘録170 エレクトレットコンデンサMicの爆音対応魔改造⑨(スゴーッ!のブログ)http://studio-red-5.cocolog-nifty.com/blog/2020/01/post-5ab092.htmlしかし私の手元にある実機を眺めてみるとこの回路図とは違う箇所があります。電解コンデンサーは47uF/10Vで合っていますが抵抗値が15kΩと2.2kΩではなく12kΩと1.2kΩで、653ではなく104の積セラです。積セラは時代が下った部品ですし、はんだ付けの形跡も多数あり、ここも前の持ち主による改造か?実体配線に沿って回路図を書きました。元の配線はLの左側のランドから信号線、Hからコールド側で、Hから基板上のGNDにジャンパ配線がありました。回路図に書いてみれば最終的にアンバラ出力なので不思議では無いものの、基板を眺めている時はなんでこのジャンパがあるのか不思議でした(回路図に謎ジャンパと書いてあるのはその名残りです)。他にもジャンパ線やランドが浮いてグラグラと動いてしまう箇所があったので、パターンを再生してジャンパ線を無くし、EMU4520の回路図と同じになるように復旧。104と12KはHPFで、計算するとカットオフ周波数は132Hzあたりになります。先人の回路図は抵抗の位置が違いますが数値を信じてオリジナルが653と15Kだったとすると160Hzあたりです。ここは104と12Kのまま使います。ケーブルはMVVSをそのまま再利用し、コネクタはXLRにしてコールドをL(600Ω)から取ってバランス出力化しました。この状態で最初よりだいぶ安定しました。単3をCR2x2本直列にして電圧を6Vに上げると更に安定しました。それでも振るとまだ若干接触不良な感じがします。電池の固定具合が甘いのか、カプセル側にも緩んでいる部分があるのか??使ってみたところ、EMU4740に比べて明らかに指向性が鋭くガンマイクらしいガンマイクです。一方で音質は明らかにEMU4740に劣ります。現代の業務用マイクと比べると出力電圧がだいぶ低くS/N比が悪いです(乾電池式なのでインピーダンス変換だけでプリアンプ回路がありません)。配線が短いのであればハイインピーダンスで使いたい気持ちもわかる。しかしこのマイク、長い!EM70だけで35cm、本体部を含めて全長約50cmでこれに合うスポンジ風防も無ければ手持ちのかご風防にも入りきれません。修理はしましたが使い道はありません。Primoのペンシル型マイクはEMU4740を除いてカプセル互換性があり、EM70は同社のEMU4535にも付くらしい。へぇ、と興味はそそられつつ。つづく(がんくま)関連記事primo EMU-4740 の修理ジャンク品のコンデンサーマイクをいじる(2)
オークションサイトで入手したベリンガーの8chヘッドホンアンプです。売り主によると7chのみ滝のような雑音が出る、とのことで修理目的で落札(価格は1100円)しましたが現物を調べてみるも指摘症状が出ません。そのかわり、故障とは言い切れないのですが6~8chにかけてブーンというハムノイズが常時乗ります。電源のトランスに近い側のハムが大きい例は同社の1Uラックマウント製品に時々見られます。中身はスカスカで背面パネルと前面パネルの裏に短冊状の細長い基板が付いているだけ。背面パネル側基板はフォンジャックのコネクタで固定されています。放熱を兼ねて底面に三端子レギュレータ(LM340T5/7915)がねじ止めされています。以前修理したADA8000はこのICの放熱に問題があり近くの電解コンデンサーが熱で劣化して故障したので、この実装のほうが良いですね。某所の本機のレビューに、中を開けたら雑にビニールテープが巻かれていて印象悪いと書かれていましたが、ケーブルの抜き差しの繰り返しでネジが緩んで万が一通電中にACインレットが抜けた際にAC100Vがケースにショートしないための配慮なので理にかなっていると思います。背面基板の入力コネクタの裏側に4580が2つあります。本機はTSアンバランスとTRSバランスの両受け可能な機種なのでこの4580でアンバラにして前面パネル側へ配線で渡ります。前面側はフロントパネルに基板を押し込んで細長いプラスチック棒で接着固定してあり、用が無ければ外したくない構造です。前面基板の入力ボリュームの裏(下の写真)に4580が2個とTL062が1個。TL062はレベルメーター用かもしれません。問題の7ch部分の背面側です。特に半田不良などは見られず。LM339は各チャンネル毎にある8セグLEDのレベルメーター用で、この裏にレベルメーターLED、フォンジャック、ボリューム、自照式プッシュスイッチ2個、電解コンデンサがあることを考えると増幅用のオペアンプがあるとは考えにくいです。つまり、音声信号はボリュームを通った後、ここから再び背面基板へ渡り、背面基板上のSIPの4580Lで増幅されて背面端子に出力されると共に、もう一度前面基板に渡ってパネル面のジャックから出力されるようです。となるとトランスの磁束干渉を強く受ける部分を音声信号が往復していることになります。本機はトロイダルトランスと6~8chの位置が近くて特に8chの配線がトランスに接しており、トランスを巻いている薄い鉄板を除けばなんら漏れ磁束の対策が無いので、ハムは乗るべくして乗っています。トランスはボルトと回転防止の接着剤で固定されています。これを外して回転させたり、8chの配線を遠ざけたりするとハムノイズが増減しますが、8chが小さくなっても7chが大きくなったりして、いかんせん距離が近すぎるので根本的な解決になりません。トランスをもっと小さいものに交換して鉄板で囲う、などすると多少はマシになるかもしれませんが、1100円で買ったものにそこまでお金と手間をかけるかといえば微妙。本機のような多チャンネルヘッドホンアンプはバンド録音や映画の吹き替え収録等で返しモニター用途に使われていて一般家庭でのリスニング用途には不要なものです。ハムは乗っても一時的な利用なので我慢してね、という位の割り切りで製造されている感があります。まあ純粋リスニング用途でこれを買う人はいないでしょうが。■外付け電源化する一番安上りで簡単な対策方法はノイズの原因であるトランスをケース外に出すことです。外部に電源ボックス(トランスボックス)を作ってトロイダルトランスを隔離し、本体との間をケーブルでつなぎます。フライバック電源を作ってACアダプタ化するよりずっと簡単で、これなら2000円程度で改造できそうです。課題は電源スイッチで、電源ボックス側にAC100Vインレットを移植すると本体側で電源ON/OFFができなくなります。ラックマウント機器なので、ラック内に電源ボックスもろとも収納した場合に困ります。金属加工の手間も最小限にしたいので、本体のACインレットと電源スイッチはそのままで、新規作成するケーブルにトランスの入力と出力を両方流してみることにしました。トロイダルトランスの出力3線の電圧は真ん中の茶色い線を中点として両側の黄色い線がAC21.5V位です(AC100V入力時)。電源ボックスからのケーブルを受けるコネクタは5pinのDINコネクタとします。電源平滑用の電解コンデンサー(35V1000uF)2本を抜けば入りそう。背面基板と底板に固定されている三端子レギュレータを取り外し、トランスの出力3線と電解コンデンサーを取り外します。レギュレータICと背面増幅部です。ブリッジダイオードの周りのセラコン4個は0.1uFで、その上のレギュレータの根本の2本は47uF/25V、真ん中の黒いSIPのNJM4580L2個を挟んでチャンネル増幅側の上下2本は100uF/25Vで、フォンジャックと抵抗の間にある左右2本が220uF/4Vです。外した平滑コンデンサーは再利用しました。足が短すぎるので直接配線でその辺へ転がして両面テープで固定しましたが、見た目が悪いのでいつか新調してラグ板に取付けたい(とか言いつつ面倒なのでそのままになるパターン)。本体背面に現物合わせでDIN5pinコネクタ用の穴を開けました。スイッチとACインレットからの配線を切ってDIN5pinジャックへ配線し、底面基板のトランス配線を外した所からも配線します。コネクタ周りの配線が窮屈になるので熱収縮チューブによる絶縁加工が必要です。電源ケーブルは富士電線工業の5芯VCTF(0.5sq)です。長さは1.5mほど。これをDINプラグに配線しますが5pinDINプラグに0.5sqはやや太すぎました。こちらも熱収縮チューブによる絶縁加工が必要です。ケーブルが出来たので仮配線で通電してみましたが全チャンネルにノイズが乗ります。やはり入力側のAC100Vと出力側を両方5芯ケーブルに詰め込んで引きまわすと駄目なようです。AC100Vをトランスボックスへ直接配線するとノイズが出ないので、諦めてACインレットは電源ボックス側へ移植します。