「鞍馬天狗のおじさんは、、、」
アラカンは戦争の本質を突いていた
(21年記 再録、補筆)
鞍馬天狗のおじさんことアラカン(嵐寛寿郎)といって聞いたことが
ある人はもう相当な年配者だろう。私も映画を見たかどうかすらよく覚
えていないが、「アラカンと鞍馬天狗」の響きだけは覚えている。
21年は日本がアメリカとの戦争に突入する「真珠湾攻撃」の80周年
とかでマスコミで色々な企画が組まれた。
今日本は再び戦争のできる国へと狩り立てられようとしているという
危機感も底流にあるのは間違いないが、抵抗の力はますます削り取られ
てきている。
情けないことに「野党」も半分は改憲勢力のファシストだし、「批判
ばかりしている」というお決まりの揚げ足取りに見事に屈服してしまう
アホばかりが党首だし(これは立民も同じ)、全くどうにもならない。
(更に事態は悪くなり、25年の今年まさに「終戦80年」その年に維新
はとうとうそのファシストの本性を露わにして自民極右高市に取り込ま
れて政権入りして喜んでいるー終戦80年にファシスト政権が成立したー
のだ。が、維新は文字通りの自民の補完勢力でしかないことが露骨に
なったからやがては吸収され消滅するだろう。これは吉村自身が認識し
てることだ。「国民」の玉木も政権入りを逃して悔やんでいる有様。)
『鞍馬天狗のおじさんは』(聞書・嵐寛寿郎一代)という「竹中労」の
本で無頼派アラカンの言葉が紹介されているらしいが、これが「戦争の
なんたるか」その本質を突いてめっぽう面白い。
「アラカンは戦時中に一座を組んで前線を巡業して歩いた。その時、
関東軍のエライさんが毎晩のように芸者を抱いて遊んでいるのを見て、
戦争は完全に負けだと思ったという。
『戦争こんなものか、”王道楽土”やらゆうて、エライさんは毎晩極楽、
春画を眺めて長じゅばん着たのとオメコして。下っ端の兵隊は雪の進軍、
氷の地獄ですわ』
『軍隊平等やおへん。エライさんは楽しんで、兵隊苦労ばっかりや。
こら話がよっぽど違うと思うた。教育ないさかい、むつかしい理クツは
わかりまへん。せやけど戦争ゆうたら、馬鹿も利口も生命は一つでっ
しゃろ。鉄砲玉にも平等に当たらな、不公平ゆうものやおまへんか。
ところが、司令官やらゆうお方はちゃんと安全地帯におって酒くろうて
オメコして、ほてからに滅私奉公が聞いてあきれる。ちっともおのれを
虚しうしてまへん。これゆうたらさしさわるけど、カツドウヤのエライ
さんと同じことでおます(笑)』
あに、活動屋、すなわち映画会社のエライさんのみならんや。
『安全地帯』にいるエライさんたちこそが、やたらと愛国心を呼号する。
そして『日本を取り戻す』などと叫ぶのである。」
(『時代を撃つノンフィクション100』 佐高信 岩波新書)
利便と危険 2
利便と危険 (保存料の作用)
確かにソルビン酸は食品に添加される程度の量であれば急性毒性や慢性毒性
だけでなく、細胞のレベルでも毒にはならないことが証明されています。
しかし人間は自分の細胞数の3倍にも及ぶ腸内細菌と共生することによって、
健康を保っているといっても過言ではないのです。そして微視的に見れば、
どこからが細菌でどこからが人間の腸なのかを裁然と区別することは不可能
なのです。
* 見えないリスク
ソルビン酸は実にこの不明瞭な界面にあって、腸内細菌に対して影響を及
ぼすことによって、間接的に人体に害作用を及ぼす可能性があります。
風邪を引いたとき私たちは抗生物質を飲みます。抗生物質は微生物に対する
強力な代謝阻害剤です。これに よって感染症をもたらす微生物(病原細菌)
を制圧します。
しかしその不可避的な副作用として、便秘や下痢が起こるのは抗生物質が
消化管内の腸内細菌叢に制圧的に作用し、コロニーが乱され整腸作用が変調
するためだと考えられています。
