小説 介護される日々 -4ページ目

小説 介護される日々

介護される 介護する 寄り添う気持ちとともに。

退院の日となった。

長かったと思ったが、二週間とちょっとだった。


少しでも早く帰りたい。

母さんに電話した。

「もう支度できてるんだ。早く来てくれ。」


しばらくして母さんが娘と一緒に来た。


「お父さん、母さんが一人で来ようとしていたけど、

 早く来いって言ったの?

 母さんは一人でこの病院まで来るのは無理なのよ。

 私が家に行ったら、玄関のドアに『先に行く』と貼り紙して

 出ようとしていたんだから。

 間に合って良かった、本当に。」

と娘が怒って言う。


「電話してきたって、まだパジャマじゃない。

 これから清算してくるから、着替えていてよ。」

かなり怒りながら、病院の清算窓口のある下に行った。


請求書が出てくるのにも時間かかったようで

結局病院を出たのは11時過ぎになってしまった。

まあしょうがない。


帰宅早々、訪問診療の医者から電話があった。

「これから訪問診療の先生が来てくれるって。」

電話に出た母さんが言っている。


「退院した日に来るなんて非常識だ!

 疲れているんだから、そっとしておいてくれ!」


そうもいかないと娘が言うので、ゆっくりできる気分になれず

待っていた。


言われた時間よりだいぶ遅くなってから医者が来た。

脂っこいものは食べるな、薬は必ず飲め、柔らかいご飯にしろ

消化の良いものを食べて満腹にならないようにしろ、

といろいろうるさく言っていた。


娘が

「入院先の担当のお医者さんはどう考えているんでしょうか?

 次入院したら手術だ、と念書を書かせたり・・・」と聞いている。


訪問診療の医者はこう言った。

「訪問診療を受けている人が自分で判断して入院するというのは 

 どういうことだ、と言われました。

 いつも診察していないのに、入院したい時だけきて治せと言われても

 ということらしいです。

 今度からは私に連絡してください。

 私が入院した方が良いかどうか、判断しますから。」



母さんに電話した。

「明日退院になったよ。

 清算もあるから、朝来てもらえるか?」


「退院決まったの?良かった!」


喜んでいた。良かった。

娘にも連絡してくれるだろう。

明日なるべく早く来てもらって家に帰ろう。

やっと帰れる。


部屋に戻ると、さっきゾロゾロと帰って行った中のひとり

知らないおばさんが戻ってきた。


「ご家族も今日来ていたのに、帰ってしまったんですか?

 一緒に説明聞いてもらえれば、退院の日もすぐ決められたのにね。」

などと言う。

誰なんだ?


「退院は明日にもう決まりました。

 今家族にも連絡しました。」と言うと

「え?そうなんですか?」と変な顔をしていた。


「どなたですか?」と聞くと

「今度担当になったケアマネージャーです。

 前の方から引き継ぎました。」と名乗った。

まったく知らない。

突然そう言われても、どうしたら良いのか。


「ここの病院は隣に老健ありますね。

 以前担当していた方がそこに入っていて、何回か来たことあるんですよ。 

 もう亡くなったんですけどね。

 じゃあ私はこれで。」


言いたいことだけ言って帰って行ったが、

今日は本当になにがなにやら、わからない事だらけだ。



「今度この病院に入院する場合は

 手術すると考えてください。」

医者は「手術」「手術」と繰り返す。


手術しないと入院できないということか?


「ご理解頂けましたら、

 この説明書にサインをいただけますか?」


ここのサインしたらどうなるんだ?

今度入院したら必ず手術することになるのか?

サインしないと退院できないというのか?

母さんに聞かなくて良いのか?母さんは手術はしないでくれと言っていた・・・


「腹痛も苦しいから

 頻繁になってきたら大変ですよね。

 手術した方が私も良いと思いますよ。」

訪問診療の医者が言う。


もうわからない。

退院できなければ困るんだ。

とにかくここから退院することができれば・・・ 

「サインします。」


「サインだけではなく

 今言ったことを書いてサインしてください。」


「なんて・・・?」


「次に入院したら手術します、と。」


「・・・わかりました。」

言われたとおりの文章を書き、サインした。

とにかく退院するんだ。ここから。


書き終わると書類を持って

また大勢がゾロゾロと帰って行った。


疲れてベッドで寝ていると看護師が来た。


「明日退院です。」と言っていった。

退院できるのか。良かった。

早く家に帰ろう。

母さんに電話しよう。退院を知らせないと。





レントゲンを今週は3回も撮ったがまだ退院できない。

もう五分がゆが6日間も続いてただ寝ているだけだ。

医者も説明に来ない。

看護師に聞いてもわからないと言うばかりだ。


レントゲン以外の検査もしないから、

良くなっているのもわからないんじゃないか?


今日は午後に訪問診療の医者が来て

この病院の担当の医者と話をするらしい。

どうすれば良いのか聞きに来るっていうのか?医者のくせに。

まったくどうなっているんだ。


ナースステーションに

「もう医者は来ましたか?話はしましたか?」と聞いても

なんの返事もない。

うるさい患者だと思わているだろう、きっと。


母さんと娘が来たが、

退院が決まってないと言うしかなかった。


ところが、二人が帰った後、

夕方遅くに病室にゾロゾロと人が大勢入ってきた。


この病院の医者、訪問診療の医者と看護師ふたり、

知らないおばさん、なんなんだ。


医者が口を開いた。

「ここのところ二カ月ごとに腸閉塞になって入院しています。

 このままにしておくと、この繰り返しがもっと頻繁になってしまいますよ。

 今度もし腸閉塞になってこの病院に入院というご意思ならば

 その時は手術をしましょう。」


手術?なんのことだ?

なんでこんなに大勢に囲まれてそんな事言われるんだ?



昨日は全がゆになって、退院も間近かと思ったのに

今朝はまた5分がゆに戻った。


どういうことだ?と看護師に聞いたら

「先生が説明に来ますから」という。


そのうち医者が来て

「レントゲンの結果があまり良くないので、

 もうしばらく入院して様子みましょう。」と言う。


「点滴しているだけで治療もしないんだから、

 もういいでしょう!

 ここにいても家で寝てても同じだ。

 退院させてくれ。」

と思わず声を荒げたが、医者は苦笑いして出て行った。


母さんが娘と一緒に来た。

退院のメドはまだたたない、と説明した。


「ひとりでだいじょうぶか?

 夜はひとりで寝られるか?」

と母さんに聞くと、「だいじょうぶ。」と言っているが、

たいぶ疲れているように見えた。


ちゃんと食べているかも心配だ。

娘がおかずを持って行っているようだが、

ひとりで食べる時は味気ないだろう。


母さんの様子を見ていたら

「帰りてぇよ」とつぶやいていた。