<ルーク・クリフォード side>
23
あれからボクは、兄さんを病院に連れていき、すぐに診察を受けるとすぐに入院となり、点滴を打たれた。
心配した病状も思ったより悪くなく、過労と風邪だと言うことで2,3日で退院できるようなので安心はしたけれど。
兄さんは窓際のベッドに横たわったまま、ピクリともしないで蒼い顔をして寝入っていた。
……きっと疲れているんだろうな。
ボクは死んだように眠る兄さんの顔をみると、どうしようもない自分への不甲斐なさがこみ上げてきた。
兄さんのこんな顔はみたくはなかった。
いつも笑っている兄さんでいて欲しいのに、最近の兄さんは仕事にとても忙しそうだった。
たまにとれた休みも引っ越しの準備やら片付けに追われていて、帰宅してもボクが兄さんを求めるばかりで、少しも体を労ることなどなかった。
しばらくぶりに一緒生活ができるという喜びと若さゆえの欲望で、ボクは兄さんを振り回すことしかしなかったのを、改めて反省するしかない。
こんなはずじゃなかったのに。
言い訳だけがぐるぐると頭の中をよぎる。
もっと一緒にいたい。
もっと兄さんを感じていたい。
たったそれだけなのに、現実はそう甘くはない。
兄さんは社会人でボクは学生。歳はたった一つしか離れていなくても、この差は大きい。
この差はいつになったら埋め尽くせるのだろう。
兄さんはボクの学費を稼ぐため、一緒に暮らす生活費を稼ぐため、寝る間も惜しんで働いているというのに。
昨夜のように、軽率なボクの態度が余計に兄さんの負担になっているのだと、今更気づく。まだ学生の身分であるボクの浅はかさなのかもしれない。
そんなことをぐるぐる考えていたところに、看護師の女性に声をかけられた。
「クリフォードさん、お兄様に面会の方がみえています」
「え? 面会?」
誰だろう。一瞬ボクは考えを巡らしたが、両親を幼い時に亡くしたボクらには心当たりはなかった。
「はじめまして。あなたがビリーの弟さんのルークさんですか?」
渋いスーツを着こなした黒髪の男が一人、看護師の女性の後ろから尋ねてきた。
「ええ。そうです」
「ビリーの容態はどうですか?」
どうやら兄さんの会社の人らしいだと、なんとなく察することができた。兄さんの事を『ビリー』と呼び捨てにするのは気分がよくないなと思いつつ、もし、兄さんの会社の上司の人ならそう怪訝な態度を取るわけにはいかないだろう。
ボクは少しかしこまって説明した。
「今は薬で眠っています。過労と風邪のようですので、2,3日の入院ですみそうです」
「そうか……よかった」
あからさまにほっとする黒髪の男に、ボクは恐る恐る尋ねてみた。
「あの……貴方は?」
「ああ。申し遅れてすまない。私はビリーの会社の上司で、土屋サトシという者だ。少し……話をしてもいいかね?」
黒髪の男は、スーツの内の胸ポケットから黒皮の名刺入れを取り出し、そこから薄い名刺をボクに差し出す。
ボクはお辞儀をしながらその名刺を受け取ると、確かに兄さんと同じ会社のロゴマークと会社名が明記してあった。
兄さんの寝顔をちらりと見ると、蒼い顔をしながらも相変わらず寝入っている。ここで話をすると、せっかく寝ている兄さんを起こしてしまうかもしれない。ならば話はあちらでと、ボクは土屋サトル名乗る男を、談話室へ案内した。
to be continued……