私です。律子の親友、連れ子の主婦の由加。



旦那、知ってるよ。貴方の浮気。一人だけじゃないでしょう?

連れ子の私は何も言えない。

 


どうしてグランドピアノ?ピアノ教室に通い始めただけでしょう?

子供の為にお金を使うのはいい。でもやりすぎじゃない?


いつまでお金で娘の気を引くの?

 


12階の広いバルコニーで私はガーデニングに水をまいていた。

後ろから聞こえる娘のピアノの音、ポロンピロンが鬱陶しく感じる。

 


そう言えば律子はいくら貯めただろうか。

よく貯まらないって言ってた。浪費癖って治るの?



それなりのソープ嬢なら年収1000万円くらいか。

それでどうするつもり何だろう?性奴隷?

 


私なんて旦那に娘の心を盗られ家政婦扱いで給料袋にしがみついている。

それなりの建築士なら年収だと650万円くらいか。

それでどうするつもりなんだろう?召使い?

 

何これ?

 

もし私が貴方みたいな現実の浮気をしたら私は捨てられるよ。

 

 

…………捨てられるから?あれ?

 

 





………翔兄ちゃんは何をやっても1番だった。

勉強も体育も、死ぬ時も。

 


お父さんお母さん、雨だよ。そんなに急がなくても翔兄ちゃんの葬儀場はすぐそこだよ。

無理やり手を引っ張らないで。私の事も見て。

 


土砂降りの雨の中、張りたてのコンクリートが道路脇にあった。

私はそこをてくてく歩いた。もっと私のことを見て欲しかったから。

 


「こら!何しとるか!」

 


現場作業員のおっちゃんが怒鳴った。父親がすぐに謝った。名刺を渡して弁償すると言っていた。

 


「また張るからええけど………ちゃんと教育してな。」

 


父親は生まれて初めて私を叩いた。

母は翔兄ちゃんの為に泣くので精一杯だった。

 


ほら見て翔兄ちゃん。

りっちゃんと翔兄ちゃん以外はみんな火星人だよ。



タコだよ。昔教えてくれたよね。

みんな地球を侵略にきているんだ。

私達を痛めつけるんだ。

 

 





……………由加は旦那と娘の首がグランドピアノの上に置いてある錯覚をした。

一瞬、自分が誰だか分からなくなった。

 


 

りっちゃん?

 

 




(つづく)

 

 

 

 

 

 

僕か。翔太だ。

律子の兄。

 

 

小学生の翔太と親友の賢一は夜の河原で寝転んで星を見ていた。

10月に入ったからか吹いてくる風はほどよい。

2、3日前に降った雨の芝生は彼らの服を少し湿らせた。

 

 

彼らは何も話さなかった。

それはどんな声をも、かき消してしまう宝石箱の様な夜空が広がっていたからだ。

 

 

ひとつをみれば、それはうっすらと点滅している。

ひとつをみれば、それは他の物よりも少し大きい。

 

 

賢一は何度も口を開こうとした。

しかし言葉を失ってしまう。この宝石箱の下では。

 

 

だが賢一は黙ってるばかりではいけなかった。

翔太と話すべきことがあった。

 

 

賢一はそっと翔太の顔を見ようとした。

芝生がすれる音がして翔太が気づかない様、できるだけ目だけで見ようとした。

 

 

翔太は綺麗な青白い顔で星を目に映していた。

そうか。宝石箱の中には月もあったんだと賢一は思った。

 

 

賢一は月と宝石箱を見直した。

心を奪われた。その美しさと残酷さに。

 

 

これらの事は彼らにとって永遠だった。

もう2度とこの感情は、情景は、体験できない。

 

 

塾帰りの小学生2人だ。

あとでしっかり帰宅時間で叱られる。

 

 

でもこの1秒は永遠であり、この永遠は1秒だった。

彼らはそういうことをよく分かっていた。

 

 

でも………賢一が一番美しく思ったのは月に照らされ星を目に映した翔太だった。

 

 

この夜は壊さない方が良いのかもしれない。

ここまま星の光を目で盗んで秋の風にあたりながら帰るのが良いのかもしれない。

賢一はそんな事を思いながら………でももう今しか言えないと思った。

 

