年森瑛さんのデビュー作&文學界新人賞受賞作&芥川賞候補作。めっちゃおもしろかった!


主人公の松井まどかは、高校2年生。同性のうみちゃんとつきあって3ヶ月。そして13歳の頃から、体重は40キロしかない。


なぜかといえば、13歳のときに、学校の保健だよりで「低体重は月経が止まる危険性があります」と書いてあるのを読み、「生理は来ないほうがラク」くらいの軽い気持ちで炭水化物を摂取するのをやめたからです。痩せるのが目的ではないので、40キロをキープ。すると家族は、「まどか」ではなく「拒食症の子」への言葉をかけてくるようになる。


また、とくにセクシュアリティは決めてないけど、「かけがえのない他人」を求めて、同性のうみちゃんと付き合っている。友達にそれがわかると、急に友達が、「まどか」ではなく「LGBTの子」への言葉をかけてくるようになる。


と、このように、属性で認識されるたび、かけられる言葉が「まどか」という個人には向けられなくなっていくことに、まどかはずっと違和感を抱き続けるのです。


「かけがえのない他人にそばにいてほしかった。まどかのことを、ただのまどかとして見てくれて、まどかへの言葉をくれる他人がほしかった。そういう他人のことを、同じように大切にして、やさしくして、死ぬまで楽しく一緒にいたかった。」(68p)


ところが。まどかの友達が、ある状況になったとき、「ある状況の子」への言葉ではなく、「その友達個人」に向けた言葉をまどかは探すんだけど、見つからないんですよ。


「自分の言葉で人の心を揺らしてしまうのが怖くて、自分の言葉の責任を担保してくれる何かが欲しくて、他人のお墨付きの言葉を借りたくて仕方がなかった。」(103p)ここ、すごくよかった。


まどかがまどかであることを、きっと貫いて、そのためにいろんな人に怒られ、衝突し、ときには絶交され、それでもただのまどかとして生きていくのだろう、と私は予想してたんだけど、ぜんぜん違った。


人はあれを挫折と呼ぶのかもしれないが、もっと後味悪くなってたかもしれないのに、なぜかとても清々しいラストだったのは、ひとえにまどかの素直さだと思う。


まどかはこれからも、違和感を捨てないし、世界もあきらめない。きっとカッコイイ大人になることでしょう。私は好きだな~、まどか。


 

  

 






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