■外部電源ボックスの製作外部電源ボックスのケースは摂津金属工業CO-55Wです。トランス隔離用なので本当は全体が鉄板のケースが欲しかったのですが加工の難易度が嫌われるのか最近あまり見かけなくなりアルミ製です。本体に付いていたACインレット(ヒューズボックス内蔵)を移植するので36mm間隔でM3ネジの取付穴と縦32mm横28mmの穴を開け(アルミは楽だなあ~)、インレットを移植。トランスのゴムシートや取付ボルトを流用しケーブルを通して配線しました。白黒2本はAC100V用の名残りで余り線です。■本体の電源スイッチを交換するフロントパネルと電源ボタンの黒いプラスチック棒を外し、電源スイッチを取り外します。オリジナルのスイッチはSPST(単極単投)のラッチ付き(セルフロック)プッシュスイッチで取付穴(M3)の間隔が20mmです。これをDPST(双極単投)のスイッチに交換してトランス出力の2つのAC21.5VをON/OFFします。こういうスイッチは昔のオーディオ製品やテレビでは良く見るので簡単に手に入ると思っていましたが、リモコン対応でスイッチが弱電化したせいか、SPSTこそミヤマ電器のDS680K-Sが秋葉原で手に入るものの、DPSTは店頭で発見できませんでした。インターネットで検索すると、"KDC-A04-02"という型番のものがぴったりに思えました。この型番で複数のメーカーが互換品を作っているようで、見た目や寸法が多少異なりますが、取付穴の仕様は同じと思われます。amazonやeBayで買えますがamazonで何度か利用したことがある販売店で購入しました。1個買っても3個買っても値段が同じなので3個購入。中国発送なので時間がかかり、待つこと約1か月で到着。あれ?予想より大きいな。オリジナルのスイッチと同じ位置に取付けられるように象の耳のような部分に下穴を開けM3のネジ溝を切りました。穴さえ開けられれば耳は削らずに取り付けられます。DINコネクタと背面基板の間の配線を延長してスイッチを挿入。FGアース線を背面基板から新しく取り直し、動作チェックの上で元通りに組み立てました。■工作の反省点・外部電源ボックスと本体の間のケーブルとコネクタは3芯で良かった。XLR3pinコネクタだと音声線と間違えて挿してしまう可能性があるのでヤマハのアナログミキサーのように無線マイク用の3pinコネクタ等を使えば良いと思う。・最初からACインレットを電源ボックス側にする前提であれば、元のインレット穴をふさぐ板にケーブルのコネクタを取付けできたので、コネクタも余裕を持って付けられたし本体ケースの穴あけや平滑電解コンデンサーの取り外しも不要だった。・元配線の見た目の太さに引きずられてしまったが、30W機器で三端子レギュレータがLM740T5(1A)と7905(1.5A)であることを考えると配線は0.3sqでも良かった。元配線も切って中を見てみると外被膜が厚いだけで線はさほど太くない。・DINコネクタのはんだ付け後、外周金属板で5芯VCTFの配線を締めた際に板と配線が短絡してトランス出力の1本がFGに落ちてしまった。被膜があまり強くないようなので締める前にビニールテープで養生したほうが良かった。同じ改造をする場合、通電後トランスに触って熱さを感じる場合はどこかが短絡してますのですぐコンセントを抜いて調べてください。・頑張れば電源ボックス内にACラインノイズフィルターを入れられると思う。■試聴当たり前ですが下の写真のように電源ボックスを本体の上に載せて使うと改造の意味が無いので実際に使う際は離れた場所に設置します。最大音量にしても全チャンネルハムノイズの無い綺麗なホワイトノイズで、改造前の音と比べるとストレスが無くなってとってもスッキリ!!これなら使う気になります。用途が用途なので音質はそこそこです。全体にシャッキリ系で長時間聴き続けるには若干耳に痛い。しかし各ch毎に選択可能な完全バランスのステレオ入力が2系統あって背面からも出力が取れるのでヘッドホンアンプの用途を越えた様々な使い道が考えられます。音質向上を狙って改造しようにも、SIPの4580Lはリプレース可能なより高音質なオペアンプが無いのでそのままでしょう。メインボリュームの裏にある4580は電流容量に同程度の余裕があるものならば貼り替えもありか。個人用途なら各chに別々の銘柄の電解コンデンサを取り付けて気分でヘッドホンを挿すchを選ぶ、なんて変態改造も???本記事を参考にした修理や改造は自己責任でお願いします。■後日談その後さらに2台メンテすることになりました。最初に改造したものは初期型?らしく、後日見たものはトランスと前面基板の間に鉄板が挿入され、5〜8chの配線がシールド線になるノイズ対策がなされていました。しかし根本的な解決にはなっておらず、ハムノイズの量は少なくなったものの混入はしていました。トランスの個体差によってはこれでノイズが消えたものもあったのかもしれませんが。最初に改造した際に雑に処置していた平滑コンデンサーは新品に交換しました。(がんくま)
以前書いた「Classic Pro CEMPW100をMicroDotのマイクで使ってみた」の続編です。この記事だけ読んでも問題ないです。CEMPW100はサウンドハウスが販売しているオリジナルブランド、Classic ProのヘッドセットマイクCEM-1AKをミキサーやオーディオインターフェースにつなぐための変換コネクタです。このコネクタを分解すると出てくる基板は2線式、3線式のECMマイクカプセルをファンタム電源で駆動できる汎用基板です。この基板を2枚使ってお手軽に変換ボックスを作りました。※本記事はCEMPW100を本来想定の用途以外の目的で使っています。本記事を参考にしての工作は自己責任で行い、販売元に苦情を寄せたりしないで下さい。CEMPW100を分解して基板を取り出します。XLRコネクタ側にある+ネジ1本を外してピンをラジオペンチで引っ張ると基板が出てきます。基板からミニXLRコネクタ側に向けて白黒2線か白黒赤3線の配線が伸びていますので、今回の用途では基板側で切ってしまいます。基板端のランドは4か所で、上からLED/VCC/SIG/GNDです。タカチのYM-100ケースに組み込みます。基板に付いているXLRコネクタはそのまま流用します。トモカでXLR3ピンオスの機器パネル用コネクタを2個買いました。APEX製でしたが、おそらくITT製でも同じように使えるはずです。ノイトリック製は構造が違うので使えません。買ってきたコネクタのピンを外し、代わりにCEMPW100の基板のピン部分を差し込んでネジで固定します。これでコネクタをケースに取り付ければ基板も固定されます。あとはケース加工をして配線するだけです。今回は2線式なので、ECMの電源は信号線に重畳されています。Φ3.5mmジャックへの配線にはSIGとGNDを使います。入力側はΦ3.5mmのミニジャックで、モノラル2個とステレオ1個です。モノラルジャックはプラグを挿すと信号経路がプラグ側に切り替わるタイプで、通常はステレオジャックからの信号がモノラルジャックを経由して流れ、モノラルプラグを挿すとそちらが優先される配線としました。ミキサーにつないでファンタム電源をONにして無負荷の電圧を計ると、3.69V出ています。WM-61A互換のXCM6035カプセルを使った簡易ダミーヘッドマイクと、パソコン用に安価で売られている2極式のプラグインパワーマイクをつないで動作確認を行いましたがどちらも問題なく利用できました。BinauralEnthusiast製のダミーヘッドマイクをつないでみましたが、こちらも問題なく動作しました。ただし、BinauralEnthusiast製のダミーヘッドマイクに付属する純正のファンタム電源アダプター(下の写真左側)と比べると音の印象が異なります。ゲインは純正アダプターのほうが上です(聴感上はCEMPW100に対して10dB位上がる感じ)。S/NはCEMPW100のほうが良いです。同じカプセルの音を聞いているのですが、純正アダプターのほうが奥行きが感じられてビビッドな感じがしますが若干ギラギラした音でリップノイズを拾いやすい印象です。中低音が膨らむのかVU計が振れやすいです。CEMPW100のほうは枯れた音というか、なだらかで地味な感じの音で耳元に近い感じが薄れます。よく聞く安価なECMカプセルの音という印象です。チェックに使った3つのマイクを差し換えて聴き比べても同じような印象です。コストとサイズ重視なCEMPW100の基板に対して、純正アダプターの中身は高級オペアンプ?なのかもしれません。この変換ボックスを持っていると2極式のパソコン用プラグインパワーマイクを業務用のミキサーやオーディオインターフェースで安全に使うことができます。しかしCEMPW100は1本2180円しますし、今回のように基板だけ欲しい場合は基板を抜いた後の外側が無駄になってしまいます。AliExpressにこれと似たような基板があって1枚400円ほどで買えます。取り寄せてみました。もともとはSM58のようなハンドマイクや、C451のようなペンシルマイクの胴を使ってECMカプセルを使ったマイクを作るための基板と思われます。サイズもCEMPW100の基板とほぼ同じなので同じ加工で使えると思います。ただし、この基板は2線式専用です。また、ECMカプセル用の重畳DC電圧が無負荷で8.3V出ています(電圧はファンタム電源供給側の機器を変えても安定していました)。現在のほとんどのECMカプセルは~10V位まで動作するものが多く、乾電池と同じ1.5Vよりも5V以上の高電圧で使ったほうが出力波形上もS/N上も性能が向上しますから、カプセルが耐えられるのであれば悪くない仕様と思いました。XCM6035カプセルをつないで音を聴いてみました。負荷時の電圧は7.74Vになりました。若干音が硬いかなという印象はあったものの、感度もS/Nも特に問題なく動作します。この基板4枚とECMカプセル4個を使うとAmbisonicsマイクが自作できるはずです。関連記事:Classic Pro CEMPW100をMicroDotのマイクで使ってみた(がんくま)
