
「血と愛のサーカス」
名もなき者は唯々歩く、そもそもその歩みの果てなど思い描きもしなかった、
風に揺られて砂を飲み、白銀舞えば安酒探して潜る地下街、
着丈の長い、フランネルの外套羽織れば毛羽立つ埃、
人差し指は伸びてしまった口ひげ逆立て撫でている、
虻の浮かぶ水の溜まりに鉛の弾が数発沈んで赤茶を零し続けてる、
昨日の夜に擦り潰された銀行強盗たちは今、
泡混じりの涎を垂らして理想を虚空に展開させる、
「死なんて恐るゝことはない、そこに至る過程が私に安堵をくれぬのだ、それゆえに、私たちは生き抜く日々に怯え続ける他にない」
神とされる誰かの肖像画ならたぶん、その額あたりに犬が小便ひっかけていた、
回転やめた時計塔の真下の噴水広場に落書きだらけの赤い煉瓦があったろう?
薄汚いチンピラ風情が夏の蛾みたいにガス燈見つけてトランペットとアコーディオンでジャズの紛いで踊ってやがった、
あのあたりは地下鉄へと降る階段があった、
低賃金労働者が鼾をかく間も惜しんでいたよ、
朝が来るより早く列車に乗って、ほとんど誰も帰ってこない、
ここは生憎、そんな世界だ、
トランペットもアコーディオンも帰ってはこないんだ、
彼らは鉄の格子に囲まれて、これから更に痩せさらばえてゆく、
名を失って、夜に閉じられ眠りから覚めることもない、
金を数枚、垢のついたコインを一握りだけはした、
朝に向けて駆けてゆく、東は何色だったのだろう、
逃げきれなければ敗北するが、逃げ続けても勝利はない、
ここは生憎、そんな世界だ、
「死なんて恐るゝことはない、そこに至る過程が私に安堵をくれぬのだ、それゆえに、私たちは生き抜く日々に怯え続ける他にない」
奴らはそんな落書きを、何度も何度も壁に殴り書いては歌ってたんだ、
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