ゲームデザインエクセレント -7ページ目

◆ 必要となるスキル

 さて、この「何をするのか」という問題ですが、これは「ゲームデザイナーは何ができなければいけない仕事なのか」という形に読み替えることができます。
  その意味では、既に第1章で書いています。そこでは、「プロジェクトを仕切る」「ビジネス面での判断・評価をする」「新しい遊びや面白さを見つけ提案する」の3つを挙げました。ただ、これから修行を始める人には、このままでは使えませんね。具体的に何をするのかが見えてこず、自分をどう育てていったらいいかがわからないからです。
  もう少し具体的な話というのも、実は少ししています。第3章の中で、野球の場合にたとえて問題提起をした上で、次のような説明をしました。


    1.表現と構成を磨く
    2.人前で話し、人と会話する
    3.ビジュアライズ
        (美しく効果的に作る/概念や関係性を図解する)


 これをさらに分解していたものが、いわゆる「スキル」です。ざっと挙げれば、こんなところになるでしょう。

    ○会話ができる ○人前で話せる ○文章を書ける
    ○図を描ける ○レイアウトができる ○数値を読める
    ○論理的思考ができる ○要約ができる ○自分を演出できる


 以下、個別に見ていきましょう。


○会話ができる
  人を動かす仕事ですから、会話ができることは大前提です。未知の相手やバックボーンの異なる相手と意思の疎通をはかることは簡単ではありませんが、ゲームが「ビジネスとして成立させる、工業的な総合芸術」である以上、まさにそういう能力が重要になるのです。相手の意見を聞くだけではなく、引き出していくことが求められます。


○人前で話せる
  会話は、参加する双方で行う共同行為ですが、単独行為的な「話し」も必要です。これには、会議室からステージ、さらにはテレビカメラの前など、いろいろな場面が考えられます。多人数を相手に話すことや、まとまった時間を貰って一方的に話すということも、当然必要になってきます。


○文章を書ける
  これは、言うまでもありませんね。文章が書けなければ、企画書も仕様書もあったものではありません。作家ではないので美文を書く必要はありませんが、わかりやすい文章は必須です。また、スピードも必要です。「拙速は巧遅に勝る」という言葉もあるように、どんないいプランでも、他人が出した後に出てきたのでは、価値はなくなってしまうからです。


○図を描ける
  言葉だけでは伝えにくいことを伝達するためには、図が必要になります。なお、"絵"の方は特に必要ありません。ゆえに画力は不要です。


○レイアウトができる
  文書などは、読みやすくレイアウトされていないと、伝わりません。特に提案書などは、短時間で相手を引きつける魅力を備えていないと、そもそも見てすらもらえないものです。また、文書だけではなく、『PowerPoint』などを使ったプレゼンテーションのスライドなども重要な表現媒体で、そういうものを作っていく能力も必要になってきます。


○数値を読める
  ビジネスにせよコンセプトワークにせよ、数値は重要になります。表やグラフから数値を読み取り、いろいろな判断に役立てられることが必要です。


○論理的思考ができる
  もともとソフトウェア作りには不可欠な特性です。直接プログラミングをする立場ではないにしても、ソフトを作る立場である以上、当然この能力は重要になります。また、他の能力においても、この要素は深く影響してきます。文章も図も、結局は論理性の裏付けが必要なのです。


○要約ができる
  見聞きしたものや自分で考えたものなど、適切に要約することが必要です。科学的な客観性が必要な局面でも、科学者的な説明では不十分なのです。


○自分を演出できる:
  話し方や見せ方などで周囲をその気にさせる能力のことです。「この企画は面白そう」「このリーダーは頼れそう」などと思わせるのは、内容の善し悪しとは別に、自分に対する演出力が大きく作用します。デザイナーは、存在していないものを良さそうに見せる仕事ですから、こうした力は重要なのです。また、メジャーになれる人間となれない人間を分かつのも、結局はここなのかも知れません。



