四十年目の復讐
彼はとくに体が小さいとか、勉強ができないというわけではなかった。ただ、少し人との会話が苦手で、クラスの中ではあまり友達がいなかった。
そんな彼は他のクラスメイトからは仲間はずれにされるようになった。とくに、ある人物からはあからさまに、いじめの対象とされた。ほかのクラスメイトも、なんとなく彼に対しては、侮蔑の目を向けていた。
彼はクラスメイトのいじめには耐えていた。どんにな理不尽なことを要求されても彼は、その要求に反発することはなかった。
彼の顔からは精気が消えていった。学校を休むことが多くなった。彼が家の中の自分の部屋の中にこもりっきりになって、ずっと考えていたことは、いじめている奴に対する復讐だった。必ず復讐するのだと彼は自分に言い聞かせた。
彼はたびたび学校を休んだが、なんとか小学校を卒業した。彼の復讐の相手は別の中学校に行った。しかし、彼の復讐心が消えることはなかった。中学生になっても彼は、奴に復讐することばかり考えていた。
学校が違うから奴に会うことはなくなったが、奴の自宅の場所は知っていた。彼は、奴の自宅の前を何度も通りかかった。偶然に奴に出会ったふりをして、ナイフで刺してやろうと思っていた。しかし、幸運というべきか、彼は奴の姿を一度も見ることがなかった。
中学三年生になると、高校受験のための勉強に没頭することになった。そして、奴のことは少しづづ忘れはじめていた。
高校三年間は、奴のことはほとんど忘れ、さらに、大学に進学すると、奴は、ただの小学生の時のクラスメイトという存在になっていた。
大学を卒業して彼は人並みにし就職をして、人並みに結婚した。そして子供が二人できた。中年という年齢に差しかかったころには、彼は勤めていた銀行の支店長代理までになっていた。
その彼の銀行が強盗に襲われた。犯人はフルフェイスのヘルメットをかぶって、窓口の行員にナイフを突き付けていた。銀行内に緊張が走った。銀行強盗に対する訓練をしていたから、ある程度はどうすればいいのか分かっていたが、実際に襲われると、訓練通りにはいかない。
窓口の行員は、ふるえながら、現金を手に持って犯人が差し出した袋に入れた。それでも犯人はまだ現金を要求した。
支店長代理の彼は、ちょうど得意先回りから銀行に戻ってきて、行員用の出入り口から銀行に入ってきたところだった。行員用の出入り口からは犯人の背中が見えていた。この光景に彼は、一瞬とまどった。これは訓練なのだろうかと彼は思った。しかし、訓練ならば事前に通告があるはずだった。
窓口の行員のうろたえている様子を見て、彼は訓練ではないことを理解した。
彼は、犯人に気付かれないようにそっと背後に回った。そして犯人をはがいじめにしようとした時、犯人が振り向いた。彼と犯人はもみ合うようになって床に倒れた。他の男の行員がかけつけてきて、犯人を取り押さえた。その時、犯人が手に持っていたはずのナイフは、犯人の左胸に刺さっていた。
彼は、息を荒げながら犯人のヘルメットを取った。彼は、その顔を見て、一瞬、呼吸を止めた。それは長い間忘れていた顔だった。いつかきっと復讐してやると誓ったあの記憶が蘇ってきた。犯人は彼をいじめていた奴だった。
期せずして、四十年の歳月をへて、彼は奴に復讐をしたのだ。