しかし抗生物質は一過性です。抗生物質の服用が終われば腸内細菌はまた
復活して安定なコロニーを形成します。
ソルビン酸は抗生物質に比べればずっと弱めですが、おなじく微生物に対
する代謝阻害剤です。弱いながらも制圧作用を有する化学物質が長期間、
日常的に腸内細菌叢に与える影響についてはまったく解明 できていません。
長期的な整腸作用の撹乱が身体にどのような影響をもたらすのかも不明です。
なんといってもソルビン酸がこのように広範囲に加工食品に添加され始め
てから、それほど長い年月が経過しているわけではないのですから。
ソルビン酸の健康への影響はそれほど大きいものとはいえませんが、いつ
でもどこでも安価な加工食品が食べられるという便利さ=ベネフィットと
引き換えに、最低限度の必要悪=リスクとして使用されているということを、
ちゃんと認識しておく必要があるでしょう。
そしてこのリスクが余り見えないということ、本当はどれだけのリスクで
あるかは、科学的な動物実験やインビトロの実験では、解明されないという
ことも知っておかなくてはならないようです。
往々にして科学的な実験は、ものごとの間接的な振る舞いや影響といった
ものは調べられないことが多いようです。
インビトロの実験でもヒトの細胞は全体から切り離され、本来細胞が持って
いたはずの他の細胞や共生細菌との相互作用からきれいに切り取られている
からです。
そしてこの点に科学的な実験といわれるものの持つ利点と欠点が、大きく
いえば科学それ自体の利点と欠点が現れているといっていいと思います。
* 動的平衡
働き続けている現象を見極めること、それは私たちが最も苦手とするもの
である。だから人間はいつも時間を止めようとする。止めてから世界を腑分
けしようとする。
時間が止まっている時、そこに見えるものはなんだろうか?
そこに見えるものは、本来、動的であったものが、あたかも静的なものである
かのようにフリーズされた、無残な姿である。
(そこに見えるものは、本来、危ういバランスを保ちながら、一時もとどまる
ことのないふるまい、つまり、かつて動的な平衡にあったものの影である。)
それはある種の幻でもある。私たち生物学者はずっと生命現象をそのような
操作によって見極めようとしてきた。それしか対象を解析するすべがなかった
からである。
世界は分けないことにはわからない。
しかし、世界は分けてもわからないのである。
* 著者は次のようにも言っています。
たしかに生命現象において、全体は部分の総和以上の何ものかである。
この魅力的なテーゼを、あまりにも素朴に受け止めると、私たちはすぐにで
もあやういオカルティズムに接近してしまう。ミクロなパーツにはなくても、
それが集合体になるとそこに加わる、プラスαとは一体何なのか。
生命現象を、分けて、分けて、分けて、ミクロなパーツに切り抜いてくる
とき、私たちが切断しているものがプラスαの正体である。
それは流れである。エネルギーと情報の流れ。
生命現象の本質は、物質的な基盤にあるのではなく、そこでやり取りされる
エネルギーと情報がもたらす効果に こそある。
そして科学者として「分けてもわからないと知りつつ、今日もなお私は
世界を分けようとしている。それは世界を認識することの契機がその往還に
しかないからである。」
科学が解明できないこともあるというと、すぐにオカルトに嵌ってしまう
ニューエイジの愚かさは問題外ではあるが、科学的であるしかないけれども、
その科学の限界も自覚しておかなければならないということで、非常に重要
な提言であると思います。
( 『世界は分けてもわからない』 福岡伸一 )
** 注 微生物の天文学的増殖
微生物は細胞分裂により(およそ1時間に)倍々に増殖していく。
増殖の条件が整いこれが70時間続いたとするとどうなるか?
