ご覧になる前に...

こちらは 先日のラブコラボ研究所『メロキュン☆卒業レポート』として
提出した「卒業」の蓮サイドのお話になっています。

まずは、「卒業」のほうを、先にご覧いただくことをお勧めします。
「卒業」をお読みいただいてからでないと、??なお話になっております

「卒業」はこちらから..↓

   卒業1  卒業2  卒業3  卒業4

原作者様、原作とは一切関係ございません。
原作の設定、お話の進行から浮かんだ妄想をまとめたものになっています。
原作と異なる点、原作ではありえないこともでてまいります。


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( 卒業 side:蓮 1  の続きになります )


「紅...か... まさか、この名を再び使うことになるとはね」



”紅”は、蓮がまだ幼い頃に使っていた少女モデルとしての名前だった。
かの少女が妖精と見間違えるほどの母譲りの美貌を周囲が放っておくはずもなく、
蓮は身元を隠しジュリエナの遠縁ということにして”紅”を演じていた。
最初の頃こそ「小さなジュリエナ」と誉められてうれしくて
楽しんでいたモデルの仕事だったが、仕事を重ね自我が育つにつれ
自分に求められていることは母のコピーであることに悩み苦しむようになった。
そして、蓮は 体の成長を理由に”紅”を封印した。


   でも今は、紅を演じることに喜びさえ感じてる。
   君が俺を闇から救ってくれたからなんだよ..
   君が絶賛してくれたあのアルマンディのCMだって、
   君が背中を押してくれたようなものなんだ..


カイン・ヒールとしての仕事が終わってすぐ、
蓮は社に相談し、ある企みを実行に移していた。
その動きにローリィが気がつかないはずもなく、
ある日、蓮は社長室に呼ばれることとなった。


「すまんな、蓮。こんな遅い時間に呼び出して。
 社には聞かせられない話なのでな」

そう言って、ローリィは蓮に書類を手渡した。
表紙の文字を一瞥した蓮に怪訝な表情が浮かぶ。

「アルマンディ25周年記念CM?
 社さんに知られたらまずい内容なんですか?」

「まぁ、読んでみろ。話はそれからだ」

蓮はソファーに腰掛けると、渡された書類に目を通し始めた。
最後の1枚を読み終えると、テーブルに書類を置き、立ち上がった。

「もう遅いので帰ります。では」

「まだ話は終わってないんだがな、蓮」

「俺は男ですよ?
 ジュリエナのCMのリメイクに女装した俺を使うなんてふざけてる」

「お前はアルマンディと専属契約を結んでいる。
 ドレスは着ない、という特約はなかったと思うがな。
 アルマンディがそれを望むなら、お前は断ることはできない」

ローリィは蓮に座るように促し、にやりと笑う。

「最上君は、性別を超えて、立派にクオンを演じきっていたぞ。
 お前、その最上君の先輩面するくせに、これをできないと?」

愛する娘の名を出された蓮は、ローリィを睨みつけた。

「あれをひきあいに出すんですか?
 最上さんは、ああいう体格ですから少年の役もこなせるかもしれませんが
 俺は、この体型ですよ?
 どこをどうすれば女性に擬態できるんです?」

「ああ、それなら心配は無用だ。そこはテンが解決する。
 それにな、蓮。
 今のお前になら、演じられるんじゃないか?成長した”紅”を。」

唐突に、ローリィの口から飛び出したその名に、蓮は目を見開いた。
そんな蓮を鼻で笑い、ローリィは続けた。

「黒蜥蜴、ラ・カージュ・オ・フォール、サド侯爵夫人...
 お前が最近観劇した演目だ。そして、これに共通するのは..
 主人公を女装した男性が演じていること。

 もうひとつ。
 お前、ボイストレーニング始めたんだってな。
 トレーナーに話を聞いてきたよ。女声まで出せるそうじゃないか。

 蓮、お前... 
 また、”紅”をやってみたくなったんじゃねぇのか?」

じっと自分を見据えたままのローリィから視線を外せずにいた蓮だったが
観念したように口を開いた。

「全てお見通しなんですね。そうです。そのとおりです。
 今の”敦賀蓮”にはカインのような、”敦賀蓮”の色から外れたオファーは来ません。
 脚本が作られる前から、俺が演じることを前提に
 アテ書きされるものがほとんどになってしまいましたし。
 ”敦賀蓮”の色を全く要求されないカインを演じることはとても楽しかった。
 敦賀蓮の名前を外すことで、役作りも自由にできた。
 敦賀蓮ではなく、役そのもので見てもらえることがうれしかったんです」

「ふんっ もっともらしいこといいおって..
 直接の理由は最上君だろうが?
 彼女が、役によって自在に自身の色を変えるのがうらやましくなった..
 ってとこじゃねぇのか?
 まぁいい。お前のそんな顔を見るのはずいぶん久しぶりだ。
 そういうことなら、今回の件、悪い話じゃねぇだろう?
 もとより、アルマンディは敦賀蓮の名前は伏せておくつもりだったんだ」

「でも、どうしてアルマンディがその話を俺に?」

「ああ、それはな、このCMを撮るのってぇのが、トム・アレンだからだよ。
 ”紅”って名は、彼がつけたんだろう?
 どうだ?彼の前で演じるのが怖いか?」

ローリィは、蓮の反応を楽しむように視線を送った。

「逆ですね.. 彼の目に俺の紅がどう評価されるのか楽しみです」

「お前、最初言ってたことと、全く違ってるんだがな..
 で、社にはどこまで話してるんだ?」

「”紅”のことは、まだ話していません。
 俺の出自にまでかかわってしまいますから。
 ただ、演じる幅を広げたいからとしか..」

「そうか..ならばやはり、このCMは社抜きで進めるか。
 ハードワーク続きの彼には、人間ドックの予定でも入れさせよう」




アルマンディ25周年記念CMはその洗練された美しさで世間の評判を呼んだ。
画面の中の美女が蓮だとは、誰一人気づかなかった。
それどころか、蓮の演じた”紅”を蓮の熱愛相手だと報道するメディアも現れた。
蓮は、”紅”復活のきっかけとなったあの日のことを思い出し
笑みを深めた。


  最上さん.. 君のおかげなんだ。
  君がいてくれたから。

  俺はね、君が知らないところで、君にずいぶん救われてきたんだよ。

  だから今度は俺が君の背中を押す番だ。
  俺の腕に飛び込んでもらうために。

 
アルマンディ25周年記念CM第2弾に、キョーコが起用されることを
蓮はトムから聞いて知っていた。
トムはクーのホームパーティーでキョーコの映像を何本も見せられるうちに
すっかりキョーコのファンになってしまったらしい。
今の時点でアルマンディがキョーコに感じる不安は全くといっていいほどない。
だが蓮は、キョーコをもっと魅力的に仕上げるために
1週間の特別特訓をアルマンディに申し出たのだった。
もともとこの1週間は、紅として蓮もアルマンディに拘束されている。
トムも「キョーコの魅力が増すのなら」と
キョーコのエステタイムに”紅”の撮影を行うことにして蓮の申し出を快諾した。


  1週間だ。最上さん。
  ウォーキング、ポージング...俺の全てをかけて
  俺はこの1週間で、君を紅以上の最高のモデルに仕上げてみせる。
  これでまた、君の魅力が世間にばれて
  馬の骨を量産してしまうかと思うと癪だけど..
  君を手に入れるためにはしかたない。
  このアルマンディのCMが君を一流に押し上げる。


一週間もキョーコと一緒にいて、
紅の正体がバレてしまわないかとの危惧は蓮にもあった。
だが、キョーコから合鍵を受け取った翌日から、
蓮の熱愛報道が加熱して大騒ぎになった。
蓮はそれを利用することにした。

  まさか、熱愛の相手が俺本人だとはさすがに思わないよね?
  最上さんは俺が心変わりしたと思うだろうか?
  少しは...気にしてくれるだろうか?