前回の修理から6年が経過しました。本機種の泣き所であるTO STボタンとPFLボタンに使ってある2回路のロック付きプッシュスイッチ(12本足)の接触不良を根本的に解決すべく、中国から輸入したスイッチに交換します。前回の記事でははっきりと書いていませんでしたが、実はYAMAHA、このスイッチを部品として出してくれないのです。数年前にAliExpressで同等部品を発見し、購入していました。VICKO (HK) ELECTRONICS TECHNOLOGY CO LIMITEDhttps://ja.aliexpress.com/item/32873680262.html30個も要らないなと思いましたが予備になるしと購入。交換が必要なスイッチは前回と同じ12個です。6年前「はんだシュッ太郎」でなんとか取り外した12本足のスイッチ、今回は電動はんだ吸い取り機があるので簡単・綺麗に取り外せます。前回の苦労を知っているので「圧倒的ではないかわが軍は!」と脳内でずっとつぶやいていた。元々付いている部品には向きを示す突起線(赤枠内)があり、基板上にもシルク印刷で向きの指示があります。この部品逆向きにも挿せてしまうので向きを間違えると動作が逆転してしまいます(ロックしてONになる動作がロックしてOFFになってしまう)。新しく取り寄せた部品にはこの向きを示す突起線がありません(商品説明写真にはあるのにな)。取付前であれば底部の穴の位置で向きが区別でき、写真だと上側が突起線がある側にあたります。または白いプッシュ棒の軸にある履歴フック用の凹みの向きを元の部品と同じに合わせると正常動作します。ここまで順調で前回から進行したコネクタ部分の裏側のクラック気味の所の半田を打ち直し、楽勝楽勝、と組み立てたところ、交換部分のいくつかでスイッチの感触がおかしい。押してもロックしなかったり、ロックが外れなかったり。このスイッチ、押すと基板上のLEDが光ってボタンが発光するようになっているのですが、そのためにボタンはスイッチを真上から押さず、横から斜めに押すような仕組みになっています。交換したスイッチの寸法は元付いていたものと同じですが、部品自体の剛性感が元の部品より弱く、真上から押す分には良いものの斜め押しだと微妙にたわんでちゃんと押されない場合があるようです。グレーのPFLボタンはプッシュ棒を握る部分の四角穴がすべて割れていて、これも力がしっかり伝わらない方向で作用しています。ちゃんと押せないスイッチはいったん取り外し、基板とスイッチの間に両面テープを3~4枚貼ってかさ上げしたり、四角穴をホットボンドで埋めて角度を調整(取り外した元部品を四角穴に詰めてホットボンドを充填し、取り外した後にはみ出した部分をカッターナイフで成形)したりしましたが、基板状態ではOKでも組むと逆にパネルに押されて駄目だったりして、わずかな高さや角度の違いで動作が左右され調整に苦労しました。以前も全スイッチを取り外して再取り付けしましたが、元の部品ではこんなことで悩んだ記憶がありません。以前の修理も含めて何度もスイッチの付け外しをしたため、一部ランドがメゲた所もあり、するとスイッチの固定が甘くなってボタンを押すと動いてしまい、動作不良となった箇所もありました。もし同じ部品を取り寄せて修理をする方がいらっしゃれば、・スイッチ部品の取り外しには必ず電動はんだ吸い取り機を使い、手早く行ってランドへの負担を極力減らすこと。・スイッチを取り付ける際は薄い両面テープを基板に貼り、スイッチが斜めに付かないように工夫して手早くはんだ付けすること。・ボタン側を加工する場合、プッシュ棒を握る四角穴の上下に接着剤がはみ出さないよう厚みに気をつけること。・パネルの取り付け前に全てのボタンを押して感触や動作を確かめること。この辺がポイントになると思います。前回メンテナンスしたフェーダーにはガリはありませんでした。今回の修理によりスイッチのガリは完全解消し音質が向上しました。しかしボタンの押し心地は前のほうがカチッとしていた気がします。本記事を参考に修理をされる場合は自己責任でお願いいたします。■関連記事YAMAHA MG12/4 メンテナンスYAMAHA MG12/4 ACアダプタ修理(がんくま)
ACアダプター(YAMAHA PA-20)のACコンセント側のコード根本が破損しショートの危険があったので修理しました。アダプタを裏返し、ゴム足4個をマイナスドライバーの先などでほじって取り外し、中のタッピングネジ4本を抜きます。これでケースが上下に開きます。中の重いトランスはケースの形状にはまっているだけ。AC側コードを切って取り外します。外したACプラグ付きコードは断線しかかっている所を切り詰めて再利用しました。HOT/COLDが明示されているプラグではありませんが、トランス端子から外す前にテスターで極性を確認し、修理前と同じ接続(矢印同士)になるように配慮します。タカチのCP-Y85Bコードプロテクターをコードに通し、トランス端子にはんだ付け。インシュロックをきつめに締めて抜け止めにしました。本体側ケーブルの配線はこのようになっていました。プロテクターを噛み込むようにケースを閉めて、ネジとゴム足を取り付けます。丸穴用のプロテクターでしたが違和感なく仕上がりました。現行品は後継のPA-20Jになっており、新品の購入も可能です。本記事を参考にした修理は自己責任でお願いいたします。■関連記事YAMAHA MG12/4 メンテナンス(がんくま)
軽修理です。5年前に購入したもので久々に使おうと思ったら電源が不安定で充電しません。ACアダプターの電圧が3.7Vしか出ていません。同一極性・電圧の別のアダプターをつなぐと充電しますが、コネクタの挿し具合の変化で簡単に電源が落ちてしまいます。苛酷に使っていた時期があるので、さもありなんという感想。この製品、Amazon BasicsのNi-MH充電池がエネループのOEM(1900mAH)であった頃に事実上の推奨充電器になっていて、使い方が単純明快かつ安価だったのでエネループ系の充電池を大量使用する放送局や舞台PA関係で今でも良く見かけます。しばらく品切れになっていたと思いますが需要があるのかまた買えるようになっていますね。分解します。本品頑丈な作りで背面の黒いゴム足の下4本とシール下中央1本と見えている3本の合計8本のネジを外します。プッシュボタンの裏にスプリングがあります。DCジャックの根本の半田割れではなくジャック自体の不具合のようです。秋月電子の基板取付用2.1mmΦ標準DCジャックMJ-179PH(電流容量12V4A)がジャストフィットなので交換します。アダプターは元のアダプターと同一容量の秋月電子AD-M120P100(12V1A)になりました。本記事を参考にした修理は自己責任でお願いいたします。(がんくま)
