<ビリー・クリフォード side>
25
体が熱い。
熱くて、熱くて、苦しくて。
ルーク……。ルーク……。ルーク……。
どうして病気の時は、こうも人恋しくなるのだろう。
オレは熱にうなされながら、すぐ側にいるはずのルークに手を伸ばした。
「……大丈夫?」
心配そうな声がした。
「ルーク……そこにいるのか?」
オレは目を開けると、ぼんやりとする視界の中に白い天井と壁が目に入った。
そうか、ここは病室なのか。
今は昼間かな。
締めたブラインドから差し込む影が、白い壁に写り込む。
顔を上げようとするけれど、それさえも熱でおっくうだ。
「ああ、いるよ。僕はずっとここにいる」
落ち着いた声だった。
……ああ、ルークはここにいてくれる。
ずっとオレの側にいてくれる。
誰かが側にいてくれると思うだけでとても安心できた。
オレが空に手を伸ばすと、大きな手がぎゅっと握りしめ、心配そうにのぞき込む。
虚ろな頭で顔はよく見えなかったけれど、おでこに乗せられたずり落ちそうな氷嚢を元に戻し、流れる汗を甲斐甲斐しく拭いてくれる。
誰かに心配される動作の一つ一つがとても安心できて、オレは今まで感じなかった喉の渇きを覚えた。
枯渇しきった口を開こうとするけれど、喉の奥がとても熱くて、開いた口を乾いた空気と共に一度嚥下してみる。けれど、余計に喉の渇きを自覚しただけで、無意識に唇の周りを舌でなで回した。
「喉、渇いてない?」
オレの動作を見ていたルークは、優しく尋ねた。
「水が欲しいんだね」
寝たままの姿勢で黙って頭頷くと、ごそごそとベッドの横でなにやら探る気配がした。
どうやらルークは、何か飲み物を用意してくれるようだ。小さくペットボトルの蓋が開くような音がした。
やっと水が飲める。オレは今かと待ち構えていたけれど、一向に水を飲ませてくれる気配がなかった。
「み、水……」
「あ、うん。ちょっと待ってて。ここかな……」
何かを探しているようだが、捜し物は見つからないのかベッドサイドの机の引き出しを開け閉めする音がする。オレは我慢できなくて、もう一度「早く」と催促した。
「ごめん、楽飲みが見あたらないんだ」
楽飲み?
一瞬なんだっけ? と頭の中にクエクションマークが飛びかう。
楽飲みとは確か寝たきりの病人に水を飲ませる水差しのようなものだったと虚ろな頭で思い出したが、うまく頭が回らなかった。
そんなのいいから、早くよこせよ!
オレは一刻も水が飲みたくて、目を開けて起きあがろうとしたが、熱でぼんやりしていて、焦点がうまく定まらない。それでも無理に起きあがろうとして、上半身だけ起こすそうとしたが、身体は鉛のように重くて、頭の上の氷嚢がずり落ちただけだった。
「大丈夫?」
ルークは慌ててオレの身体をベッドに押さえつけると、いきなりペットボトルをあおってラッパ飲みに水を飲んだ。
おい! 自分だけ水を飲むなんて、ずるいぞ!
睨みながら文句を言おうかと思ったところに、ルークは落ちた氷嚢を元に戻しながらオレに唇を重ねた。
え?
一瞬、オレは戸惑ったが、すぐにルークの行動が理解できた。
ルークは起きあがれないオレに、少しずつだけれど自分の口に含んだ水を口移しで飲ませてくれようとしているのだ。
理解できると、思い切り口を大きく開いてルークの唇に吸い付く。
ルークはこぼさないように気をつけながら、少しずつしか水を含んで飲ませてくれたが、オレはもっと!と、キスをせがむように顎を突き出した。
「慌てないで。ゆっくり……」
ルークは何回かに分けて、水を口移しで飲ませてくれる。
こんなに水が美味いと思わなかった。
乾ききっている体に、染み入るような潤い。
それがルークの唇から与えられるのだから、熱でぼんやりとする頭でも、とても嬉しく、幸せに感じる。
オレは幾度となくルークから潤いを与えられると、それだけで満足して再び深い眠りについた。
to be continued……