紅についてのプロフィールをローリィからキョーコへ伝えてもらった。
アメリカ人であること。
ジュリエナに近い人間であること...
紅として最初に会うときに、蓮のイメージと重ならないように..
むしろ、ジュリエナがキョーコの脳裏に浮かぶように。
衣装もメイクも、そう意識したものにした。

そうして、”紅”として初めてキョーコと対面した蓮は
思わず彼女を抱きしめていた。


( 卒業 side:蓮 3 へ続きます )
ラブコラボ研究所も無事最終日を迎え、4月になってしまいました。
研究所は閉所されましたが、作品の数々は記念館に収蔵され
ス キ ビスキーのために公開していただけるとのこと。
風月様、ピコ様、sei様、研究員の皆様、
感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。


そして、駆け出し研究員の私の卒論にまでお運びくださった皆様。
ありがとうございました。感謝の気持ちを込め、side:蓮をお届けします。

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ご覧になる前に...

こちらは 先日のラブコラボ研究所『メロキュン☆卒業レポート』として
提出した「卒業」の蓮サイドのお話になっています。

まずは、「卒業」のほうを、先にご覧いただくことをお勧めします。
「卒業」をお読みいただいてからでないと、??なお話になっております

「卒業」はこちらから..↓ 

  卒業1  卒業2  卒業3  卒業4 

原作者様、原作とは一切関係ございません。
原作の設定、お話の進行から浮かんだ妄想をまとめたものになっています。
原作と異なる点、原作ではありえないこともでてまいります。

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まさか、こんな形で
最上さんから答えを得ることになるとは思ってもみなかった... 




真っ暗な部屋に戻ると、俺は深く息を吐いた。
こわばった彼女の笑顔が脳裏から離れない。


  「紅さんのようなひとと、おつきあいされるべきです」

  「境さんと神野さんだって、おふたりの釣り合いがとれてたから
   みなさんから祝福されてるんです。
   私なんかじゃ、敦賀さんの横に並ぶのは無理なんです。
   紅さんなら、みんな納得じゃないですか。」


君を諦めて、紅と付き合えって?
全く、君はわかってない。
そんなに簡単に諦められるくらいなら、とうに俺は諦めてたんだ。

雪花からこぼれる君のカケラが
俺を好きだと、
俺を男として意識していると訴えているのに気づいてからは
俺はもう、この恋情を抑えることはできなくなっていた。

この撮影が終われば、恋愛ごとに怯える君のことだ。
きっと俺から距離をとってしまう。
だから俺は 兄妹の演技から解放されてすぐ、
結婚を前提の交際を申し込んだ。

まぁ、すぐにOKがもらえるなんて期待はしていなかったけど
君の抵抗は想像以上だった。

君が俺を受け入れてくれるまで、ゆっくり待つつもりだったけど
他の男に微笑みかける君の姿に心がざわつく。
他の男の誘いに笑顔で応じる君に怒りがこみあげる。
君の想いは俺にあるはずなのに、なぜ?
君からの拒絶はいつも「釣り合いがとれない」「ふさわしくない」
じゃあ、どうすれば?どうなれば、君は俺の手をとってくれる?
俺の我慢も限界に近づいていた、そんな時だったんだ。



   「紅さんのようなひとと、おつきあいされるべきです」



君だけを想うと誓った俺に、
君は、君じゃない他の女を勧めるの?

俺はいつもの温和な先輩の顔を返すことができなかった。
だけどね、最上さん、
君が不用意に投げたこのカード、俺は無駄にはしない。
君をもう、逃がしてなんてあげない。

こわばったままの君から合鍵を受け取り、
別れを告げて その場から立ち去った。

「さよなら」

そう、さよならだ。

先輩と後輩の関係に別れを告げる。
次に"俺"が君の手をとるときは..



きみから拒絶の言葉を聞くたびに、俺は考えてみたんだ。
君が考えてる「釣り合い」ってものを。
キャリアこそ短いけれど、
すでに君はもう、女優としてもタレントとしても一流の域に近づいている。
あちこちで企画される、
いわゆる人気ランキングにも上位でランクインしている。
そんな君なのに、君は納得できないんだよね。
たとえ、映画祭で賞を受賞したとしても
君は謙遜の笑顔を浮かべ
俺を拒絶する言葉を口にするだろう。
いったい、どうすれば? 俺はずっと考えていた。
他人からの評価ではダメだ。
君が、君自身が評価して受け入れたことでないとダメなのだと。


  「紅さんのようなひとと、おつきあいされるべきです」


彼女の言葉をもう一度反芻し、携帯を手に取った。
”紅”として、君に会うために。

( 卒業 side:蓮 2 に続きます )
3 からの続きになります

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

特訓最終日。紅と過ごすのも今日が最後。
今朝はレッスン前に社長室に顔を出すように言われていた。

「最上さん?」

ローリィに簡単に報告をすまし、迎賓館へ向かう廊下で
ありえない人物から声をかけられた。

「おはよう、最上さん。朝から社長のところ?」

「あっ!敦賀さん、おはようございます。
 はい。朝一番でうかがうようにいわれまして、今終わったところです」

「そう。じゃ、またね」

蓮のあっさりした対応に、心が軋んだ。
すれちがいざま、蓮から漂った香りに凍りつく。

  この香り... 紅さんの...

ともに夜を過ごすふたりの姿が脳裏に浮かんだ。

  そうか.. 紅さんの言っていた止められない想いって..
  相手は敦賀さんだったんだ..






「キョーコ?大丈夫?疲れちゃった?少し休みましょうか?」

集中力の続かないキョーコを案じて、紅は椅子をすすめた。

「何か飲み物をとってくるわ。キョーコはそこで体を休めてて。ね?」



「お待たせ。レモネードにしたけどよかったかしら?」

反応のないキョーコに、紅は後ろからそっと近づいた。
小刻みに肩をふるわすキョーコを後ろから抱きしめた。

「泣いてるの? だめよ、そんな泣き方をしては..
 声を殺して泣くなんて.. 
 私じゃ、力になれない?」

「ごめんなさい.. ごめん.. ごめんなさい」

「どうして私に謝るの?
 キョーコは何も悪いことしていないでしょう?」

「ごめんなさい...」

「それだけじゃ、どうしてあなたが泣いてるのかわからないわ
 どうして私に謝るの?」

「私.. 紅さんを祝福してあげられない...」

「祝福?なにかお祝いしてもらうことがあったかしら?」

「私..紅さんのこと大好きなのに..
 紅さんには幸せになってほしいのに..
 敦賀さんには あんなことを言っといて..
 それなのに..
 今、とってもそれを後悔してて...」

「ん?敦賀さん?どうしてそこで彼の名が出るの?」

「今朝、社長室からの帰りに、そこで敦賀さんにお会いしたんです。
 敦賀さんにご挨拶したとき、敦賀さんから紅さんの香りがして..
 ああ、そういう関係なんだって思っちゃったら..もうぐじゃぐじゃで..
 おふたりの幸せを素直に喜べなくて..
 どうして自分じゃないんだろうとか..
 私、紅さんのこと大好きなのに..紅さんに嫉妬する自分が嫌...」

突然泣き出したキョーコにとまどっていた紅だったが
キョーコの話を聞くうちに笑みが広がっていく。


「俺は嬉しいよ、最上さん」


聞き覚えのある、だがしかし、ここで絶対に聞くはずのない声に
思わずキョーコは顔を上げた。
だが、蓮の姿はない。


   ああ、空耳まで聞こえるなんて..


