政治と業
1971年 監督/ スタンリー・キューブリック
スタンリー・キューブリック監督の代表作品といえば『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』ですよね!!近頃キューブリック作品が気になり、諸作品を数十年ぶりに再鑑賞しています!以前は難解な作家、作品と位置付けておりましたが、ようやく大人になれたようです!

退廃し治安が悪化する近未来ロンドンが舞台なんですけど、まず圧倒されるのは未来を見据えたセンスですよ!15歳のアレックスは、ドラッグ愛好者で暴力と音楽に支配された少年ですが、注射針を腕に刺してRock'n Roll !!みたいな、一瞬で時代に置いて行かれそうな平凡なモノじゃないんです!ドラッグは合成麻薬ミルク、音楽はクラシック(主にベートーヴェン)ですよ!近未来だ!そのセンスはファッションにおいても然りで、アレックスが率いるチームの衣装や、アレックスの私服なども時代を特定できない程のオリジナリティに溢れています!
初見の人にはなんのことやらサッパリなナッドサット言葉(英語とロシア語をごちゃ混ぜにしたスラング)が全編にわたり使われているのも近未来感!現代視点から見てもまるで古さを感じない!製作から半世紀経っても近未来を感じるってどうですか!?100年先を見ていたのですかキューブリックさん?
この素晴らしいビジュアルの洪水と、神懸かりの音楽センス!!そして、キューブリックの冷めた視線が全編を貫くまさに圧巻の作品です!!


【この映画の好きなとこ】

◾︎近未来ビジュアル
独創的なセンスに脱帽です!永遠にイケるんじゃない??
静かに飲むミルクドラッグ!かなりキマッてます
音楽はベートーヴェンの第九をフルボリュームで!
レコード店でナンパに現れたアレックスの私服

◾︎深夜のドライブ
ミルクバーでキメた後はウルトラヴァイオレンスを楽しむ為夜の郊外に繰り出す!浮遊感とスピード感がたまらないです!

迷惑運転はやめましょうね

◾︎半旗を翻すメンバー
リーダーのアレックスに反発し始めたメンバーが、アレックスだけ逮捕されるよう画策。この残酷性がまた少年らしくていいなあ。
派閥闘争モノ好きなんです

◾︎完治したアレックス
逮捕されたアレックスがルドヴィコ療法で、暴力やセックスに吐気を催す体質にされた事を、内務大臣は"治療は成功、完治した"と宣言するも、神父は、"道徳的選択能力を奪われた生き物"と批判。
政府の去勢、神父の道徳。ここ重要シーン!!

◾︎カルマ劇場
出所したアレックスが、自身の忌まわしい過去と次々に対峙する圧巻のシークエンス。
以前集団暴行をしたホームレスからの報復
ホームレスの暴行を制してくれた警察官は、アレックスに半旗を翻したかつての仲間だった!
権力を盾に更なるリンチが行われる
瀕死のアレックスが助けを求め駆け込んだ邸宅は、以前不法侵入し暴行を加えた作家の邸だった!
復讐、そして政党失脚の機会を狙っていた作家は、アレックスを自殺に追い込む計画を企てる

◾︎輪廻転生?  ※ネタバレ
自殺未遂による昏睡から醒めるも、身体が不自由なアレックスに代わり、内務大臣が食事をさせるシーン。食べ物をせがむ度に口を大きく開けて待つその姿が、"餌を求めるひな鳥"なんですよね。これは生まれ変わりの暗示なのかな?
ピヨピヨ

◾︎政府の謝罪  ※ネタバレ
内務大臣は治療被害を謝罪し、高給好待遇の職場とポストを与える代わりに、完治を公言して欲しいと取引を持ちかける。快諾したアレックスは邪悪な妄想を始める…。
助け合おう
妄想中…元の木阿弥

◾︎エンディングテーマ  ※ネタバレ
エンディングは、アレックスが暴行などで気分がいい時に口ずさむ"雨に唄えば"
邪悪な妄想シーンに続きこの曲が流れるのは、アレックスの人格が元に戻った証し。『博士の異常な愛情』もそうだけど、ラストシーンから直結する恐怖のメッセージ!しかし鮮やかです!素晴らしい!

たっくさんのテーマが盛り込まれた作品です。アレックスのように、"時計じかけのオレンジ"に仕立て上げられるのも怖いけど、一番印象に残ったのは内務大臣とその政治活動。世間体を繕う為なら、その場凌ぎでなんでもするし、なんとでも言う面の皮の厚さが怖かったです。どんなに犠牲を払っても、どんなに国に尽くしても、結局国民は政治家の掌の中。上手く利用するだけ利用してポイするか、臭いものには蓋をするか。

キューブリック監督は、自身の監督作『博士の異常な愛情』でも政治家たちのバッタバタ劇場をシニカルに描いてましたよね。時にずる賢く、時に滑稽に描くそのキューブリックの視線は、政治家への批判そのものなのかな??

もし現実の政治がこんなだったら…。どうする事も出来ない国民は委ねるしかないので…やっぱり怖いですね。

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