愛用中のRODE BLIMPもどきなショットガンマイク用のカゴ風防をステレオマイクに対応させるため、5pinXLR仕様へ改造しました。過去記事の続きです。marantz ZP-1 のペリペリ音対策marantz ZP-1のクッションマウントを交換する■検討利用したいマイクは、ステレオ・モノラル切換マイクであるSANKEN CSS-5と、モノラル専用マイクのSANKEN CS-30です。CS-30は使う必要がないのでは?と思われるかもしれませんが、サイドの切れはCS-30のほうが上ですし、たかが数十グラムとはいえCSS-5のほうが重いのでモノラルでしか収録しないのであればCS-30を使いたい時があります。なおかつ、CSS-5がトラブった時に他のマイクが使えないと現場で詰むので、5pin化改造はするが通常の3pinマイクも使えるようにしておきたい。そこで登場する秘密兵器がノイトリックのNA3F5Mです。XLR3pinメスのHot/Cold/GNDが5pinオスのL+/L-/GNDヘ出力されます。こんなニッチな鉄砲玉(変換コネクタのこと)なんか無いだろ、とダメ元で検索したらありました。音声用ではなくDMX用ですが、試してみたところファンタム電源も含めちゃんと機能します。サウンドハウスのAXX235もこれと同じ接続のようです(現物は未確認)。Aliexpressにも同等品があったので予備品として購入しました。寸法はNA3F5Mとまったく同じで、重量はやや軽いです。こちらは分解できます。1番ピンのGNDがコネクタ外周と短絡する接続になっています。NA3F5Mは短絡していません。【追記】この中国から取り寄せたNA3F5M互換品をCS-30に取り付けて実際に録音で使ってみましたが、かご風防を上下に振った際にノイズ量に変化がありましたので調べたところ、3pin側のロックが甘くて振ると2mm程度緩むことがわかりました。GNDの接触量が変化して音に出るようです。マイク側コネクタとの相性なので、接続部をパーマセルテープでガッチリ固定するといくらかマシになりましたが、値段の差が出ました。CS-30は全長が295mmと長いマイクで、これに鉄砲玉を挿し更に中継ケーブルを挿すと風防内に入らない可能性がありました。物理的にギリギリ入っても振り回した時にマイクやケーブルが当たると実用になりませんし、風防に当った風が中で減速するだけの距離も必要です。なのでZP-1のコネクタをL字型にして逃げないと駄目かも、とすら思っていました(後述)。現物を装着してみたところCS-30にNA3F5Mを挿した長さは352mmで、なんとか普通のコネクタでも大丈夫でしたが、これがZP-1で使えるマイクの最大長でしょう。かご部分の長さは前後のドーム型キャップを含めて47cmで、キャップを外した真ん中部分が355mmなので、これより長くなるマイクは実用にならないと思います。Sennheiser MKH-416やRODE NTG-1/2等はCS-30より短く、鉄砲玉を挿しても問題ありません。残念なことにNA3F5Mの重量が64g加わるのでCS-30の軽さのメリットはスポイルされてしまいました。■改造作業古いケーブルを外します。グリップ部分のネジ2本を外して金属製のコネクタカバーを引き出します。コネクタカバーからXLRオス3pinを取り外すために、黄色い矢印のネジを右に回して内部へ押し込み、ネジごとピン部分を引き抜きます。端末部分は熱収縮チューブなどを使わず短く配線されています(この短さが重要)。ケーブルを切断し、ピン部分とコネクタカバーを外して古いケーブルをグリップから引き抜きます。元のケーブルの外径は6mmでマイク側の3-11C(メス)コネクタの先端から取り外した3-12C(オス)ピンの根本までの長さが49cm、コネクター部分を除いた純粋な配線長は45cmでした。両端のはんだ付けに使う配線余長を考慮すると素材として必要な4芯+シールド線の長さは48cm位です。今回はカッド撚りの3ピン用マイクケーブル、カナレL-4E6Sを4芯+シールドケーブルとして流用しましたが、コネクタカバーの穴が狭くてL-4E6Sよりわずかでも太いケーブルだと通りません。L-4E6Sに熱収縮チューブを被せるともう駄目です。ママレモンを塗っても駄目でした。他のコネクターから5pin部分を移植します。ノイトリックの5pin製品はピン部分をネジで固定する構造にはなっていないので使えず、ITTキャノン(5-12C)のピン部分を移植しました。固定がタッピングネジなので、ネジ頭の外周をヤスリで削ってコネクタカバーの穴にぴったり通るようにします。さきほど短さが重要、と書いたようにコネクタカバー内のピン裏の配線余長が1cm位しかありませんで、極力短く作る必要があります。私は1.5cmで作ったのですがそれでも長すぎました。熱収縮チューブを抜け止めに使い、無理やり配線を押し込みました。元のケーブルと同じルートでケーブルを引きまわし、マイク側の5pinコネクタ(NC5FXX)を付けます。L-4E6Sだと被膜色ではL/Rの区別が付かないので、テスターで調べてL側2本にマジックで印を付け、L/Rを間違えないようにはんだ付け。NC5FXXとNC5MXXを使ってZP-1から録音機へのケーブルも作成します。録音機はZOOM F8なので別途XLR5-11CからXLR3-12Cx2本ヘの分配ケーブルが必要です。作ったケーブルの先を直接3-12Cx2本にするほうが接点数は減らせますが、現場ではミキサーバッグの外側でケーブルを切り離したい場合が時々あるのと、利用頻度は少ないながら5pin入力があるミキサーを持っているので両端5pinとしました。個人的感覚では3mのブームポールには7.5m位のケーブルが使いやすいので、カナレMR202-2ATで製作。ZP-1のケーブルをそのままステレオマイクに挿せると大変スッキリして満足感が高く、録音のモチベーションが上がります。鉄砲玉装着で普通のマイクも挿せます。現行品のRODE BLIMPやMicoliveのグリップはZP-1とは違うデザインになっていますが、同じような改造が可能かもしれません。■5pin L字型XLRコネクタについて長いマイクをどうにかしてカゴ風防の中に収めるために、L字型のXLRコネクタの利用を検討しました(結局、使わずにすみましたが)。この時、使えるかも、と思ったのがノイトリックのNC5FRCです。しかしNC5FRCはデッドストックとなっているらしく、現行品のNC5FRXはNC5FRCよりも大きくて風防の断面直径内に収まりません。コンパクトなNC5FRCがどうしても必要な場合どうしたら良いのか?・解決方法その1秋葉原のCompuAceや千石電商で購入できるカモン(COMON)社製のコネクタを改造する方法です。同社の製品には5pinのラインナップが無いので、3pinのL字型コネクタCA-FLを買ってきて、これにノイトリックのNC5FXXのインサートが入るのか試してみました。入ります!逆にCA-FLのインサートはNC5FXXに入りません。カバーとインサートのかみ合わせ部分の凸凹のサイズが微妙に異なるのでしょう(途中までは入るので無理やり押し込めばいけるかもしれませんが、そっちの需要は無いはず)。NC4FRC/NC5FRC/NC6FRC/NC8FRCにあたるものがどうしても要るんじゃ!という方には朗報です。国内調達で完結するのが利点ですが、ニコイチなのでちと無駄が多い。・解決方法その2中国のコネクタメーカーYONGSHENGの製品にNC5FRC相当のもの(YS1865)があってeBayやAliexpressで購入できます。実際に輸入してみましたが品質はカモン製より上です。というかYongsheng(永生?)は寧波ノイトリック(Ningbo Neutrik® Trading Co., Ltd.)のブランドらしく、同社は日本のノイトリックジャパンと同様にNeutrikグループの企業でYS(YongSheng)やNYS(Ningbo Yongsheng)で始まる型番のノイトリック製品(REANブランドのフォンプラグなど)はここの製造だそうです。発注から到着まで2週間以上かかりますが、急ぎでなければこれを買うと良いと思います。オス側(NC5MRC)の場合はCA-FLをCA-MLに、NC5FXXをNC5MXXに、YS1865をYS1875に読み替えますが、オス側については現物確認をしておりませんので同じことができるかどうかは不明です。(がんくま)