「ね、キョーコ? もしかして、キョーコは蓮が好きなの?」

紅の言葉に、コクンとうなずく。

「ごめんなさい....」

「あやまるようなことじゃないわ」

「・・・・・」

「蓮が欲しい?」

「・・・・・」

「欲しいなら、そう言っていいのよ?決めるのは蓮だもの」

「もう紅さんがいるもの...」

「キョーコの気持ちが聞きたい。蓮のこと、好き?欲しい?
 どうして伝えずに勝手に諦めちゃうの?
 私は嫌よ?そういうの!」

キョーコを抱きしめる力が強くなる。

「ごめんなさい... 好き..です..」

「彼の愛が欲しい?」

恋敵のはずの自分にかけられた優しい声に、キョーコは思わずうなずいた。


「やっと言ってくれた。ありがとう。うれしいよ、最上さん。
 俺もキミからの愛が欲しい」


   やだ、まだ空耳が聞こえる..


「空耳なんかじゃないよ、最上さん」

その声に振り向いてみたものの
自分を神々しく見つめる姿はどう見ても紅で...


「へ??」

呆然とするキョーコに紅から出た言葉は....

「ごめん。騙してたわけじゃないんだ。そういう契約だったから..
 結果として、キミをだます形になっちゃったけど...
 おかげでキミの本心に触れることができた」

「敦賀さん?」

「昔、『小さなジュリエナ』って呼ばれてたのは本当。
 紅って名前で少女モデルやってたのも本当の話。
 幼い頃からジュリエナの近くにいたって言うのも本当。
 ジュリエナは... 俺の母なんだ」

「え!?」

「キミには話さなきゃいけないことがまだまだあるんだけど..」

「え?でも... 声は?その姿は?
 どうみても女性じゃないですか!?」

「あ、これはね、テンさん特製の補正下着のおかげ。
 男性と女性では体のラインが全く違うからね。 
 髪もメイクもテンさんにお願いしたし..
 声は.... 女声が出るようにボイストレーニング受けたんだ。
 今は、声優さんでも両方を使い分けできるひと、増えてるんだよ?
 知らなかった?
 さすがに喉仏は隠しようがないから、チョーカーでごまかしたけど」

「ひどいです.. 」

「うん....ごめんね、たくさん泣かせちゃった。
 でも、これでラブミー部からは卒業だね。
 愛を拒否していたキミが、俺を求めてくれたんだから..
 ね、最上さん、あの香水、俺のためにつけてくれる?」




それからのふたりのおはなしは、またの機会に....
いやいや、それはやめておきましょう。
砂糖山で遭難したくはないでしょう?

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

最後までご覧いただきありがとうございました
2 からの続きになります

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

紅の指導はとても厳しいものだったが、ポイントをついていて
指摘された箇所をすぐに修正するキョーコの勘の良さと根性で
目に見えて効果があがっていった。
それはもう、キョーコ自身が自分で自覚できるほどに。

朝早くから始まるレッスンを夕飯まで続け、食後はエステでメンテナンス。
ローリィの心遣いで整えられたお姫様ベッドに潜り込むと
キョーコは深く息を吐いた。

 よかった.. ここに来て。
 紅さんに会えて、レッスンしてもらって..
 毎日が忙しくて...
 ここなら..
 あのひとに会うこともない..

 それに...
 これでわかったもの。
 敦賀さんに抱きしめられて嬉しかったのは
 決して、決して、恋心などという愚かな心情からではなく!
 あの、人外の美しさがもたらす能力によるものだったのよ!
 だって、だって、紅さんに抱きしめてもらっても
 同じくらい.. いえ、それ以上に癒されているもの!
 もう、私ったら、どうかしてたわ。
 もう大丈夫!あれは一時の気の迷いだったんだわ!
 そう、きっと役が抜けきっていなかったんだわ

 ああ、そうだ!
 紅さんが使ってる香水、わけてもらえないかしら?
 紅人形を作って、その香水を使えば
 いつでもどこでも紅セラピーを受けられるじゃない?
 ナイスアイデアよ、キョーコ!

明日、紅にお願いしてみることに決めたキョーコは
ほにゃんと微笑むと眠りについた。



「あ、この香水?気に入ってくれたの? うれしいわ。
 もちろんよ、プレゼントさせて。
 大好きなキョーコがこの香りで私を思い出してくれるだなんて..
 なんてかわいいことをいってくれるのかしら!
 ああ、そうだわ。なら、一緒にこのチョーカーももらってくれる?」

「え?チョーカーって、その今、紅さんの使われてる?」

「そう、これ。最初の日にキョーコが誉めてくれたこれ。」

「え?でも、ジュリエナさんからもらった大切なものなんでしょう?
 頂けません!そんな貴重なもの!」

「大切なものだから..キョーコに受け取ってほしいの。
 大切で、大好きなキョーコに。
 断るなんていったら、私悲しくて死んでしまうわ!」

紅はキョーコを抱きしめると、耳元に口を近づけ囁いた。

「この香水はね、今度アルマンディから発売される新商品なの。
 『Present For You 今宵あなたのもとに』
 ね?意味深な名前がつけられているでしょう?」

抱きしめた腕を緩め、耳たぶまで真っ赤になったキョーコを確認すると
紅はいたずらっ子っぽく微笑んだ。

「まだ、純情さんには早かったかしら?」

「もうっ!紅さんってば!破廉恥です!」

「そう?そろそろあなたも そういうお年頃かしらって思ったのだけど」

「私は!私は恋なんてしないんです!そう決めたんです!」

「そうね.. 私もそう思っていたわ。だけど、だめだった..」

紅から微笑みが消えた。

「誰かを好きになるなんて.. 大切なひとを作るなんて..
 そんなことは私には許されないって思ってた。
 だけどね、キョーコ。
 好きになる気持ちを自分で抑えることなんてできないの。
 その人からどんなに疎んじられても、気持ちが向かうことを抑えきれない。
 その人の声を聞くだけで、姿を見るだけで心が震える。
 他の誰かに微笑む姿に嫉妬して..
 冷静でいられない自分をどうすることもできない..」

いつもと違う紅の様子にキョーコはなにも言えなかった。
沈黙を破るように、紅は口を開いた。

「キョーコには.. キョーコにはそういう人はいないの?」

自分を見つめる紅の瞳に射抜かれて、思わず本心がこぼれた。

「だから.. だから、逃げたんです。
 鍵を.. 何度鍵をかけても、私の心に入ってきて..
 これ以上好きになっちゃダメだって思ったから..」

紅に穏やかな笑みが戻った。

「そう.. キョーコにも、そういう人がいるのね。
 その彼のこと、まだ好き?」

「わかりません.. 」

「そう.. わからないの。
 その彼も、とんだ間抜けね。キョーコの想いに気づかないなんて!」

「いえ、そうじゃないんです。そうじゃなくて..
 ずいぶん優しくしてくれました。とても素敵なひとで..
 私にはもったいないひとなんです..」

「でも、あなたにこんな辛い思いをさせてる。
 やっぱり、バカ男だわ。」

そう言うと、紅はキョーコを包み込むように抱きしめた。
1からの続きです

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


よかったじゃない、キョーコ。
敦賀さんの目が覚めて。
遅かれ早かれ、こうなることはわかってたんだし。

別の私が私をなぐさめる。
それでも、ぽっかり空いた穴は埋まらない。


「おーい?最上さん? ちょっと、話聞いてる?」

椹はキョーコの目の前で手をひらひらとさせた。

「あ、はいっ! もちろんです」

慌てて反応するキョーコに椹は苦笑する。

「で、ね? 
 あれ、あのときは極秘プロジェクトだったから
 キミにも詳細をいえなかったんだけど..
 最上君、やったね!おめでとう!」

「へ??」

「ああああ、やっぱり聞いてないー
 だからね、こないだ決めたあの仕事、アルマンディなんだ。
 今評判の、25周年記念CMの第二弾!
 ああ、ただね、先方がいうにはね、
 キミという素材は申し分ないのだが、
 もっとアルマンディらしい動きが欲しい、と。
 で、ね? 最上君、アルマンディがキミのために
 1週間の特別特訓を施したいと。
 そしてこれが驚きなんだけど...」

