創作ラボ2 -720ページ目

読点の数と場所

台風の被害が各地で起こっているようですが、皆さんのお住まいの地域ではどうでしょうか。


幸い、私の住む界隈では被害はほんのわずかでした。


で、文章の話です。


コンテスト用の50枚の作品を読み返してみました。誤字、脱字、間違った言葉の用法、意味がわかりにくい文などを手直ししてみました。


コンテストの場合は、そのコンテストの傾向というものがあるので、自分の書くものが過去の入賞作品と傾向が似ているどうかを把握しておく必要があります。


ところが、過去に入賞した作品が書籍化されて手に入ればいいのですが、書籍化されていない場合は、読むことができません。


そういう場合は、主催する出版社の文芸雑誌に掲載されている作品を読んで、ある程度は作品の傾向をつかんでおくべきです。純文学的作品が掲載されている文芸誌主催のコンテストに、ミステリーとか、SF的な作品を応募したところて、一次選考で必ず落ちます。


こういうコンテストというのは、客観的に点数をつけることができないので、選考委員の感性で判断することになります。要するに、選考委員の方の好みです。同じ人が選考委員を続けていると、似たような傾向のものが入賞します。


それで、自分の書いたものを読み返してみると、たいていの場合は、気持ちが落ち込んできます。こんなくだらないものしか書けないのかと嘆いてしまいます。他の人が体験したことのないことを体験したわけでもなくて、自分の知らない世界のことを想像力のみで書いてみました。


そういうものはリアリティに欠けます。それでもなんとか小説らしくはなっていると思います。


文章とは、その人の人格のようなものなので、個性が出てしまいます。


自分の文章には、やたらと、読点(、)が多い。読点は、その部分で一度、ふっと、息を抜いたり、前後の言葉関係から、あとの言葉につづけると意味が分かりにくくなるから、意味を取り違えないようにするために使っているつもりだけど、読点を多く使うと、読む側の意識の流れが読点の部分で止まってしまって、読み辛いということにつながりはしないだろうかとも思う。


かといって、読点がほとんどない長い文は読みにくい。読点の数と、それを打つ場所を決定するのはなかなか難しい。


四十年目の復讐

彼はとくに体が小さいとか、勉強ができないというわけではなかった。ただ、少し人との会話が苦手で、クラスの中ではあまり友達がいなかった。


そんな彼は他のクラスメイトからは仲間はずれにされるようになった。とくに、ある人物からはあからさまに、いじめの対象とされた。ほかのクラスメイトも、なんとなく彼に対しては、侮蔑の目を向けていた。


彼はクラスメイトのいじめには耐えていた。どんにな理不尽なことを要求されても彼は、その要求に反発することはなかった。


彼の顔からは精気が消えていった。学校を休むことが多くなった。彼が家の中の自分の部屋の中にこもりっきりになって、ずっと考えていたことは、いじめている奴に対する復讐だった。必ず復讐するのだと彼は自分に言い聞かせた。


彼はたびたび学校を休んだが、なんとか小学校を卒業した。彼の復讐の相手は別の中学校に行った。しかし、彼の復讐心が消えることはなかった。中学生になっても彼は、奴に復讐することばかり考えていた。


学校が違うから奴に会うことはなくなったが、奴の自宅の場所は知っていた。彼は、奴の自宅の前を何度も通りかかった。偶然に奴に出会ったふりをして、ナイフで刺してやろうと思っていた。しかし、幸運というべきか、彼は奴の姿を一度も見ることがなかった。


中学三年生になると、高校受験のための勉強に没頭することになった。そして、奴のことは少しづづ忘れはじめていた。


高校三年間は、奴のことはほとんど忘れ、さらに、大学に進学すると、奴は、ただの小学生の時のクラスメイトという存在になっていた。


大学を卒業して彼は人並みにし就職をして、人並みに結婚した。そして子供が二人できた。中年という年齢に差しかかったころには、彼は勤めていた銀行の支店長代理までになっていた。