◆ 何をする仕事なのか

 さて、今回から第2部となります。


  これまでの第1部では、ゲームおよびゲームデザインを全体的な視点から見て来ました。いまだ流動的なこの分野に取り組む上では、しっかりした軸足が必要です。クリエイター自身も、時代とともに変わって行かなければなりません。「変わりながら自分を見失わない」ためには、本質に根ざした軸足の確保が不可欠だといえるでしょう。
  しかし、ゲームデザイナーが直面するのは実際の仕事です。自分自身がそれをしなければならず、評論家や経営者のような視点から観ていたのではいけないのです。「ゲームとは何なのか」に関する深い洞察ができたとしても、自分のやるべき仕事ができない人は、クリエイターとしては務まりません。


  この第2部は、実際の仕事として何をするのかを扱っていきます。

 現実論として、企画職はボーダーレスです。プロデューサー、ディレクター、そしてシナリオライターなど、隣接する職域の内容と重なる面があり、「ここまでが企画屋の仕事」という明確な線をひきづらいのです。そこで、ひきづらい線を無理にひくことなく、この第2部の各回では、「**的なゲームデザイン」という切り口で、実際の仕事のスタイルとしてとりうる類型にあわせて、個々の問題を考えていくことにします。
  これを少し違う角度から考えれば、「各職種の中にあるゲームデザイン要素」ということになるでしょう。ディレクターやシナリオライターとしてプロジェクトに参加している場合も、その仕事の中にはなにかしかのゲームデザイン要素が含まれています。その意味で、企画職志望者以外にとっても、重要な内容になってくることでしょう。

第5回 ゲームデザイナーの条件

「あなたから見たゲームデザイナーは......?」


    ○開発が忙しくなるとどこかに消えてしまう、何やってるかわからない奴。


    ○俺たちが苦労して作ったのに、"作者"として雑誌に載るのはあいつだけ。


    ○世界観とかはやたら細かくしたがるくせに、
     パラメータとか関数とか、肝心のとこはこっち任せだ。


    ○口だけは達者だね。


    ○プログラムも満足に書けないくせに、新しい技術が大好き。
     3Dとかオンラインとか、やたら大風呂敷広げたがる。


    ○結局最後には会社の側に立つんだよね。
     後3ヶ月延ばしてくれたらいいゲームに仕上がるっていうのに、
     営業や広報と一緒になって、「期限どおりに出せ」だもん・・・。


    ○そんな職種名の人は、うちにはいません。
     ベテランの雑用係がいるだけで、彼がスタッフロール上のゲームデザイナーです。


【注釈】

*1 : 十数人もの人間が十数ヶ月もの間それだけに取り組んで......
むろん小規模なゲームであれば「数人が数ヶ月」で済みますが、本質は変わりません。
年度ごとに発行される『CESAゲーム白書』で説明されているゲームビジネスの収支構造のモデルケースでは、累積投資額をそれぞれ次のように設定しています。
○ 家庭用ゲームソフトウェア 5億円
○ 携帯ゲームコンテンツ   2千3百万円
○ ネットワークゲーム     9億3千万円
※広告宣伝費や販売管理費・ユーザーサポート費などは除外
スモールとされる場合でも2千万超ということですから、「アルバイト代を貯めて」というわけには行かないのです。

*2 : コンシューマは玩具、PCゲームは情報機器......
 8ビット機の時代、コンシューマゲームの流通は玩具問屋が仕切っていました。特にファミコン/スーパーファミコンでは、任天堂と密接な関係を持つ一次問屋の親睦団体「初心会」の影響力が強く、ゲーム会社はここに加盟する十数社と個別に契約を結ぶ必要がありました。
 一方、同じ頃のパソコンゲームは、日本ソフトバンクを筆頭とするソフトウェアディストリビューターが扱っていました。書籍流通におけるトーハンや日販などの取次会社の立場を見習って作られていたもので、ここと契約することで、全国のパソコンソフト販売店に向けて発売することができたのです。
 これらの仕組みは、業界構造の再編が進んだことで大きく揺さぶられました。初心会は既に解散、ソフトウェアのディストリビューターも、現在ではもう原型をとどめていません。