椹はそこまで言うと、他に誰もいないはずの周囲を再確認した。

「いい?これ、まだ絶対に秘密だよ?
 このCMで、キミはあの紅さんと共演になる。
 で、その特訓を指導してくれるっていうのが..
 その、紅さんなんだ」


あのワイドショー以来、蓮と紅についての熱愛報道は各社ヒートアップしていた。
いつもなら早々にLMEが動いて鎮静化させるのに
ふたりの密会がスクープされることこそなかったものの
蓮が宝石店をお忍びで訪れたこと、
半年先にスケジュールになんらかの調整が行われたらしいことなどが
『熱愛』の言葉とともに、もっともらしく伝えられていた。

「いろいろと大変だろうけど..」

「いえ、ありがたいお話です。
 あんなに素敵なひとから直接ご指導いただけるなんて!
 ありがとうございます!不肖最上キョーコ、死ぬ気で頑張ります!」

おなじみの敬礼のポーズをとり、内心の動揺を隠すかのように
にっこりと微笑むキョーコに、椹の胸にも複雑な思いが広がる。

 たしかに、紅さんも素敵な女性だけど...
 蓮、いいのか?これで...





アルマンディから指定された場所は、ローリィの迎賓館だった。
加熱するメディアから逃れるために 紅は
アルマンディと懇意のローリィのもとにいるのだと、
ローリィ本人から聞かされた。
そして、彼女がアメリカ人であることも。
今はもう、この仕事をやめていたけれど
昔は『小さなジュリエナ』と呼ばれていたほどのモデルであったことも。

「彼女の実力は本物だ。1週間大変だと思うが
 この1週間が、きっと、キミの人生を変える。」

ふっと真顔になったローリィの言葉にキョーコは姿勢を正した。
そんなキョーコを見て、ローリイは微笑んだ。

「まあ、キミのことだ。心配はしとらんよ。
 むしろ、自分を追い込みすぎないように、な?
 ま、何か悩み事でもできたら、連絡してくれ」


この時間なら、と案内された先はバラ園。
「ほら、あそこですよ」と執事から指し示された方向を見ると..

  妖精の女王様だわ....

ベンチにもたれて眠るその姿は人外の美しさだった。
周囲の花々も、彼女を祝福し讃えてているかのようだ。
近づく人の気配に、睫毛が揺れまぶたが開く。

  うわぁ なんてきれいなひとなんだろう..

「きゃあああああああ」


あまりの美しさにぼーっとしていたキョーコは突然の出来事に思わず叫んだ。
キョーコは紅に抱きしめられていた。

「ああ、キョーコ!会いたかった!」

  こういうところもジュリエナさんっぽいんだわ..

キョーコは、そんなことを思いつつ、
今まで張りつめていた気持ちが徐々にほぐれていくのを感じていた。

  ああ、敦賀セラピーみたい...
  人外の美しさをもつ人って、そういう力を持つものなのかしら?
  きもちいい.. このままこうしていたい..かも...

紅の甘い香りに包まれてキョーコは夢の世界にいた。

「キョーコ?だいじょうぶ?」

知らない声にはっと我に返ると、至近距離で自分を覗き込む妖精の女王様。
思わず叫びそうになる口を紅の手が止めた。

「ああ、驚かせてごめんなさい。
 1週間ここであなたと過ごす紅です。よろしく」


(3 に続きます)


たくさんの作品に出会う機会を提供してくれたラブコラボ研究所も
いよいよ最終日を迎えることになりました。
ずっと読み専でしたが、感謝の気持ちをこめて、
卒業レポートを提出させていただくことにしました。

すでにもう恥ずかしくて逃げ出したくなっているのだけど
「もっとがんばりましょう」のスタンプを頂戴いただけるとうれしいです。

風月さま、ピコさま、seiさま、所員のみなさま、
素敵な作品の数々に巡り会わせてくださって、ありがとうございました。


ご覧になる前に...

原作者様、原作とは一切関係ございません。
原作の設定、お話の進行から浮かんだ妄想をまとめたものになっています。
原作と異なる点、原作ではありえないこともでてまいります。

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


「卒業」 1


ヒール兄妹としての生活を無事?に終えたキョーコだったが、
恋心を隠し通すということをすっぱりとやめた蓮から
連日、猛アタックを受けていた。

ラブミー部部室で、ぐったりと机に突っ伏すキョーコに
琴南は呆れ顔だ。

「アンタ、まだ、OK出してなかったの?
 いつまで敦賀さんに”お預け”するつもり?」

「だって..
 きっと、一時の気の迷いに決まってるもの。
 そうよ、そう!ずっと一緒にいたから、情が移ったっていうか、
 ほら、胃袋をつかまれたっていうか、
 敦賀さんが好きなのは、私じゃなくて、私が作る料理で..」

「ほら、また、そういうことを言う。
 敦賀さんがそんな軽い気持ちじゃないことくらい、
 アンタが一番わかってるくせに」

たしなめるようにいう琴南に、キョーコは顔を曇らせる。

「あ、ほら!モー子さん!
 そろそろ時間だからテレビつけなきゃ!」

「ああ、社長から視聴を義務づけられちゃったワイドショーの時間ね。
 もう、なんだって、あんなの見なきゃいけないのかしら
 『君たちはもっと、自分たちの言動がどう伝えられるか考えるべきだ』
  ...ですって?
 ちゃんと考えてるわよ、もうっ!
 嘘をついたり媚売るのが嫌いなだけよ!」

キョーコは琴南の関心が自分からローリィに移ったことに安堵すると
テレビのチャンネルをあわせた。
とたんに、甲高い興奮気味の声が飛び込んでくる。

 :::::::::::::::::::

「さて、今日は朝からビッグニュースが舞い込んできました。
 なんと、酒井正人さんと神野美穂さん電撃入籍です!
 酒井さんが神野さんに猛アタックをかけてのゴールイン!
 おめでとうございます。
 いやもう、酒井さんといえば微笑みの貴公子。
 あの笑顔で押し切られたら、さすがの神野さんも陥落してしまうのは
 しょうがないっちゃしょうがないですよねー
 おふたりとも演技に定評のある実力派。
 街の声も、おふたりを祝福していました。
 さて、と...
 微笑みの貴公子がとうとう独身を卒業してしまったわけですが、
 みなさん!残る独身といえば、この人ですよね!?
 春風のプリンス、抱かれたいNo.1の敦賀蓮さん!
 こちらも、もしかしたら、もしかしたら..ですよ?」

「え?もしかして、
 今まで全くといって恋バナのでなかった敦賀さんに初ロマンスですか?」

レポーターからもたらされた情報にスタジオがざわめきたつ。
画面に大きく『敦賀蓮、話題のCM美女に熱烈ラブコール!』と表示されると
レポーターは得意げに鼻を膨らませ、フリップを取り出した。