その彼の銀行が強盗に襲われた。犯人はフルフェイスのヘルメットをかぶって、窓口の行員にナイフを突き付けていた。銀行内に緊張が走った。銀行強盗に対する訓練をしていたから、ある程度はどうすればいいのか分かっていたが、実際に襲われると、訓練通りにはいかない。


窓口の行員は、ふるえながら、現金を手に持って犯人が差し出した袋に入れた。それでも犯人はまだ現金を要求した。


支店長代理の彼は、ちょうど得意先回りから銀行に戻ってきて、行員用の出入り口から銀行に入ってきたところだった。行員用の出入り口からは犯人の背中が見えていた。この光景に彼は、一瞬とまどった。これは訓練なのだろうかと彼は思った。しかし、訓練ならば事前に通告があるはずだった。


窓口の行員のうろたえている様子を見て、彼は訓練ではないことを理解した。


彼は、犯人に気付かれないようにそっと背後に回った。そして犯人をはがいじめにしようとした時、犯人が振り向いた。彼と犯人はもみ合うようになって床に倒れた。他の男の行員がかけつけてきて、犯人を取り押さえた。その時、犯人が手に持っていたはずのナイフは、犯人の左胸に刺さっていた。


彼は、息を荒げながら犯人のヘルメットを取った。彼は、その顔を見て、一瞬、呼吸を止めた。それは長い間忘れていた顔だった。いつかきっと復讐してやると誓ったあの記憶が蘇ってきた。犯人は彼をいじめていた奴だった。


期せずして、四十年の歳月をへて、彼は奴に復讐をしたのだ。

風速30メートル

乗客、乗員、合わせて49名を乗せたプロペラエンジンの旅客機がやや強い向かい風を受けながらも空港を離陸した。


プロペラ機ながら、エンジンパワーは充分だった。力強いトルクで飛行機は風に向かって上昇していった。


やがて飛行機は水平飛行に移った。しかし、気流がよくないため、時折、飛行機は小刻みに揺れていた。


目的地の天候は曇りで、飛行時間は40分ほどだった。


この路線はビジネスに利用する客が多かった。多くの乗客は何度もこの路線を利用していたから、いつものように、リラックスして雑誌を読んだり、新聞を読んだり、文庫本のページを開いたりしていた。


客室アテンダントが乗客の一人一人に飲み物を配り終え、しばらくすると飛行機はゆるやかに降下を始めた。


ベルト着用のサインのランプがついて、「飛行機は着陸態勢に入りました。飛行機が少し揺れていますが飛行には支障はございません。ベルトを今一度お締めおきください」と、客室アテンダントのアナウンスがあった。


飛行機の前方には目的地の空港の滑走路が見てきた。


いつものように飛行機は高度を下げて、滑走路への進入のコースを取った。微妙に左右に揺れる機体を制御しながら、飛行機は、失速寸前まで速度を落として、やや機首を上げた。タッチダウンまであと数秒だった。


その時、突然、飛行機の左側から突風が吹いた。飛行機は右方向に流されると同時に水平バランスを崩して、右側の主翼が地面に接触した。


飛行機の右側の主翼は折れ、右方向に回転しながら胴体が滑走路に接触すると同時に巨大な炎に包まれた。


乗客、乗員、49名のうち、助かったのは8名だけだった。


のちに、突風の原因が局地的なダウンバーストであることが分かった。


瞬間的に、風速30メール/秒の突風が吹いた。

二度と見つからない探し物

この家は、もう売り払うのだからいらないものは捨ててしまおうと彼は思った。


他人にはどうでもいいものだが、どうしても捨てられないもの、すてようと思っていても、手間がかかるから捨てなかったものが彼の家の中の押入れの中を占拠していた。


透明なプラスチックの衣装ケースの中に、全く分類もせずにゴミと化したくだらないものが詰め込まれていた。とくに、それらのプラスチックのケースの蓋をあける必要もなかったから、プラスチックのケースは何年間もそこに放置され、忘れ去られていた。


中に何が入っているのか、彼には分らなかった。記憶の中からはきれいさっぱりと消えているものばかりだったから、彼の暮らしを左右する重要なものは入っていないはずだった。


