以前は極めて高い社会的地位をもち、誰からも尊敬されていた職業がありました。大臣、裁判官、医者、そして教師などが挙げられるでしょう。しかし、今日、それらの職業の権威は崩壊の一途をたどっているように思います。
いずれの職業でも不祥事と呼ばれるものが相次ぐばかりでなく、その識見等への疑念までが取りざたされています。医者や教師にいたっては、患者や保護者からのクレームの嵐に、権威どころか、人としての心さえ傷つけられてしまうケースも多くなっているように見えます。
この権威の低下は、本当にその職についた人々の落ち度なのでしょうか。確かに、信じられないような不祥事等もあります。しかし、昔はそれらはなかったのでしょうか。また、医療や法制度など、分野全体としてみれば発展を続けていっているのは明らかだと思います。そうであるなら、本当に彼らの能力は低下しているのでしょうか。
これについて、以前、興味深い見解を目にしました。教師に特化した内容ではありましたが、親の高学歴化が大きな要因とするものです。すなわち、高等教育を受けられる者が少数であった時代は、高等教育により得た学識が大きな権威となっていたが、多くの人が高等教育を受けるにいたった現在、相対的に教師の権威が低下した、というような内容だったと思います。
高等な教育等により自負や自己実現欲求を身につけた人間にとって、ひれ伏すべき権威を認めることはそのプライドが許さなくなったということでしょうか。
ここで、全く関係ない話をするようなのですが、私は小さいころ、ウルトラマンをよく見ていました。再放送の初代のウルトラマンを一番多く見たと思います。
私は昭和ウルトラマンシリーズでは、その最初のウルトラマンが一番好きでしたが、その後の作品はそれほどまでは好きになれませんでした。その理由のひとつが、ウルトラマンの「権威低下」にあるような気がするのです。
ウルトラマン及びウルトラセブンの最初の2作では、他のウルトラマンが登場せず、ある意味唯一無二の超人でした。それが、作品を重ねるにつれて登場するウルトラマンが増え、人間関係のようなものがウルトラマン同士にできてきます。ウルトラマンタロウに至っては「光の国ではウルトラ兄弟の末っ子で甘えん坊」などという設定がなされ、兄のウルトラマンたちに説教される場面さえありました。そのような「現実くさい」要素は、無敵の超人のイメージとは相容れなかったような感じがするのです。
平成になってから新しいウルトラマンシリーズが製作されましたが、昭和のウルトラマンシリーズとは関係のない、世界観が全く違うものでした。
そんな中、去年から今年にかけて放映されたシリーズ最新作、ウルトラマンメビウスは、四半世紀ぶりに昭和ウルトラマンシリーズの世界観を受け継いだ作品であり、懐かしさから、この年で時々つい観てしまいました。
最初の感想として、ウルトラマンの「権威低下」の極みという印象でした。メビウスは、M78星雲の宇宙警備隊のルーキーで、戦い方も未熟、自分の力で地球を守りたいと思う地球防衛チームGUYSの一員からは疎ましがられる始末です。未熟なルーキーが苦労を重ねて成長するような、古めいたスポ根ものの雰囲気さえ感じ、あまり面白いとは感じませんでした。
しかし、何度か見るうち、別の側面に気づきました。未熟ながらも強いウルトラマンメビウスと、力をつけ自我を強めてきながら未だ力及ばない人類が、共に助け合いながら戦う物語という要素です。それを示すかのように、従来の作品にはなかった点として、物語の途中で、GUYSのメンバーはメビウスの正体に気づきますが、それ以降、より協力を深めて戦っていきます。無敵の超人ウルトラマンと助けられてばかりの人間という構図から脱皮し、進化した人間とウルトラマンの絆と協力という、新たな関係を描いたものだと感じました。
ここに、専門的な職業と、素人とされる人間の新たな関係へのヒントがあるように思いました。複雑多岐にわたる現代社会では、専門性が必要とされる一方、専門家といえども、完璧を要求することは難しいといえるでしょう。専門家も素人も、同じ人間であることに変わりはありません。同じ人間として互いを尊重するとともに、それぞれの立場で謙虚に協力し合う。人、社会の幸せのために、協働する。それもひとつの答えなのではないでしょうか。
それにしても、子供向け番組とはいえ、侮れません。メビウスの終盤の話で、このようなものがあります。GUYSのメンバーが人質になり、町を破壊する怪獣と本気で戦えない残りのGUYSとメビウス。街の人は、そんな彼らを非難し、「市民と仲間どっちが大事だ?!」「人質になんかなりやがって、恥を知れ!」と罵ります。現実世界でも、心あたりのある光景ではないでしょうか。メビウスは、「地球に来てこんなに恐ろしいと思ったことはありません」「僕たちは何のために戦ってきたんだ」と苦悩します。この話では、市民はGUYSの思いを理解し、GUYSとメビウスを応援し始めますが、現実世界ではどうでしょうか。大人こそ学ぶべきことが、ここにあるような気がします。