
焦るトランプ
ガザ和平計画の欺瞞
29日、トランプがガザ和平計画を公表した。
10月7日でガザで戦闘が始まってから2年になる。ガザ側の死者は6万6千
人を越え(さらに瓦礫に埋まっている人が万を超える)、ガザ市民は壊滅的
で、あまりにも悲惨な人道状況、飢餓に見舞われている。まさにイスラエル
軍、ネタニヤフによるジェノサイド。
トランプの和平計画はハマスへの「最後通告」で、事実上の無条件降伏を
迫るものだ。
ノーベル平和賞が欲しくて仕方がないトランプが焦って見切り発車したも
ので(10月10日、平和賞の受賞者が発表される)、ヨーロッパ諸国、アラブ
諸国の支持は取りつけたものの、「人質解放」後イスラエル軍が攻撃しない
保証もなく、イスラエル軍のガザ駐留が継続されるとも読める文言が入って
いて、(現にネタニヤフは「イスラエル軍の撤退は絶対にありえない」と言っ
ている)ハマスは当然これを拒否するだろう。
ネタニヤフはトランプの計画「支持」を表明したが、ハマスが当然拒否す
ることを織り込み済みで、戦争をやめるつもりは全然ない。
連立を組む極右政党は停戦すれば政権を離脱すると警告しておりネタニヤ
フは政権延命のためにも戦闘を続けるつもりだ。
ネタニヤフの政権延命(汚職疑惑での起訴ー監獄行きからの逃亡)のため
のパレスチナ市民大虐殺、これがこの間の戦争の本当のところだからなんと
もひどい話だ。
**
日本では自分(の人生)に絶望した男(この種の事件は男だな)による
「誰でもいいから人を殺したかった」(殺すことが目的ではなく、それにより
監獄に入りたいとか、死刑になりたいとか)しかも「襲いやすそうな人」を
物色してる(格闘して殺すだけの力も度胸もない)、またまた嫌な事件が起
きた。
具体的にまたと記録してるわけではないが、この手の事件が続発してるこ
とは間違いないと思う。
たまたまこの男と遭遇したがために殺されたお婆さんの不運(家族の絶
望)は慰めようもないが、自分よりも弱そうな人を襲うというどうしようも
ない男のどうしようもない絶望に、今の社会の矛盾の一つの集中的な表れを
見ることは当然できるが、それだけではどうにもやりきれない。
何故このような事件が多発するのかを明らかにすることはそう簡単なこと
ではないと思うが、今私たちが現に生きているこの社会とはどういう社会な
のかを明らかにするための一つの鍵ではないかと思う。
プラセボ効果 2
プラセボ効果 (続き)
  ** 語源 ”プラケボ”
  1785年当時「オーストリア人医師フランツ・アントン・メスマー
の磁石と水には治癒効果があるという新説が、パリの街を催眠術に
かけていた(催眠術をかけるという意味の英単語mesmerizeはメスマー
 の名前から来ている)。」
  これに対しこの学説が信用できるものかどうか、当時パリにいた
ベンジャミン・フランクリンは、ヨーロッパの一線級の科学者たちと
ともに調査を依頼された。
「調査では、被験者の反応が実験結果に影響を与えないよう、初めて
目隠しが用いられた。これが盲検法の始まりだ。1785年委員会は
磁石と水の治療効果は『実際には人間の想像力が引き起こしたもので
 ある』と調査報告書を提出した。」
  フランクリンが”証拠に基づく医学”の父といわれる由縁である。
  そして「面白いことに1785年は医学辞典にはじめてプラシーボ
の語が収録された年でもある。・・『ありふれた医療法もしくは薬剤』
 として載っている。」
  「プラシーボという語には、そもそも否定的な含みがある・・。
 語源であるラテン語の”プラケボ”は『私は喜ばせる』を意味し、それ
が中世以来、不誠実、へつらい、暴利をむさぼるという方向に転用さ
れた。きっかけは、強欲な聖職者たちが葬儀の席で、”プラケボ・
ドミノ・イン・レギオーネ・ヴィヴォールム”(わたしは生者の国に
とどまり、神を喜ばせる)で始まる詩篇116章を祈りに使って、
会葬者に金銭を要求したことだ。」
  (この転用が実現された中世という時代の民衆の精神のありようを
考えると実に面白い。知識に溢れたかにみえる今の社会の住人たち
より余程諧謔に富んでいたのではないだろうか?
