ギターイノベーション大学(以下、GIU)は、元締めのギター講師数名により発足された、ギター情報系のオンラインサロンである。私は会員ではないし、内容についても対外的なものしか知らない。しかし、オンラインサロンビジネスというのは情報商材であり、詐欺師、犯罪者の温床となっていることから、GIUについて胡散臭いイメージを持つ者も少なくないだろう。今回はGIUの正体と、真の狙いについて私の考えを述べよう。

 


1.GIUは学校法人ではない


 まず、GIUは大学と銘打っているが学校法人ではない。単なるオンラインサロンである。サロン名に「大学」という名称をつけたことや、謳い文句に「既存の音楽学校では教えてくれない、実践的な内容をシェアする」としていることから、音楽学校的なものと考えている人もいるのではないだろうか?

 

 

 しかし、GIUでは音楽学校でのカリキュラムが受けられないし、そのための環境が整っているわけではない。全く土俵が違うにも関わらず、音楽学校を比較対象として引き合いに出すのは適当な表現ではないだろう。むしろ、GIUは音楽情報紙の定期購読との違いが、サロン講師とふれあう権利以外にあるのか説明したほうが早いのである。

 

 

 また、大学は学び舎である他、研究機関の側面をもつが、コンテンツの内容から言って、その路線はないだろう。「音楽学校では教えてくれないこと」とはいっても、例えば、某ギター雑誌の付録のDVDの質問コーナーでの有り難〜いお言葉もそれに該当するだろう。まぁ、ものは言いようである。

 


2.ギター講師系YouTuberの実態


 まず、GIUの目的の説明に入る前に、前提知識としてGIUの構成員に多い、ギター講師系YouTuberの実態について簡単に触れておこう。ギター教則ジャンルの配信市場というのは、料理、動物、ゲームなどのコンテンツに比べて、圧倒的に小さい。先述のジャンルは大して有名でなくても、初週万単位での再生数はザラであるが、ギター教則ジャンルで初週数万再生獲得できる者はそう多くはない。そして、ギター講師はこの小さい枠の中で、毎年大量に湧いては消えてく初心者の争奪戦を繰り広げているのである。

 

 

 また、ギター講師系YouTuberのチャンネル成功の道筋としては、自分のスクールの広報から始まり、再生報酬に応じた資産形成、あわよくば企業とのタイアップである。タイアップまで行けば講師としては万々歳という現状だが、ここまで行くのはほんの一握りである。

 

 

 先述の通り、ギター教則ジャンルは再生数が伸びにくいため、1動画あたりの単価が低い。ギターの教則だけでYouTuberとしての再生報酬を満足に稼ごうと考えると、毎日のように動画を上げなくてはならず、薄利多売となる。ペースを考えずに自分の知識・技術を安売りすれば、十分に収益化する前のかなり早い段階でネタ切れ必至である。

 

 

 では、もう既にある程度売れていて、ネタも出しきったようなベテランYouTuberが現在どのような配信しているかというと、グッズを作ったり、他人とコラボしたり、機材を宣伝したり、この期に及んで批判等で炎上させて注目を集めたりと。まぁ、あんま教則してないのである。ネタ切れだからね。そう、ギター講師系YouTuberにとって、自分の教則の持ちネタというのは、自分自身をブランド化して商売にこぎつけるための手段であり、売れるまでの猶予期間、寿命そのもの。というのが1つポイントである。

 


3.利用されるギター講師系YouTuber


 GIU発足時、このビッグウェーブに乗るべく(金のにおいを嗅ぎつけ)、ギター講師系YouTuberたちが集ったことだろう。ギター講師系YouTuberとしては、自分自身のチャンネル需要拡大、業界人とのコネクションに心躍らせ、我先にとGIUで高級なポジションを確立できるのか模索していたに違いない。

 

 

 しかし、とりあえず入会したはいいものの、最初は同じ目的、思惑を持った似た者同士だけの集まりだったはずである。殆ど講師(供給者)しかいないのに、どうやって金稼ぐんや?という話である。が、これも元締めの作戦通りである。というのも、GIUは少ない予算の中で、財産となるコンテンツを安く、効率的に生産しなくてはならない。労働単価が安くて、集客の見込めるギター講師系YouTuberはGIUにとってうってつけの存在なのである。

 

 

 そして、多くのギター講師系YouTuberは入会程なくして気付いたはずである。GIUの「技術と知識をシェア」するという理念・システムは、彼らギター講師系YouTuberがGIUに貢献(教則を提供)するほど、自分のギター教室・チャンネルのブランドを発展させるうえで、不都合なものになるということに。

 

 

 そう、実はGIUで露骨に割を食うのはサロン内で教則する雇われギター講師である。講師ではない純粋な会員は、月1,500円で大げさな謳い文句通りのバックを得られると思っている。雇われ講師が平々凡々とした薄~い教則をすれば、「出し惜しみ」だとか「底が浅い」と失望され、有益な教則であれば講師的には「大安売り」になってしまう。前述では教則の持ちネタはギター講師にとって寿命と言ったが、それを大安売りするのである。

 

 