【ご注意】本記事は製品を販売店の動作保証外の環境で使う話で、一部に製品を分解して内部を改変する内容を含みます。よって、本記事を参考に同じ製品を買い求めたら書いてある内容と違うとか、改造したら製品や相手の機器が壊れたとか、そのような苦情を販売店であるサウンドハウス様に入れることはお止めください。本記事を参考に販売店推薦の組み合せ以外で記載の各機種をお使いになる場合や、修理や改造を行う場合は、皆様の自己責任でお願いいたします。知人に小さなマイクのお薦めを聞かれ、AKGのラベリアマイクLC617 MDが安くなっていたので推薦したところ、買ったが音が出ないとのこと。このマイクの出力はマイクロドット端子でミニXLR(TA3F)との変換コネクタ(MDA1)が付属します(*1)。これを一般的なXLR3pin/48Vファンタム電源仕様のミキサーにつなぐためにClassicProのCEMPW100というファンタム電源変換アダプターを使っています。現物を見ないと何とも言えない部分が多いので送ってもらいました。マイクのテストに使っているFOSTEXのFM-1という電池式のマイクプリにつなぐと、最初チャージされるような微かな音が一瞬するのですが、出力音がものすごく低くて到底使える状況ではありません。手持ちの変換アダプタAUDIX APS910につなぐと正常に音が出るため、不調の原因はマイク側ではなくCEMPW100のほうにあるようです。CEMPW100は同ブランドのイヤーセット・ラベリアマイクCEM1-AK専用で他の製品での使用は動作保証の範囲外です。しかしCEM1-AKの最後のAKは出力コネクタのピンアサインがAKG互換ということを示しており、であればCEMPW100もAKGのマイクで使えるはず、と思っていました。AKGのベルトパック型送信機DPT70の説明書によると、AKGのワイヤレスマイクのピン配置(TA3F)は次の通りです。1 GND2 SIGNAL3 DC(+4V)各ピンの相対位置が標準サイズのXLRと違います。大半のラベリアマイクのヘッドカプセルはDC+3~5V程度で動作します。LC617 MDはMicroDotなので2線式ですからDCは信号線に重畳されて送られるはずです(交流である音声信号と直流であるマイク電源はコンデンサで分離できる)。テスターでMDA1のピン接続を調べてみると、TA3Fの1番ピンがMDA1の外周とMicroDotコネクタのシールド側につながっており、2番ピンと3番ピンはどちらも芯線につながっています(=2番ピンと3番ピンはショート)。CEMPW100は出力コネクタ側のネジを外すと基板全体を引き出すことができます(配線を強く引っ張ってTB3Mコネクタから配線がもげると修理不能になるのでご注意)。値段からしてもっと単純な中身を想像していたのですが、予想に反してトランジスタやCRのチップ部品が実装された部品点数の多い基板です。さらに驚くことに、基板を引き出した状態でファンタム電圧をかけるとLC617 MDが動作して音がちゃんと出るのです。しかし内部に押し込むと動かない。基板の端に4つのランドがあって、それぞれLED/VCC/IN/GNDの表示があります。TB3Mコネクタからの白、黒、赤の3色の配線のうち、白(2番ピン)がINに、黒(1番ピン)がGNDにつながっていて、VCCには何もつながっていません。写真のように赤い線(3番ピン)が余っています。この赤い線が未接続なのが動かない原因(配線忘れ)で、これをVCCに配線するのか?とも思ったのですが、原状未接続のままでも音が出ているのでそうではありません。この状態でマイクを繋がずにTB3Mの電圧を測定してみますと(*2)、1(黒) GND2(白) SIGNAL/DC(+3.55V)3(赤) N.C.でした。CEMPW100の現物は目の前の一点しかありません(←後日談で検証しました)、これから推測するとCEM1-AKも2線式マイクのように思われます。基板上のVCC端子には5.1V出ていました。未使用の端子があるのは、ここの配線を変えることでTA4Fや3極ミニプラグ、ヒロセ4pinコネクタ等を使った他のラベリアマイク用にも転用できる汎用変換基板として作ったためでしょう(*3)。動かない原因ですが、赤い線の先端がなんら絶縁されず剥き出しなので、これがコネクタの内側か基板のどこかに触れて3番ピンがGNDとショートしているのではないかと思われました。というのも、前述のようにMicroDotへの変換アダプタMDA1でミニXLRコネクタの2番と3番が短絡するからです。試しに赤い線の先端を基板のGNDに落とすと不調時と同じ状況が再現します。使わない線を残しておくのは不思議ではないものの(むしろ改造派にはとてもありがたい)、絶縁処理をせずに放置しているのは疑問です。しかし、もしかするとCEM1-AKで使った場合はマイク側のTA3Fコネクタで3番ピンが無接続になっていて問題にならないのかもしれず、製品不良とも言い切れません。もう1個同じ製品を買ったらそちらは線の位置が良くてLC617 MDがそのまま動くかもしれません。いずれにせよCEMPW100の保証外の使い方をしているので文句を言う筋合いがありません。対策としては、赤い線の先端を自己融着テープで覆い、基板を出し入れするたびに折れ曲がって負担がかかる配線部分を付けなおしホットボンドで補強しました(ここが原因である可能性も当然ある)。これで半日ほど複数のミキサーにつないで様子をみましたが正常動作したので持ち主にお返ししました。■おまけAUDIX APS910のほうもマイクを繋がずに電圧を計ってみました。1 GND2 SIGNAL3 DC(+3.16V)こちらのほうがAKG DPT70の説明書にあるピン仕様に忠実ですが、CEMPW100とピン配置が違っても動いたのはLC617 MDが2線式であるためです(*4)。分解してみるとトランスが入っているのが見えます。しかし基板を完全に引き抜くこともTB3Mコネクタを取り外すこともできないので、マイク側がどういう接続になっているかわかりません。出力側から覗き込んだ配線から推測すると、こんな感じ?(1番ピン以外は見えている範囲から導通が無いので白線の先にも何かあるはず)。なお、APS910は現在新型になっていて、おそらくCEMPW100と同じようなトランスを使わない仕組みに変わっているのではないかと思われます。手持ちの古いSennheiser MKE2+MZA-10UとLC617 MD+CEMPW100の音を比較してみました。【音声比較】AKG LC617 MD+CEMPW100/APS910(旧) (AAC)Sennheiser MKE2+MZA-10U (AAC)録音に使用したのはZoom F8です。ローカット無し。MKE2のほうがテレビやラジオ向けに人の声を録音するのに向いている特性で、LC617のほうが周波数のレンジ感が広いナチュラルな音のように思いました。声量を揃えて比べるとホワイトノイズの量はLC617のほうが多め。ケーブルはMKE2のほうが太いが不要輻射に対するシールド性能はLC617のほうが上。どちらもバックエレクトレットでカプセルのサイズはMKE2のほうが小さいです。CEMPW100とAPS910も音が違います。LC617 MDで聴き比べると、CEMPW100よりAPS910のほうが音量が低いです。CEMPW100のほうが明瞭度が高く元気な音で、APS910は落ち着いたトーンのちょっと暗い音に感じられました。(*1)サウンドハウスでMDA1を単品で購入すると7,580円なのに、MDA1が付いてくるLC617 MD(ベージュ)は6,380円(定価は46,750円)で買えてしまう。LC617のブラックは32,800円。ベージュは『衝撃特価』ですね(2022年4月11日現在)。(*2)FOSTEX FM-1は電池駆動のマイクプリなので、元のファンタム電圧が通常のミキサーやオーディオインターフェースより低い可能性があります。したがって、本記事中に記載の電圧は他の機材環境では異なる可能性があります。(*3)この基板、市販のECMカプセルを使ってダミーヘッドマイクを自作する方や、パソコンやスマホ用に売られているプラグインパワー仕様の2極・3極マイクをXLR3pin仕様のオーディオインターフェースやミキサーにつなぎたい方にはメチャクチャ都合の良い仕様です。昔、同じ用途のためにボタン電池とDCカット用のコンデンサを使って機材を自作したことがありますが、この基板を使えば簡単に解決できますね。値段も安いし。(*4)ベルトパック送信機に2線式のマイクをつなぐ場合、2番ピンと3番ピンをショートして使ってね、とはAKG自身もアドバイスしているそうで。ケーブル特注日記!AKG C409 金管楽器用コンデンサーマイクの差し込みプラグをAKG ワイヤレス PT40で使えるようモノラルミニフォンからミニXLRに変更!(音光堂ブログ )http://onkodo-blog.com/?p=1896しかし、CEMPW100は3番ピンにDC出力があるという記事もあります。製造時期によって違う??エレコンマイクユニットをファンタムで使う(Gun3s Audio Workshop)https://g-works.at.webry.info/201501/article_1.html■後日談もう一個買っても本当に同じように絶縁されていない赤い線が余っているのだろうか?という謎が気になり個人的にCEMPW100を買ってしまいました。さっそく前回使ったFM-1を使って同じ状況で電圧と導通を測ってみます。1 GND2 SIGNAL/DC(+3.49V)3 N.C.LC617 MDをつなぐと正常動作です。分解してみました。あっ!赤い余り線が無い!!2本分解しましたが、どちらにもありません。白と黒の2本だけ。どうやら先日の赤い線が余っていた個体のほうがイリーガルだったようです。