  なんとなく「坊主丸儲け」という言葉を思い出す。)
  1811年の「『新医学辞典』のプラシーボの項には、『患者を癒
すことより、喜ばせることを目的とする薬剤の総称』とある。
プラシーボが、患者を喜ばせるだけでなく癒す役にも立つかもしれ
 ないということは、当時の臨床医たちの頭をかすめもしなかったのだ。」 
  古代のギリシャ人たちは「治療はある種のまじないを用いて行われ
ねばならず、そのまじないとはすなわち、思いやりに満ちた言葉なの
だ。思いやりに満ちた言葉は節度を霊魂に吹き込み、節度は健康を、
 頭だけでなく全身に速やかにいきわたらせる。」
  (『カルミデス』プラトン)
 といったが、「証拠にもとづく医学の時代に入ってほぼ250年に
 なるが、呪文はいまだに効力がある。」
  ** プラシーボ効果の不思議、人体の不思議
  それゆえに、また語源そのものが示すようにプラシーボは基本的に、
 まやかしとなる可能性もはらむものであるを示している。
  「臨床研究によると、モルヒネを投与していることを患者に告げた
上で投与すれば、モルヒネの使用量をー長期に渡ってー半分ですませる
ことができる。
また患者に鎮痛薬を注射すると告げて、生理食塩水を注射しても、
 6~8mgのモルヒネを注射したのと同じ効果を得られる。」
  ’70年代にアメリカで最も売れた抗不安剤(鎮静剤)ジアゼバムは
「こっそり投与された場合・・なんの効き目ももたらさない。
ジアゼバムに加えて、薬剤投与を予期することから生まれる期待感
化学物質の働きが必要だ。期待感化学物質は、それ自体でかなりの
 効力を持つが、ジアゼバムと併用されると薬効は絶大なものになる。」
  『今後の研究で、暗示が人間の心に作用する仕組みが完全に解明さ
れたら、そのときこそ倫理について議論する必要があるだろう。』と
著者はいうのだが、多分「暗示が人間の心(と身体)に作用する仕組
 みが完全に解明される」ことはありそうもない。
  「医学にとって、プラシーボ効果は両刃の剣だ。・・注射針が近づく
のを目にしただけで体の生化学環境は乱れ始めるので、体の生化学に
作用したのが薬剤のどの化学成分か、はっきりしたことがわからなく
なるのだ。それはまるで、何を計測するにしても計測者が必ず計測
対象に影響を与えるから、計測値が正確かどうかはっきりとはわから
 ないという物理学の不確定性原理のようだ」
  「プラシーボ効果はさまざまな驚異をもたらしたが、おそらく最
も肝心なのはその限界を認識することだろう。プラシーボ効果では
ガンは治療できない。アルツハイマーやパーキンソン病の発症を遅ら
すことはできないし、機能不全に陥った腎臓をよみがえらせること
 もできない。マラリアを予防することもできない。」
  プラシーボ効果の不思議は、人間そのもの、人体の不思議を物
語っており、人間が人間をまだまったく解明できていないということ
を指し示しているといえそうだ。
(了)
発生確率80%の破綻
南海トラフ地震発生確率の両論併記
今朝の東京新聞一面に「発生確率 両論併記」の大見出しが
目に入った。
両論とは「時間予測モデル」による(60〜90%)と「単純
平均モデル」による(20〜50%)という確率算出の両論という
ことである。
これまで政府は南海トラフ地震の発生確率は「30年以内に
80%」としていた。
これは南海トラフ地震の場合にだけ使われた「時間予測
モデル」によって弾き出されたもので、かねてから地震学者や
東京新聞の小沢慧一記者などから、その「妥当性」(科学的
根拠)が疑問視されてきた。そのモデルに使われたデータの
信頼性が小沢記者(や学者)らの調査により、全くいい加減な
ものであることが明らかになってきたからである。
こうした声を無視できなくなってきたためか、とうとう政府
の地震調査委員会は、その他の地震の確率算出に使われてきた
「単純平均モデル」による「20〜50%」(これも普通には20%)
と従来の「時間予測モデル」に手を入れた「60〜90%以上」と
いう高確率の両論併記という苦肉の策に出た。
明らかにこれまでの80%高確率の正当性がぐらついて来たー
まさに地震だーということに他ならない。
しかしそれでもなお「防災意識の低下」や予算獲得を懸念する
という「防災政策」の観点からあくまで高い確率を強調し固執し
続けているのである。地震調査委の譲れない一線というわけだ。
問題は高確率で危機意識を煽ることで、「防災意識」を高める
のではなく、地震国日本ではいつどこで巨大地震が発生しても
おかしくない(がいつどこで起こるかの予測は困難)という当た
り前の知識とそれに基づく防災対策を整備することに他ならない。
これまでのような政府の地震防災政策のツケで、「確率が低い」
とされてきた地方での防災対策がかえって遅れることになり、
能登半島地震の場合のような大災害となったことを教訓としなけ
ればならないのに、依然として「南海トラフ地震シフト」のよう
な対応を取り続けている、これこそが問題なのだ。
「防災に確率は不要」
CF