小説 介護される日々 -9ページ目

小説 介護される日々

介護される 介護する 寄り添う気持ちとともに。

今日も廊下を3往復歩いた。

これを毎日やっているから、足も動いている。

自分にはこのくらいがちょうど良い。


今日は娘が

「リハビリの人が書いてくれたよ。」と

どういう運動すると良いかが書かれた紙を持ってきた。


こんなの見てもわからんが、「ありがとう」と受け取っておいた。


「こちらから連絡するまではリハビリの人は来ないから

 これを見て自分でできるものをやってみて。」

と娘は言う。


そうか、もう来ないのか。

安心した。

「こういうリハビリも自分でやっていかないとな。」

と娘には話した。

それはわかっている。動かさないといけないことは。

だから自分でやりたいのだ。


医者が来るのは明日か、あさってか?

ケアマネというのは来るのか?今日は来ないのか?


人が来るとなると落ち着かないので、

イライラしてくる。

今日のところは誰も来ないとわかってホッとした。


娘が「歩く時はサンダルじゃなくて靴履いてね。」と言った。

そういえば今はける靴がない。

サンダルの方がすぐはけて便利だし。


娘は歩きやすい靴、探して見るねと言っていた。

いろいろ迷惑かけているな。


でも今日は静かに過ごせて本当に良かった。

毎日こうだと良いと心から思う。






ケアマネジャーといういつもの人と娘が来た。

この前リハビリで来た人は間違いだったらしい。


「こちらから連絡してから、と言ってあったのに

 連携が悪くて嫌な想いをさせてしまいました。

 すみませんでした。」とケアマネに言われた。


娘も「今度はちゃんと連絡して、来てもらおう」

と言っている。


しかし私はもうあんな想いはしたくないのだ。

ちょっとやったからって良くなるとも思えない。

あんな人にきてもらったって何も変わらない。


娘は今、リハビリをしていかないと歩けなくなってしまう、

つらいことはさせないで、とちゃんと言うから、と何度も言っている。


ケアマネも、娘さんやご家族の気持ちもわかるから、

本当に続けて頂きたい、と言うが最後には

「ご本人が嫌がっているのを無理矢理やることはできない。」と

帰って行った。


なんで自分の考えで決めてはいけないんだ。

思い通りに行かないことばかりだ。

往診の医者も薬もらうだけだから月に一度で良い。


静かにしていれば、別に支障なく生活できるんだ。

あんな過剰な運動まったく必要ない。


娘に「リハビリはかなり負担だ。過酷すぎる。30分以上やるんだ。無理だ。」

と重ねて言っておいた。

何度も言わないとわからないようだ。




突然、訪問リハビリをやりに来ました、という男性が来た。

娘の話では来週話し合ってから

今後を決めるということじゃなかったか。

急に変わったのか?


まあわざわざ来てくれた人に文句言ってもしょうがない。

部屋のベッドに横になってくれ、というので

その通りにした。


それから1時間近く、身体をこっち向け、あっち向けと言い、

足をあげろ、さげろ、

手を上、横、と運動させる。

動かない身体にアレコレ言われても無理なんだが。


言っても聞かないような人に見えたので、

だまって我慢した。


やっと終わって帰って行ってから

身体は痛いわ、疲れるわで腹が立ってきた。

なんなんだ、あれは。

連絡もしないで急に来て、

高齢な相手に向かって、ハードなことをやらせて、つらくてたまらない。


せっかく来てくれたと思って言わなかったが、

娘が来たらもう来るなと連絡させよう。


自分のことは自分が一番良くわかっている。

自分で考えて廊下を歩いたりしているんだ。

人が出たり入ったりするのはもうごめんだ。

静かに過ごしたいんだ。


なんでこの気持ちが理解できないんだ。





退院してから娘が毎日来ている。

消化の良いもの、という病院の指示を守るように

スープとか煮物とか何食分かを作って持ってくる。


母さんは食事をあまり作ってないようだ。

まあ年だから仕方がないな。


娘が来ると何時間も母さんもおしゃべりしているから

嬉しいのだろう。

私ではおしゃべり相手にはならないからな。


娘が来ている時は部屋でゆっくり本でも読んでいよう。

その方は気楽にしゃべれるだろうし。


それにしても

また入院にならないように食べ物には気を付けないといけないが、

せっかく家に帰ってきたんだ。

刺身とかも食べたいもんだ。

明日は母さんに買ってきてもらおう。


娘が部屋に来て言う。

「来週、ケアプラザの人が来ますから、

 リハビリや訪問診療の日を決めようね。

 私も同席するから。」


もうそういうのはいい、と思ったが

娘の立ち場もあるのだろう。

まあ来週また話せばいい。

今日は「わかった。」と言っておいた。



入院して10日、やっと退院の日が来た。

病院の朝食を食べた後、着替えて荷物をまとめた。


母さんと娘がやっと来た。

遅い。もうとっくに支度できているのに。


娘が清算や処方箋の退院手続きをした。

母さんが「娘が来てくれて良かった。

私一人ではもうぼけてしまって何もできないわ。」と言う。

そんなこともないだろうが、娘がやってくれるのは有難いと思う。


ナースステーションに挨拶をし、久し振りに外に出た。

大通りに出てタクシーを拾う。


昼前に家に帰ることができた。

あ~本当にほっとする。

もう入院はこりごりだ。


医師からの説明を文章にしたものを娘から渡される。

生活の注意点なども書いてある。

母さんに「よく読んで」と手渡した。


帰宅したとたん、訪問診療のクリニックやケアマネから電話がある。

いつから診療するか?いつからリハビリやるか?とうるさく言われる。

退院したばかりだというのに。


来週にしてくれ、しばらく静かに生活させてくれ。

退院したてなんだぞ、と娘に言う。

娘が電話口で返事をしている。


家で元の生活に戻れればそれでいいんだ。

母さんと二人で静かな生活をすることが唯一の望みなんだ。

人が来るのは好かん。