「こちらは先日からオンエアされている
 アルマンディ25周年を記念して作られたCMに起用された紅(KOU)さん」

「あ、その女性なら僕も知ってる!今、一番の話題の人だよね。
 俺、このひと大好きなのに、なに、もう、敦賀君のなの?」

「はい、まずはその話題のCM、アルマンディ25周年記念CM
 第一弾「あなたに 欲しいと言わせたい」をご覧ください。
 このCM、今はあの、クー・ヒズリの奥様となっているジュリエナの、
 クーとの出会いのきっかけともなったアルマンディのCMを
 今回、25周年を記念してリメイクされたものなんですが..
 どうです!この気品!この憂いを帯びた微笑み!
 この話題の女性なんですが、名前以外の経歴や出身などについては
 非公開の謎の美女!そこで我々はもっと情報を得るべく頑張りました!
 アルマンディといえば、敦賀さん!ですよね?
 で、お話をうかがいにいったところ、
 『彼女にお会いできるのなら、ぜひお会いしたい』と!」

「え?それだけ?」

「これだけのコメントと思って見過ごしちゃ素人ですよ?
 今まで同じようなコメントを何回も求めましたけど、
 敦賀さんといえばレポーター泣かせ。
 いつも、そつなく質問をかわして
 『会いたい』なんてこと言ったことないんですから!
 彼に『会いたい』と言わせるほどの女性だということなんです!」

司会者からの疑問を受ける形で説明するレポーターに、スタジオの皆がうなづく。

「いい女だもんなぁ..さすがの敦賀君も陥落か」

司会者も納得顔でうなづく。

「この記念CMは第一弾!ということですから..
 もしかしたらもしかして、ジュリエナとクーのように第二弾で敦賀さんと共演!
 そして結婚!ってことも...」

゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

プチっ!

琴南は黙ったまま、テレビの電源を切った。

「気にすることなんかないわよ、キョーコ。
 どうせ「やれやれ、あんな使われ方をするんじゃ、もうなにも言えないな」」

途中から割ってはいった声に、琴南が振り向いた。

「あら、ご本人の登場ですか」

「ね、最上さん、あんな扱われかたしちゃったけど、あれは..」

「いいんです!敦賀さん。
 私なんかにそんな弁解めいたことしてくださらなくても。
 敦賀さんと私は、そういう関係ではありませんし..
 その...
 敦賀さんも、私をからかって遊ぶのを卒業してですね、
 紅さんのようなひとと、おつきあいされるべきです」

「俺は、最上さんがいいんだけど」

「何度もお返事してますけど、ダメです。
 私じゃ、釣り合いません!」

「釣り合うって、なにそれ。俺の気持ちは無視なの?」

「あんなに素敵なひとのそばにいたら、きっと敦賀さんも大好きになります」

「最上さんは俺の気持ち、そんな程度に考えてたの?
 俺が、そんな人間だと?」

「境さんと神野さんだって、おふたりの釣り合いがとれてたから
 みなさんから祝福されてるんです。
 私なんかじゃ、敦賀さんの横に並ぶのは無理なんです。
 紅さんなら、みんな納得じゃないですか。」

蓮から表情が消え、場が凍る。

「そう.. それが最上さんの答え?
 前言撤回するなら、今だよ?」

うつむいたまま、何も言葉を返せないキョーコに
蓮は静かに続けた。

「ああ、そう。わかった。
 そうだね、俺もいいかげん、卒業しないとね。
 最上さんは、アルマンディのCMをはれるくらいのキャリアがないと
 俺と釣り合わないって言うんだね。
 わかった。そうさせてもらうよ。キミの言うとおりにするよ。
 渡してた合鍵、返してくれる?
 俺、今夜から仕事でしばらく帰れないんだ。
 キミのことだから、俺がいない間にキミの荷物運び出しちゃうだろう?
 それは許さないから....
 俺のいるときにちゃんと挨拶してからにして」

キョーコは蓮に視線をあわせないまま
差し出された手のひらに鍵を乗せた。
瞬間、蓮の指が彼女の手をつかみそうな動きを見せたが
渡された合鍵を受け取ると
「さよなら」と、ひとこと残しただけで部室を後にした。




合鍵を返したあの日から、蓮からの電話もメールも途絶えた。
移動先やLMEでもたらされていた”偶然の出会い”は
蓮自らが望んだからこその”偶然”だったのだと思い知らされた。

「まだ、たった一週間しかたっていないのに..」

週刊誌を飾る蓮の写真にキョーコはつぶやく。

「こんな気持ちになるなんて...
 こんな気持ちで会いたくないのに...
 次の現場、敦賀さんがゲストだなんて..」

そんな気持ちをけどられないように笑顔を貼付け、
蓮の楽屋に挨拶に向かう。

「敦賀さん、おはようございます。
 今日はよろしくおねがいします」

「ああ、最上さん、ひさしぶりな感じだね。
 今日はよろしくね」

それだけで終わった楽屋でのやりとり。
キョーコは蓮の気持ちがもはや自分にはないことを悟った。



(2へ続きます)

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いやもう、自分の構成力のなさに泣いてます

お世話になっているメロキュン研究所が、3/31に閉鎖することになりました
最後は研究員一同でお祭りの様に盛り上げていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします。

入所させていただく前から、すてきなお話をたくさん読ませていただいて
なんのご恩返しもできないままで恐縮ではございますが
最後のお祭り、楽しいひとときを一緒に過ごさせていただける幸せを堪能したいと思います。

入所のタイミングを外して残念に思ってるみなさまも、いらっしゃると思います。
大丈夫。所員でなくとも、お祭りは堪能できますから♪
ぜひ、研究員の皆様の紡がれるすてきなお話のもとにお越し頂ければと思います。

詳細はこちらから↓

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


祝・蓮キョ☆メロキュン推進!「ラブコラボ研究所」
開設一周年!メロキュン大感謝&終了祭!

ラブコラボ研究所最終企画☆絶賛発表中!
お題第十弾『メロキュン☆卒業レポート』

(ピコ様のブログへ飛びます)

まだまだ、バーでの熱い夜は続きます!
お題第九弾『メロキュンカフェバー☆オープン!』

(ピコ様のブログへ飛びます)


これぞメロキュン!な研究所のメイン研究も完成間近!!華麗にラストラン中です!
蓮キョ☆メロキュン推進!『ラブコラボ研究所』リレー企画「いつも俺の腕の中に」

(ピコ様のブログに飛びます)

◆◇◆◇◆◇◆◇


みなさまのお越しをお待ちしております。


昨年中は 皆さまには暖かく見守っていただきありがとうございました


今年もどうぞよろしくお願いします





書きかけのお話をほっぽりだして カジノに入り浸り、街クエストにはまり、


そして 今...



やっぱり、釣りの景品っていいのよねぇ...と


ねこぶろぐ



灯台で 釣りの練習を始めてしまいました。


いろいろとごめんなさいごめんなさい...




