以前メンテナンスを行ったMC76ですが、その後も長期間通電をしないと不具合が再発することから、再度修理を行うことにしました。



■症状のまとめ
【1号機】
・電源投入時、GRメーターの0VUへの戻りが遅く、また戻り方が不十分な時が稀にある。
・GR OFFでもリリースつまみをいじるとGRメーターが動く。

冬期の気温が低い時に2~3ヶ月通電しないと症状が悪化して、

・ゲインが低く、最速設定でもリダクションの効きが少ない。
・リリースツマミを最速から少しでも左に回すとGRメーターが左側へ張り付き、リダクションが深くかかりっぱなしになる。
・圧縮比を20:1に設定するとGRが0を越えて振れる。
・全体的に出力レベルが低い。

となった事が過去2回ほどありました。いずれも30分~半日程度通電していると症状が消え、その後、数日程度の間隔で通電していれば再現しないことから、電解コンデンサの劣化(ESR劣化?)が疑われました。

【2号機】
・インプットVRのガリが酷い。
・時々メーターランプの明るさが変動する。
・アタックツマミのGR OFFがたまに効かない時がある(GR ONなのに圧縮がかからなかったり、OFFなのにかかったり)。

【共通】
・ステレオ動作は2号機OUTから1号機IN配線ならいけるが、逆は調整可能範囲を離れてしまった模様。

製造から20年以上経過していることも考え、両機ともに電解コンデンサの交換(リキャップ)を試みることにしました。合わせて、インプットやアタックに使われているボリューム(ポット)を交換し、ガリや誤動作もなくします。

■作業前のリキャップ方針
過去の記事で、MC76はオリジナルの1176と比べてHi-Fiな感じがする、と書きましたが、個人的にはもう少しブリブリと(ビシバシと)した潰れ方になっても良いんじゃないかという願望がありました。過去にオーディオアンプの修理を行った際に、交換する電解コンデンサをすべてオーディオ用の高級コンデンサで固めてしまうと音がシャラシャラと軽くなってしまい、パンチが無くなる経験をしていたので、今回もオーディオ用コンデンサの利用は最小限にとどめ、一般用の電解コンデンサをメインで使用しようと考えました。MC76にもともと使ってあるコンデンサは電源回路平滑用が松下(Panasonic)製のTSNH、それ以外の回路が同HF/HFSで、すべて製造中止となっており2018年現在、同一品の入手は不可能です。そこで、耐圧・容量のバリエーションが広く、高信頼で入手がしやすいことから、交換するコンデンサは日本ケミコンのKMGを中心にしようと考えました。以下がMC76で使用されているコンデンサのリストになります。

【参考】MC76マニュアル+回路図

■回路図から読み取れるコンデンサ一覧(赤字は実装されていた部品が回路図の記載と違った部分)
○電解コンデンサ
C4 100uF/25V プリ部 松下HF/35V
C5 100uF/25V プリ部 松下HF/35V
C7 1uF/50V プリ部 松下HFS
C10 1uF/50V 出力部 松下HFS
C12 100uF/25V 出力部 松下HF/35V
C17 1uF/50V サイドチェイン部 松下HFS
C18 100uF/50V サイドチェイン部 松下HF
C19 10uF/35V サイドチェイン部 松下HFS
C20 10uF/35V サイドチェイン部 松下HFS
C21 100uF/25V サイドチェイン部 松下HF/35V
C23 3300uF/63V 電源部 松下TSNH
C24 3300uF/35V 電源部 松下TSNH
C25 3300uF/35V 電源部 松下TSNH
C26 3300uF/35V 電源部 松下TSNH
C28 100uF/25V GR部 松下HF/35V
C600 100uF/25V プリ部 松下HF/35V
C601 100uF/25V 出力部 松下HF/35V
C1000 100uF/25V ステレオリンク部 松下HF/35V



こうしてまとめて見ると、電源部を除けば容量の種類は意外と少なく、1uF/10uF/100uFの三種類だけです。なお交換対象ではありませんが、電解以外のコンデンサは下記の通りです。MC76では電解コンデンサーにフィルムコンがパラってある箇所が多く、電解以外のコンデンサーの使用個数も結構多いです。

○電解コンデンサ以外のコンデンサ
C1 1uF GR部
C2 27pF プリ部
C3 200pF 入力用R6 2.2M高抵抗パラ
C6 200pF 入力用R7 2.2M高抵抗パラ
C8 0.15uF(154) 出力部
C9 0.22uF(224) GR部
C11 10pF 出力部
C13 270pF 出力部
C14 0.033uF(333) 出力部
C15 0.0047uF(472) 出力部
C22 0.22uF(224) GR部
C27 0.022uF(223) サイドチェイン部
C805 0.1uF(104) 電源部
C806 0.1uF(104) 電源部
C807 0.1uF(104) 電源部
C808 0.1uF(104) 電源部
C809 0.1uF(104) 電源部
C810 0.1uF(104) 電源部
C811 0.1uF(104) 電源部
C812 0.1uF(104) 電源部
C813 0.1uF(104) サイドチェイン部
C814 0.1uF(104) サイドチェイン部
C815 0.1uF(104) プリ部
C816 0.1uF(104) プリ部
C817 0.1uF(104) GR部
C818 0.1uF(104) 出力部
C819 0.1uF(104) 出力部



