【ガリ対策】
1号機、2号機ともにINPUTの2連ボリュームはどちらにもガリがあります。が、実用上はさほど致命的な問題にはなりません。この部分はオリジナルのRev.D/Eに準拠した600ΩのフローティングT型ブリッジ回路で、専用のアッテネーター部品が必要です。

New 600 ohm T-Bridge Input Pot for UA UREI 1176LN. U2
https://www.studioelectronics.biz/sunshop/index.php?l=product_detail&p=1151

1号機、2号機ともに上記のPEC製ではなく、ビンテージ1176と同じAB製のアッテネーターが付いていました。
MC76:アッテネーター
なんでもAB製アッテネーターの製造が中止された時にMC76の製造も中断され、互換品が作られるようになってからモディファイされて再発売したのがMC77だとか?ならば極力AB製を使い続けるのが王道ってもんですかねえ。今後もし我慢できないほどのガリになったら分解清掃してみるとしよう。隙間から接点復活剤を吹くのはグリスが流れるのでやめておきます。

2号機のATTACKのGR OFFスイッチの切り替えが時々上手くいかなかった問題は、何度か回してON/OFFを繰り返しているうちに症状が出なくなりました。
MC76:ATTACKとRELEASEのボリューム

それにしてもPurple Audio製品、ネジの緩み止めとか熱収縮チューブとか、外からは見えない内部もあちこち「紫色」になっています。
MC76:メーター&スイッチ部

MC76:トロイダルトランス

内部の基板はとてもゆったりとした配置でランドやパターンも大きく、半田割れや痩せなどの不良は一か所も無かった。
MC76:基板裏面

【ステレオリンク機能の修理】
MC76は背面に"Offset of FET Buss""Direct to FET Buss"という2つの1/4フォーンジャックがあります。2台のMC76をステレオでリンク動作させる場合は、片方の機のOffset of FET Bussから別機のDirect to FET BussへTSまたはTRSのケーブルでたすきに配線した後、無信号、GR OFF、メーターモード"GR"の状態で、フォーンジャック脇にあるGR "0" Trimの小穴から半固定抵抗(R1001)を回し、2台のMC76で、お互いに反対側に振り切れるメーターが両機とも"0"になるように調整することになっています。本家の1176で必要な外付けのSA(ステレオアダプター)が不要とはいえ、背面に回って視認性の悪いネジを回さねばならずかなり面倒です。一人でやる場合は後ろから前面のメーターを見るために鏡が必要になります。

1号機から2号機へオフセット電圧を送る場合は、このメーターの調整が上手くできてステレオリンクが機能したのですが、逆は動きませんでした。メーターが振りきったままで、どんなにR1001を回しても針はピクリとも動かず、マニュアルの説明に沿って極性反転(Battery Polarity)スイッチを切り替えてもダメです。R1001はBOURNS社のTrimpot 3006P 100kΩですが、どうも抵抗値が変わっていない疑いがあったので秋月電子で購入した同一部品に交換しました。Offset of FET Buss側のジャックの心線とグランドで電圧を測って、ネジを回しても電圧が変化しない場合は壊れている可能性が高いです。部品交換後に電圧を実測した所、1号機から2号機へは-1.923Vの時に、2号機から1号機へは-1.189Vの時にGR="0"となるとがわかりました。

ステレオリンク機能用にMC76の内部には単三乾電池が搭載されており、1号機にはEnergizerの、2号機にはDURACELLのアルカリ電池が搭載されていて、それぞれの負荷時電圧は1.17Vと1.21Vでした。しかしデュラセルとか懐かしいな。
MC76:デュラセルとか懐かしいな
これらの電池は2000年頃と推測される出荷時から、一度も交換されることなく付いていたものと推測されます。修理の過程で電池も疑ったので、どのみち交換なのですが、MC76のこの辺のスペース設計はあまり良いとは言えず、いまいち電池が付け外ししにくい位置にあります。電圧はそう簡単に下がらないと思うが、蓋を閉めてしまいますから数年で液漏れや粉吹きが発生すると困るので、長期保存がきくというパナソニックのFR6HJ単三型リチウム電池を使うことにしました。

ちなみに電池を入れ替えるとOffset of FET Bussの電圧が変動するので、電池交換後に再びR1001を回して調整をやり直す必要があります。さきほど電圧を実測していたので簡単に調整できました。動作確認後、中で外れて転がらないように電池をインシュロックで固定します。
MC76:リチウム電池に交換
電池の右上の青い部品がR1001。斜めについているのは、背面パネルの穴の位置が微妙にあっていないので斜めにしないとドライバーで回せないためです。

【個体差】
1号機と2号機の製造番号は、連番ではありませんが4つしか違いません。MC76としては初期のものだと思います。故障や不都合と言うわけではありませんが、この2台、良く見るとあちこちに個体差があります。

MC76:2号機と1号機

まずパネルの塗装。ネットで検索したMC76の写真を見ていても、複数台映っている写真では色が微妙に異なってないか?と思っていましたが、実際に1号機は鯖肌とは言わないがやや艶消しっぽい塗装、2号機は水平方向に光沢のあるヘアラインです。製造後の年月で退色変色した、では説明がつかない気がします。

何故か1号機と2号機で天板・床板を止めているネジが違います。1号機がマイナスの角ネジで2号機はプラスの鍋ネジ。過去の修理の時に入れ替わったのでしょうか?それはそうとこのネジ、インチの短いタッピングで、かなり付け外ししにくいです。

内部の配線材にCOMPUTER用と印字された線材が使われています。
MC76:COMPUTER CABLE
電気的に問題は何もないのですけれど、これを見た時ふと、最初の1176オリジナルが設計製造された1960年代にはコンピューターなんて一般的じゃなかっただろうなぁ、などと思いました(MC76は2000年前後の製造)。しかもこの配線材は2号機のみに使われており、1号機には別の線材が使われています(たぶんどちらもベルデンです)。アメリカの製品ってだいたいこんな感じにどこかが緩い。

つづく
(がんくま)

Purple Audio MC76のメンテナンス(1)
Purple Audio MC76のメンテナンス(2)
Purple Audio MC76のメンテナンス(3)
Purple Audio MC76のメンテナンス(5)

追記:本機は2年後に再修理をしています。
Purple Audio MC76 の再修理(1)
Purple Audio MC76 の再修理(2)
Purple Audio MC76 の再修理(3)
Purple Audio MC76 の再修理(4)
Purple Audio MC76 の再修理(5)
Purple Audio MC76 の再修理(6)
Purple Audio MC76 の再修理(7)