【BL小説】room noumber 213 ルーク・クリフォード side 24 | 一期一会

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本も人の出会いも一期一会。時々読者、時々物書き。好きな本やコミック感想を中心に、日常のつれづれと共につぶやいていきます。

<ルーク・クリフォードside>


24


「あの……まだ会社には連絡をしていなかったのですが、どうしてここがわかったのですか?」
そういえばボクは、マンションを慌てて出て兄さんを病院に運び込むことしか頭になくて、兄さんの会社に連絡をするのをすっかり忘れていた。
「ビリーの姿が見えなかったものだからね。君たちのマンションを尋ねたんだ。そしたら君そっくりの同居人が、此所を教えてくれたというわけなんだ」
ボクにそっくりな同居人。ルカのことだ。
「そうでしたか……」
ボクの頭の中には、心配そうに見送っていたルカさんの顔が浮かび上がった。慌てていたとはいえ、彼に無愛想な態度をとっていた事を思い出し、なんとなくバツが悪い気持ちになる。
謝ったほうがいいのだろうか――。
自分の態度を頭の中でリピートしてみる。確かにあまりに露骨な態度だったのかもしれないと、反省していると、よく響く声が降ってきた。
「実はビリーに正式に辞令が下りたので、それを伝えに来たのだが……君は何か聞いていなかったかね?」
「辞令?」
何のことだろう。
兄さんはボクに仕事のことは、大まかな話しかしない。特に兄さんも話さなかったし、ボクも特には聞かなかった。
必要があれば、兄さんのことだ。絶対にボクに何か言ってくる――。そんな根も葉もない自信があったのを、今更ながら感じていた。
「実はアメリカの本社の研究所から、是非ビリーを特別研究員として招きたいという話が以前からあったのだかね。ビリーは日本に居たいと頑なにそれを断り続けていたんだ。だが、どうしても彼に来て欲しいという先方の依頼が強くて、正式に辞令という形で今朝発表になった」
「……そうでしたか」
「君のことはビリーから聞いていたよ。たぶん、彼は君と一緒にいたかったんだろうね」
あの馬鹿兄! そんなこと、ちっとも話してくれなかったじゃないか!
ルークは憤慨しつつも、頭の片隅では、落ち着いた態度のサトシの口調が気になっていた。
兄さんを『ビリー』と呼び捨てにする彼は、兄さんと一体どんな関係なのだろう。上司なら部下の名前を呼び捨てにするのは当たり前なのかもしれないが、サトシの声を聞きながら、ボクの心の中は穏やかではなかった。
「本当はこの話は彼に直接会ってしたかったのだがね。先方は返事を急いでいるらしい。私も仕事があるから彼が起きるまで待っていることができない。悪いが、この書類を渡して欲しい。彼が目覚めたらでいい。この話を君からして、渡米行きを説得して貰えないかね?」
サトシは渋く光る銀色のビジネスケースから一通の封筒を取り出すと、ルークに手渡した。
「あの……もし、この話を兄が断ったらどうなるのでしょう?」
「……そうだね。クビってわけにはならないだろうが、出世街道から大きく外れることは間違いないだろうね」
サトシはにっこりそう笑うと、「では頼んだよ」と席を立つ。
「ありがとうございました」
ボクは深々とサトシに頭を下げた。
コツコツと革靴の小気味よい音を辺りに響かせて、背筋をピンと伸ばして歩くサトシの後ろ姿を見送りながら、ボクははぁと大きくため息をついた。
「出世街道……か」

この話を兄さんにしたらどう返事をするだろう。
ボクは想像して頭を振った。
きっと兄さんのことだ。断るに違いない。断るのはボクとしては、とても悔しく、反面、嬉しい。
もしも断るとしたら、きっとそれはボクが原因なのだ。ボクがどれだけ兄さんと一緒に住みたいと願っていたか、兄さんはよく知っている。それだけ兄さんはボクを大事にしてくれているということだ。だけれど、本当にそれでいいのだろうか。
これは兄さんにとっては絶好のチャンスだというのに。
ボクは先程から社会人と学生、兄さんとボクの差を埋め尽くすものを必死に考えようとしていたが、そんなものは埋まらないのだと再確認する。
ボクは虚ろな足取りで、兄さんの病室へと戻って行った。





to be  continued……