基板写真を見ていて、R3からC4の端につながっているパターンをカットし、空いているVCCのランドに余っている赤い線をはんだ付けすればAPS910と同じピンアサインになってAUDIX ADX-40でもLC617MDでも両方で使えるのでは?と考えていたのですが、アテが外れてしまいました。TB3Mコネクタをラジオペンチで掴んで回そうとしてみましたが回らず。となるとあとから配線を追加するのは不可能に思えます。不具合の原因だった赤い線、個人的には無いと残念だなあ。■さらに後日談その後、ECMカプセルを使ったダミーヘッドマイクをバランス出力化するために部品取り需要で更に2本、CEMPW100を購入しました。あっ!赤い線がある!!しかも2本とも!!やはり、リード線先端の絶縁処理はされていなくてMicroDot変換コネクタMDA1を使った場合はショートの可能性があります。しかしこうなるともう赤い電源線の有無は運でしか無い印象。5本取り寄せて3本にあって2本には無かったという結果(*5)、CEMPW100をどう使いたいかでまるきり逆の見方になってしまいますね。悩ましい。前取り寄せた2本を部品取りに回し、今回取り寄せた赤線付きの2本をAPS910互換に改造することにしました。前述のようにC4/C5が音声信号を通すコンデンサーと思われますので、R3からC4へのDC給電用のパターンをカットし、赤い線を空いているVCCに繋ぎました。これでAUDIX ADX40は動くようになりましたが、LC617MDが何故か動きません。赤線をVCCではなくカットしたR3の端か、下の写真のように空き端子であるLEDにつなぐと動作します。不思議ですが、2本ともそうでした。この状態ならADX40もLC617MDもどちらも動きます。R3/VCC/LED端の違いはチップ抵抗だけのはず?ですが、上記の配線変更後にLED端子の電圧を測ると無負荷で4.43〜4.16V位、ADX40接続時3.85V、LC617MD接続時2.68Vまで下がりましたので、テスト用に使っているFOSTEX FM-1が電池式なせいでLC617MDの負荷だと動作電圧が下限ギリギリになるのかもしれません。他のミキサーやオーディオインターフェースでも動作確認できましたのでホットボンドで固めて持ってないから確認のしようがないけど本来のCEM1-AKでは使えなくなった可能性が高いので、テプラを貼って注意書きしました。2線式ECM用に基板を流用する話は別記事にしました。(*5)どれくらい売れている製品なのかはわかりませんが最初の1本から最後の5本目を取り寄せるまでの期間は2ヶ月以内でした。関連記事:ECMカプセル(ダミーヘッドマイク)用のファンタム電源兼バランス出力変換BOX(がんくま)
SONYのステレオマイク、メーカー希望小売価格は30,800円、売価はおおむね2万円で、ハイエンド民生とセミプロをターゲットにしたいわゆるプロシューマー機です。エレクトレットコンデンサーマイクロホン ECM-MS957https://www.sony.jp/microphone/products/ECM-MS957/発売は1996年ですが販売終了は2017年とかなりのロングセラーでした。1996年頃といえば私は職場にあったSONYのECM-999というステレオマイク(このマイクも2014年までカタログ掲載があったらしい)を録音で使っていましたが、今はMS方式の小型ステレオマイクって持ってないなあ、と思っていたら動作未確認のジャンク品を2000円で落札できました。手に入れたのは本体のみです。商品説明によると電池入れが液漏れで腐食していて通電確認できず、とのことで開けてみると確かにこれは酷いです。アルカリ乾電池を長期間入れっぱなしにしていたのでしょうが電解液が激しく液漏れした形跡があります。カバーの内側には電解液が結晶化した白い粉がべったり付着しています。白い粉は水酸化カリウムという強アルカリ性物質だそうで触らないようにウエットティッシュでふき取ってから電池を入れてみましたがもちろん何の反応もありません。壊れています。ネットで検索すると日本語マニュアルと海外モデルらしきECM-MS957proの英文サービスマニュアルが手に入りました。まだ市中在庫もある機種なのでソニーステーションで修理部品が手に入るかもしれません。同じマイクを分解した方のブログがあって大変参考になりました。ECM-MS957のウレタン問題(NIMTAblog)https://nimtablog.com/2019/05/03/ecm-ms957%E3%81%AE%E3%82%A6%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%B3%E5%95%8F%E9%A1%8C/カプセル側のカバー(上部カバー)を外すネジ2本のうち1本が腐食で固着しており、潤滑油を塗って放置してみるもダメなので仕方なくドリルで頭を飛ばしました。カプセルを回転させるツマミの中にあるネジ2本とそのツマミとプラスチックワッシャー2個、電源スイッチのスライダー1個を外すとカバーが引き抜ける・・・はずなのですが抜けない。カバーの内側も腐食していてジャリジャリと嫌な音がしますが力を入れてギコギコとねじりながらでないと抜けません。液漏れによる腐食錆と白い粉が内部にまで進行していますが、カプセル部分は無事。上部カバーの内側にスポンジは無く、金属メッシュのみ。基板を覆う内部の金属製カバーを外すと、その内側にも錆が。しかし、幸い基板は大丈夫そうです。マイナス側のスプリング電極は錆だらけで触っただけでボロッと先端が砕けてしまいました。クリップで電池をつないでみますとちゃんとL/Rどちら側からも音声出力があります。電極さえどうにかできれば復活できそう。マイナス側電極は基板の下にあるので、金属カバーとの接点を保つバネとネジを外して基板を持ち上げますと、トランスが2個入っています。巻いてあったと思われるスポンジが加水分解していて砂のようなグレーの粉が大量に出てきます。基板端の5pinコネクタへ向かう配線のランドの脇にマイナス電極の黒いリード線がはんだ付けされていましたのでこれを外し、リード線ごと電極のスプリングを引き抜きます。ジャンク箱の中に単4電池用っぽい電極がありましたので、これを加工して同じ長さのリード線を取付け、もとの電極があったところに金属板をひっかけて接着材で強引に取り付けます。見てくれは悪いが、要は外れずに電気が通ればよいのだ(直せそうとわかってテンションが上がっている)。トランスのスポンジは両面テープごと剥ぎ取って新しいスポンジを巻き、粉や錆、白い粉をなるだけ吸い取って、錆には錆チェンジを塗りました。基板とバネを取り付けて、マイナス電極のリード線をはんだ付け。この時点で動作確認をしましたが正常動作している模様なので、各配線を整えてカバーを装着します。各カプセルの裏にインピーダンス変換用のFET(2SK1578?)が直接付いていて、下側のカプセルはそれごと90度回転します。マイクを立てて(サイドアドレス使用)で見たとき、上側に固定のSIDE用カプセルがあって下側が可動式のMID用カプセルです。したがってエンドアドレスで使うときはMID用カプセルの前にSIDE用カプセルがあるという面白い構造をしています。サイドアドレスの時はMID用カプセルの前には何もありません。音源への向き。取り扱い説明書にサイドアドレスのほうが明瞭に録れる、と書いてあるのは上記の仕組みのせいか。下部カバーの内側の水酸化カリウムは、歯ブラシや金属ブラシを使って酢とかクエン酸とか中性洗剤、ジフ等いろいろ試しましたが簡単には取れず、結局マイナスドライバーでガリガリと削って紙やすりという方法でしか歯が立ちませんでした。修理テンションが高いうちに標準添付品と同じ5pinXLR(5-11C)とステレオミニプラグのOFCケーブルを作りました。1 GND → Sleeve2 L+ → Tip3 L-(1とショート)4 R+ → Ring5 R-(1とショート)出力コネクタを見てみるとHRSの刻印があります。製品説明にノイトリック製コネクタ、とあるけどあれはケーブル側なのかな。5pinXLR(5-11C)から3pinXLR(3-12C)x2への変換ケーブルがあればバランスL/R出力も引き出せます。ECM-999やSANKEN CSS-5と同じ配線ですが本機は電池運用製品なので、ファンタム電圧はかけられません。SONY FS100 に最適なワンポイントステレオマイク(ルーラルアート+ふるいちやすしの日記)https://ameblo.jp/loo-ral/entry-10997750213.html5ピンXLR-3ピンXLR STEREOマイクケーブル(少年カメラ)https://pokecamera.exblog.jp/28356035/修理後、本体マイクが不調なICR-PS1000Mにつないで、近所の公園で環境音を録ってみました。いかにもSONYのECMマイクって音がします。低音を拾っていないわけではないのですが、全般には低音が薄い印象でゲインも低めのやや地味な音です。値段が一桁違う本格業務用のマイクほど「すごくよく聞こえる」感じはありません。でも、昔は数千円で買える程度のマイクは音がとても悪く玩具のようなものだったので、それに比べればずっとまともです。逆に言えば、現代のステレオマイク内蔵のICレコーダーは、この水準のマイクを本体に搭載できているのだな、と思います。このセットだと乾電池2本でコンパクトに運用できるので、車に常載しておこうかな。(がんくま)