*3 : ふさわしい作品性
 この問題も、実際には流動的です。
 例えば、美少女ゲーム。かつてはPCでなければならないと考えられていました。コンシューマは小学生など低年齢層が中心な上、マシン自体が居間のテレビにつながっているからです。両親の目の前でやりたいとは思わないでしょう。
 ところが『ときめきメモリアル』は、PS版の方がより大きなセールスを挙げました。
その時点では、もう事情が違っていたのです。
    ○ ゲームの主なプレイヤー層は、高校生かそれ以上に移っていた。
    ○ 特にその年代層では、自室にテレビを持つ場合が多く、
      「コンシューマ=居間」という構図が崩れていた。
    ○ メディアがCD-ROMになり、容量の問題がなくなった。
 これも今では『ラブプラス』に見られるように、新たな展開を見せています。ときメモの頃の高校生や大学生も既に社会人。場合によっては家族持ちです。自宅で妻子の前でやりたいとは思わないから、外に持ち出して......ということでしょうか。
 ともあれ、どんなことでも教条化してはいけないということです。


*4 : 実際の市場がかなり小さい
 ここでは日本の場合に限定して記述しました。本文でははっきりと書かなかったのですが、日本独自のゲーム領域として"対象年齢を大人に限定した美少女ゲーム"というものがあり、国内のPCゲームはこれを中心にしているのです。
 世界的視野で考えた場合、既にPCゲームは単独の市場とは言えなくなっているかも知れません。コンシューマゲームと平行して開発され、同時期に市場に並ぶ場合が多いからです。いわば、プラットフォームのひとつとして「PS3」や「XBOX360」と同等の並びと言えるでしょう。
  結局大きく異なるのは流通だけということですが、これも日本独自の問題ですね。

*5 : ゲームならではの独自のノウハウ
 例えばファミコンの場合、画面は256×224ドットで、使える色も50色(同時には16色)というスペックでした。フォントは半角英文字しか搭載されていず、サウンドもリズムを含めて4音まで。こういう中で、グラフィックスを作り、メッセージを書き(ひらがなのみで、せいぜい18文字×3行です)、楽曲や効果音を鳴らさなければならなかったわけで、他では使えない独自ノウハウを蓄積せざるを得なかったのです。
 なお、PCの場合、同時期にWindowsへの転換があったのですが、少し遅れてゲームのための追加環境である『DirectX』が登場、これによってゲーム開発が標準化されたということがあります(これは後の『X-BOX』に繋がる流れでもあります)。


◆ 好きなればこそ勉強を

  教育の現場では、昔からよくこんなメッセージが語られていました。


     「プロってのはな、お客さんのために作るんだ。
      自分が好きだからじゃないんだぞ。
      重要なのは、何を作りたいかじゃない。何を作るべきかだ」



  こんな言葉の裏側には、志望者の多くが「熱心なゲームファン」だという現実がありました。放っておくと、ファンあるいはマニアの視点だけで理想的なゲームを考えてしまうのです。
 ただ、ゲーム開発の現場からゲーム好きがどんどん減っている現実を前にすると、この"薬"は効き過ぎだったのではないかとも思います。"好きだからできる"ではだめなのだとしても、好きですらない人間が理想的なわけではありません。むしろ"問題外"に近いのです。
 それでも広く門戸が開かれた結果、「就職の選択肢のひとつとして」なんてリアリストがどんどん増えてしまいました。実際には入ってからしっかり「好き」を理解してくれればいいのですが、"成功経験"があるとそうも行きませんし、多勢に無勢で押し切られてしまうことすら生じてきます。ただ、作り手にとって代替可能なものは、プレイヤーにとっても代替可能だということを忘れてはいけません。ゲーム好きの気持ちがわからない連中に仕切られたのでは、ゲーム産業の先行きは暗いものとならざるを得ないでしょう。