ちなぞさんから頂戴した、クリスマスの夜のあま~いお話。後編です。


ちなぞさん、素敵なプレゼントをありがとうございます^^


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前編はこちら


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「メリークリスマス。そして・・・誕生日おめでとう。」


(今年も一番に言ってもらえた。)
それだけで、嬉しさと愛しさがじわじわと込み上げ、逞しい胸に顔を埋めたまま涙を零しそうになった。

そう―――。
こうしているだけで、私の心はあなたからもたらされる歓びで埋め尽くされる。
かつて、愛されることを求めて飢え渇き干からびていたこの心が、今は溢れんばかりの愛で埋め尽くされる。


*


17歳の誕生日を迎えたあの日以来ずっと、毎年あなたは誰よりも早く私にその言葉をくれる。

新しくはじまる私の1年が、あなたから受け取る言葉をきっかけに、美しく彩られていくようで。
いつだって嬉しくてならない。


年を重ねるごとに、どんどん距離を縮めてきたその声。
そう・・・それは2人の間の距離の変化そのものだった。

どんなに手を伸ばして届かないほど遠くにいたはずなのに、気がつけば指先が触れるほど近くにいたあなた。
それでも、心はずっとずっと遠くて。
私はただ、その触れられない指先の行方を黙って見続けるしかなかった。
恋という気持ちを尊敬という名にすり替えて、自分自身を偽りながら。
あなたを見つめるしか出来なかった。
日ごとにふくらむ行き場のない想いを、苦しいほど胸に抱えて。

けれどその手が、ある日突然ギュッと掴まれた。
それはもう、本当に突然に。

掴まれて、握られて、引き寄せられて、抱き締められて。
そうしてあるとき、あなたから届けられる言葉にもう一つの言葉が加わった。

「・・・愛してる。」

新しく加わったその言葉だけは、1年に1度でなく、1日に何度も告げられる。
まるで私が、その言葉をほんのひとかけらも信じていないかのように。
聞いてもすぐに、忘れてしまうかのように。
あなたは何度も何度もそれを私に告げる。

信じてる。
もう、充分に信じてる。

でも・・・足りないの。
もっとほしい。
言葉じゃなくて。
もっと、もっと、あなたがほしい。

煌めく瞳に映るのが私だけだとわかっていても。
燻ぶるような囁きが私だけに向けられたものだと知っていても。
熱く抱き締めるその腕が私だけのものだと信じていても。

それでも私は、もっともっととあなたを求めてしまう。
乾いた大地が降る雨をとめどなく吸いこんでしまうように。
私は、あなたが注いでくれる愛という名の雨水をひたすらに咀嚼し続ける。
まだ足りない、もっとほしいと。
自分がこれほど貪欲で我儘で自分勝手だなんて、思ってもみなかった。


今も・・・そう。


どうすることもできないほど欲深な想いに操られるように、私は両手を伸ばしあなたの身体を捕まえる。
離したくないすべてをこの腕で捕まえる。

・・・ごめんなさい。

言葉では伝えきれない、言葉では伝えたくないこのエゴの塊を、今日だけは素直にぶつけさせて。
そんなことをしてもきっと許してくれると、そう思えるくらい、もうあなたを信じているから。

「これからもずっと傍にいて。」

2人の間に揺蕩ったその言葉は、私が発したものだろうか。それともあなたが発してくれたものだろうか。
そんな疑問が浮かぶのは、それでもまだ心のどこかに不安を抱えているから?
微かな戸惑いを心に宿しながら、そっとあなたを仰ぎ見た。

「また、ばかなことを考えていたね。」

大好きな笑顔が間近に向けられ、少し硬くなっていた心がふわりと緩む。
いつだって、私に不安をもたらすのも、その不安を解かしてくれるのも、それができるのはあなただけ。

「ううん。そんなこと・・・ないです。」

「うそ。」

小さく噛まれた耳朶の痛さが、この幸せは現実だと実感させてくれた。
温かくてやわらかい、あなたの唇の感触が、私の全身を幸福でくゆらせる。

「俺が君から、離れられるわけがないのに。」

そう言ってあなたはその指で私の額をはじいて見せる。

「何度でも言うよ。俺は絶対に君を離さない。誰が何と言おうと、・・・たとえそれが君からだろうと、俺は絶対に君を離さない。」

囁かれた言葉に、ただこくんとうなずいた。
心の奥の、ずっと奥から、締め付けられるような歓びと愛しさがじわじわと溢れ出す。
けれど、返す言葉が思いつかない。

だから・・・。

―――身体の奥から溶かされていくような、痺れるほど甘いキス。

そんなキスをあなたに捧げよう。

私のほうこそ、目の前にいるあなたをどうしてももっと強く捉えておきたいのだと。
そう伝えるキスを。
私に出来るありったけの想いで返そう。
本当は・・・そんなことすれば、自分のほうが今よりもっとずっと彼に捉われてしまうのはわかりきっているけれど。



「それは・・・、反則だよ・・・。」

細めた瞳の奥にぞっとするほどの色気と隠しきれない欲望を湛えながら、あなたが囁く。
甘さを含んだ端正な顔立ちに、驚くほどの野生的な光が差し、やがてそれが近づいて口づけされた。

「私だって、学習するイキモノなんですよ。」

精一杯の虚勢を張った。

そんな行為はもちろん、そういうことを望む気持ちも、あなたに出会ってから知った初めての経験。
抑えきれないこんな気持ちを、あなたはどれだけ私に味わせてくれるのだろう。

どれだけ学習・・・させる気だろう。


それが怖くて・・・そして嬉しい。



* * *



不意に返された彼女らしからぬキスに、全身が硬直した。

どこで覚えたの?そんなキス。
そう口走りそうになってはっとする。
それは俺が彼女によくするキス。
彼女を俺に縛り付けたくてする・・・官能の・・・キス?

ああ、そうだ。
たしかに君はとても勉強熱心で、学習能力の高い子だった。
でも・・・。

「嬉しいけど・・・、すごく嬉しいけど、もっとゆっくり覚えてくれてもいいよ。時間はいくらでもあるんだから。」
囁きながらキスを返す。
いつもと同じ、君のすべてを俺の虜にしたくて捧げる全力のキスを。

ああ、でも虜になるのはいつだって俺のほうなんだ。
それが悔しくて・・・たまらない。


もう彼女のことなんて、知らないことはないくらい貪りつくしたつもりでいた。
それでもこうやって・・・君はいとも簡単に、俺の知らない新しい君を見せつける。
そのたびに、どれだけ俺が君に惹きつけられ、そしてどれだけの嫉妬心と独占欲に煽られるか、無邪気な君は気づいてもいない。

「ただし教えるのは俺限定だからね。分かってるだろうけど、ほかのオトコにそんな顔みせたら・・・許さないよ。たとえ演技でも。」

この恋を自覚したときから、俺がずっと君に感じている想い。
好きな気持ちと、それに比例して高まる、独占欲。
これほど強い気持ちを他人に抱いたのは初めてだ。

そもそも好きという感情が、これほど強く激しく、自分を揺るがすものだなんて、思ってもみなかった。
戸惑いながら、抗いながら、それでも抑えきれず、俺は結局初めての感情に身を委ね、強く深く君を求めた。
君が受け入れてくれるまで、ずっと求め続けた。

そうして一度ラインを越えてしまった感情は、いままで押さえていた分だけ加速度を増して、どんどんどんどん溢れ出る。
いくら触れても足りなくて、むしろもっと触れたくて、欲しい気持ちを抑えきれない。
貪欲で飽くことを知らない、君への渇望。

こうして君と暮らせるようになった今も、その気持ちは変わらない。
いや、それどころかますます大きくなっていく。

今日も・・・そうだ。


結局溢れ出す感情に耐えきれず、俺は彼女をそのまま抱え上げた。
離さないようにしっかりと抱き上げ、点けていたキャンドルを吹き消していく。

どうしたの?と戸惑ったような驚いた瞳を向ける彼女があまりに愛しくて、抱き上げたまま何度も何度もキスをした。
そして、俺はまっすぐ彼女を寝室へと連れ込んだ。


どうせテーブルの上に食べずに残されているのは、俺が作ったオムライス、だしね。



* * *



「蓮さんったら・・・ほんとに・・・ひどい・・・。」


キョーコはけだるさの残る身体を、ベッドから引き摺るように起こした。
ひどいという呟きとは裏腹に、口許には柔らかな笑みが浮かんでいる。

(あんなにロマンチックにリビングを飾ってくれたのに、結局ゆっくり楽しむこともできなかったし。それに、せっかく作ってくれたオムライスも食べずに、朝を迎えてしまうなんて・・・。いくら今日がお休みだからって・・・ひどい。)

