【週刊じじい】じいさんといっしょ。5 | ワールズエンド・ツアー

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【週刊】じいさんといっしょ。


「金属探知機を見てくれって電話があったんや」

 恒例の始業前ミーティングのときのことである。
 各セクションごとに現在の進捗状況、今後の予定を報告した後のこと。

「…………熱中症や脱水症の危険があるので、各自、こまめに水分補給してください。とくに社外に行く人らはきちんと休憩をとるように。異変があればくれぐれも無理はしないでください」
 上座の社長から各セクションごとへ連絡、注意事項が言い渡される。

「では、会長。最後になにかありますか?」
 隣の会長がスタッフを見渡す。そして話し始めた。
「D社から金属探知機を見てくれって電話があったんや」
……金属探知機?
 僕を含め、そこにいる全ての人が疑問に思っただろう。
「金属探知機?」
 眉間に皺を寄せ、そう問いたのは専務。
「うち、そんなもの扱ったことないでしょう」と社長。

「せやけど、ともかく見に来てくれって言うんや」
「それ、ほんとに見に行くだけになりますよ……」
「そんなことあるかい。見てみたらどうにかなるかもしれへんやろ!」
「なりませんよ、畑違いもいいところじゃないですか。だいたい、金属探知機なんて見たことないでしょう?」
 いったい、どこでそんな話を拾ってくるのか。
 当のじいさんは制止に気づいてもいない。
「わし、昔、船の免許持ってたから探知機は見たことあるで」
「それは魚群探知機でしょう。探知するものが違うし、まるで別のものですよ」
「そない言うけど……わし、朝イチで行くって答えてもうたんや」
 じいさんは自由だ。構造を知るでもない、業務内容にもない、そもそもどんなものかさえわからない金属探知機の修理を請け負ってしまったようである。

 僕をふくめたスタッフたちは笑いをかみ殺している。笑うわけにもいくまい。恐ろしく滑稽なミーティングだが、会長と社長と専務の会話なのだ、状況的にはやはり表情だけでも取り繕うべきであると知っているのだ。

「じゃあ、ほんとに見に行くだけになるのに行くんですね」
「見てみたらなんとかなるかもしれん」
……ならないだろうなぁ、その話。おそらく、その場の誰もがそう考えているはずだ。
「……わかりました。では、会長、お一人でお願いします」
「や、わしひとりじゃ困るかもしれんから田中くんを連れて行こうと思って」
……え、俺?……まあ、僕なんだろうな。
 僕の主要業務は「おじいちゃんの相手」と揶揄されからかわれる昨今なのだ、業務時間のほとんどを彼と過ごしているのだ。
「……田中くんは……金属探知機のことを?」
 社長が問う。
 いいえ、まったく。ダウジングならやったことありますが。
「会長、やはり、それはひとりでお願いします。田中くんはA社に行くチームですし……」
「じゃあ、なんかあったら電話するわ」と、じいさんに指名を受ける。
……お願いします、電話してこないで。きっと出られないと思うから。出られても金属探知機のことなんてわからないですから。
 そして解散。じいさんは知りもしない金属探知機を見学にどこぞへ出かけて行ったそうな。

 その日の夕刻。終業を30分後に控えたころに僕は帰社する。
 じいさんはいつもと変わらぬ表情で空を眺め、タバコを吹かせていた。
「会長。金属探知機は治りました?」
「……うん?」
「金属探知機。D社に行ってたんでしょ?」
「おー、あれの。見てきたよ」
「どうでした?」
「なんこっちゃわからへんから、見るだけ見て帰ってきたわ。やっぱり畑違いやな」
……。本当に見るだけで帰ってきたんですね。
「あー。まあ、仕方ないですね。うちの業務内容に無関係ですし。で、なんでD社は金属探知機なんて使ってるんですかね」
 依頼がくる以上、会長に直接連絡がくる以上、取引がない会社ではないだろう。
「さあなぁ。わしもそれはわからんなぁ……」
……それは、じゃないでしょう。何ひとつわからなかったはずです。

「ほんでな。もう、なんのこっちゃわからへんから、わしな、「新しいの買いなはれ」って言うてきた」
 素晴らしい解決策だなぁ、素直に僕は思う。それ以上の方案などないではないか。
「うちにはわかりませーん、やわ」
 赤い頰を緩ませ、かっかっかっと彼は笑う。
 じじいは自由だ。

「あんた、来週な、機材車を片づけよな。重い重いんじゃわ。帰ってきたらパンクしとった」
「えっ?」
「あんた、帰ったばかりですまんけどな、いまからM石油(←ガソリンスタンド)に行ってタイヤ治してきて」
「……はい」
 そのとき、既に就業時間は過ぎていた。じいさんは時間の概念も希薄になりつつある。








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