 今こそ、ゲーム好きの人間がキャスティングボードを握らなければならないのです。ただ、そのためには、できなければならないことをきちっとできる必要があります。
 もしあなたがゲームデザイナーを本気で志望していて、その理由が"業界の将来性"などではなく「好きだから」だったのなら、どうか胸を張ってください。ただ、自分がデフォルトで持っているのとは異なる角度からゲームを見る視点を、自分自身のものとして身につけておく必要はあります。
 ゲームデザイナーは、マーケティングやマネージメントなども理解していかなければなりません。本シリーズでもいずれその話題をすることになりますが、今回の話はその第一歩でもあるのです。



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *



  この第4回で"第1部 基本編"は終わりです。物事を理解するためには、細かい話題を追いかける前にざっと全体を通してよいとの考えから、総論的な内容で続けてきました。次回からは各論に移りたいと思います。年の変わり目とシンクロしていないのはご愛敬ですが、世間は入試シーズンなので、人生の変わり目に合わせたということで......(強弁ですけど)。

◆ ゲームデザインとの関わり

 さて、以上のような仕組みは、ゲームデザイナーとしてはどう捉えるべきでしょうか。
 昔、ゲーム会社が単に"ゲーム会社"でしかなかったように、ゲームデザイナーも単に"ゲームデザイナー"でした。ゲーム会社にいて企画という役割を与えられていれば、概ね同じような仕事が待っていたのです。
 しかしこんにちでは、様々なあり方が考えられます。
 現代のゲーム開発では、社内の完結した開発ラインは不可欠ではありませんし、仮にある場合も、それだけに縛られる必要はありません。新規技術が必要なら、外から見つけてくればいいのです。また、一般に社内の方が人事コストが高いのですが、納期や完成像など目標が曖昧な場合にも対応できるなど、メリット/デメリットがあります。うまく使い分けることが求められます。
 また、作る対象をゲームに限定する必要もありません。
 ゲーム屋以外にもゲームが作れるようになった時代は、同時に、ゲーム屋でもゲーム以外のものが作れるようになった時代です。インターネット上で展開されるウェブサイトや商品キャンペーンのためのサイトなど、かつてはもっぱらグラフィックデザイナーの領域だった ゲーム的なものが求められるようになっています。


 どのような立場をとるにせよ、重要なのは、変化そのものへの心構えでしょう。
 先述の変化が始まったのは、90年代中頃。社会一般の基準でいえば、新入社員がせいぜい係長になるかどうか程度の年数しか経っていないのに、ここまで劇的に変わってしまっているのです。ある時点で通用した常識を教条化することほど、ばかげた行為はありません。
 "ゲームのルール"は大きく変わったのに、意識として昔のやり方を捨てきれない人は少なくありません。特に成功経験を持っていると、それに縛られてしまう傾向があります。


 ゲームが作品性においても高度化していることは事実なので、「よりすばらしいゲームを作る」のために、自分自身の力を深めていくというのも、ひとつの方向です。しかし、時代の変化がもたらしたのは、そればかりではありません。
 パソコンに向かっている時間よりも社外の人と打ち合わせている時間の方が多い、なんていうことも、今ではごく当たり前です。そして、ゲームデザイナーが「企画職」であるとも限りません。プロデューサーやコーディネーターなんて肩書きの人が実際にゲームデザイナーだということもあるでしょう。さらには、プログラマやグラフィックデザイナーなどにも、ゲームデザイナーたりうる場合があると言えます。
 こういった時代に対する心構えを持ち、自分がどのようなゲームデザイナーでありたいのかを意識することが重要といえます。

