たとえばです。文字通りの老若男女の4人の働く姿がとても、いいなと、映る、その食堂で。ふたりの女性は、絶妙な配分で、それぞれが、それぞれに、話しかけてくれる。そして、わたしのほうも、絶妙にかどうかはわからないが、それぞれの微妙な距離感に配慮して、そして、会話をかわす。それぞれが、(決して競っているわけではないだろけれど)、そうやって、話しかけ、ちょっとした話題を、そして、時には、わたしの意見を求めてくれたり、あるいは、わたしが聞き役になったり…。つまりは、ひとは、話が通じるとおもう相手にしか、進んで話しかけないのかもしれないとしたら、やっぱり、嬉しい。そして。食事が済んで、空いたお皿をそっと上の段に置くわたしに、カウンター越しに、しずかに「ありがとう」の表情をみせる、老若ふたりの、物静かな男性の、控えめな笑顔がまた、うれしい。
たとえばです。年にほんの数回しか顔をださない、いつもの歯医者さん。いつぞや、かなり扱いが大変になりかけたころの母を連れてったときの、姿が印象に残ったのかな。腕のいい男先生と、ざっくばらんで話し好きの女先生のふたりがいらっしゃるのだが。このたびは、女のせんせい。母親の近況からはじまって、そのまま、科学で医療がどんどん進んでいくことへのちょっとした、疑問なんかをお話になる。こちらは、口をあけてるわけだから、ほとんど、喉の奥からだせる肯定、否定の音と、あとは、空気でしか返事をできないのだが、それでも、なぜだか、会話になっていく。途中からは、ほとんど、聞き役になるのだが、それでもちゃんと何かが伝わるのであるらしい。滅多に顔をあわさないのに、倫理観、道徳観といってもいい、核心部分の話ができるって。なんか、とっても素敵だな。これまた、ちょっとうれしかった。
たとえばです。これはほんとにむかしむかしのことだけど。グリーンを読むって、実はたぶんとっても難しい。それに、打つボールのイメージとセットでないととても、ひとことで説明なんてできないし。それに。自分のラインは、よくでかすんで、なかなか冷静によめないもの。たぶん、グリーンというのは、この繊細でデリケートなおとめごころ以上に、さらに繊細で難しい。で~んと立ってしっかり打たないと入らないものから、そっとたって、小手先でうたなきゃかえって難しくなるラインまで、ある。それを、実に上手に訊けるひとから、訊きたいのに素直に聞けないで、そしてこころすねたまま打って、よけいにストレス溜め込むひとまで…。つまりは、そういう全部が試されるから、人格なのかなぁ~。ともあれ。流れに逆らわないで、入るラインにスッとたてるということ。勇気をもって、先を見ないで、目の前のボールにヘッドをぶつけていけるということ。自分を信じて、余分な力を抜いた感覚でもってボールを(つまりはこころを)コントロールできるということ。ほんに、いろんなことが試されるのですかねぇ。
たとえばです。いいおとこといいおんなは、はて、どちらがたいへんなのか、というめいだい。そもそも、ほんとにいいおとこは、そんなこと決して口にださないし、実際そうだとはおもってない、と、だれかがいっていたような~。はんたいもたぶんそうだろな。じゃあ、なにをもって、いいというのか。つまりは、いせいに人気があるということか。いや、どうせいにも、こころをひらいてもらえるだけの、なにかがあるから、はじめて、いいおとこ、いいおんなといわれるのか。そして、ときに。いいひと、ということばから受けるイメージと、いいおとこ、いいおんなとでは、おなじ、いいという形容詞が冠されただけなのに、どうしてこうも違う響きになるのだろう。自信がないから努力する。だから、いつまでたっても成長、成熟できるせいだろうか。あるいは、自信に裏打ちされたなにかがあって、そこにひとが自然に寄ってきて、そしてまた、そんな幾つもの貴重な、出会い、時間のなかで、さらに、磨かれたりしていくのだろうか。そういうのを、想像してみるだけでも、なんだかちょっとおもしろいと感じるのは、やっぱりそこに、ただの正論を議論するなかには、きっとでてこない、ちょっぴり奥行きのある世界のイメージが浮かんでくるからだろうかしらん。
(追記 去り際にこそ、そのひとの、なにかが凝縮されるものなのでしょうか。ふとみかけた、引退会見の文字が、こころに響きました。ずっと投げるのが好きで、それで捕手になった…と。うわぁ~としか。ことばにできない、でも、すごいと感じられるなにかがそこに(あるいはその行間に)ありました。そのとき、なぜだか、不意におもいました。これまで、次に生まれてくるときは…、なんてことおもったことないわたしなのに。(それは、たぶん、おんなに生まれてよかったとおもってるせいでしょうか。ともあれ)。おとこにうまれて、名捕手といわれるひとになる、生涯いち捕手を貫く…。それって、すごくいいなぁ~。って。そのときは、一瞬こどものころにもどったこころで、素直にそんなことが、ふと浮かんだのでした。こころのどこかに、名脇役に徹したい…。そんな、かっこよさに惹かれている部分があるからでしょうかねぇ)。