【キャリブレーション】
以下の調整内容は前掲のMC76のマニュアル(PDF)に沿っていますが、ところどころ意訳が入っていて間違っている可能性もありますので、必ず英文の原典を参照して下さい。半田付けや測定器も必要なので、ごく普通のミュージシャンやスタジオエンジニアの方で、機械の修理や電子工作の経験が薄い方は、専門の業者に依頼されることを推奨します。

MC76:較正に使った測定器
使用した道具は低周波発振器、交流電圧計、アンバラ⇔バランス変換用の600Ωトランスボックス、マルチメーター(テスター)、写真にありませんがオシロスコープと昇圧トランスです。

まず、較正作業の開始前に15分間通電します(電源投入直後のドリフトによる影響を避けるため)。なおMC76の動作可能電圧はAC100Vからとされていますが、推奨動作電圧は海外仕様の115V~120Vと思われます。日本の家庭用コンセントは100V以下にドロップする可能性があるため、100V→117Vの昇圧トランスを使用し、以下の作業は電源電圧117Vで行いました。

◆電源部の電圧測定
適正な正電圧は+30V(許容値は±0.5V範囲内)であるべきで、R51端のテストポイントで測定します。負電源電圧は固定値で-10V(許容値は±0.5V範囲内)で、CR9のアノード端子にて計測します。(どちらも基板上にシルク印刷で表示があります。テスターのアース側のクリップは基板前縁のアース板に装着して測定します)。
MC76:電源電圧測定箇所

1号機 +31.5v/-9.83v
2号機 +32.1v/-10.5v

実際には電圧を調整できるような箇所はありません(シンプルなツェナーダイオードによる定電圧回路です)。正電圧が多少許容値をオーバーしていますが、リップル成分が悪影響を及ぼしている様子は見られないので良しとします。

◆"Q"バイアスの調整
内部の半固定抵抗R59で"Q"バイアスの調整を行います。この製品の動作の直線性を保証するためにとても重要なパラメータなので、調整は慎重に行われなくてはなりません。各ツマミを次のように設定します。

INPUT "24"(12時位置)
OUTPUT "24"(12時位置)
ATTACK 反時計回りに回し切り(コンプレッションオフの位置まで)
RELEASE 時計回りに回し切り
RATIO 20:1
メーターモード "GR"
"Q"バイアス調整(R59) 反時計回りに回し切り

MC76:Qバイアス調整箇所

音声入力に1kHz 0dBの信号を入力し、OUTPUTツマミを回して外部メーターの指標値が+11dBになるように合わせます。"Q"バイアス調整(R59)を、1dBの低下が発生するまでゆっくりと時計回りに回し、外部メーターの指標値で+10dBになるように調整します。この部分はゲインリダクション用のFET(Q1)の適正な動作範囲を微調整します。

◆ゲインリダクション(GR)メーターの調整(内部半固定抵抗R75)
以下の作業は調整の相互作用により結果が変動しますので、良好な調整結果を得るために何度か同じ手順を繰り返す必要があります。

・準備
信号無し。
R44を分離(片方の半田付けを外してランドに接触しないようにする)。
MC76:R44の切断
R74の両端に電圧計を接続。

・較正
1.フロントパネルを通してGRメーター調整ボリュームR71を回し、GRメーターを"0VU"に合わせます。
2.半固定抵抗R75を回して、R74の両端の電圧が0.0Vになるように調整します。
MC76:R75 Null Adj.
3.1と2、両方の条件が満たされるまで上記の手順を繰り返します。
4.各ツマミの位置を次のようにします。

INPUT "24"(12時位置)
OUTPUT "24"(12時位置)
ATTACK 時計回りで回し切り
RELEASE 時計回りで回し切り
RATIO 20:1
メーターモード "GR"


5.音声入力に1KHz 0dBの信号を入力します。
6.OUTPUTツマミを回して外部メーター指標値で0dBに合わせます。
7.ATTACKツマミを反時計方向に回し切り、コンプレッションオフ位置にします。INPUTツマミを回して外部メーターの指標値を+10dBに合わせます。
8.ATTACKツマミを反時計回りにOFFまで回し、もし必要であればOUTPUTツマミで"0"に再調整します。
9.ATTACKツマミでGR ONにすると圧縮がかかってレベルが落ちるので、外部メーター指標値が0dBになるようにOUTPUTツマミで合わせます。続いてGR_OFFにして圧縮を外し、指標値が+10dBになるようにINPUTツマミで合わせます。以上の手順を何度か繰り返し、GRをONにするたびに外部メーターで出力が正確に10dB落ちるようになるまでINPUTツマミとOUTPUTツマミの位置を追い込みます。
MC76:INPUT/OUTPUT調整位置
10.ツマミの位置が決まったら触らず、R44の接続を元に戻します。

R44接続後にR71で本体のメーターのGR="0"位置を調整すると、上記の設定で1kHz 0dBを入力した時、GR ONで本体のメーターが-10dB下がるようになるはずです。
※メーター較正の後半部分はマニュアルの文章による説明ではややわかりにくかったので加筆しています。本家の1176とやっていることは同じなのですが、MC76ではトラッキングアジャストトリマーを回さないので1176の調整とは少し違います。

◆プリアンプの直線動作
この調整箇所(R86)は、Q1のフィードバック回路の途中にあってその動作に影響を与えます。この部分の回路の抵抗が交換されないかぎり、R86の調整は不要です。もし調整が必要になった場合は、各ツマミを次の位置にします。

INPUT 時計回りに回し切り
OUTPUT フロントパネルの"18"の位置に
ATTACK 反時計回りに回し切り(オフの位置)
RELEASE 時計回りに回し切り
RATIO 20:1
メーターモード "GR"


音声入力に500Hz -30dBの信号を入力し、得られる出力信号のTHD(全高調波歪率)を測定します。測定値(歪み)が最小になるようにR86を調整します。

今回は1号機2号機とも測定調整を省きました。

◆製品のクリーニング
MC76のフロントパネルは、柔らかい清潔な布に含ませた非研磨性の洗剤、例えば「フォーミュラ409」や「ファンタスティック」などで洗浄することができます。パネルの追加保護用としては、アルマイト処理されたアルミニウムに使用できる、と正しく宣誓されているようなスプレーワックスが使用できます。
注意:パネルに直接洗剤やワックスを吹きかけないで下さい。ツマミやメーターに悪影響を与え、場合によってはケースを貫通して基板を汚染する可能性があります。

天板側板のステンレス板はアルコールで洗浄した後に錆防止でごくうっすらとオイルを塗りました。背面の印刷はあまり強くないらしく、今でもかなり字がかすれているのでそのままです。

つづく
(がんくま)

Purple Audio MC76のメンテナンス(1)
Purple Audio MC76のメンテナンス(2)
Purple Audio MC76のメンテナンス(4)
Purple Audio MC76のメンテナンス(5)

追記:本機は2年後に再修理をしています。
Purple Audio MC76 の再修理(1)
Purple Audio MC76 の再修理(2)
Purple Audio MC76 の再修理(3)
Purple Audio MC76 の再修理(4)
Purple Audio MC76 の再修理(5)
Purple Audio MC76 の再修理(6)
Purple Audio MC76 の再修理(7)