◆ 業界システムが成立するまで

 以上説明した業界の仕組みですが、実際にこのような形になったのは、比較的最近の話です。私が会社にいたのは90年代前半ですが、その頃だとまだゲーム会社は単にゲーム会社であるのがふつうでした。大手も中小も、社内開発ラインによって作ったソフトを自社ブランドで発売するのが一般的だったのです。また、当時は外部の開発会社との関わりも薄く、プロジェクトのほとんどは社内ラインで作っていました。
 ゲームというのは、直接的にはクリエイター個人の創作によって作られます。特にゲームの技術というのは近年まで標準化されていず(特にプログラミングの場合、実際の創作はプログラマの脳内で行なわれているという点に注意が必要です)、各自が自分なりのスタイルを発見していくか、あるいは"師匠"の下でみっちり仕込んでもらうかしかありませんでした。そこで当時の人材システムでは、既に仕事としてゲームを作っている玄人を招いてその人なりのやり方でチームを率いてもらうか、「ある程度できる素人」を採用して社内で一人前に育て上げるという方法が、一般的だったのです。
 外注がしづらい事情も、これと同じです。作り方が会社ごとにまちまちでは、部分的に担当してもらうということは、開発スタイルを共有する系列会社ででもない限り無理でした。また、使える人材が各社ごとに囲い込まれている状態では、受注できる会社というのは完成した開発能力を持つ会社に限られるため、開発の選択肢を多様化させる要因にはなれなかったのです。

 それが、こんにちのようなシステムになっていったのは、プラットフォームの転換によるものです。
 スーパーファミコンからプレイステーションに移る際、二つの点で大きな変化がもたらされました。まずメディア容量が大きくなり、ボイスやムービーが事実上の必須になってしまったということ。そして、ゲームの作り方も、それまでのスプライトアニメーションを中心とした2Dからポリゴンを使った3Dという新技術に移行したということです。
 グラフィックスやサウンドなど、多人数が長期間専念しないと作れないわけですが、こうなると、全てを社内でまかなうのでは、人数ばかりが増えてしまいます。また、それまでとは全く異なった技術は、従来の社内ヒエラルキーに深刻な問題をもたらしました(つまりは、上役や先輩が、技術的にも優位とはいえなくなったということです)。
 これらは少なからぬ混乱をもたらしたわけですが、業界全体としては変化に対応、その結果として今日の姿があるのだと言えます。
 現実には、プラットフォームのメーカーがソニーに変わったことが、大きかったと言えます。任天堂はクローズドパーティー志向が強かったのですが、ソニーは対照的に技術情報の公開に積極的でした。また、『ネットやろうぜ』などに見られるように新人の育成発掘にも力を入れるなど、"新時代"のムードを盛り上げるのが上手でした。一方で、グラフィックスなどの面での変化は、ゲームならではの独自のノウハウが開発に占める比率を格段に下げることにもなり、人材市場のオープン化という点で相乗効果を発揮していったのです。*5


 実際には、一夜にして変わったわけではありません。様々なレベルでの混乱が続き、気がついたら現在のようになっていたという感じです。また、現状が安定しているというわけでもないのですが、もたらされた多様化自体は今後も続いていくものと思われます。

◆ 2種類のゲーム会社

さて、図でも示しているように、ゲーム会社という存在も、こんにちでは2つに分かれています。「パブリッシャー」と「デベロッパー」です。
パブリッシャーは、ブランドを持ち、広報力や営業網を通じてソフトを発売する会社です。この言葉は「出版社」の意味で使われることが多いのですが、それが示唆するような立場になるわけです。
これに対してデベロッパーは、実際のゲームソフトを開発する会社です。パブリッシャーからの"下請け"となる場合もありますが、「販売:A社、制作:B社」という形で自社名を出す場合もあります。


実際のところ、両者は完全に分離しているわけではありません。大手ゲーム会社の大半は、社内開発ラインを持ちながら、外部デベロッパーを使っての製作も行う「デベロッパー兼パブリッシャー」となっています。かつてはエニックスが"メジャーでは唯一の専業パブリッシャー"だったのですが、ここもスクウェアと合併することで、"兼"になってしまいました。
また、立場も固定的ではありません。『イナズマイレブン』などで知られるレベルファイブは、こんにちでは自社ブランドで商品を展開していますが、少し前までは"著名なデベロッパー"でした。さらに、ふたつの立場が共存する場合もあります。ある分野ではパブリッシャーとしてゲームタイトルをリリースしながら、別の分野では他社の仕事をデベロッパーとして請け負うということもあるのです。
どういうゲームを作るのかという面でも、両者の関係は一通りではありません。
多くの場合、パブリッシャー側が発注者です。しかし、その注文自体がデベロッパーの提案である場合も少なくないのです。