いつ見たのか思い出せない、古い映画のパンフレット、カセットテープ、ビデオテープ、フィルム式のコンパクトカメラ、卒業間近の、『追い出しコンパ』で後輩たちが書いた寄せ書きの色紙、学生手帳、手紙・・・。


手紙の差出人の名前を見ても、その顔を彼はぼんやりと思い出すことしかできなかった。差出人の名前は、複数の女性の名前だった。彼女たちとは、付き合っていたのだろうか、ただの後輩だったのか、今となっては彼はうまく思い出すことができなかった。


手紙の束の下に彼は小さなジュエリーボックスを見つけた。彼は、蓋をそっと開けてみた。中にはダイヤの指輪が入っていた。なぜこんなものがここにあるのだろうと、彼は呆然としてダイヤの指輪を見つめた。


こんな大切なものがどうしてここにあるのか彼には分らなかった。単純に彼はこの指輪は無くしてしまったのだと、ずっと、思っていた。あまりにも気が動転して、どこかに置き忘れたのだと。


完全に、彼の片思いだった。いつかは、彼女に告白しようと思っていた。彼のすべての理想を具現したのが彼女だった、容姿だけではなかった。立ち居振る舞い、言葉づかい、心のあり様、それらすべてが、高い次元で完結していた。


彼女のような人には二度と出会ないと彼は確信していた。きっと、彼女に自分の想いを伝えるのだと決意していた。たとえ、彼女が誰かの妻であっても、彼の彼女に対する想いをそぎ落とす要因とはならなかった。


その彼女が突然、仕事を退職した。彼には訳がわからなかった。転職したのだろかと思ったが、そうではないということが、分かった。彼女は、自宅で発作に襲われて倒れたのだ。そして、永遠に彼は彼女に指輪を渡す機会を失ってしまったのだ。


探し物は見つかったが、彼女はもう二度と見つからない。

ルナティック


創作ラボ2-満月



夜中にふと、おにぎりが食べたくなった彼女は、近くのコンビニまで買いに行こうと思った。


真夜中を少し過ぎていたけど、歩く距離はそんなに長くはないから、たいして危険だとは彼女は思っていなかった。


空を見上げると、満月が出ていた。完全に丸い月だった。


コンビニに着くと、彼女はおにぎりを一個と、500ml入りの烏龍茶も買った。深夜だというのにコンビ二のまわりには何人か人がいた。


彼女は、彼らをちらっと横目で見てから、家路へと向かった。


コンビニから、彼女のアパートまでは徒歩で10分もかからなかった。彼女は少し速足で歩いた。


彼女は前方を見ながらも、背後に神経を集中していた。誰かが背後から近づいてこないか警戒していた。街灯がついているから、通りはあまり暗くはないのだが、それでも街灯がない場所では暗くなる。


アパートまで、あとほんの少しのところで、彼女の右側の露地から何かが飛び出してきた。


彼女は背後には気をつけていたのだが、横から何かが飛び出すとは全く考えていなかった。完全に不意を突かれた。


「あっ」と、彼女は小さく声に出しながら左側に身をよけたが、間に合わなかった。


彼女の身体は、何ものかによて押し倒された。


彼女は自分の上にのしかかっている何ものかの顔を見た。暗さのためにはっきりとは分からなかったが、それは人間の顔のようには思えなかった。


彼女は、恐怖のため全身がコンクリートで固められたように動けなかった。


「うぉーーーーー」何ものかは唸り声のようなもの発しながら、彼女が片手に持っていたビニール袋の中に顔を入れて、おにぎりを食べようとしていた。


彼女は訳が分からなかった。おにぎりがほしいのなら、手で取ればいいのに、どうして、口で直接食べようとしているのか理解できなかった。


何ものかはおにぎりを食べ終えると、満足したのか、走り去った。


彼女の全身が恐怖から解放されて、動けるようになるまで少し時間がかかった。


彼女は呼吸を整えて立ち上がった。そして、夜空を見上げた。満月が煌々と輝いていた。


満月だから、あんなおかしな奴が現れるんだと彼女は思った。


「あいつは、ルナティック」と、彼女はつぶやいた。