
「眠れサリィ」
ぶら下げてるようシャツを着ている、華奢な肩から縫い目が落ちそう、
春風みたいに柔らかい、艶が不自然、化繊の安物、
焼き上がりを待っていた、バゲットを片手にひとつずつ、
街灯下には昨夜の闇に、群がってた虫たちが墜落してる、
それを掃き取る鹿打ち帽子の85歳は乞食に煙草をもらったばかり、
サリィが溜息ついて見上げる真上、錆びた手摺で塗装の剥げた古いアパート、
二階の角のベッドルーム、唯一、夢を見られる居場所、
洗うたびに古びてしまうブラジャーと、ほつれた裾が風に揺れてるスカートはくすんだ黄、
瘦せぎす手首を直角に、雲をつかんで頰張った、
グラニュー糖のたっぷり入ったミルク味の懐かしい、子供のころにねだった綿菓子みたい、
思い込みならきっと誰より強いはず、
欠けた鏡にくせ毛とそばかす、治せなかった八重歯がふたつ、
にっこり笑ってまた溜息、生まれ変わりがあるのなら、今度はちゃんと可愛い女の子になって、
道ゆく人の視線を独占したり、とびきり悪い女になって、
キスのたびに小遣いせびろう、そんな夢想で歪に唇、ふくらませる、
帰ってくるのは狭くて古い、だけど独りのあたたかい部屋、
サリィはくすねたアルコールをラッパ飲み、溢れて溢れて床に麦の匂う小さな湖、
あたたかくして眠っちまいな、夢ばかりを見て考えることを忘れちまって、
あたたかい部屋で眠るサリィ、そのとき彼女は世界中の誰よりきれい、
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