「今、**が注目されていて、こんなソフトが売れそうです。
我が社では、こういうソフトを作る用意があります。
どうです、予算**円ほどで、発注してみませんか?」


さらに、この提案自体をパブリッシャー側から促す場合もあるわけです。プロデューサー側の作品内容に対する関与の度合いも様々で、むしろコラボレーションといった方がいいケースもあるでしょう。


総じていえば、「スタイルもまた造られる」ということでしょうか。
どちらがどんな役割をとるのかは、業界によっては定式化したスタイルがあり、それ以外の方法が許容されません。しかしゲームでは異なります。そこも含めて、当事者が造っていくものだということです。

◆ 産業の構成員

以上ざっと説明しましたが、コンシューマ以外のカテゴリーでは、これとの差分として理解すると早いでしょう。
PCゲームの場合、ゲーム会社にとって、プラットフォームメーカーとの契約関係はありません。Windows/Macとも、OSメーカーの許諾をとる必要はなく、勝手に作っていいのです。反面、一元化されたソフト流通システムはありませんから、自力で販路を開拓しなければなりませんし、量産およびパッケージングから卸売り業者への納品までも自分たちで手配しなければなりません。
ケータイゲームの場合、NTTドコモやauなどの通信キャリアがここでいうプラットフォームメーカーの位置に入ります。そして販売店は存在しないので、全て直接エンドユーザーに販売しているのと同じです。課金システム(ダウンロード販売なのか月額課金かなど)は、キャリアによって可能な範囲に違いはあるのですが、ゲーム会社側の判断で決めるという点は共通です。
アーケードでは、プラットフォームのメーカーというものがありません。ハードウェアも含め、ゲーム会社が自前で手配することになります。大手の場合、生産工場を実際に持っています。一般的にはそこまでは行かず、設計まで(生産はアウトソーシング)であったり、さらには大手の作った汎用性のある規格を利用することになります。また、流通についても統一的なシステムはなく、自社営業網で直接展開するにせよ、代理店や同業他社に委託するにせよ、自前で手配していかなければなりません。


さて、ここまでは4市場を横並びに説明しましたが、実際には市場によってビジネスの規模が全く変わって来ます。
アーケードは、やはり大企業でないとどうにもなりません。ソフトウェアの開発力よりも会社全体としての営業力の方がものを言うからです。ただ、市場そのものが大きいわけではありません。肝心のゲームセンターも、昨今では"プリクラ"やクレーンものなど、ゲームでないものばかりが目立ちますね(会社としては"売れれば同じ"ということでしょう)。
一方、PCゲームの場合は、営業力はあまり影響しません。というのも、実際の市場がかなり小さいため、営業をかけても売れないのです。*4パブリシティもウェブ媒体が中心ですし、ボイスも最小限の選択をしていくしかありません。そして、これを裏返しにすればコンシューマビジネスとなります。市場そのものはアーケードよりも大きく、かけたお金を回収できる素地があります。そこで、人気タレントを使ったテレビCFを多量に流し、ボイスとして人気俳優をずらりとフィーチャーしたりすることもあります。「営業力」「開発力」といった個別の力よりも、総合的なプロデュース能力がものをいう領域といえます。
ケータイゲームの場合は、PCゲーム以上にスモールなプロジェクトとなります。というのも、ソフトウェアの単価の相場がかなり低いところで確定してしまっているためです。薄利多売を追求することも困難なので、最初からプロジェクトを小規模に押さえておかなければなりません。携帯ゲーム機用のゲームとケータイゲームは、何よりもこの事情から峻別する必要があります。