10時間後2の10乗 1024倍(約10の3乗倍)
20時間後2の20乗 約100万倍(10の6乗倍)
30時間後2の30乗 約10億倍(10の9乗倍)
・
・
70時間後2の70乗 約10の21乗倍
*
微生物の大きさを0.001mm(10の-3乗mm、10の-6乗m)とすると、
体積をこの立方体とすれば10の-9乗立方mm=10の-18乗立方mである。
70時間後の微生物の増殖は2の70乗倍で約10の21乗倍だから微生物の
総体積は10の3乗立方mとなる。
つまり1000立方mだから10mの立方体に微生物がぎっしり隙間なく
詰まっているというとんでもないことになる。
25m*10mのプールに1mの深さで入れたとすれば、250立方mでこの
4杯分。
もちろんそれだけ増殖するにはそれだけの栄養素がなければならないわけ
だが、条件が整ったとすると微生物の増殖は何ともはや!なことになる。
( 私のブログ 『数の話』を参照してください。)
利便と危険 1
利便と危険
『世界は分けてもわからない』 福岡伸一 (講談社現代新書)
青山学院大学教授(分子生物学)の本から、保存料についての章を中心に
紹介する。 (再記)
* 腐敗と発酵
コンビニミニストップで各店で作り売りしてたおにぎりの製造時間(消費
期限)を誤魔化していて大騒ぎになり、しばらく販売が中止となった事件
が記憶に新しい。
コンビニで売られているサンドウィッチやお弁当、それを作る下請け納入
業者に、コンビニ側が申し渡す保証期間は72時間(3日間)だそうです。
今では日持ちするのが当たり前の感覚になってしまっているが昔はそうでは
なかった。
ではこれらはなぜ3日間も腐らず大丈夫なのだろうか?
私たちの身の回りには無数の微生物が生息しています。
微生物は栄養と温度などの生育条件が整えば急速に増殖を開始します。
微生物は生殖ではなく細胞分裂によって無限に増えることが出来るのです。
早い場合には20分に1回、普通でも1時間に1回は分裂でき、そのたびに
2倍に増えます。
ですから10時間後には2の10乗、つまり1024倍に、20時間後に
は約100万倍、そして3日目72時間後には天文学的数字まで爆発的に
増殖できることになります。
(もちろん増殖できる条件ー栄養と温度があればのことです。)
** これがどれだけ凄い数かは最後の注を参照して下さい。
この微生物の代謝と増殖活動の結果として、栄養分となった食べ物が腐敗
するのです。
つまり酸っぱくなったり嫌な匂い(タンパク質に含まれる硫黄成分に由来
する)がするようになります。毒素が作られることもあります。
しかし微生物の増殖プロセスという点ではまったく同じ生命現象であり
ながら、微生物を選択し、環境を上手く整えると、腐敗現象を発酵現象に変
えることが出来ます。
ヨーグルト(乳酸菌)、納豆、ビール、清酒、ワイン、そして味噌、醤油、
すべて発酵現象の産物です。日本は世界的な発酵食品大国です。
* 保存料(ソルビン酸)
通常は3日間もあれば天文学的な増殖を遂げるはずの微生物の発育を妨げ、
腐敗が進行するのを防いでいるのが保存料です。
ソルビン酸は微生物の生育を妨げる、毒として働きます。それは一種の
囮(おとり)物質として微生物の代謝に干渉するのです。実はほとんどのすべて
の薬は、生物にとって大切な物質の囮として、ニセモノとして働いている
のです。
食べ物に含まれる炭水化物やタンパク質、脂質が代謝される過程で、乳酸、
酢酸、ピルビン酸・・など○○酸と名のつくものが沢山現れ、さらに微生物
の細胞内で代謝されてエネルギー源になっている。
代謝とは生体内での化学反応のことです。細胞の内部で進む化学反応には、
酵素という触媒が関与しています。一つの反応には一つの酵素が割り当てら
れています。
たとえば乳酸脱水素酵素は乳酸をピルビン酸に変換します。
リンゴ酸脱水素酵素はリンゴ酸をオキサロ酢酸に変換します。
