<ビリー・クリフォードside>
13
「ただいまー」
「おかえりなさい。ビリーさん」
「あれ?ルークは?」
「昼間、大学院の先輩がルークさんを呼びに来て出かけたきり、まだ戻ってこないんですよ」
「大学院の先輩?」
「ええ」
疲れた体を引きずって帰宅してみると、出迎えてくれたのはルカだった。
どうやらルークは出かけているらしい。
まだ入学式も終わっていないというのに、ルークにそんな親しい先輩がいるとは知らなかった。
――今まで何でも話してくれたのにな。
こんな時、たった一つしか違わない年齢さえも、疎ましく思う。
オレは社会人で。ルークはまだ学生。
歳は一つしか違わなくても、子供の時のように、ルークの友達はオレの友達、オレの友達もル-クの友達という単純な交友関係でなくなるのは、仕方がないのかもしれない。
歳を重ねる事にそれは当たりまえのことだろう、けれど、少しばかり普通の子供と違う環境で過ごしたオレとルークは、互いに依存心が強すぎた。特に恋人同士の関係となってからはその兆候が顕著かもしれない。きっとこれはルークもオレに対して同じだろう。
時計を見ると、すでに二十三時三十分を指していた。
そろそろ日付が変わろうとする時刻なのに、連絡一つよこさないルークを心配するのはもちろんのこと、心配するのを通り越してオレは少々腹を立てていた。
今までだって、オレよりルークの方が帰宅が遅いと言うことはなかった。
「ビリーさん、大丈夫ですよ。弟さんだってもう子供じゃないのだし」
ルカは気を遣っているのか、オレに助言してくれたけれど、それが妙に勘に触った。
「子供じゃない? アイツはまだまだ子供だ!」
「まあ、お兄さんからみれば子供でしょうけど。そんなに心配なのなら、携帯に電話してみてはどうです?」
「そんなのとっくにした!」
ルカに八つ当たりしてもしかたがないことだとわかっていても、オレは誰かに当たらずにはいられなかった。ルカはオレが苛立つ口調で返事をしても、普段通りの受け答えをしてくれる。怒らずに応対してくれる他人がいるのが、ありがたいと思う半面、どうせオレとルークのことは誰にも理解できないからだとも思う。
ルカはいくらオレがひどい口調で応対しても、のんびりとしたものだった。
「なら、居場所ぐらいはわかったんじゃないですか?」
「それがこうなるんだ」
オレはルカの目の前で、何度も繰り返した作業を再びやってみせる。おもむろに自分のポケットから携帯を取り出して、メモリーしてあるルカの携帯に電話する。すると小さくどこからか音楽が聞こえた。
オレはリビングルームからルークの部屋へむかうと、机の上で高らかに呼び出し音の鳴る携帯をつかみ、ルカに見せた。
「ああ……そういうことですか」
「ルークのヤツ。早くしないとそろそろ終電だって無くなるっていうのに」
「そうですね、心配ですね。まだ東京には慣れていないのでしょう?」
「まあ……な」
「携帯も忘れているようだし、もしかしいたら連絡を取りたくてもとれないでいるのかもしれませんね。なんなら駅まで迎えにいってきますか?僕も一緒に行きますよ」
迎えに行って、この怒りが納まるものではなかったが、マンションでイライラしながら待つよりは、前向きな考えだと思う。今はルカの提案が、最善策のように思えた。
「え? いいのか?」
「もちろん。曲を作るのにも飽きたし、ちょうど気分転換に散歩したいと思っていたんです」
「悪いな」
「じゃ、さっそく行きましょう」
オレとルカは話の成り行きで、一緒にルークを迎えに駅に向かうことになった。
to be continued……