 

「翔太、何時まで学校来るの」

「3学期までは行く」

「もう治んないの?」

「治んない」

 

 

賢一は分かっていた。分かっていて聞いた。

それが自分の覚悟の為だったのか万が一の奇跡を見ようとしていたのか。

見ていた宝石箱が急に歪んだ。どの星もぼやけた。

 

 

「賢一、平行宇宙って知ってる?」

「………何それ」

 

「この宇宙は広すぎて地球と似た惑星があるどころか、何もかも全く一緒の地球が存在してる」

「宇宙人か?」

 

 

翔太はさっと横たわり目をキラキラさせて言った。

宝石箱がまだ宿っている様に見えた。

賢一も横たわった。しかし彼の目は星のない暗澹とした目だった。

 

 

「違う。俺とお前だよ。どっかの宇宙の河原で全く同じ夜空を見てる俺らがいるってことだよ」

「………ものすごい確率じゃないか?」

「それがあるんだよ。何個も何個も。だから宇宙は凄いんだよ。だから………全く同じじゃない地球もあるかもな」

 

 

「全く?少し違うのか?」

賢一は身を乗り出した。

 

 

「そう賢一の思う通り、俺が死なない地球もあるって事だよ」

「そっか………」

 

 

二人はまた宝石箱を目の前に広げた。

 

 

「翔太。そっちの地球だったらいいな」

「多分そうだよ。でも地球ならまだしも………。最近、妹の律子が俺以外の家族を火星人って言うんだ(笑)」

 

 

「火星ってタコがいるところか(笑)」

その時、大きな風が河原の芝生を吹き抜けた。

 

 

「大人になりたくねーなー」

「ああ、なりたくねー」

 

 

「俺このまんまでいいや。成長するのもイヤ」

「いやいや、お前そろそろ死ぬかもしれないのに(笑)」

「そうだな(笑)まあ賢一、宝石箱だけ覚えとけ。一生無くならないから」

 

 

二人は起き上がって土手道の自転車に向かって芝生を登っていった。

 

 

「まぁたロッテファンが減るなぁ………」

「ほれ、帰るぞ」

「死ぬやつは気楽でいいなー。今年のロッテは本気だぞ」

 

 

秋のひんやりとした優しい風が二人を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

(つづく)

 

 

 

 

過激な表現を含みます。

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へえ。私か。律子です。

 

 

 

気に入らなかったから由加の旦那と娘、殺しちゃったよ。

死んでから糸ノコで二人の頭を切ってグランドピアノの上に置いといたよ。

『お願いだ!娘だけは………』

そういう台詞が一番ムカつくってわかんねーかな。

 

 

アホでモテない建築士。ソープ嬢に入れ込んで結婚かよ。

将来、娘になんて言うつもりだったんだ。

 

 

しかし………。何故こんな残酷な風景になった?

中東の首切り映像ほどひどくはないのに。

 

 

あいつらは生きたまま切る。

私は死なせてから糸ノコだ。

こっちのが遥かに顔色がいいけど………。

………分かった。

 

 

地球の裏側の戦場と裕福な日本のグランドピアノの上。

そら違うわ。

戦争は一杯殺さないと出世できないからね。 

 

 

………鍵盤の隙間から血がにじみ出てきた。

私は力なく笑った。美しい。

 

 

少し鍵盤を押してみた。音は問題ないようだ。

私は椅子を引いて座った。

二人の顔は目の前だ。

 

綺麗な顔をしている。眠っているようだ。

私はピアノはできない。でもこの位なら………。

 

 

12階の開け放たれたバルコニー。

白いカーテンがゆらゆらと、一年で一番心地よい風が吹いてくる。

 

 

私は『きらきらひかる』を3回ほど弾いた。

でもあまりに下手なので辞めた。

 

 

そして何故か「翔兄ちゃん」と口からこぼれた。

 

 

あのアホ嫁由加との約束は15時だ。

血みどろを着替えて化粧ぐらいする時間はある。

 

全て時間を計算してやったからな。

あのアホ嫁由加が外出する時間もお見通し。

 

ソープ街に近い時計台の下で待ち合わせた。

 

 

