小説 介護される日々 -12ページ目

小説 介護される日々

介護される 介護する 寄り添う気持ちとともに。

いつも飲んでいる薬がもうすぐなくなりそうだ。

東京の知人のクリニックへ月に一度通っていたが、

ここ1年は足が悪くてそれも出来なくなっていた。

薬をなんとか処方してもらっていた薬局もなくなり、

どうしたもんか。


そうだ。最近よく来る地域ケアプラザの人に

往診する医者を紹介してもらおう。


電話すると、娘に連絡した、とのことだった。

なんで本人に聞かないで、娘に言うのか、と強く言うと

パンフレットを持って説明に来た。


往診というのではなく、訪問診療という制度らしい。

介護保険ではなく医療保険らしい。

良くわからないが、医者が来て薬をくれれば良いんだ。

早く来てもらってくれ、と頼んだ。


その夜、娘から電話があった。

訪問診療の話は進めているから、ということだった。


わりあい近いクリニックから来てもらえるように申込んだが、

先に家族の面談があるから行ってくる、ということだった。


ここでも本人ではなく、娘だの家族だのが話を決めるのか。


気に入らない。


書類だの申請だの言っているが、ただ医者に往診に来てほしいだけだ。



今朝から印鑑を探しているが、見当たらない。

銀行印とか実印ではないハンコだが、

気になってしょうがない。


誰か持って行ったんじゃないだろうか。


娘に電話してみる。

ハンコを持って行ったか、と聞いたら、

持って行ってないと言う。


娘のらしい嫁ぎ先名義の印鑑がここにあるから、

絶対に娘が間違えて持って行ったに違いないのに。


「とにかく探してくれ。」ともう一回電話した。


しばらくして娘から連絡があった。

「古い印鑑があるから、一応明日持って行く。」と。


やっぱり持って行ったんじゃないか。

間違えて持って行ったんだろう。


印鑑はなくなったら大変だ。

早く手元に返してもらわないと心配で心配でしょうがない。


翌日娘が印鑑を持ってきた。

全く違う印鑑jないか。

こんなのじゃない!と言ったが、それしか持ってないと言う。


娘は娘で違うことで怒っているようだ。

「穴のあいたシャツなんて着ないで。」


シャツに穴があいているなんて、全く気が付かなかった。

印鑑のことで頭がいっぱいだったんだ。

今日はたまたま、そこにあったからこれを着ただけだ。

そんなことあるだろう、誰だって。


もともと着るものなんて気にしてないんだ。

いつから?

ずっと昔からそうだったよ。


今日、区役所から認定員という人が来た。

地域ケアプラザの人も来た。


質問をたくさんするので、答えてください、とのこと。

「失礼なことも聞くかもしれないが、決まりなので許してください。

 先にあやまっておきます。」とまず言われた。


確かに、

「今日は何月何日か?」

「季節はなにか?」

「食べること、寝て起きることはできますか?」

などというバカにしているのか、と言いたくなる質問が多い。

先に「あやまっておきます。」と言われてなければ

怒ってしまったかもしれないな、と思った。


イスに座って片足ずつ持ち上げたり、手を握らせたりもした。

脚力や握力を見ているようだ。


母さんにも同じように聞いていた。

一人分いくつ質問するのか聞いたら 78問だという。


こんなことで何がわかるのか、と思っていたが、

わざわざ来てくれているので、我慢していた。


廊下に手すりをつけると良いのでは?とも言われた。

足が悪くても家の中は普通に歩けるし、

廊下も壁に触っていれば大丈夫なので、「必要ない」と答えた。


普段は静かな老人二人暮らしなのに、人がたくさん来て

あれこれ言われて

本当に疲れた。


でもこれで済んだから、当分は何も言ってこないだろう。

やれやれだ。




クリニックへ行った帰りに近くの薬局で薬をもらった。

なかなか順番が来ないし、処方箋の薬ぜんぶが揃わない。

全く今日はイライラすることばかりだ。


大きい道路に出てやっとのことでタクシーをつかまえて帰宅した。

足は痛いし、一日アレコレやらされて疲れた。


娘から翌日電話があり、来週こういうことがあるから、と伝えられた。


つまり、地域ケアプラザというところの人が来て、

さらに区役所からも認定員というのが来るらしい。


なんの認定か?と聞くと介護保険の認定ということだった。


人がたくさん来るのも嫌だし、

介護認定を進める気もない。

まったく我慢ならない。


「そんなこと聞いてない!」と娘に電話で文句を言った。


2,3日後に娘から手紙が来た。

介護保険のしくみについて、地域ケアプラザの人の説明、

今度来る区役所の認定員ってなんのための人か、などが書いてあった。


レポート用紙に何枚も、絵や図を入れて書いてある。

しょうがない。

その認定員が来ることはしょうがない、と思った。


娘に電話してその日は待っているからと告げた。




クリニックは満員だった。

娘に連れられて母さんと3人で狭い待合室で待たされた。


1時間以上待ったあげく、

身長だの体重だの、たいしたこともしないので、

思わず「こんなに待たせて」と言ってしまったが、

娘に「大きな声でそんなこと言わないで。」とたしなめられた。


廊下のはじっこの狭い所で服を脱いだり着たりして、

本当に疲れる。


診察室に呼ばれたのはさらにその1時間あとだった。


こんな大変な思いをして、せっかく医者に来たので、

足を診てもらって薬をもらおう。

「どこも悪いところはありません。足が痛くて歩けないから薬をください。」と言った。


医者は聞いているのか聞いてないのか、

一緒に診察室に入った娘に質問をしながら書類を書きこんでいる。


「足がかなり悪いから、なんとかしたい。」と重ねて訴えてみた。


医者は「往診してもらえるようにしましょう。介護保険申請をしますね。」

と言って、それで終わった。


母さんも診察してもらっていた。

こちらも娘が一緒に行って説明したようだった。

母さんはどこも悪くないから、診てもらう必要もないのに。


とにかく疲れた。医者にはもう来たくない。