「夜の淵」
夜の淵を歩いてゆく、呼吸を控えて体がなるべく揺れないように、
夜の淵を歩いてゆく、
其処は細いロープの上だ、そして夜明け前よりまだ暗い、
音も立てず風が流れて歩むものは揺さぶられる、
私たちは蜘蛛のように慣れてはいない、
静か静かに呼吸さえも忘れたふりして夜の淵を進むのだ、
ときに朝が疎ましくもある、新たな日を生きなくてはならぬから、
午前か午後か判別できない、黒に見紛うほどに濃い、
青の時間が続けばいいと思っているのは僕だけか、
夜の淵を歩いてゆく、綱渡りの日々を彷徨う惑い者たる私たち、
夜の淵を盲目的に歩く以外に術のない、
振り返ろうと身を捩る、ただ其れだけで踵の下の漆黒へ、
落ちやしないか途方に暮れて、
変わらず孤独の僕らは虚空に握る手を探す、
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