ソルビン酸は化学式の一部が(-COOH)カルボキシル基で、沢山の
○○酸とおなじ構造を持っています。生体内の化学反応が進むときにこの
ソルビン酸があると、例えば乳酸脱水素酵素は、乳酸と間違えてソルビン酸
をくわえてしまうのです。
つまりソルビン酸は酵素の代謝反応をブロックしてしまうのです。乳酸を
ピルビン酸へ、リンゴ酸をオキサロ酢酸へ変換する経路がストップしてし
まいます。
ソルビン酸の量が相当程度あると、代謝経路の重要部分が寸断され、交通
網全体の流れがダウンし、微生物の生育が抑制されるのです。
だからソルビン酸を食材の中に混ぜ込んでおくと、腐敗の進行を止める事
が出来るのです。ソルビン酸は広範囲の加工食品に添加されています。
(ハム、ソーセージ、かまぼこなど食肉・魚肉練り製品、パンやケーキ、
お菓子のあんやクリーム、チーズ、ケチャップ、スープ、半生の果実類、
果実酒、飲料・・)
食品の種類によって、重量比で0.1~0.3%の添加が認められています。
* 人体への影響
ソルビン酸は人間にとっては加工食品の消費期限を延ばしてくれる便利な
薬で、微生物にとっては毒です。
ソルビン酸は食品に添加される程度の濃度では、人間の細胞に対しては毒
として作用しません。人間と微生物とでは代謝の経路やそれをつかさどる酵
素の仕組みが異なるからです。
それから本来代謝の邪魔になるようなソルビン酸のような物質を分解除去
する解毒の仕組みも人間のほうがずっと優れています。
ソルビン酸の毒性については科学的にラットやマウスを使った実験で、
急性の毒性や慢性毒性の検査が行われています。
動物実験がそのまま人間に当てはまるかどうかは一概に断言できませんが、
少なくともラットとヒトは同じ哺乳類であり、栄養素の代謝の仕組みや毒物
の解毒の仕方もほぼ同じですし、少なくとも微生物とヒトとの隔たりよりは
小さいと考えられるからです。
急性毒性や慢性毒性のテストでは、食品に添加されている程度のソルビン
酸の量に害作用はないと判定されています。しかしこれらの観察では死ぬか
どうか、病気になるかどうかなどのドラスティックな害作用についてです。
細胞のレベルでも問題ないといえるのかという点に関しても科学者は
「インビトロの実験」(試験管内での実験)をやっています。ヒトの細胞に
対して様々な生化学的なアプローチを直接行うことが出来るのです。
これも添加されているソルビン酸の量ではヒトの細胞に対して害作用を
及ぼしているデータはなく、安全が確かめられています。
* 腸内細菌との共生
確かにソルビン酸は食品に添加される程度の量であれば急性毒性や慢性
毒性だけでなく、細胞のレベルでも毒にはならないことが証明されています。
ところで人間とはどのように生きているものなのでしょうか?
実は人間は他の生命と共生し、相互作用しながら生きているのです。
私たち人間は生物学的な意味でも1人で生きているわけではないのです。
人間の全身の細胞はおよそ60兆個からなっているといわれています。
しかしヒト一人にはその消化管内に120~180兆個もの腸内細菌が巣くって
います。つまり自分自身の3倍もの生命と共生しているのです。
彼らはヒトの栄養素を掠め取っているだけのパラサイトではなく、無限に
増殖したり毒素を出したりすることもなく、安定した消化管内環境を提供し、
一種のバリアーとして働き、危険な外来微生物の増殖や侵入を防ぎ、日常的
な整腸作用を行ってくれています。
微視的に見れば私たちの消化管はどこからが自分の体でどこからが微生物
なのか実は判然としません。ものすごく大量の分子がものすごい速度で刻
一刻、交換されているその界面の境界は、実は曖昧なもの、きわめて動的な
ものなのです。
* 見えないリスク
ソルビン酸は実にこの不明瞭な界面にあって、腸内細菌に対して影響を及
ぼすことによって、間接的に人体に害作用を及ぼす可能性があります。
(続)