中国の音響機器メーカー、アルクトロン(宁波奥创电子科技有限公司)が作ったneve1073のクローンです。同社は多数のマイクプリをラインナップしており、1073のクローンだけでもEQ無しシングルチャンネルのMP73、EQ有りシングルチャンネルのMP73EQ、コンプリミッター搭載のCP540、API500モジュール型のMP73Aと多種あります。本機MP73X2はEQ無しの2chマイクプリで、お値段は購入時点で6万円と2ch仕様としては数ある1073クローンの中で最も安く、それが最大の魅力です。Alctron MP73X2製品紹介ページhttps://www.alctron-audio.com/EN/Amplifier/Mic-Pre-Amps/MP73X2.html海外の機材談義サイトでは"Cheapest Neve Pre"としてMP73が数年前に話題になったものの、本邦ではさっぱり購入話がありません(某機材チューンナップの大御所が、過去にメーカー名を伏せて苦言を呈されていたことは知っています。私の知る限り日本でAlctronの1073クローンを持っていたと判明している人はその方だけです)。まあ6~7万円出せばFocusriteのISA TWOが中古で買えるので、客商売のスタジオやエンジニア視点ではどう考えてもそっちのほうが安全牌です。メーカー保証が付いているものの国内に代理店は無く、本国に送り返さないと修理してくれる所がありません。かくいう私も2年間迷いましたが、音と造りに興味があり購入に至りました。まだ本格運用に入っていませんが、海外サイトで「誰か内部写真撮って」とリクエストされていたので写真をたくさん載せます。AlctronはAliexpressに公式ストアがあるのですが、利用したのはこちらのお店です。Music Fun Storehttps://ja.aliexpress.com/store/3222157最初に購入を検討していた頃は公式ストアで5万円台でした。その後値上がりして6~7万円を行ったり来たりしていました。今回はセールで送料込み6万円で買えました。シンガポール経由のEMSで、輸入時期が春節と重なったため当初の配送予定より時間がかかり、オーダーから待つこと1ヶ月。箱の時点で予想より重いです。エアーキャップ包装から出すと外箱に少しダメージがあります。本体への影響はなかったものの、緩衝材の発泡スチロールが少ないので重量と中国からの運送事情を考えると若干不安。内容物は本体の他に説明書・保証書(中国語・英語)と電源コード、ACアダプタ、ゴム足です。ACアダプタはDC24V 2.5A(60W Max)出力で、ユニバーサル電圧対応で通常のIEC仕様のコネクタですから日本仕様の電源コードに交換すればそのまま使えます。ACアダプタ採用のためケース内部に電源トランスが無く、磁束の影響によるハムノイズが出ないのは有利な点です。また、以前指摘されていたアース点の問題も解消しています。フロントパネルにDI入力のTSジャックとその切換スイッチ、入力ゲイン設定用のATT、出力レベル調整用のボリューム、位相/ファンタム電源/入力インピーダンス切換(300/1200Ωただしライン入力は10KΩ固定)/インサーション回路の切換スイッチ、レベルメーター、電源スイッチが並んでいます。ゲイン設定用のATTツマミが入力セレクタも兼ねているので、マイク/DI入力(両者の切り替えはフロントパネルのスイッチ)とライン入力はツマミ位置が異なります。出力側のツマミはATTツマミの位置がどこであっても0~MAXまで調整できます。入力ゲインを過大にして歪ませ、出力は小さくする、といったような使い方ができます。OLD NEVEを模したツマミはプラスチックの質感が若干安っぽくてイマイチですが、入力と出力のレベルが見られるLEDメーターは便利です。電源スイッチは青色LED内蔵で暗いところだと結構まぶしい。背面にはマイク入力、ライン入力、SEND出力、RETURN入力、ライン出力2系統、電源コネクタが並んでいます。灰色のケースは厚い鉄板製で重量があります。フロントパネル側からの内部。背面側からの内部。中央を仕切る鉄板も厚いです。接地のため塗装が削ってあります。基板のバージョンはMP73V2 V1.1になっていました。MP73のシングルチャンネル版は数年前にMP73V2とMP73EQV2に改名されたもののMP73X2については名称の変更が無く、もしかするとこの機種だけは昔の基板を使っているのか?と思っていましたが、V2基板(おそらくシングルチャンネル版のMP73V2と同じもの)です。フロントから見て右側の基板にのみDC電源ジャックが付いていて、そこから左側基板に電源のジャンパ線が飛んでいますが、基板自体は左右まったく同じものです。この小さい基板はファンタム用の+48Vの回路らしいです。その下の回路には実装済みのチップをリワークしてモディファイしたような痕跡が見られます。写っている三端子レギュレータ7Q1はL7812CVです。トランスは入力用にシールドされた箱状のものが2個(おそらくライン入力用とマイク/DI入力用)、出力トランスが1個で基板1枚につき3個の合計6個です。基板の配置はゆったりしていてアース面も広く品質は良好です。しかし部品の並びとはんだ付けはさほど整然としている感じではありません。入力された信号はトランスでアンバランスになった後、ATT(現代風にチップ抵抗になっている)と初段増幅を通り、オリジナル1073の高利得増幅用のBA284と、BA283前段にあたるのではないかと推測される部分黒いネジ3点で固定されているスイッチ基板の下段にあるインサーション切換スイッチを経由して出力ボリュームと終段増幅へ。その後出力トランスと位相切換スイッチを通って出力されます。ファンタムと位相切換スイッチの基板です。本機にはEQ回路が無いので、外部にEQをつなぐSEND/RETURN端子があってインサーション切換スイッチでON/OFFできます。ファンタムと位相スイッチの基板を取り外すと見える2つのプッシュスイッチのうちLED基板寄りがインサーションスイッチです。この端子、オリジナルの1073にはありませんし、説明書にも電気的な仕様が明記されておらず謎でした。基板上で回路を追ってみると、この端子は初段から終段に行く途中に単純に入っているだけで当然アンバランスです。SEND回路用の増幅器はなにも入っていないので、SEND端子からの出力レベルは入力レベルよりずっと低く、入力のLEDが0まで振れる状態でも-47dB程度にしかなりません。+4dB前提で設計されたアウトボードをインサートしての動作は難しいのではないでしょうか。LED表示部分には縦置きの基板が2枚あります。オリジナルには無いLM339を使ったレベルメーター回路。半導体は上記のLM339と電源の三端子レギュレータ類を除けばオリジナル同様のディスクリート構成でオペアンプは使われていません。オリジナル1073のBA283後段にあたる部分。2N3055はST Micro製です(と、信じたい)。コンデンサ類はWIMAやRubyconも使ってありますが、アルミ電解の大半はSUQIAN HUAHONG Electronic Industrial Co,Ltd(宿迁华虹电子工业有限公司)のCD110(*1)という銘柄。初期のMP73EQの内部写真を見るとタンタルコンデンサが使ってありましたが、本機では一切使われていません。フォンジャックやXLRコネクタはCHUNSHENG ELECTRONICS(浙江春生电子有限公司)製。24AWGの配線は東莞市のTriumph Cable Co., Ltd.製。枯れた回路でもありますし、部品の国産化が進んでいます。新品でしたので最初のうちはバネが固いサスペンションのような弾力感の強いガッツのある音がしましたが、4〜5日通電していると電解コンデンサが馴染んで音が伸びてきました。本格的な録音に使っていないのでまだ印象が無いものの、変な音ではありません。S/Nも妥当で1/2ch間でレベル差や音質差があるようにも思えません。以前記事にしたTOAの4chマイクプリRH-200とミックス済の音楽を通して聴き比べると結構な音の違いを感じます。