長嶋有さんのデビュー作&文學界新人賞受賞作。『猛スピードで母は』に収録。

昔いちど読んで、いつまでも鮮烈に覚えている作品というのが誰にもありますよね。

私の場合、
・吉田修一さんの『最後の息子』
・山田詠美さんの『ベッドタイムアイズ』
・岩井志麻子さんの『ぼっけぇ、きょうてぇ』
・青山七恵さんの『窓の灯』
・森瑤子さんの『情事』
・川上未映子さんの『わたくし率 イン 歯ー、または世界』
など、どれも忘れられない。

そして鮮烈に覚えている作品群に共通しているのが、これ、いずれもデビュー作なんですよね。デビュー作って、独特の緊張感や初期衝動のようなものがあって、そういうのがいつまでもぐさりと突き刺さって抜けない感じがある。

長嶋有さんのこの小説も、もう読んだのずいぶん前なのに、読み返したら、たくさんのシーンを覚えていた。うれしかった。

洋子さんと薫が二人、夜の国立を歩いて山口百恵の家を見に行くところ。結局眠くなってしまい、父に迎えに来てもらって、バイクのサイドカーに乗って帰ったこと。寝ぼけ眼で二人の顔を見上げたときの距離感のよさ。

洋子さんと二人きりの部屋で話していたら、修羅場がやってくる場面。

私は東京時代、あのあたりに住んでいたので、そんなこともあって楽しく読んだなぁ。

あと麦チョコ、パックマン、ごはんですよ、などなど、昭和の文化史みたいでもあって、読んでて楽しい。

また何度でも読み返すだろう楽しい予感とともに読書を終えるこの幸福よ。

●文学界新人賞の本(隠居の本棚より)

 

『風化する女』 木村紅美・著

 

『最後の息子』 吉田修一・著


『ワンちゃん』楊逸・著


『影裏』沼田真祐・著

 

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