2 からの続きになります

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紅の指導はとても厳しいものだったが、ポイントをついていて
指摘された箇所をすぐに修正するキョーコの勘の良さと根性で
目に見えて効果があがっていった。
それはもう、キョーコ自身が自分で自覚できるほどに。

朝早くから始まるレッスンを夕飯まで続け、食後はエステでメンテナンス。
ローリィの心遣いで整えられたお姫様ベッドに潜り込むと
キョーコは深く息を吐いた。

 よかった.. ここに来て。
 紅さんに会えて、レッスンしてもらって..
 毎日が忙しくて...
 ここなら..
 あのひとに会うこともない..

 それに...
 これでわかったもの。
 敦賀さんに抱きしめられて嬉しかったのは
 決して、決して、恋心などという愚かな心情からではなく!
 あの、人外の美しさがもたらす能力によるものだったのよ!
 だって、だって、紅さんに抱きしめてもらっても
 同じくらい.. いえ、それ以上に癒されているもの!
 もう、私ったら、どうかしてたわ。
 もう大丈夫!あれは一時の気の迷いだったんだわ!
 そう、きっと役が抜けきっていなかったんだわ

 ああ、そうだ!
 紅さんが使ってる香水、わけてもらえないかしら?
 紅人形を作って、その香水を使えば
 いつでもどこでも紅セラピーを受けられるじゃない?
 ナイスアイデアよ、キョーコ!

明日、紅にお願いしてみることに決めたキョーコは
ほにゃんと微笑むと眠りについた。



「あ、この香水?気に入ってくれたの? うれしいわ。
 もちろんよ、プレゼントさせて。
 大好きなキョーコがこの香りで私を思い出してくれるだなんて..
 なんてかわいいことをいってくれるのかしら!
 ああ、そうだわ。なら、一緒にこのチョーカーももらってくれる?」

「え?チョーカーって、その今、紅さんの使われてる?」

「そう、これ。最初の日にキョーコが誉めてくれたこれ。」

「え?でも、ジュリエナさんからもらった大切なものなんでしょう?
 頂けません!そんな貴重なもの!」

「大切なものだから..キョーコに受け取ってほしいの。
 大切で、大好きなキョーコに。
 断るなんていったら、私悲しくて死んでしまうわ!」

紅はキョーコを抱きしめると、耳元に口を近づけ囁いた。

「この香水はね、今度アルマンディから発売される新商品なの。
 『Present For You 今宵あなたのもとに』
 ね?意味深な名前がつけられているでしょう?」

抱きしめた腕を緩め、耳たぶまで真っ赤になったキョーコを確認すると
紅はいたずらっ子っぽく微笑んだ。

「まだ、純情さんには早かったかしら?」

「もうっ!紅さんってば!破廉恥です!」

「そう?そろそろあなたも そういうお年頃かしらって思ったのだけど」

「私は!私は恋なんてしないんです!そう決めたんです!」

「そうね.. 私もそう思っていたわ。だけど、だめだった..」

紅から微笑みが消えた。

「誰かを好きになるなんて.. 大切なひとを作るなんて..
 そんなことは私には許されないって思ってた。
 だけどね、キョーコ。
 好きになる気持ちを自分で抑えることなんてできないの。
 その人からどんなに疎んじられても、気持ちが向かうことを抑えきれない。
 その人の声を聞くだけで、姿を見るだけで心が震える。
 他の誰かに微笑む姿に嫉妬して..
 冷静でいられない自分をどうすることもできない..」

いつもと違う紅の様子にキョーコはなにも言えなかった。
沈黙を破るように、紅は口を開いた。

「キョーコには.. キョーコにはそういう人はいないの?」

自分を見つめる紅の瞳に射抜かれて、思わず本心がこぼれた。

「だから.. だから、逃げたんです。
 鍵を.. 何度鍵をかけても、私の心に入ってきて..
 これ以上好きになっちゃダメだって思ったから..」

紅に穏やかな笑みが戻った。

「そう.. キョーコにも、そういう人がいるのね。
 その彼のこと、まだ好き?」

「わかりません.. 」

「そう.. わからないの。
 その彼も、とんだ間抜けね。キョーコの想いに気づかないなんて!」

「いえ、そうじゃないんです。そうじゃなくて..
 ずいぶん優しくしてくれました。とても素敵なひとで..
 私にはもったいないひとなんです..」

「でも、あなたにこんな辛い思いをさせてる。
 やっぱり、バカ男だわ。」

そう言うと、紅はキョーコを包み込むように抱きしめた。