RH-200と比べると中低音増しで当たりの固いところと中高域のギラつきやすい所が少し落ちて滑らかになる感じです。金物系をよく聞くとわずかに響きも付いてきます。しかし音自体が輪郭くっきりとフラットに上がっている感があるのは本機よりRH200のほうです。つなぐ相手によって周波数特性が変動しやすいトランス入りとオペアンプ(NJM5532)の違いと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、通すと音は変わります。キラキラとした華やか系の音ではなく、密度があって押しの強い、若干暑苦しい感じの音のように思えます。某氏はChameleon Labsの1073クローンと同じ傾向の音がする、と書いていらっしゃいましたが、どうでしょうね。著名なアウトボードメーカー製やビンテージ機器の1073クローンは高価でそうそう中身がいじれないと思いますので、チューニングベースとしても面白いのではないでしょうか。(がんくま)(*1)調べてみたらCD110は銘柄ではなくアルミ電解コンデンサの標準品の規格のようで他のメーカーの製品もありました。中国最大の電解コンデンサーメーカーで日本のメーカーと技術提携があるNantong Jianghai Capacitor Co.,Ltd(南通江海电容器股份有限公司)の製品データシート→PDFまた、HUAHONGといえば、一時期パソコンの電解コンデンサー不良騒動が吹き荒れた際に問題になったCh*ng系のブランドの一つ、ChongXを製造していたChangzhou City Huahong Electronics Co.,Ltd.と英語読みが共通しますが、そちらは常州華紅电子有限公司であり違う会社のようです。HUAHONGは漢字ではありふれた発音で同じ英語表記の会社が複数あります。本機使用の電解コンデンサーについては宿迁华虹电子工业有限公司の資料に同じロゴの製品があるので間違いないと思います。ちなみに宿遷にはニチコンの中国工場(尼吉康電子有限公司)もあるそうです。
以前異音対策を行ったマランツのかご型風防、その後は特に問題もなく屋外録音で大活躍しております。本来は同社が販売していたショットガンマイク用のオプショングッズで、同社のマイクSG-9Pの外径寸法21mmに合わせたマウントリングが付属していますが、これはRODE NTG-1/2にはピッタリですが業界定番のSENNHEISER MKH-416や手持ちのSANKEN CS-30/CSS-5(外径19mm)には大きくて、スポンジを噛ませたりマイクの胴にテープを巻いて太くしたりしないと抜けてしまいます。また、プラスチックの輪の爪に専用の輪ゴム4つをひっかけてマウントリングを釣る、という構造には、現場でもし輪ゴムを紛失してしまうと役に立たなくなるというリスクがあります。この分野のリーディングカンパニーであるRycoteの現行のガンマイク用マウントは独特な形のプラスチック製になっていて、これが想像以上の柔軟性と耐久性をもっており寒くても固くならず、曲げても折れません。(写真引用元)https://rycote.com/microphone-windshield-shock-mount/boom-shock-mounts/Aliexpressでマイク関連の品物を眺めていると、これととても良く似た製品を発見しました。DF Video Tube Storehttps://m.aliexpress.com/store/3866010クイックシュー付きの短いレールにプラスチック製マウントが2個付いてお値段は約2500円。本家のRycote RY-INVシリーズやRODE SM4-Rは七千円位しますのでそれより安く、かつZP-1と同様にレールにマウントが固定される形状になっており、スムーズに移植できそうに思えたので購入してみました。EMSではなく佐川急便へ中継される配送で到着まで注文から2週間とAliexpressでの通販としては早かったです。現物を見るとレールも金属製で加工精度も高く、品質は良いです。しかしレール部分は今回使わないのでさっさと分解します。分解には六角レンチが必要です。最初はプラスチック製マウントだけを移植しようと思いましたが、実際にZP-1に合わせてみると使われているネジ径が違うため、レールの内側に付く断面が台形のネジ座金に止まりません。そのため、ネジとネジ座金も輸入したレールから移植しました。中国製レールから移植した六角ネジと座金はM3でした。元々ZP-1についているネジはM3より大きく、M4より小さいのでユニファイと思われます。ユニファイネジは輸入したプラスチックマウントの穴に入りません。六角ネジでは嫌だ、という場合は別のM3ネジを買ってくることになりますが、適合するネジの長さはネジ頭の座面下で18mmです。20mmだとねじ込んだ時にレール側にネジの先端がつっかえてマウントが浮いてしまいグラグラします。15mmだと噛む部分が短すぎます(蛇足ながらZP-1の元の座金は中国製レールには付きません)。簡単な作業で現代的なプラスチック製マウントになりすっきりしました。外径19mmのマイク(CS-30)もしっかりホールドしてくれます。マウントを触ってみるとRycote製のほうがしなやかで、こちらは柔軟性がある材質としては共通ですが本家より少しだけ固めかな、と思います。しかしクッションマウントとしてはちゃんと機能しており歩きながら録音しても問題になるような衝撃はありませんでした。何かに引っ掛かって強い力がかかった場合、折れるかどうかの耐久性具合は不明です。SANKEN CSS-5を搭載した場合です。この程度であれば重さでマウントがたわむことは無いようです。CSS-5の場合、マウントの位置がここだと後ろ側のリングが開き気味で振ると上下に動いてしまいますので、この位置に付ける必要がありました。垂直方向に背が高いマイクなので、オリジナルの輪ゴムマウントよりこちらのほうが扱いやすいです。かごの内側とのヘッドクリアランスは2~3cmですが、かなり乱暴に振り回してもかごの内壁に接触することはありません。しかし、こういうレール非対応形状タイプをバラしてレールと座金に(ゴムワッシャー等を噛ませて?)きっちり固定できるのであれば、CSS-5に関してはこのほうが筒内の位置が下がるかもしれない。2個買うとレール付きのほうが安いの謎。こういうレール対応形状になっていないマウントだと極端に安いのもあるのですが、安いのはパキっと折れそうな気がする。予備品としては良いかもしれない。※この写真のマウントを実際に取り寄せて使ってみました。追記参照。マランツはショットガンマイクの販売を完了したらしく、ZP-1も本記事執筆時点で販売終了しています。しかしAliexpressを眺めているとZP-1と(つまりRODEのBLIMPと)酷似しているように見える製品で、同じプラスチックマウントを搭載した製品が安価で販売されています。日本のAmazonでもMicoliveというブランド名で売られているようです。ZP-1のショートケーブルは通常のモノラルガンマイク用の3pinなので、CSS-5を使う場合、運用のスマートさを考えると5pin化したいところですが、ケーブルの脱着にははんだ付けが必要なので、もう一つかご風防を買ってCSS-5専用とそれ以外のマイク用に分けたいところ。※後日、5pin化改造しました。下のリンクから読めます。■関連記事marantz ZP-1 のペリペリ音対策marantz ZP-1を5pinステレオマイク仕様に改造ショットガンマイクのスポンジ風防あれこれ■2022.4.26追記【追記】予備には良いかもしれない、と書いていた超格安のクッションマウントを取り寄せてみました。下にクイックシューが付いていますが、六角レンチがあれば分解可能です。ネジはM3です。予想通りZP-1のレールにはそのままで付きません。ネジを締めてもレールを押し付ける部分が無いからです。千石電商で自作ケース用のゴム足を2個買ってきました。これをレールとの間に挟んで15mmのM3ネジでゴムが少したわむように締め付けると具合良く固定されます。ゴム足の振動抑制効果も加わるはず。マイクの垂直位置は少しだけ下がります。リング部分が先日購入したRycoteもどきより狭く、外径19mm~20mmのマイクに対応です。Rycoteもどきは突起4点でマイクをホールドしますが、こちらは面で押さえます。Uの字の上側開口部が広いので、CSS-5に対して使う場合はホールドポイントを後ろ側にでき、前後上下方向にマイクを振った時により安定します。材質はRycoteもどきよりさらに硬めで、振動抑制効果がやや劣るかもしれませんがマウントとしてはしっかり機能します。実際に録音で使ってみましたが特に問題は感じられず。耐久性が不明なものの安いので4〜5本位買っておくと良さそうです。そのままクイックシューに付けて使っても良いしね。(がんくま)