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「久しぶり。………律子、大丈夫?」

「大丈夫だよ。こないだはごめんね。由加。なんだか不安定だったの」

「いや、いいの。律子の元気そうな顔を見れたからよかった」

 

「………あそこのパフェ美味しいらしいの。由加。行かない?」

 

 

「大きいねー。チョコクリームの上にグレープフルーツがまるごと乗ってる。

綺麗な赤色。(笑)律子は太らないからいいよねぇ」

 

 

「なんで太らないと言うの?」

「あ………え………仕事があるから。」

 

 

「へぇ。面白いでしょ。パフェにグレープフルーツがまるごと乗っかってるなんて。キレイでしょ」

「………あ………ごめんね………なんか自分がソープやってた頃を思い出しちゃって」

 

 

「気にしないよ。美味しいよね。コレ。ちなみにこのグレープフルーツ、何色に見える?」

「え、赤だよ」

「………へぇ」

 

 

私から見たそのグレープフルーツはどう見ても青色だった。

「由加、………家族の話してよ。私いないからさ」

 

 

「旦那は今日は休みだね。年末全く休めなかったから」

「ふーん」

「娘は最近、ピアノを始めたの。そしたら旦那がいきなりグランドピアノ買っちゃって(笑)」

「へぇ」

 

 

私は心の中で笑いが止まらなかった。

 

 

 

 

(つづく)

 

 











過激な表現を含みます。

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どこよりも冷えた風呂場だった。

 

 

ピンク色の照明が、海辺で使う安い灰色の空気マットに鈍い光を放たせている。

そして歪な形の白い椅子と、丁寧に折りたたまれた何枚かの黄色いバスタオル。

 

ドロドロとした透明の液体。入り口に敷かれたすべり止めの赤いスポンジ。

そしてふたり入るのがやっとの風呂。

 

 

パっと照明が明るくなった。

きれいな足がすべり止めの赤いスポンジに触れた。

白い服を着た女が入ってきた。

 

 

………白い服?いやそれは服というよりは布だった。

どこも透けて肌が見えていた。

 

 

女はシャワーの蛇口をひねり風呂場全体を水で流した。

少々の髪の毛など気にしない。

 

まるで裕福な主婦がガーデニングに水をやっているようだ。

しかしその顔は裕福な主婦のように太陽を浴びていない。

無表情。

 

 

そして風呂をじっと覗き込んだ。何か白いモノが浮いている。

女は手際よくその白いものを桶ですくって排水口に捨てた。

そうして照明を落とし、またその部屋をピンク色に染め、そこを立ち去った。

 

 

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「おひさ由加。客こないんだけど」

 

 

 薄暗い部屋の隅にL字型のソファーがあった。

スマホでゲームをしてる娘がいる。端っこで身体を伸ばして寝ている娘もいる。

3~4名だろうか。みなお互いに関心がない。そしてみな服が透けていた。

 

 

先ほどの女は端に座りLINEをいじっていたが、平日のこの時間にLINEをする相手は少なかった。

しかしふと友人の由加のLINEを見つけた。

 

 

「あらまあ………律子じゃん!LINE、珍しいね。嬉しい!元気?」

友人の由加は12階のバルコニーで、ガーデニングに水をまいていた時だった。

 

その旦那は突然買ってきたグランドピアノの前に娘と一緒に座り、教えられる訳がないのに、にこにこと手元を見ていた。

 

 

「律子まだやってるの?もう止めたほうがいいんじゃない?」

「30までにはやめる」

「てかそれはもう定年退職でしょ」

 

 

由加は食卓に座り自前のグレープフルーツジュースを飲み始めた。

本当はワインが飲みたかったが旦那が休みなので我慢した。

 

 

「由加はすげーなー。貯金して、いい旦那貰って。元ソープ嬢だったって言ったの?」

「てか元客だから(笑)今日は指名貰えないの?」

 

「今はないねえ。指名あっても貧乏そうな奴ばっかり」

「うーん」

 

 

律子は思った。

 

うーん?

 

なんのうーん?だ?

私の境遇を思ってのうーんか?

うーん?

 

 

律子は自分が少し苛ついているのがわかった。

 

 

「まあこうやってずっとLINEしてるだけだよ。やっすい待機料もらってね。」

「まあ、もう辞めな。28?でしょう。まだやり直しきくから。」

 

 

(やり直し?由加みたいになれるかも知れないよってか?)

