過激な表現を含みます。

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どこよりも冷えた風呂場だった。

 

 

ピンク色の照明が、海辺で使う安い灰色の空気マットに鈍い光を放たせている。

そして歪な形の白い椅子と、丁寧に折りたたまれた何枚かの黄色いバスタオル。

 

ドロドロとした透明の液体。入り口に敷かれたすべり止めの赤いスポンジ。

そしてふたり入るのがやっとの風呂。

 

 

パっと照明が明るくなった。

きれいな足がすべり止めの赤いスポンジに触れた。

白い服を着た女が入ってきた。

 

 

………白い服?いやそれは服というよりは布だった。

どこも透けて肌が見えていた。

 

 

女はシャワーの蛇口をひねり風呂場全体を水で流した。

少々の髪の毛など気にしない。

 

まるで裕福な主婦がガーデニングに水をやっているようだ。

しかしその顔は裕福な主婦のように太陽を浴びていない。

無表情。

 

 

そして風呂をじっと覗き込んだ。何か白いモノが浮いている。

女は手際よくその白いものを桶ですくって排水口に捨てた。

そうして照明を落とし、またその部屋をピンク色に染め、そこを立ち去った。

 

 

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「おひさ由加。客こないんだけど」

 

 

 薄暗い部屋の隅にL字型のソファーがあった。

スマホでゲームをしてる娘がいる。端っこで身体を伸ばして寝ている娘もいる。

3~4名だろうか。みなお互いに関心がない。そしてみな服が透けていた。

 

 

先ほどの女は端に座りLINEをいじっていたが、平日のこの時間にLINEをする相手は少なかった。

しかしふと友人の由加のLINEを見つけた。

 

 

「あらまあ………律子じゃん!LINE、珍しいね。嬉しい!元気?」

友人の由加は12階のバルコニーで、ガーデニングに水をまいていた時だった。

 

その旦那は突然買ってきたグランドピアノの前に娘と一緒に座り、教えられる訳がないのに、にこにこと手元を見ていた。

 

 

「律子まだやってるの?もう止めたほうがいいんじゃない?」

「30までにはやめる」

「てかそれはもう定年退職でしょ」

 

 

由加は食卓に座り自前のグレープフルーツジュースを飲み始めた。

本当はワインが飲みたかったが旦那が休みなので我慢した。

 

 

「由加はすげーなー。貯金して、いい旦那貰って。元ソープ嬢だったって言ったの?」

「てか元客だから(笑)今日は指名貰えないの?」

 

「今はないねえ。指名あっても貧乏そうな奴ばっかり」

「うーん」

 

 

律子は思った。

 

うーん?

 

なんのうーん?だ?

私の境遇を思ってのうーんか?

うーん?

 

 

律子は自分が少し苛ついているのがわかった。

 

 

「まあこうやってずっとLINEしてるだけだよ。やっすい待機料もらってね。」

「まあ、もう辞めな。28?でしょう。まだやり直しきくから。」

 

 

(やり直し?由加みたいになれるかも知れないよってか?)

 

 

「由加は娘さんがいるんだっけ。今何処に住んでるの」

「うん。小学生の娘がいるよ。今は生豆町にいる」

 

「ちょっと待って今ググってる………生豆町は小学校がひとつしかないね。」

「うん。それがどうしたの?」

 

 

(ばっかばかしい。テクノロジーってなんだ!?私でもこのアホ嫁由加の娘の通学路がわかってしまう)

 

 

「娘を刃物でズッタズタにして首絞めあげるんだよ」

「え?え?なに?どうしたの?」

 

「小学校も名前も簡単にわかるからなぁ………明日にしよっかな。いつでもいいんだけど」

由加はグラスに入ったグレープフルーツジュースをこぼした。

 

 

「冗談になってないよ!?何?律子?何かクスリやってる?」

「生まれつき良心がないの。で、お前が隠してる優越感が見えちゃったから壊してあげる」

 

「ちょっと、本当に警察いくよ!?」

「あ、客だ。じゃあ穴で遊んで貰ってくる。娘、大事にしなよwww」

 

 

数分後、律子は名ばかりの狭い脱衣所で三つ指をついた。

「律子です。よろしくお願い致します」






(つづく)