<ルーク・シュヴァルツside >
16
そんなことを繰り返ししながらマンションに着く頃には、雨宿りをした甲斐もなく、僕もビリーさんもびしょ濡れになっていた。
マンションの側にきて、近くの駐車場から僕たちの213号室の部屋を確認してみたけれど、灯りはついていない。
やはり……弟さんはまだ戻っていないようだ。
がっくりしたような。それでいて、少し嬉しいような――。
微妙な気持ちが僕の中で広がっていたけれど、これはビリーさんには知れてはならない気持ちだと、一人で気持ちを押し込めた。
「早くもどってシャワー浴びないと風邪ひいちゃいますね」
僕はなんとなく、助言したが、ビリーさんの返事はなかった。
マンションの部屋を残念そうに見上げるビリーさんを窺ってみたけれど、、彼はマンションを見上げたままだった。
少しだけビリーさんが小さく見える。
支えてあげたい。
なぜだかそんな思いにかられるが、実際には何もできない自分がはがゆい。
ビリーさんは急に真面目な顔つきにもどり、走り込むわけでもなく、スタスタと無頓着そうに建物に入った。
部屋前にもどっても、やはり灯りはついておらず、玄関ドアに手をかけると、堅くロックされたままだ。
ビリーさんが確認するより早く、僕は思いつく限りのルークさんの助言をしていた。
「もしかしたら、アルフォンスさん、もう寝ちゃったのかもしれませんね」
自分でも馬鹿だと思う。そんなことを言ってみても、僕にはなんの関係も、得をするわけでもないのに。
けれど、嘘でもいい。ビリーさんが悩まずにいてくれるのなら、ほんの一瞬でも、僕の言う通りに話を聞いて頷いてくれるだけで、幸せだと思った。
僕は苦し紛れにそんな言い訳をしてみたが、ビリーさんの耳には僕の声など届いていなかったようだ。
ルークさんの部屋を確かめるわけでもなく、呆然と玄関に立ち尽くしている。
「濡れちゃいましたね。早く熱いシャワーを浴びて着替えないと」
僕の言葉も無視したままだった。。
ビリーさんはとりあえず靴だけ脱ぐと、濡れた服も脱がずに、廊下や部屋が濡れるのもおかまいなしに、ルークさんの部屋に入った。
「ビリーさん、先にシャワーを――」
僕が声をかけると、まるでそれを遮断するかのように部屋内部からドアをロックする音が聞こえた。
「ビリーさん!風邪ひきますよ」
「ビリーさん、せめて着替えだけでも…」
「ビリーさん!」
結局、朝までビリーさんは、ルークさんの部屋から出てこなかった。
仕方なしに僕は先にシャワーを浴び、自室のベッドに潜り込んだ。
時計はすでに夜中の2時半。
今日一日でいろんな出来事がありすぎた。
先輩に誘われたルークさんを見送り、ビリーさんは帰宅したが、戻らないルークさんを一緒に迎えに駅まで行き、不慮の事故だがビリーさんとキスをして、雨に打たれながらの帰宅した。僕はあの時の感触を思い出して、そっと自分の唇に手をかける。
ほんの少しかすっただけだけれど、ビリーさんの唇はやわらかかった。頭の中ではクローズアップされた彼の口元を思い出す。今頃になってどきどきと胸が高鳴ってきて、胸がきゅんとして、息をするのも苦しくてたまらない。
僕は自分のこんな気持になんと名前をつけてよいものかわからなかった。体は疲れているはずなのに、ビリーさんの事を考えると、一向に眠くならない。
結局僕は、朝方ルークさんが戻ってくるまで、一睡もできなかった。
to be continued……