1からの続きです

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よかったじゃない、キョーコ。
敦賀さんの目が覚めて。
遅かれ早かれ、こうなることはわかってたんだし。

別の私が私をなぐさめる。
それでも、ぽっかり空いた穴は埋まらない。


「おーい?最上さん? ちょっと、話聞いてる?」

椹はキョーコの目の前で手をひらひらとさせた。

「あ、はいっ! もちろんです」

慌てて反応するキョーコに椹は苦笑する。

「で、ね? 
 あれ、あのときは極秘プロジェクトだったから
 キミにも詳細をいえなかったんだけど..
 最上君、やったね!おめでとう!」

「へ??」

「ああああ、やっぱり聞いてないー
 だからね、こないだ決めたあの仕事、アルマンディなんだ。
 今評判の、25周年記念CMの第二弾!
 ああ、ただね、先方がいうにはね、
 キミという素材は申し分ないのだが、
 もっとアルマンディらしい動きが欲しい、と。
 で、ね? 最上君、アルマンディがキミのために
 1週間の特別特訓を施したいと。
 そしてこれが驚きなんだけど...」

椹はそこまで言うと、他に誰もいないはずの周囲を再確認した。

「いい?これ、まだ絶対に秘密だよ?
 このCMで、キミはあの紅さんと共演になる。
 で、その特訓を指導してくれるっていうのが..
 その、紅さんなんだ」


あのワイドショー以来、蓮と紅についての熱愛報道は各社ヒートアップしていた。
いつもなら早々にLMEが動いて鎮静化させるのに
ふたりの密会がスクープされることこそなかったものの
蓮が宝石店をお忍びで訪れたこと、
半年先にスケジュールになんらかの調整が行われたらしいことなどが
『熱愛』の言葉とともに、もっともらしく伝えられていた。

「いろいろと大変だろうけど..」

「いえ、ありがたいお話です。
 あんなに素敵なひとから直接ご指導いただけるなんて!
 ありがとうございます!不肖最上キョーコ、死ぬ気で頑張ります!」

おなじみの敬礼のポーズをとり、内心の動揺を隠すかのように
にっこりと微笑むキョーコに、椹の胸にも複雑な思いが広がる。

 たしかに、紅さんも素敵な女性だけど...
 蓮、いいのか?これで...





アルマンディから指定された場所は、ローリィの迎賓館だった。
加熱するメディアから逃れるために 紅は
アルマンディと懇意のローリィのもとにいるのだと、
ローリィ本人から聞かされた。
そして、彼女がアメリカ人であることも。
今はもう、この仕事をやめていたけれど
昔は『小さなジュリエナ』と呼ばれていたほどのモデルであったことも。

「彼女の実力は本物だ。1週間大変だと思うが
 この1週間が、きっと、キミの人生を変える。」

ふっと真顔になったローリィの言葉にキョーコは姿勢を正した。
そんなキョーコを見て、ローリイは微笑んだ。

「まあ、キミのことだ。心配はしとらんよ。
 むしろ、自分を追い込みすぎないように、な?
 ま、何か悩み事でもできたら、連絡してくれ」


この時間なら、と案内された先はバラ園。
「ほら、あそこですよ」と執事から指し示された方向を見ると..

  妖精の女王様だわ....

ベンチにもたれて眠るその姿は人外の美しさだった。
周囲の花々も、彼女を祝福し讃えてているかのようだ。
近づく人の気配に、睫毛が揺れまぶたが開く。

  うわぁ なんてきれいなひとなんだろう..

「きゃあああああああ」


あまりの美しさにぼーっとしていたキョーコは突然の出来事に思わず叫んだ。
キョーコは紅に抱きしめられていた。

「ああ、キョーコ!会いたかった!」

  こういうところもジュリエナさんっぽいんだわ..

キョーコは、そんなことを思いつつ、
今まで張りつめていた気持ちが徐々にほぐれていくのを感じていた。

  ああ、敦賀セラピーみたい...
  人外の美しさをもつ人って、そういう力を持つものなのかしら?
  きもちいい.. このままこうしていたい..かも...

紅の甘い香りに包まれてキョーコは夢の世界にいた。

「キョーコ?だいじょうぶ?」

知らない声にはっと我に返ると、至近距離で自分を覗き込む妖精の女王様。
思わず叫びそうになる口を紅の手が止めた。

「ああ、驚かせてごめんなさい。
 1週間ここであなたと過ごす紅です。よろしく」


(3 に続きます)