 GIU内での記事、動画はそれ以外のコミュニティに転載不可となっている。つまり、自身のチャンネルで扱うことはできなくなる。そして、これらは自分ではなく、GIU(元締め)の財産となる。ここでの教則が有益であるほど、本来自分のためだけに使える特別なカードを元締めに献上してしまう形となってしまうのだ。

 

 

 GIUの会員数は現在150人弱、会費が月1,500円なので、月225,000円(-手数料)ほどが運営に割ける。元締め、雇われ講師、ゲスト招致、その他諸々の運営雑費を加味すると、スポンサーの後ろ盾がなければ、現段階では雇われ講師の月謝も中々のボランティアである。ギター講師系YouTuberとしてある程度収入を得ている人間には旨味が無い役回りだ。そんなボランティア同然のはした金で、特別なカードを切れるかというと、まぁ普通に考えて使いたくないだろう。(というかそもそも、特別なカードすら持ってないのかもしれない)。こうした背景から、あんまり大したことやってないんだろうな。という想像がついてしまうのだ。

 

 


4.GIUの真の目的


 ここからが本題である。これはGIU会員の目的のことではない。意思決定を行う元締めの最終目的だ。彼らにとってオンラインサロンというビジネスは、どのような形でメリットを享受できるか?という点だ。サロンが順調に大きくなったときのことを考えてみてくれ。

 

 

 例えば、会員数が1,000人になったとしよう。そうなると月1,500,000円(-手数料)使うことができるのである。これくらい使える金と人が増えれば、色々な催し物も可能となり、コンテンツの量も質も爆発的に加速するだろう。そして、会員数が1,000人ということは、1,000人にプロモーションをかけることができる(カモに出来る)という意味を持つ。業界もこの金の成る木を無視できなくなり、スポンサーも続々と参入するのである。

 

 

 そう、これこそがGIUの真の目的。GIU会員による消費社会を形成・コントロールし、元締めが業界での権力を持つことである。そうなると、サロンで得られる永続的な役員報酬の他、スポンサーからは今よりも強力なキックバックを獲得出来るのだ。技術と知識を切売りする雇われ講師とは雲泥の待遇差である。まぁ、あくまで上手くいけばの話だが。

 

 

 GIU発足時に胡散臭さ、違和感を覚えた者も少なくないだろう?これは、オンラインサロンという元締めに多大な利益のあるビジネスモデルでありながら、「プロ・アマの垣根を超えたギター好きのためのコミュニティ」だとか、「ギターを面白くする」だとか、「イノベーション」だとか、ビジネス色を無理に排除しようとしたキレイごと、大言壮語が過ぎたためである。

 


5.イノベーションは起こらない


 イノベーションとは「革新」という意味である。考えてもみてほしい。人の模倣、後追いばかりでアーティスト活動をしていないギター講師が束になったところで、革新が起こるのか?新製品に触れれば革新が起こるのか?ということを。他人任せの思惑を持った人間が大勢入会したところで、結局は1つの消費社会、搾取構造に参加しているに過ぎず、イノベーションなど起こらないのである。

 

 

 もし、イノベーションを謳うのであれば、今まで甘んじてきた既存のギターの構造や、楽器業界全体の腐った部分にメスを入れるべきであるが、意思決定を行う元締めの彼らには、期待できないだろう。それは彼らが今までメーカが売りたいものに迎合しきってきた実績があるからである。アドバイザーやプロモーター(実践販売員)をライフワークとしてきた彼らは、業界に対するイノベーションはおろか、一石投じることすら期待できないほど、どっぷりメーカ側の人間である。

 

 

 テレビ通販で、掃除機にビーズが吸い込まれるのを見て「キャー!」とガヤのババアが叫ぶのを目にしたことがあるだろう?彼らはこれと全く同じことをギターやエフェクターの試奏動画で行っている。いい大人が「すげぇ!」「いい音!」「ほしい!」などと顔をクシャクシャにして絶叫である。この法則に一度でも彼らが反したことがあるのであれば、是非教えてほしい。

 


6.GIUは悪なのか?


 まぁ、色々思うことはあったが、結論から言って別に悪ではない。というのも、今回はGIUを例として挙げているが、このシステムを「悪」とすると、全てのオンラインサロンが「悪」ということになってしまう。確かに、閉鎖的なコミュニティでは詐欺や犯罪の温床になりやすい懸念はあるのだが、全てがそうではない。ひとつGIUに対して挙げるのであれば、何かと大げさな宣伝には疑問符であるという点くらいだ。

 

 

 また、ギター情報誌として購読するなら中身は悪くないのではないかと思う。だって、有名な?ギタリストの機材コマーシャル記事・動画を見ることができるわけだろう?ファンは買いである。しかし、GIUに入会するにあたり、「勉強するんだ!」、「有益な情報を得るんだ!」、「つながりを得るんだ!」、「イノベーションだ!」などと、漠然と何かに期待して意気込んでいるのであれば、肩の力を抜いた方がいい。このサロンは単なる、会員制のギターエンタメコミュニティである。

 

 

 そして、入会するにしてもイノベーションを起こすのは誰かではなく、自分であるという気概がなくてはならない。だって、現時点で彼らが100人以上の束になってもイノベーションを起こせていないのである。他人に期待するだけ無駄だろう?

 

 

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