小説 介護される日々 -13ページ目

小説 介護される日々

介護される 介護する 寄り添う気持ちとともに。

今日は介護申請のために病院へ行かなくてはいけない日だが・・・


足は痛いし、外に出るのは困難だし、

なにより誰かの助けなんていらない毎日なんだから、

なんでわざわざ・・・


でも娘も病院に問合せしたり、仕事も休んで来てくれるというし。


行くだけ行くか!


自分がちょっと我慢すれば良いんだ。


娘が来た。

「お父さん、体調はどう?足痛い?」と聞いてくるので、

「まあとにかく一度は行かないとならないんだから、

クリニックへ行くか。タクシーで。」と答えた。


娘は安心したように、母さんと一緒に支度し始めた。


保険証がないとか、診察券がないとか、

タクシーは何時に来る、とかやっていたが、

なんとか出発できた。


杖をつけば歩くのも大丈夫そうだ。


久しぶりに外に出た。

車の窓から見る景色も見慣れたものだが、季節が変わっていた。

そういえば、4カ月前には大きな地震があったんだったな。

最近はとても調子が良い。

母さんも私も穏やかに過ごしているので、

何も不自由もなく、このままで充分だろうと思う。


娘に電話して介護保険の申請はまだ必要ないから、

あさっての病院もキャンセルしてくれ、と連絡した。


なにしろ私達は普通の暮らしをしていて

全く問題ないのだから。


娘には「足が痛い」ことも加えて説明した。

外に行くことはできない、と。


ちょっと間があって、娘は静かに言った。


「おとうさん、足が痛くて外に出られないというのは

 手助けが必要になるかもしれない、ということだよ。

 私も一緒に行くし、タクシーで5分で行ける所だから、

 一度行ってみようよ。」


娘の言っていることもわかるような気がした。


でも医者に行く必要は感じないし、なにより面倒なのだ。


「必要ない!」と言って電話を切った。



介護申請をすることになった。


娘が昨日手続きの説明をしに来たのだが、

開口一番

「お母さん、どうしたの?その顔のあざ!」と言いだしたのだ。


言われてみれば

母さんの顔の左側の頬があざになって腫れている。


本人は「え?そうお?」と言って気にしてないようだ。

私も全く気付かなかったが、いつのことだろう?


外で転んだのかな?と聞かれたが、

自分のことじゃないんだから、わからない。


そういえば風呂で倒れたこともあったな、母さん。

いつだったか。


そんな話をしていたら、娘は

「やっぱり介護申請だけでもしよう。

 来週病院へ行って、書類を作ってもらうようにします。」と宣言した。


こういう流れでは断るわけにも行かず、

来週近所の医者まで行くことになった。やれやれ。



6月の終わり、娘が役所の人を連れて来た。


娘の説明によると区役所の人ではなく

介護保険の説明をする人だということだった。

この地域の担当というのがあるらしい。


そういうセンターが近くにあり、

「そこから来ました」と本人も言っていた。


とても元気な女性で、わかりやすく説明してくれて

介護保険とやらが、少しわかった気がしたのだが、

最後に「介護申請しましょう。」と言われたのだ。


なんのために誰が何処に「申請」するのか?

今までその説明をしていたのだろうか。


とても面倒なことになりそうな気がして、

「大丈夫です。まだまだ我々は何も困ってないですから。」

と断ったのだが、

娘も一緒になって「困ってからでは遅いから」と進めてきた。


娘も区役所に行ったり、そのセンターに行ったりいてくれていたというから

ここは言うこと聞いて手続きした方が良いのだろうか。


でも必要ないものに煩わしい思いをするのも嫌だし。


せっかく来てくれたセンターの人にも悪い気もするが。


とりあえず、「じゃあ申請する方向で考えてみますから。」と

答えておいたのだが、

娘は「イエス」と受け取ったのか、手続きの手順を確認していた。


まあ娘には後から電話して断れば良いな。










5月ごろから娘は以前より頻繁に来ている。


「介護保険」というものの説明を毎回していく。


医療保険と同じようなものなのか?

それとも生命保険みたいなものなのか?


国が年寄りの面倒を見るための制度?

いつ出来たんだろう。

そういえば新聞やテレビで聞いたことあったような気がする。


書類やパンフレットを見せられたが、

動けなくなった年寄りのためのもので、私には関係ないようだ。


娘は母さんと商店街で待ち合わせをして

買い物を一緒にしたあとに、我が家で昼ごはんを食べてしゃべっていく。


本や雑誌などは娘に頼んで買ってきてもらうことも多くなった。

私は足が悪くなって、外に出るのが難しくなったのだ。

いつからだろうか。

先月くらいからかもしれない。


でも食べることをはじめ、生活するのに何も困ってないので、

老夫婦ふたりでやっていくのが一番。


今までと何も変わっていないし、

まだまだ二人ともちゃんとしている。