◆ ゲーム産業の構造

続いて、ゲーム産業の構造を見てみましょう。
 全体を見れば実に大きく多様なのですが、その全てをスコープしたのでは、訳が分からなくなってしまいます。そこで、コンシューマを前提にまとめてみます。
 図は、業界の構造を模式化したものです。

 


  中心にあるのがゲーム会社。ゲームソフトを作る会社です。ここを基本にして周辺を考えてみましょう。
 まず、プラットフォームのメーカーがあります。具体的には任天堂やソニーなどで、コンシューマのゲームを作るためには、これらの会社とサードパーティー契約を結ぶ必要があります。
 次に開発用のハードウェアやツールなど。プラットフォームメーカーが用意しているものもありますが、サードパーティー製も広く使われています。また、近年ではミドルウェアやゲームエンジンなど、かつては自社で行なうしかなかった工程を補うソフトウェアが拡がっています。これらは、開発期間の短縮のため、ライセンス契約を結んだ上で適宜使うことになります。
 開発の過程では、必要に応じて外部のクリエイターを使います。個人もあれば、会社の場合もあります。種類によっては、アニメや映像など、他業種を本業とする会社に依頼する場合もあります。近年では、ボイス付きが通常なので、声優が所属するタレント事務所との交渉やレコーディングスタジオなどの手配も入ってきます。
 そして、開発が終われば販売となります。商品一般として、メーカーと小売店の間に卸売りが入るのですが、コンシューマゲームの場合、現実にはプラットフォームのメーカーが直接卸売りも担当しています。完成したソフトをDVD-ROMに焼いて先方の会社に持ち込めば、後はパッケージ化と流通まで進んでいきます。
  また、実際に売り出すためには、パブリシティ=広報や広告を展開しなければなりません。その相手方となるのが、ゲーム雑誌やゲーム専門のウェブサイトなどです。広告は、費用対効果を考慮した上で、テレビなどの一般媒体にも展開することになります。

続いて、ゲーム産業の構造を見てみましょう。
全体を見れば実に大きく多様なのですが、その全てをスコープしたのでは、訳が分からなくなってしまいます。そこで、コンシューマを前提にまとめてみます。
図は、業界の構造を模式化したものです。



ゲームデザインエクセレント

中心にあるのがゲーム会社。ゲームソフトを作る会社です。ここを基本にして周辺を考えてみましょう。
まず、プラットフォームのメーカーがあります。具体的には任天堂やソニーなどで、コンシューマのゲームを作るためには、これらの会社とサードパーティー契約を結ぶ必要があります。
次に開発用のハードウェアやツールなど。プラットフォームメーカーが用意しているものもありますが、サードパーティー製も広く使われています。また、近年ではミドルウェアやゲームエンジンなど、かつては自社で行なうしかなかった工程を補うソフトウェアが拡がっています。これらは、開発期間の短縮のため、ライセンス契約を結んだ上で適宜使うことになります。


開発の過程では、必要に応じて外部のクリエイターを使います。個人もあれば、会社の場合もあります。種類によっては、アニメや映像など、他業種を本業とする会社に依頼する場合もあります。近年では、ボイス付きが通常なので、声優が所属するタレント事務所との交渉やレコーディングスタジオなどの手配も入ってきます。
そして、開発が終われば販売となります。商品一般として、メーカーと小売店の間に卸売りが入るのですが、コンシューマゲームの場合、現実にはプラットフォームのメーカーが直接卸売りも担当しています。完成したソフトをDVD-ROMに焼いて先方の会社に持ち込めば、後はパッケージ化と流通まで進んでいきます。
また、実際に売り出すためには、パブリシティ=広報や広告を展開しなければなりません。その相手方となるのが、ゲーム雑誌やゲーム専門のウェブサイトなどです。広告は、費用対効果を考慮した上で、テレビなどの一般媒体にも展開することになります。