■最初のリキャップ作業
リキャップの効果を確かめるため、1号機の作業完了後に2号機に着手することにします。よくあることですが、修理をするタイミングでは待っていてもさっぱり症状が出なかったので、まずは電源の平滑用コンデンサと、メーター表示がおかしくなる原因かもしれないと踏んでいたサイドチェイン部(利得制御部)の電解コンデンサから交換してみました。なお、コンデンサの交換後の試聴結果は言葉による主観的な表現になりますのでご容赦下さい。今回の修理記事はこの後どっぷりとコンデンサの試聴沼にはまります。

交換した部品はC23~26と、C18,19,21で、電源部は松下TSNHから日ケミKMQ63V/KMG35Vへ、C19/C18は松下HFS 10uF/35VからKMG 10uF/50Vに、C21は松下HF 100uF/35V からKMG 100uF/25Vへ交換。TSNHは基板自立型のスナップコンデンサですが、KMQ/KMGは一般的なリード線タイプなので、交換後にホットボンドで基板に固定しました。



外した電解コンデンサについてはDER EE社のDE-5000を使ったESR測定を行いましたが、動作が不安定だったので、以前から欲しかったAtlas ESR-70を購入しました。ESR-70は測定が早く、動作音も軽快でリズミカルに測定できます。測定周波数は100kHzです。



C23 TSNH 3300uF/63V -- 3040uF 0.00Ω
C24 TSNH 3300uF/35V -- 3188uF 0.00Ω
C25 TSNH 3300uF/35V -- 2850uF 0.00Ω
C26 TSNH 3300uF/35V -- 2789uF 0.02Ω
C18 HF 100uF/50V -- 98.15uF 0.28Ω
C19 HFS 10uF/35V -- 9.34uF 0.88Ω
C21 HF 100uF/35V -- 99.00uF 0.04Ω

電源部は容量が減っているものがありますが、意外と健康そうです。翌日、残りの電解コンデンサ全部を交換しました。基本的にKMGにしましたが、C7/C10/C17の1uFだけは東信工業のUTWRZです。



交換した電解コンデンサの容量とESR(100kHz)の実測値を見てみると、

C4 HF 100uF/35V -- 99.44uF 0.04Ω
C5 HF 100uF/35V -- 100.3uF 0.04Ω
C7 HFS 1uF/50V -- 0.98uF 2.6Ω
C10 HFS 1uF/50V -- 未計測
C12 HF 100uF/35V -- 99.88uF 0.04Ω
C17 HFS 1uF/50V -- 1.04uF 2.5Ω
C20 HFS 10uF/35V -- 9.10uF 0.92Ω
C28 HF 100uF/35V -- 94.46uF 0.04Ω
C600 HF 100uF/35V -- 99.77uF 0.02Ω
C601 HF 100uF/35V -- 95.67uF 0.04Ω
C1000 HF 100uF/35V -- 94.47uF 0.04Ω

あれ?意外と健康です。数値を見た限りでは電源用が少し抜けてるだけで、他は交換しなくても良かったのではないか。ちなみに交換に使った新品コンデンサの実測値例です。

KMG 1uF/50V -- 1.00uF 0.74Ω
KMG 10uF/50V -- 10.54uF 1.02Ω
KMG 100uF/25V -- 103.0uF 0.36Ω
KMG 100uF/35V -- 100.8uF 0.55Ω
KMG 100uF/50V -- 98.15uF 0.25Ω
KMG 3300uF/35V -- 3180uF 0.01Ω
KMQ 3300uF/63V -- 3280uF 0.00Ω
UTWRZ 1uF/50V -- 0.94uF 0.67Ω

しかも、交換直後にGR OFFでリリースツマミをロング側へ回すとGRメーターが左に振れる現象が再発しました。この現象は6~7時間後に解消しましたが、ということは原因は電解コンデンサでは無いのか。

■最初のリキャップ後の音の印象
交換直後の段階では全般に地味で、交換前のほうが好印象です。しばらく通電しているとだんだん良くなりましたが、それでも交換前と比べると音が固く、琴などのピチカート系がリアルに聞こえる反面、全体に音が馴染んでいる感じがなく、やや小粒な感じがします。音が綺麗に広がっている感じが薄い。

さらに通電を続け、交換後3日たってから、リキャップ前の2号機と同じ曲で聴き比べました。良い点としては、リキャップ後機のほうが全体に弾力感があって、特に低域のメリハリが出ています。良くない点としては、高域のピークがなくなって、女性ボーカルの印象がいまいちになりました。素直な音ではあるのだが地味で、エフェクター感やビンテージ機器感が薄い感じ。通すと音が変わって楽しいという要素が薄くなってしまいました。交換直後と比べれば音が馴染んでは来たものの、それでも望んでいた方向とはちょっと違うかな。

もっとも、以上の音質比較はノーコンプレッション時の話であって、コンプレッション時はリキャップ機の印象が強く、音に弾性が出て躍動感が強調され、ガツッとした印象が出ました。オリジナルの1176より上品な出音と思っていたMC76ですが、-7dB位のリダクションをかけたら「あ、1176らしい」という音に聞こえます。GR量で既存機と比較するとはっきり傾向が違って、タイトなビシバシ感の快感がある。リキャップ前機の音はなだらかで、良く言えばナチュラルだが悪く言えば圧縮感が薄い。

このように念入りに聴き比べていると傾向がわかってきて、リキャップ前のMC76は高音が良く伸びていて綺麗であり、高域のシャリっとした感じがあります。コンデンサ交換で思ったような音にするには、もう少し追求の余地があるようです。

つづく
(がんくま)

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