もう!と口を尖らせながら、隣で眠る蓮を起こさぬようするりとベッドを抜け出し、ガウンを羽織ってリビングへ向かう。
オムライスはそのまま乾いているだろうし、雪だるまももう溶けかけていることだろう。

せっかくだったのに・・・。
残念だけど仕方ない。
蓮さんが起きるまでに片付けて、今度は私が彼に昨日の分も素敵なクリスマスを届けよう。

冷蔵庫の中を想い浮かべながら、そんな気持ちでキョーコはリビングのドアを開けた。
途端に流れ出る温かい空気。

(あのときつけた暖房・・・そのままだったのね。)
まったく、ともう一度唇を尖らせる。

おそらくもう姿を消した雪だるまを残念に思いながら、テーブルに目を向けたキョーコは、
「う・・・そ・・・。」
思わず言葉を漏らした。


―――そこにはキスをする交わす二人の天使がいた。

(・・・天使?)

雪だるまの名残の氷片を体のあちこちにつけ、キラキラと輝く透明の天使。
氷の彫像のようにも見えるそれは、だが決して溶けることがない何かで出来ている。

(・・・どうして?)
おそらく、もともとこの天使を隠すようにあの雪だるまは作られていたのだろう。
けれど、いるはずのない天使がそこに現れた様は、キョーコの目にまるで魔法の出来事のように映った。
光を浴びて、そこだけが明るさを増して見える天使たち。
あまりのことに、視界が滲んできてしまう。

そのとき―――。
片方の天使の翼で、キラリと何かが光った。

(・・・!?)

ある予感を胸に、キョーコはテーブルへと駆け寄った。
その瞳に飛び込んできたのは、透き通る天使の翼にかけられ、ひと際強い白銀の輝きを放つソリテールリング。

「これって、まさか・・・。」
思わず呟いたキョーコの耳にギギッと床が軋む音が届き、慌てて振り返る。

「昨夜、君は受け取ってくれるって言ったよね?嬉しいって・・・確かに、そう言ってた。」

悪戯っぽく微笑む蓮が、そこに立っていた。
キョーコが隠しきれない驚きを向けても、その顔は変わらず涼しげに微笑んでいる。

「たしかに言いました・・・けれど・・・。」

「もう、待ちきれないんだ。もう、限界。年を追うごとに、君はどんどんきれいになって、どんどん魅力を増していく。このまま2人の関係を隠していたら、どんな奴が君をさらいにくるかわからない。」

それまでの笑顔が不意に姿を消し、蓮の眉間に深い皺が寄る。

「そんな不安と嫉妬が日に日に増して、俺はもう耐えられない。このままじゃ新しい年を笑顔で迎えることすらできないよ。」
一度軽く伏せた視線をキョーコに向けると、蓮は瞬きもせず緩やかに微笑んだ。

「どうか今すぐ、俺だけのものになって。そして、俺を君だけのものにして。」
希うように、逞しい両腕が差し出される。

「ね?キョーコ。もう、いいだろう?」
向けられた微笑みが輝きと艶めきを増していく。
真っ直ぐな瞳には有無を言わさぬ強制力が宿っていた。

「・・・愛してる。・・・永遠に。」

キョーコはこくりと唾を飲み、躊躇いの色を一瞬瞳に走らせた。
けれどその色はすぐに消え、蓮からの視線を、しっかりと見つめ返す。
大きく息を吸い、大輪の花のように綻んだ笑顔を見せると、キョーコは出された腕の中へ勢いよく飛び込んでいった。

その身体を、その心を、すべてを蓮に委ねるように。



キラリ

射し込む朝陽の中、ひしと抱き合う二人を見守るように、二体の天使がいつまでもやさしく輝いていた。







Fin
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皆さまの新たな1年が幸多からんことを祈りますクラッカー

やはり、1年の〆は、素敵なお話で締めくくりたい^^


ちなぞさんから頂戴したお話です


ちなぞさん、いつもいつもすてきな甘いお話をありがとうございます



゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚ ゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚



聖夜 (前編) ~キョコ誕&クリスマス記念フリー~


成立後。キョコちゃんはもうオトナ設定です。

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「早く!早く!」

エレベーターを待つのももどかしく、小声でつぶやきながら、いらいらと小さく足踏みをする。
1分でも1秒でも早く、すっかり住み慣れたあの部屋に戻りたい。
そんな気持ちでキョーコの頭の中はいっぱいになっていた。


*


12月24日―――。
クリスマスイブの今夜は、蓮とキョーコにとって大切な記念日。
2人が付き合い始めて3度目の冬。
共に暮らし始めて、初めての冬。

(せっかくがんばって休みを調整してくれたのに・・・。)

社の尽力と2人の努力で、明日の25日は揃って休みをもらうことができた。
そして今日も、本来の予定通りに進めば、共に夕刻過ぎには終わりの目途を迎えられるはずだった。
それなのに・・・。

蓮の撮影は予定よりずっと早く終わり、キョーコの撮影は予定をかなりオーバーして終わった。

「ごめんなさい。機材トラブルがあって、もうしばらくかかりそうなんです。」
途中で連絡を入れたキョーコに
「そう・・・。じつはもうこちらの仕事は終わったんだ。今、事務所だから帰りにスタジオまで迎えに行くよ。疲れただろう?」
すぐにそう答えた蓮。
けれど、キョーコは慌ててNOを唱えた。
「ううん、大丈夫。まだ終わる時間も見えないから・・・。それより、先に帰ってゆっくりしていてくださいね。お願い。」

付き合ってもうずいぶん経つのに、2人の関係はまだ世間に公表していない。
“まだまだ肩を並べられるところには至っていないから”というキョーコの頑ななまでの躊躇いが、早くきちんと公表したいという蓮の願いをずっと退け続けているのだ。それなのに、
(クリスマスイブなんて日に迎えにきてもらって、もし誰かに見つかりでもしたら・・・。)
大変なことになる、と少し想像しただけでキョーコの背筋にぞぉーっと寒気が走った。

「ぜったいに、ぜったいに迎えには来ないでくださいね。もし騒動になったら、せっかくのクリスマスがおじゃんになっちゃうかもしれないもの。そんなの・・・イヤ。」
甘えた声を出しつつ、さりげなく強く念押ししてはおいたが、蓮のことだから勝手にこっそり迎えにくるのではないか、と心配でならない。
ドキドキ、びくびくしながら撮影所を出たキョーコは、そっと辺りを見回した。
が、意に反しそこに蓮の姿は影も形もなかった。
「ほんとにいない・・・。」
よかったと思いつつ、心のどこかが拍子抜けしたように淋しくなる。

(もうっ!わたしったらいつの間にか蓮さんのやさしさに慣れ切って、すっかり調子にのっていたみたい。イイ気になりすぎよ!キョーコ。)
いけない、いけないと頭を叩き、キョーコは足早に帰途に着いた。
頬にあたる深夜の風を妙に冷たく感じながら。


*


チンッ!

