小説 介護される日々 -8ページ目

小説 介護される日々

介護される 介護する 寄り添う気持ちとともに。

今日は新しい医者が来るという。


前の医者はもう来ないらしい。

娘がケアマネに言って替えてもらったのか。

それとも医者の方が断ってきたのか。

わからないが、薬はちゃんと出してくれる医者なんだろうな。


一度、ぼけ専門の医者の所へ行けと言われたが、

冗談じゃない。

まったくそんな扱いをされるとは情けない。

「奥さんと二人で。」とバカにしている。


今朝は朝から腹痛がする。

早く医者が来てほしいのだが、

娘がその病院やケアマネや前の医者や

あちこちに電話している。

医者を替える手続きに手間取っているようだ。


なんだかわからないが、医者はいったいいつ来るんだ。

腹痛がどんどんひどくなるようだ。

早く傷み止めをしてほしい。


夕方になってやっと医者と看護師が来た。


やっときてもまずは説明・

契約書にサインくて、となかなか診ない。


娘が書類を書いてやっと診察開始。


腹痛は相変わらず、気分が悪い。

水分を取るように言われた。白湯が良いということだった。

とにかく痛みを取りたいと言ったが、注射はしなかった。






今日は銀行の担当者が書類を持ってくると言っていたが

この時間になってもまだ来ない。


どうしたのか。


来ていた娘に「銀行はどうした?」と聞くと

「午前中に来たじゃない。

 書類書いて渡したでしょう。」と言われた。


銀行に言いたい事があると思っていたのに、

来たのか、もう?


「他の銀行に変えるとか文句言っていたじゃない。」と娘が言う。


ぼけたか、私も。


娘が帰ったあと、印鑑がないことに気づいた。

いくら探してもない。

誰かに持って行かれたか!


一応娘に「印鑑知らないか」と電話みる。


「お父さん、印鑑はさっき左の引き出しにしまっていたよ。」

引き出し?

机の左の引き出しをあけたら印鑑があった。


娘に「あった。すまなかった。」と電話で言った。


今日は疲れることばかりだ。

誰か来るとか来ないとか、

大事なものがなくなるとか。

なんだっていうんだ。


やはり母さんとふたりで静かにやっていくのが良いんだ。

望みはそれだけなのに、騒々しいことばかりで嫌になる。




往診の医者が来た。

訪問診療という制度だと言う。


看護師と医者が二人で来て、

まずすることは自分達の手を消毒することだ。

診察途中も何度も手をぬぐっていた。


やることと言ったら脈と血圧を測るくらいで、話もしない。

こちらの顔もあまり見ない。


まあ面倒なくて良いと思えば気が楽だ。

薬だけ出してもらえれば良いんだから。


薬はずっと前から変わらない種類の薬だ。

これがたくさんあって、今やどの薬が何のためなんだか良くわからん。

毎食後に飲むのもやっと、という感じになってきているが、

しょうがない。

今の暮らしをずっと続けていくには必要なことだ。


医者が帰ったあと、少し腹痛がしたので、

横になった。

夕飯はおかゆにしてもらおう。


腸閉塞が心配だが、医者は何にも言ってなかったし、

少し休めば大丈夫だろう。


そういえばそろそろ銀行に記帳に行って、金もおろしておかないと。

娘に通帳と印鑑を渡して頼むか。

母さんには無理だろうし。





今日は秋らしい天気で気持ちがよい。

ベランダに出て景色を眺める。

この家ももう30年以上住んでいるが、

周りの様子はずいぶん変わった。


近所につきあいのある人もいないが、

住み慣れた場所だ。

見慣れた景色は安心する。

目をつぶっても動ける家の中だから、

足が悪くなっても大丈夫だし。


今日は娘が来て昼ごはんを母さんと3人で食べた。

寿司を買ってきてくれた。

久しぶりなので美味しかった。


昔の話をずいぶんした。

サラリーマン時代の楽しい思い出、大変だったこと。

母さんと小さい社宅で生活をスタートさせたこと。

そして子どもの頃住んでいた下町。

今はどうなっているのだろうか。


すると娘が昭和の写真をインターネットで探してくれた。

懐かしい風景が出てきて、

母さんと「ここに行ったな。」「この向かいに食堂あったわね。」と

古い景色を思い浮かべていた。


二人でいろいろ思いだして、

娘が帰ったあとも子ども時代の話に花がさいた。





今日は母さんが美容院へ行ったので、

買い物してくるだろう。

刺身を買ってくると言っていたかな。

生のものはたまにしか食べられないから

楽しみだ。


昨日は娘が来て

手すりや風呂で使う椅子とか楽に履ける靴とか

カタログや写真で必要性を説明していた。


廊下の手すりはまだ大丈夫だ、と話した。

壁を伝って行けば私も母さんも危なくない。


風呂も手すりはいらないが、

浴槽に入るのに足があがらないと言ったら

椅子があるといい、手すりを付けるといい、と言っていた。

まあまだ大丈夫だ。


靴はサンダルで歩くのは自分でも危険な気がするので、

時々は靴を履いている。

昔から履いている靴だが、履くときがちょっと大変な時もある。


履きやすくて軽い靴があるから、買ってくると娘が言っていた。

母さんにも見てくるから、ということだった。


この次来るときは寿司が食べたい、と言ったら

「また?毎週食べているけど飽きない?」と言われた。

そうだったかな。


でも母さんも私も寿司が好きだから、いいんだ。