 

 

「由加は娘さんがいるんだっけ。今何処に住んでるの」

「うん。小学生の娘がいるよ。今は生豆町にいる」

 

「ちょっと待って今ググってる………生豆町は小学校がひとつしかないね。」

「うん。それがどうしたの?」

 

 

(ばっかばかしい。テクノロジーってなんだ!?私でもこのアホ嫁由加の娘の通学路がわかってしまう)

 

 

「娘を刃物でズッタズタにして首絞めあげるんだよ」

「え?え?なに?どうしたの?」

 

「小学校も名前も簡単にわかるからなぁ………明日にしよっかな。いつでもいいんだけど」

由加はグラスに入ったグレープフルーツジュースをこぼした。

 

 

「冗談になってないよ!?何?律子?何かクスリやってる?」

「生まれつき良心がないの。で、お前が隠してる優越感が見えちゃったから壊してあげる」

 

「ちょっと、本当に警察いくよ!?」

「あ、客だ。じゃあ穴で遊んで貰ってくる。娘、大事にしなよwww」

 

 

数分後、律子は名ばかりの狭い脱衣所で三つ指をついた。

「律子です。よろしくお願い致します」






(つづく)



仕事に追われています🐈

皆様のブログに中々訪問できておらずすみません💦

またよろしくお願いします。



絶賛引きこもり中

 

 

ジョン。そんなに簡単に言わないで。

そんな難しいことをさ。

 

そこまで言い切らないでよ。

誰もができることじゃないことを。

 

今を生きるんだ。

自分の人生を生きるんだ。

 

とか😩ナニイマって

 

 

 

 

カートがもしこの歌を聴いたらどう思うのか。

またレモンを絞って、ペッと唾を吐くのか。

 

いや、彼はこの歌を地でいきすぎているから、

少し耳を傾けた後、すぐ目を伏せまた10代の闘争心のようなリフを鳴らすだろう。

 

 

カートもジョンも人間賛歌を響かせている。

だけどコーヒーとミルク程の差がある。

 

 


 

ハローハロー

こんにちは、こんにちは、

どのくらい酷い?

そして否定、否定、否定、、

 

 

 

 

 

これが俺の人生だ

今やるかやらないかだ

俺は今を生き続けたいんだ

永遠に生きられるわけじゃないから

 

 

 

 

水と油のように対比されるものに惹かれる。

そこにはきっと不思議な共通項があるから。

 

 

 

今夜はジョンの勝ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



散文ですニコニコ



………………………………………







こんにちは、こんにちは、


ミルクが欲しいの?

それともカフェオレ?

コーヒー?




また、また、また、水を成していない黒をご所望か?




こんにちは、こんにちは、

あなたのお陰で私はとても酷い気分

舌が麻痺っちゃって快感すら感じる




こんにちは、こんにちは、どのくらい酷い?


ガスバーナーで⭕️⭕️を焼き殺したとでも言えと言うのか

どちらにせよ肉は肉の匂いだ




こんにちは、こんにちは、あなたのお陰で私はとても酷い気分


視界と脳がバグって皮膚のない天使の口付けを受ける




だけど何故か快感なんだ






 

自由詩ですニコニコ

 

 

 

 

………………………✂️………………………

 

 

 

 

 

黒く溶けた蒼の中

 

僕らは呼吸を知らなかった

 

君の手は白くぼやけていて

 

液体よりも軽かった

 

 

 

飽和した蒼と白が

 

透明な水疱に隠れて

 

しばし揺れた

 

 

 

あれから

 

君は呼吸ができただろうか

 

この星を包む液体から

 

その身体を起こせただろうか

 

 

 

僕はまだ液体に包まれたまま

 

水面が明るくなるのをじっと待っている

 

 

 

ごめんね

 

僕は笑い方を知らなかった

 

 

ありがとう

 

この星の液体より多くの幸せが

 

貴方を潤しますように

 

 

 

そしてもう立ち止まりませぬように




(2018.9.15)

 

 

 

 



てくてくてく。


今日も歩いた。


明日も歩く?