ようやく到着の合図が鳴った。
ドアがまだ開ききらないうちからキョーコは箱の中に飛び込み、せかせかと最上階のボタンを押す。
時計を見れば、針はもうまもなく0時を迎えようとしていた。

(どうしよう。こんな時間になるなんて。何か食べててくれたかしら。)

何年経っても、まず気になるのは、蓮の食事のこと。
相変わらず蓮はキョーコがいっしょにいるか、キョーコの作ったものでないとなかなかまともに食事を摂ろうとしない。特に一緒に暮らすようになってからは、それが顕著になってきて、キョーコは気になって仕方ない。
(私の料理を気に入ってくれているのは嬉しいけど・・・。)
長期の撮影で海外に出るときなど、いつも心配になる。

(何も食べずに待ってるのかも・・・。)

今夜はクリスマスイブ。
しかも2人そろっての久しぶりの休暇とあって、はりきっていたキョーコ。
外食しようかと言う蓮の誘いも、“ふたりきりでゆっくり食事を楽しみたいから”と断わり、早くから準備を進めていた。
そうしていろいろと下ごしらえを済ませた食材は冷蔵庫で出番を待っているが、そのまますぐ食べられるものは少ない。
それを蓮もよく知っている。
だから、きっと食べずにキョーコの帰りを待っているに違いない。

(こんな時間になってしまって、本当にごめんなさい。まさか、こんなに遅くなるなんて思ってもみなかったから・・・。)
自分1人のグラビア撮影ということもあり、そんなに大きなトラブルが生じるとは思ってもみなかっただけに、この時間になってしまったことをキョーコは心の中で蓮に詫びた。

(重い料理は明日いただくことにして、今夜はなにかさっといただけてお腹にやさしいものを作った方がいいかしら。)
すっかりかじかんだ手をこすりながら、バッグから鍵を取り出す。

(・・・早く蓮さんに会いたい。)
冷えた身体を一度ぶるりと震わせ、2人の部屋の鍵を握りながらキョーコは強くそう思った。


*


カチャリ。

(・・・え?)
扉を開けたキョーコは首を傾げた。
(暗い・・・。それに・・・寒い。)

玄関を開けたら、きっとすぐに蓮に会えると思いこんでいたキョーコの肩ががっくりと落ちた。
扉の中はひと気がなく、暗くそして冷え冷えとした空気が漂っている。
(もう帰っていると思っていたのに・・・。)
家に帰ったとき誰もいないなんて、こういう仕事をしている2人なら当たり前のことなのに、今日はなぜかとても淋しい。

「蓮さん?」
試しに声をかけてみるが、どこからも返事はなく、物音ひとつしない。

(扉を開けたらすぐ会えるって思いこんでいたから・・・。)

蓮の笑顔に早く会いたい、その気持でもう弾けそうなほどぱんぱんにふくらんでいたキョーコの気持ちが、空気を抜かれた風船のようにプシューンと萎んでいった。

いつもは蓮が先に帰ったときは、扉を開けるとすぐに、キョーコが好きでたまらない神々しいほどの笑顔が彼女を迎え入れ、温かい両腕が彼女を包みこむ。
それが当たり前のことになってしまっていたから。
もう蓮が家にいると信じていたキョーコにとって、今目の前に広がっている景色はあまりにも淋しすぎた。

(何かあったのかしら・・・。)
何の連絡もなく姿がないのはあまりにも気になる。
落とした視線をようやくの思いで上げ、とにかく荷物を置いてから考えようと廊下を進んだキョーコは、リビングの扉がガラスを通してぼんやり光っているのに気付いた。

(あ・・・れ・・・?)
誘われるようにそちらへ足を向ける。

(電気が点いているわけじゃないみたいだけど・・・。)
訝しく思いながら、そっと扉を開けたキョーコは、中を覗きこみ息を呑んだ。


部屋中あちこちに置かれた無数のキャンドル。
夜の暗闇の中で、ゆらゆらと揺れる仄かな光が、部屋全体を甘くやさしく彩る。
どこからかほんのりとブルガリアンローズのやわらかな香りも漂い・・・。
いつもの見慣れたリビングが、まったく違って見える。
それは・・・、あまりにも幻想的な世界だった。

ぐるりと見回せば、中央のテーブルの上に一段と大きなキャンドルが据えられ、その灯りに照らされるように、ガラス皿の上に小さな雪だるまがふたつ置かれているのが見えた。
寄り添うように並べられたそれが、オレンジ色の薄い光にさまざまな角度から照らされている様は、なにかの絵本の挿絵のように可愛らしい。

「うわぁ・・・・・・・・。」

持っていたバッグを足元に落としても気づかないほど、キョーコはその情景に魅入られていた。
目を奪われ、心を奪われ、言葉も出ない。

今、キョーコの視界には、ただただやさしく安らかな温もりに満ちた世界が広がっていた。



「今日の撮影で、本物の雪を使ったんだ。我儘言って、それをもらってきて作った。」

不意に背後から声をかけられたかと思うと、キョーコは温かく力強い2本の腕でその身体を包みこまれた。
途端に冷え切っていた身体が嘘のように急速に温まっていくのが分かる。
外からも、内からも・・・。

「れ・・ん・・さん・・・。」
回された腕に、キョーコは思わず甘えるようにそっと頬を寄せた。
安堵の思いが身体中を駆け巡る。

「お帰り。キョーコ。こんなに冷え切って・・・。迎えに行けなくてごめん。」

やさしく艶やかで、心地よく耳に響く声。
キョーコといるときだけ、普段より少し掠れてくぐもって聞こえるその声には、もうすっかり慣れたはずなのに、名前を呼ばれるとやっぱり心臓がドキリと震える。
歓びに小さく震えた身体を愛おしむように、蓮の腕にふわりと力がこめられた。

「気に入ってくれた?」

囁きとともに、冷えた頬に唇がそっと触れた。
その場所を発端に、キョーコの全身に新たな温もりがじわじわと広がり、淋しかった想いの全てがかき消されていく。

「・・・素敵過ぎて・・・言葉もでないです。・・・嬉しい。」
上目遣いに蓮を見上げたキョーコに、このうえなくやさしい笑みを向けると、蓮はそっと彼女の唇を啄んだ。

「よかった。喜んでくれて。時間があまりなくて・・・これくらいしか用意できなかったんだ。ごめんね。」
その言葉にううんと首を何度も横に振る。

「それに・・・俺、あれしか作れなくて。」
少し困ったような声色に、キョーコは首をかしげるようにしてテーブルを振り返った。
よく見ればそこには、雪だるまだけでなく2皿のオムライスが置いてある。
キョーコの口許にくすりと笑いが込み上げた。

そう、それは2人がいっしょに暮らし始めたころ、キョーコが蓮に特訓した料理。

『キョーコがいっしょにいてくれるかぎり、もうマウイオムライスなんて作る必要は二度とこない。断言できるよ。だから・・・キョーコの味を教えて。今度は君にちゃんと美味しいオムライスを食べさせてあげたいから。』

悪戯っぽく微笑む蓮に、そんな風に言われたときの記憶が蘇る。

「雪だるまが溶けたらいけないと思って、部屋を暖めておくこともできなかった。・・・ほんとに、ごめんね。」
その代りに、というように蓮はその身体でキョーコをすっぽりと包み込み、苦しくなるほど抱き締めた。
まるで、1cmの布地すら2人の間にあるのは許せないとでも言うかのように。
強く、やさしく。

反射的にキョーコも、その胸にきゅっとしがみつき頬を寄せる。
今はもうすっかり温かさを取り戻した耳に、規則正しく、けれどいつもより少し早い鼓動が届き、湧き上がる幸せにキョーコは胸が締め付けられるような痛みを覚えた。





(後編へ続く)
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