木村拓哉さん主演の「教場」の映画とドラマは、「Amazonプライム」で無料放送されるのを待ちわびつつ、結局原作を読んでしまいました。「教場」の原作をあらかた読破してしまうと、続けて似たような作品も読んでしまいたくなるもの。「Gemini」に『「教場」ぽい作品で、次に読んでおくべき本を紹介して』 と頼んだところ、表題の「D機関」シリーズがトップに表示され、さっそく読み始めることにしました。
「D機関」シリーズは、柳広司氏が描く傑作スパイ・ミステリー小説です。時代は、太平洋戦争前の昭和12年。この年、結城中佐が極秘に設立したスパイ組織「D機関」の若き精鋭たちが、世界中を舞台に「死ぬな、殺すな」を旨として諜報戦を展開します。「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」「パラダイス・ロスト」「ラスト・ワルツ」の4冊が刊行されており、一冊当たり、3~5話分の短編が収録されています。どこから読んでも支障はありません。つまり、一話完結型です。それぞれの話は、短編でありながら、意外な結末やどんでん返しで、毎度圧倒されます。情報もてんこ盛りで半端ありません。
「D機関」というのは、帝国陸軍内の反対を押し切り、結城中佐が設立した諜報機関です。史実ですと、「陸軍中野学校」にあたります。軍人ではなく一般の大学出身者から選抜された異能の集団です。逆に軍隊に少しでも染まっている人間は、スパイに向かないと断定。その理由として、「死ぬな、殺すな」を理念としているので、潔い自決など、もってのほか。「死体」は、平時において、すべての人間の注意を集めるということで、自決と殺人は最悪の選択肢。隠密というよりは、ありふれたごく普通の行動を重視します。
「D」の意味については、登場人物たちが、いく通りもの解釈を披露してくれますが、決め手がありません。結城中佐は悪魔とも言われているので、単純に「Devil」の「D」なのかもしれません。
あと、スパイ小説なので、各国の情報機関も登場し、「D機関」にあっさりと出し抜かれます。ドイツ国防軍の「アプヴェーア」や、イギリスの諜報機関「MI6」あたりです。特に「MI6」では、創設者の「C」が話に出てきます。実在する人物であるマンスフィールド・スミス=カミング(Mansfield Smith-Cumming )海軍大佐が初代局長です。大佐が書簡の最後に「C」(「Cumming 」のイニシャル)と緑のインクで署名していたことより、以降、歴代長官も「C」の署名を踏襲。秘密情報部では歴代長官をさす暗号名として使用されてきたそうです。「007」シリーズのなかでは、「M」と呼ばれています。原作小説では、初代Mの本名の「マイルズ・メッサヴィー」(Miles Messervy)の頭文字から来ているとの設定がなされていますが、もともとは、マンスフィールド·スミス=カミング海軍大佐の名前の先頭の文字「M」を取っていると考える方が自然でしょう。そう考えると、「D」は、誰かの名前のイニシャルかもしれません。
「007」シリーズ といえば、「ロシアより愛をこめて」に登場する「オリエント急行」での列車シーン。このシーンが一番好きです。「D機関」シリーズでも満鉄特急の「あじあ」号が登場し、列車に関するうんちくやクイズとともに、列車内での秀逸な頭脳合戦が爽快に楽しめます。
「暗号名ケルベロス」という作品では、豪華客船「朱鷺丸」が登場します。ただし、本船は実在する船ではありませんでした。戦前(昭和初期)に日本郵船が運航していた「新田丸級貨客船(新田丸、八幡丸、春日丸)」 をモデルにしているようです。「貨客船」 ではありますが、昨年訪れた横浜港に停泊している「氷川丸」の内部を思い出させてくれます。
物語の展開としては、「スパイは何事にもこだわってはいけない。」が鉄則です。特に、得意技なんかがあると、「その得意技で足元をすくわれてしまう」というミスをおかし勝ちのようです。ただ、これだけ優秀な諜報機関によって獲得された、えりすぐりの情報があっても、それを正しく扱える人間がいないと、簡単に国が滅んでしまうというのは、皮肉なものです。実際にそのような情報を得ていたかどうかは別として、戦後の日本の混乱については、「終戦のエンペラー」や「山田轟法律事務所」を鑑賞し、気分的に立ち直りましょう。
最期に、本シリーズは、2008年「このミステリーがすごい!」第2位、第30回吉川英治文学新人賞・第62回日本推理作家協会賞を受賞しています。また、2016年にテレビアニメ化、2015年に映画化されています。無料のアニメの第一話は、原作に忠実に作られています。原作に忠実過ぎて、結城中佐はそれなりに描かれていますが、他の登場人物は、まったく顔が思い出せません。となると映画は、大丈夫? ということで、「Amazonプライム」のポイントを使って、無料で映画「ジョーカー・ゲーム」を鑑賞してしまいました。まあ、それなりに楽しみめたかと。D機関がブラックノートを入手するという話で、原作で使われたネタがあちらこちらにちりばめられており、それはそれで楽しいのですが、後半になると、アクションが主体となります。頭脳戦がテーマの原作とは似ても似つかない作品となり、はっきり言えば、「ルパン三世」です。チャイナドレスやメイド服姿で登場する深田恭子さんは「神」ですが、「ルパンの娘」というよりは、完全に峰不二子さんです。最後にしつこく登場するイギリス情報部は、まさに埼玉県警のパトカーと銭形警部でした。それにしても亀梨和也さんはルパン三世よりも格好良く、本映画は、ルパンの息子がD機関に潜入し、大暴れするという実写化映画だと思えば、最高傑作です。




























































































