てくてくてく。


明日を歩いた。


じゃあ明後日も歩く?




てくてくてく。


少し黙っていてくれないか。


僕はまだ靴を選んでいるのだ。


ここで失敗したくないのだ。




その瞬間、世界の地面は全てシルク生地の絨毯となった。


どこやらケミカルの会社が新案した、決して汚れず抗菌万歳のシルクの絨毯。撥水加工、耐震設計。




こりゃもう靴いらねえべや。


いや、それは生き方を否定することやでな。


いや、これは世界が丸くなるチャンス。


 



皆が靴脱いで



てくてくてく。





ちょっと左の靴下の方が大きかったかな?






 

むかし描いた絵本の続きですニコニコ

改めて全文を載せ、

文字が小さすぎますので絵外にも

文字を書きました。

 

 

 

 

………………………✂️………………………

 

 

 

 

注文の    多い    料理店 あらすじ

リンク先の中段あたり。

 

 

 

 

 

 

 

故・宮沢賢治氏に敬意を表して

 

注文の少ない料理店

 

 

 

 人間を捕らえて食おうとした山猫の一族は

二人の若い紳士の白熊のような犬たちに

一網打尽にされました。

 

残ったのは五匹のみでした。

 

二匹のたくましい山猫と

山猫の大親分でいる雌猫と

そして産まれたばかりの

雌山猫の孫が二匹だけでした。

 

五匹は何とか今日の餌でもと

森をうろうろとしておりました。

 

 

 

それはだいぶの山奥でした。

先陣を切ってきた大親分である雌山猫も、

ちょっとまごついて引き下がってしまいました。

 

それにあんまり山がもの凄いので

そのたくましい山猫が二匹いっしょに

めまいを起こしてしばらく唸って、

泡を吐いて死んでしまいました。

 

「これでもう私たちを守ってくれる者はいない」

 

 

 

大親分は二匹の死骸に

枯葉を乗せ、じっと祈っておりました。

 

その時ふと後ろを見ますと

立派な西洋作りの家がありました。

そして玄関には

 

RESTAURANT

西洋料理店

IN THE FOREST HOUSE

森の家軒

 

という札が出ていました。

お親分である雌山猫は大きなため息をつきました。

 

それはこれから起こる事が

容易に想像できたからです。

 

 

 

大親分の雌山猫は店の前にある

大きな切り株の上に立って二匹の孫猫に言いました。

 

「にゃあ。にゃあ。お前たちは

まだ人語が理解できないだろうから言っておく

 

この先、私は無事ではいられない。

これは私が人間に負けた結果であって

 

お前たちは決して人間を憎んではならない。

そこのところをよく覚えておくのだよ」

 

 

 

大親分である雌山猫と孫猫の三匹は

そのレストランのドアをゆっくりと開けました。

 

ドアにはもう『本日貸切』の札がついていました。

 

中に入るとたくましい西洋人のコックが

フライパンを片手に壁に寄りかかって、

こっちをじっと見ていました。

 

 

「にゃあ。にゃあ。私どもは今日の飯にもありつけません。どうかお恵みを」

 

たくましい西洋人のコックは言いました。

「もちろん。助けてやろう。

その子猫どもの面倒はみてやる。

だが人を食おうとしたお前は助けるわけにはいかん」

 

「わかっていますとも。

私はどうなろうが構いません。

この子らの面倒を見てやってください」

 

 

 

「よかろう。私は楽器が好きだ。

お前には三味線になってもらおう。

その代わりその子猫どもの面倒は一生見てやる」

 

「ありがとうございます。

さ、私を楽器にしてくださいまし」

 

小さな孫猫二匹を残したまま大親分である雌山猫は

奥の部屋へと入って行きました。

 

 

 

それから5年後。

 

たくましい西洋人のコックは客のいない時には

酒を飲んでレストラントの前の切り株に座り

楽器を弾くことがありました。

 

ヴァイオリン。チェロ。フルート。

 

 

森は静かです。

でも三味線を弾くと………。

 

二匹の山猫を中心に森中の獣たちが集まり

いつまでも、いつまでも、

その音色を聴いておりました。

 

 

 

 

(おわり)

 

 

 

しばらく不定期になります。

またよろしくお願いします。